軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十五話 地中の秘密

発掘作業の途中から、周囲に出没するゲイズハウンドに対処してもらうため、テレジアとエリーティアのペアに見張りをしてもらう。テレジアが発見し、エリーティアが倒す――発掘を中断されるといつまでも掘り終わらないので、俺は二人が戦闘に入るとすかさず『支援』することを意識しつつ、皆と一緒に手を動かす。

「二人共、大丈夫かー!?」

「こっちは問題ないわ!」

「…………」

「そうか、もう少しだから『お互い頑張っていこう』!」

◆現在の状況◆

・アリヒトが『支援高揚1』を発動 →パーティの士気が11上昇

このように、日常会話に織り交ぜてみんなを励ますことで、自然に士気が上がる。意識してみんなの後ろにいることが重要だ。エリーティアにも士気が100になるまでは、パーティに入ってもらっている。

しかしスカートの短いミサキ(スカートに代わる可愛い装備がないらしい)と、赤いスカートを巫女服のように着こなしているスズナを、後列にいて低い位置から迂闊に見上げると罪悪感を覚える。二人とも俺を信頼しているのか、スカートを押さえずに大胆に地面に這っている――信頼されているのはいいが、今ばかりは警戒してもらっても一向にかまわない。

「あの、五十嵐さん。俺が槍で掘りましょうか」

「ええ、お願い。後部くん、槍の持ち方が様になってるわね。掘ってるときに言うのもなんだけど」

「俺はあらゆる武器を使いこなせるので、槍も使えるんです」

「え、あっさり言ってますけど、それってすごくないですか?」

「専門職にはかなわないけどな。後衛だから、スリングが使えるのは助かってるよ」

「アリヒトさんと近い列にいられるので、弓が使えて良かったです」

隊列の概念はみんなにも伝えてある。ライセンスで隊列を設定すると、違う列に移動すると、正しい列に移動するように指示が出るようになっている。

「サイコロって遠くまで届かないので、パチンコで飛ばしてもいいですか?」

「適性がないと装備できない……というか、たぶん当たらなくなるぞ」

「あ、それもそうですね。私ノーコンですし」

「おっと……また来たか。テレジア、『支援する』っ!」

こうして声を出さなくても支援攻撃、防御、回復は常に働く。しかし『支援高揚』だけは、士気を上げるためということか、声を出さないと発動しない。

ちなみにスズナとミサキの士気はゼロのままで、支援高揚を使うと『士気回復まで23時間47分』と表示される。士気解放は一日に一回しかできず、使うとその後24時間士気が溜まらなくなるということだ。

「……ふぁ……戦ってなくても、お兄さんのそばにいると定期的に身体があったかくなるんですよね~」

「んっ……そうね。後部くんの回復が、ずっとかかってるからみたい」

「そうなんですね……けがをしてなくても、回復してくれているのが分かるとほっとします」

『支援回復』では、体力が全快していると信頼度は上がらないので、貢献度は上がらないと思っていたが、心情的には良い方向に働いているらしい。

(疲労も回復はしてるのかな? よっぽど疲れないと体力は減らないが、そうなる前に回復してるように見えるな)

「後部くん自身は回復しないみたいね……大丈夫? 汗がすごいわ」

「ええ、まあ何とか……」

「探索が終わったら、お兄ちゃんをみんなで労りましょう」

さっきから掘り続けているのに、レベル1のミサキも疲れた顔をしていない。回復の効かない俺が一番疲れているのではというくらいだ。

五十嵐さんは俺の汗を拭いてくれているが、考えてみればそれは彼女のハンカチだ。気がつくと途端に遠慮してしまう。

「いいのよ、これくらい。頑張ってるんだもの」

「……五十嵐さん、ほんとに変わりましたね」

「……見込んではいたって言ったでしょう。だから、そんなに変わってもいないわ」

もしツンデレというものが彼女に適用されるなら、前世での数々の行為はツンだったと言えるが――やりすぎではあったので、当面は俺に優しくしてほしい。弱みにつけこむとか、そういうことはしないが。

