軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十一話 現れる使徒

◆現在の状況◆

・『★深き水底の邪妖』が『伝播歪曲』を発動 → 『黒の玉雲』の周囲空間が歪曲

・『アルフェッカ』が『バニシングバースト』『クレセントドリフト』を発動

無数に浮かんだ黒い球体の周囲が『歪む』――触れるだけで影響を及ぼすだろうそれを、アルフェッカは加速しながら見事にかわし切る。

「さすがだな……っ、あれを切り抜けるなんて……!」

「これまで見た中で、一番危険なドライブね……」

『そのような悠長なものではない。危機的状況から離脱しているのみ』

◆現在の状況◆

・『アルフェッカ』が『フローティング』を発動 →障害物無視 高低差無視

アルフェッカは淡々と答えつつも、浮上してさらに加速する――『邪妖』の姿は見る間に小さくなり、追跡を振り切った。

「いずれ追ってくると思いますが、アニエスさんたちが一度倒した相手なら、仲間が揃っていた方が有利でしょう」

「ええ……問題は、他の皆も戦闘中かもしれないということだけど」

「どうやら、その心配はなかったみたいです……!」

三層の大迷路をいくらも彷徨わないうちに、俺たちは他のメンバーが集まっているところを目にする。

何人か外見が変わっているが、それは俺も同じなので今は気にせずに置く――と決めたのだが。

「あれぇぇぇぇ!? お兄ちゃんがあのっ、アニエスさんと同じ位の年頃で、なんか高校生同士みたいになっちゃってるんですけど……!」

「ぶっ……どういう驚き方をしてるんだ。ミサキはちょっと雰囲気が……大人びてるな」

「えー、やっぱり分かります? 私って大器晩成っていうか、眠れるなんとか的なところがありますから」

「眠れる獅子……いえ、眠ったままでいてもいいんじゃない?」

「ああっ、せっかく合流できたのにエリちゃんが辛辣ですよお兄ちゃん」

言うほど辛辣でもない――と、いつもの調子のやりとりを見て安堵する。みんなもそれは同じようで、スズナは目元を拭っていた。

「あんたがアリヒトさんだね。あたしはカトリーヌ、『占い師』で旅団に所属してる者さ」

「『占い師』……というと……」

「占いにもいろいろあるけど、今は必要な部分だけ教えるよ。さっきこの水晶玉で占って、一度遭遇した魔物の位置を割り出した。この三層はだだっ広い通路が入り組んで迷路になっていて、反応があったのはこのあたり……移動すればわかるから、今も動いてないね」

さっき見かけた時にはおばあさんだったカトリーヌさんは、腰が真っ直ぐ伸びてかなり若返っているように見える。一気に情報を渡してくれて、助かることこの上ないが――俺も若返っているからなのかもしれないが、何と言うか距離感が近い。

「ん……ああごめん、孫くらい歳が離れてるとついね」

「本当にのう……わしでもそれほどひっつかぬのに、初対面でその近さはなんじゃ」

セレスさんが物申すと、カトリーヌさんは――小柄な少女にしか見えないセレスさんに対して頭を下げた。

「これは失礼いたしました。『宝石の魔女』様でございましたか」

「……その呼び方は好かぬがの。他の者が驚くので、かしこまる必要もない」

「このような場所でお目にかかれるとは……いえ、しかし今はそのような場合ではなかったですね」

カトリーヌさんは仲間たちの驚きの視線に、ごまかすように手をひらひらと振って、今度は俺と少し距離を空けて立つ。

「まあ、今のお主なら生きている年月はわしと同じくらいじゃから、親近感はあるのじゃがな」

「そのような、恐れ多い……可能であればもっとお話をさせていただきたいですが、それは無事に戻れたあとのことといたしましょう」

「だから律儀に態度を変えずとも良いというのに。それにわしらとそなたらは競争相手じゃろう」

「そうよ、それは忘れちゃいけない……でもエリーたちには助けられちゃったし」

「俺も借りを作った以上は、あんたらの作戦に従わせてもらう。ノイマンもそうなんだろ?」

「はい、危うく死を覚悟しました。転生前でも無かったことですよ、私を追い詰めるとは大したものです」

髭を蓄えた紳士的な男性――ノイマンという人に何があったのか、さっきは着ていた上着がぼろぼろになり、それを腰に巻いている。そして彼は、腰につけたホルスターに銃を忍ばせていた。

「ああ、これは短銃です。攻撃手段は格闘ですが、切り札として持っているんですよ」

「そう……こんなふうに、ねっ! みんな、目を閉じて!」

◆現在の状況◆

・『リンファ』が『六連装魔砲花火』を使用 →『シャイニーボム・ヘキサ』を発動 地形効果:班影を解除

リンファがどこからか取り出した、掌に乗る大きさの玉のようなものを投擲する――俺たちに近づいてきていた『邪妖』に向けて飛んだそれは、空中で炸裂して強烈な光を放ち、影を消してしまう。

