軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 審議会

五番区上位ギルドの地下に向かう階段を、数人が連れ立って降りていく。

顔をヴェールで覆い、ゆったりとしたローブのような衣服を着た人物が、ヨハンを先導している。『白夜旅団』のメンバーの姿はなく、団長である彼の姿だけがあった。

「この扉は前にも見たことがあるが……どうやら、転移する先があるようだ」

階段を降りた先にあったのは、黒壇の扉――九つの星が埋め込まれている、アリヒトたちが以前見た扉と酷似したものだった。

「僕らもここまで探索者を続けて、この扉に描かれたものの意味すら分かっていない。ギルドという組織のことも、ただ一端を見ているだけに過ぎない」

「……そのことに疑問を持って、どうしようというのです?」

ヨハンに質問するのはナユタ――アリヒトたちと共にスタンピード制圧のために戦った、ギルドセイバー部隊の一員である。

「忘れてはいけないと思っただけですよ。僕らが探索者をしているのは、受動的な動機で始まったことだということをね」

「……皆様の貢献によって、迷宮国は今の形を保つことができています」

「そう言ってもらえると皆も報われます。無礼を申し上げました」

ヨハンはヴェールの人物の言葉に応じて柔和な表情を見せるが、その眼鏡の奥にある瞳に宿る感情は、決して穏やかなものではないとナユタには思えた。

「この扉の向こうで見たものは、他言無用に願います……と言いましても、すでに知っている人に出会うことも今後あるかとは思いますが」

「先のことは分かりません。僕だって明日には無事でいるかは分からない……まあ、そうならないように努力はしますが」

「滅多なことをおっしゃらないでください、あなたほどの武人が」

「武人……僕は元々、デスクワークの人間だったので。そういう言われ方には、今になっても慣れられていませんね」

ヨハン・セントレイル――ギルドの記録にある彼の職業は『法務官』であり、ある時を境にギルドの関知していない事象によって『詳細不明』となった。

戦闘に向いていると見られない職業が『迷宮国』において想定外の活躍をすることはある。そしてナユタから見ても、ヨハンはレベルに応じて十全に鍛えられているように見えた。

「良ければ僕と一度手合わせをしませんか?」

「……ギルドセイバー隊員が、『白夜旅団』に引き抜かれているのは把握しています」

「ははは……これは手厳しい。牽制されてしまうくらいは、僕も信用がないわけですね」

「神殿とは信頼関係を築いてくださるよう期待しております。『銀の車輪』の方々も」

ヴェールの人物の言葉にヨハンは軽口をやめ、ナユタは嘆息する。

ギルドセイバー隊員が探索者のパーティに加入することは時折あるが、セラフィナのような形とヨハンによる引き抜きは、ナユタには違うものであると感じられた。

ナユタが『鍵』を持って扉を開けると、その向こうには、円卓が置かれた部屋があった。二人だけ座っている人物がいる――紫の髪をした、管理部の女性。そしてもう一人は、ディラン三等竜佐である。

「長い間一位に居座って、実質上陥落した気分はどうですか? ヨハンくん」

「……彼らがそこまでやるとは思っていませんでした。でも、むしろ喜んでいますよ」

「嘘じゃないみたいですね。今回、『神戦』をするにあたって、リーダーの二人を順に呼ぶことにしたんですが、先に五番区にいた白夜旅団を先にさせてもらいました」

「それは有り難いですね。彼ら……『銀の車輪』は、おそらく神戦の報酬について知らないでしょうし」

「自分が望むものが、それだけ大それたものだっていうこと? アリヒトくんたちの望みとはかけ離れているような」

ヨハンは答えない。ヴェールの女性から席を勧められて、ヨハンとナユタは席に着く――大きな円卓の対面側に、ユカリとディランが座っている。五番区ギルドセイバーの司令官であるディランよりも目上が座るべき位置に、ユカリは当然のこととして座っていた。

「……見に来てる人たちもいるし、そろそろ私は黙っていようかな。どうします? 旧王宮、神殿、ギルド管理部。仕切りは私が続けていいんですか?」

円卓から少し距離を空けて、囲うように石英のような柱が立っている。

その柱のいくつかの中に、何かの気配が生じる――この円卓の議場を、別の場所から見ている人々がいる。ヨハンはそのことに気づくと、一瞬だけ眉を顰め――すぐに柔和な表情を作る。

「僕たちのような一端の探索者に、あなた方が関心を向けてくださることに感謝します。僕はヨハン・セントレイル、二十九名で構成される『白夜旅団』の団長です」

「五番区までの区で、君たちを知らない者はいないだろう。だからこそ皆が疑問に思っている……なぜ、五番区に留まり続けるのか。今回の『神戦』を終えたら、その状況は変化するのか?」

「そのつもりです。物事に絶対はないですが、かならず『神戦』に勝つ……いや、勝利条件を満たすつもりですよ」

「……神戦は、探索者同士が戦うものとは限らない。今回もそれに該当すると知っていたのか?」

「まさか。あのパーティには知り合いがいるもので、命のやり取りは避けたいと思っていましたが」

ディランはヨハンの目を見て、彼の真意を見定めようとする。何かを隠しているというようにも取れるが、それを追及しても意味がないとも感じられる。

「……それでは神戦に臨む、白夜旅団に質問する。あなた方は勝利した報奨として、どの『パーツ』を望む?」

ユカリの問いかけに、ヨハンは一度目を伏せ――胸に手を当て、祈るように何かを呟いたあと、もう一度顔を上げた。

「我々が神戦の授与品として望む『パーツ』は、心臓――秘神の動力となる部位です」