「え、えーと……さすがの私も茶化しにくいくらい甘酸っぱいですねー」

「アリヒトさんは、どんなふうに会社勤めをしていたんですか?」

「五十嵐さんの下について、色々やってたよ。彼女は年下の女上司ってやつで、バリキャリ候補生って感じだったな」

「か、会社のことはいいのよ。またゆっくり話すから、今は勘弁して」

「大丈夫です、込み入った話はしませんから」

「……私が言えたことじゃないけど、お手柔らかにお願い。後でお返しはするから」

心配しなくても、五十嵐さんの毒舌について語るわけではない。広告会社での仕事について、概要を話すくらいだ。

スズナとミサキは俺の会社の話を興味深そうに聞いていたが、特に反応していたのは最初に言った『年下の女上司』という部分で、二人共俺が部下だったらと想像したようだ。スズナは優しい上司で、ミサキはたぶんゆるい上司なのだろう――現状は俺が上司というか、保護者みたいなものだが。

◆◇◆

それから十分ほど掘り続け、ようやく地中に埋まっていたものが全貌を現した。敵の襲撃も落ち着き、魔石を回収したテレジアとエリーティアが戻ってくる。

「後部くん、どう思う? 何かの図形が描いてある板みたいだけど」

「そうみたいですね。この下は、やたらと硬くなってて掘れません」

「えー、おたからじゃないんですか? 金銀財宝ざっくざくだと思ったのにー」

「エリーティアさん、どう思います?」

「うーん……あっ。そういえばこの石の模様、他の迷宮で見たものに似てるわ。その迷宮は各階層がつながっていなくて、転移して次の階層に向かう形式だったんだけど……その転移する床が、これと似た形だったわ」

曙の野原は、三層までしかない。リヴァルさんがそう言っていた――つまり、この先があるとしたら、誰も入ったことのない未踏の領域ということになる。

(隠し階段……ならぬ、隠し転移床か。三層でも敵に手応えを感じるようになったし、このまま潜らなくても、十分にレベルを上げてから戻ってくるべきか……)

急ぐ必要はない。慎重すぎるくらいで丁度いいくらいだと分かっている。

「……この先に、強力な魔物がいたら。脱出や帰還の巻物が使えなかったら。そう考えると、容易には転移できないわ」

エリーティアが忠告してくれる。確かにその通りだ――しかし。

「後部くん、ここは慎重になるべき? それとも……せっかくの発見をそのままにして引き返すのは、勿体ないと思う?」

「そうですね……進みたい気持ちも、慎重になるべきというのも、両方あるんですが」

「私も、どちらの気持ちもあります。少し怖いとも思いますが……」

「ここはリーダーの決定に従うべきですよねー。ちなみに私は、思い切ってドーンと……ひゃぁっ!?」

「っ……ミサキ!」

石版の上にミサキが足を載せるふりをして、崩れやすくなっていた土が滑り、彼女は見事に石版の上に尻もちをついてしまう。

「いたた……たたぁ……あ、あれ……?」

「ミサキちゃん、早くこっちに……ああっ……!」

石版が輝き、ミサキの身体が光に包まれ――そして消える。

(よりによって、ここでやらかしてくれるとは……どうする、こうなったら考えてる時間がない……!)