そして気づくとノイマンの姿が消えている。煌々と辺りを照らす光の中で音もなく移動し、彼は――ただ一つ残った、『邪妖』の潜む影に迫っていた。

「もう一度会えて嬉しいですよ。ですが再びお別れです」

◆現在の状況◆

・『ノイマン』が『アンガーマネジメント』を発動 → 蓄積したダメージを攻撃力に変換

・『ノイマン』が『ワンインチパンチ』を発動 →『★深き水底の邪妖』に命中 クリティカル 弱点特効 反動により『ノイマン』がオーバーヒート

・『★深き水底の邪妖』を1体討伐

倒し方を知っているとはいえ、見事な連携だった――しかしノイマンさんが、拳による打突を繰り出した姿勢のままで動かず、全身から湯気を発している。

「え、ええと……しっかりしてください!」

◆現在の状況◆

・『ルチア』が『清水のせせらぎ』を発動 → 『ノイマン』の過熱を抑制

「ああ、ありがとうございます、脳が茹だるかと……だいぶ貯めた力をあっさり使い切ってしまいましたね」

「ノイマンはあれやっちまうとしばらく何もできなくなるからな。まあこれだけ人数がいりゃなんとかなんだろ……それでアニエス……さん、どっちが主導権を持つことになった?」

アニエスさんは俺を見て、目が合うとくすっと笑う――仲間たちがざわっ、としたのはおそらく気のせいではないので、意味深な仕草は少々困りものだ。

「アトベさんと一緒に『ジャガーノート』と戦ったのだけど、それも踏まえて彼に指揮をお願いしようと思っているわ」

「えっ……あ、あんたアニエスお姉様に何をっ……こ、こんな若かりし姿の素敵なお姉様を見て、どうせ男なんて生き物は……っ」

「アリヒトに限ってそんなことはないわよ……ないわよね?」

俺は黙って手を振り、否定する――エリーティアも大人になるとこれほど雰囲気が変わるのか。女優と言っても過言ではないくらいの――と、思わず目を引き寄せられる。

「……キョウカさん、テレジアさん、どうしたんですか?」

「えっ……い、いえ、ちょっとね。後部くんがこんな初々しい……じゃなくて、ちょっと若い姿? になってるなんて思ってなかったから」

「……確かに……背丈は大人になってからも少し伸びていたということですか」

「い、いや……一時的にこうなっているだけで、元に戻ると思いたいんですが」

それに学生時代に社会人時代と何が違っていたかというと、俺自身の感覚ではあまり差は無かったりする。あまり驚かれるような変化はないと思うのだが、反応が大きくて照れてしまう。

「お兄ちゃんが学校の先輩だったら……ってちょっと思っちゃうよね。スズちゃんは?」

「えっ……そ、それは……ちょっとだけ……」

「アリヒト先輩とは、なかなか新鮮な響きじゃのう。さて、そろそろ行くかのう先輩」

「せーんぱいっ、迷宮の外に出たら校舎の裏で待ってますね」

「校舎って、そんなものがどこに……もう、先輩もぼーっとしてないでしっかりしなさいよ」

エリーティアは今の状態では年上の後輩か――なんて言ってる場合じゃないが、ミサキのノリに付き合っている彼女は結構新鮮だ。

「それで……後部先輩、あの魔物を倒すためにどう動くの?」

「五十嵐さんまで……って……」

五十嵐さんが前に出てきて、距離が近づく――それだけで何か、地に足がつかなくなるような感覚がある。決して否定的なものではなく、むしろその逆だ。

少し年齢を重ねた姿の五十嵐さん、そして逆に年齢が下がった俺。そうすると、五十嵐さんという人が持っている人を惹きつける部分――存在の力というか、そういうものが強調されて感じられる。

「いいのよ、焦らずに考えて。私たちはあなたの考えに従うわ」

「やべえぞこの姉ちゃん、全然自覚がねえ……っ」

「どういう職業だったっけ、この装備……エリーも憎たらしいくらい綺麗だけど、この女の人は……」

「私は精神を鍛えていますから大丈夫ですが、十年前だったら危ういところでした」

「いや、本当にねえ。あたしの若い頃なら張り合ってたけど、今くらいじゃちょっとかなわないね」

「……? みんなどうしたのかしら、こっちをちらちら見て。後部くんはわかる?」

少し尖った部分が、歳を重ねると丸くなるというのはあるかもしれないが、五十嵐さんの場合はそれが魅力として成立しすぎている――と、本当にそろそろ頭を切り替えるべきだ。