スズナはこちらに引き戻そうとミサキに手を伸ばしていたが、転移には巻き込まれなかった。どうやら、全身が床の上に乗らないと転移はしないようだ。

「アリヒト、すぐに転移して戻ってくれば危険はないわ。私が一人で……」

「いや、俺が行く。一分経って俺が戻らなかったら、相互に行き来できないと考えていい。その時は……」

「何言ってるの、後部くん。あなたがリーダーなんだから、パーティみんなで生き残らなきゃ仕方がないでしょう」

五十嵐さんは迷いなく言う。彼女も危険だと考えているのに、それでも俺についてきてくれると言っているのだ。

「…………」

「テレジアさんは、アリヒトさんが行ったら、後から転移すると思います……私もそうです。ですから……」

「分かった。でも、何があるか分からない。すぐ『離脱の巻物』が使えるように心構えはしておいてくれ」

スズナとテレジアが頷く。エリーティアは今まで髪を結んでいなかったが、本気を出す時はそうするのか、皆のやりとりを見ているうちに髪型を変えていた。

「そうと決まったら、一秒でも早く行かないと」

「よし……じゃあ、転移するぞ。この上に乗ればいいんだな」

全員で石床の上に乗る。床の上に足を踏み入れて幾らも経たないうちに、周囲の風景が一変した。

そこは、広い石造りの部屋の中だった。まるで古代の遺跡に来てしまったかのようだ。

「お、お兄ちゃん、来ちゃったの!? 片道しか転移できないのに……っ」

やっぱりそうか、と肩をすくめる。だがなおさら、ここに来るしかなかったとも考える。

「見捨てるわけにはいかないだろ。どのみち、誰がここに来たって同じリスクを背負うことになる。じゃあ、第一発見者の俺たちが行くべきだろう」

「そ、そんなの……私がうっかりしてただけなので、自己責任で……っ」

「後部くんはこういう人なのよ。逆に言えば、こういう人じゃなかったら、私はついてきてないわ」

「私は……アリヒトさんが一人で行くと言ってくれたとき、どうしてもついていかなきゃって思いました。だって、私たちはパーティなんですから」

みんな肯定してくれるが、俺はといえばかなり緊張している。この先に脱出するための手がかりがあるのか、強敵はいるのか――一歩踏み出すにも勇気が必要な状況だ。

しかしテレジアは、すでに遺跡のある方角を見つめていた。向こうに何かがあると感じ取っているようだ。

「向こうか……隊列を整えて行こう。何が出てくるか分からないからな」

「ええ。何が相手でも、全力で戦えば問題ないわ。私たちはジャガーノートを倒したんだから、この迷宮であれより強い魔物はそうそう出ないはずよ」

エリーティアの言うとおりであるようにと願いつつ、俺は座り込んでいたミサキに手を貸して立ち上がらせた。彼女はやはり怖かったようで、服の袖で目元を押さえる。

「お兄ちゃんもみんなもカッコつけすぎですよー、もう。私なんてたくましいので、一人で戻ってこれちゃうんですから」

「さっきはこの世の終わりみたいな顔してたのに、元気が出たみたいね。落ち込んでるとあなたらしくないから、安心したわ」

「うぅ、キョウカお姉さんまで優しい……やめてくださいよ、私涙もろいんで」

五十嵐さんはミサキの肩をぽんぽんと叩く。彼女は全く恐れている様子がない――鎧姿といい、今日一日で一層ヴァルキリーらしくなったと感じる。

「さて、行くか……みんな、『気をつけて進もう』」

声掛けをして同時に士気を上げる。はっきり『頑張れ』とか『やるぞ』とか言わなくても、支援高揚は発動する。これで、五十嵐さんとテレジアは士気が+100になった。

士気解放はなるべく常にできるようにすべきだ。それが戦闘用なら、切り札に使える――効果を確かめたかったが、使ってしまうと翌日まで再使用できないので、ここぞというときで役に立つかどうかは賭けになる。

「綺麗なところですね。少し、寂しさも感じますが……」

スズナは歩きながら言う。通路の高い所に点々と並んでいる明かりは蛍光色の緑のような輝きで、白い石作りの壁に光が照り返し、いかにも幻想的な光景だった。

初級迷宮に隠された転移床。その先にあった隠しエリア――この先に何が待っているのか。未踏の地を歩くことへの好奇心を覚えながらも、あくまで慎重に歩を進めた。