「…………」

「テレジアも無事で良かった。姿も変わってない……みたいだな」

テレジアが繰り出していた攻撃は『アズールスラッシュ』だったが、魔石の力を使っているために魔法攻撃と判定されていた。テレジアの攻撃に対して『逆転』と出ていたので、おそらくそのはずだ。

それならば俺のように年齢が下がっているはずだが、外見に違いが見られない。考えられるのは、彼女が亜人であるからということ――それも推論でしかないが。

「『天秤』を破壊できなかったとき、俺たちはおそらくペナルティのような形で年齢を操作されました。『天秤』を破壊できたときに年齢は元に戻る……と考えたいですが、楽観はできません。それで、第一の試みとしては、『最初に攻撃した属性と違う攻撃』を天秤に当ててもらいます。物理攻撃をした人は魔法攻撃、魔法攻撃をしたならその逆という要領です」

「そいつは……俺は魔法攻撃ができねーから、無理だな」

「そういった方は申告してくれれば、俺の方でサポートします。まず物理攻撃をした組、魔法攻撃をした組、そして攻撃しなかった組で分かれましょう」

天秤を破壊した後何が起こるか――その段階に進むまでに、難局を乗り越えなければならない。

「……そういえば、あの子はどこに行ったんだい?」

「あっ……そ、そうなんですよお兄ちゃん! ストラダちゃんがどこからともなく現れたんです!」

「落ち着きなさいミサキ、本当にそれはストラダだったの?」

「はい、間違いはありません。私たちに敵対していませんでしたし……ですが、他の迷宮からこの迷宮に移動した経緯も分かりませんし。あの『隻眼の愚視』に関係があるのでしょうか」

セラフィナさんの意見も一理あるが、俺は不思議とストラダがこの迷宮にいると言われても驚かなかった。

彼女の識別名称についている『流浪』とはどういう意味か――さまざまな迷宮を流浪する、という意味だったとしたら。迷宮間の転移なんてものを可能にする、特異な存在ということになる。

「……アニエスさん?」

「本当に、ストラダなの? 半獣の姿をした……本当に今見つかるなんて……」

「俺も信じられねえが、この連中はその低い確率をすでに引いてたんだ。迷宮を渡り歩いてるあいつを探して、手なづけちまってた……団長に知らせるのは厳しいな」

「懐いてるのなら、私たちにストラダを渡してくれない? ……なんて、簡単にできるわけないか。お姉様のためにも手柄を上げたかったのに」

「リンファさん、見つからないよりは見つかった方がいいに決まってます。これで先に進めるかもしれないんですし」

「新人が一番前向きというのも情けない話ですし、ここは先達の意地を見せましょう。ちなみに私はあなたたちの妨害をするつもりでしたが、今は全くその気はないと宣言します」

「何偉そうにしてんだい、ノイマン。いたずらに不安にさせることを言わなくていいんだよ」

紳士的に見える髭の男性は、どうやら手段を選ばない一面もあるようだ――と、その妨害を実行に移されなくて良かった。

『――警告する。現在、私とは違う秘神の介入が起こっている』

「っ……!?」

『現状、この区に存在するのは旅団と契約している秘神以外には考えられない。それ以外の例外が起きているなら、私にも事態は把握できない』

旅団の面々にも緊張が走っている――俺たちと同じように、彼らの秘神の声が聞こえているのか。

「俺たちがストラダに近づいたことで、介入できたっていうのか? アニエス、一体こりゃどういう……っ」

「ストラダが彼女の眷属であるのなら。秘神がストラダを介して私たちを外に出そうとしている……そういうことになるわね」

「それって、どうやって……『隻眼の愚視』がこの階層を封鎖しているとしたら……」

「……勝てるっていうのかい、ひとりで。分からないことだらけのあの魔物に」

旅団が迷宮を巡って探していたのはストラダだった。次に再会できるのかは分からない、俺はそれくらいにしか考えられていなかった――彼女の角を所有することで、敵対関係ではなくなったと安堵するだけで。

そしてストラダは、旅団の秘神の眷属だということらしい。それがなぜ迷宮を 彷徨(さまよ) っているのか――それはおそらくヨハンの行動理念につながっている。

「カトリーヌさん、『隻眼の愚視』のいる場所に……カトリーヌさん?」

「待ちな……どういうことだい、反応が消えてる……!」

「お、おい……それってストラダが、もう……」

『隻眼の愚視』のもとにたどり着いたのか。その答えは、否定しようがない形で示された。

◆現在の状況◆

・『★流浪のストラダ』が付近に転移

ドサッ、と音を立てて、何かが地面に落ちる音がする。

「――ストラダ……ッ!!」

ストラダが突如として、空中から地面に落ちてきた。

傷を負いながらも、ストラダは立ち上がる――そして、振り返った先には。

◆遭遇した魔物◆

・☆隻眼の愚視 レベル14 ドロップ:???

(挑んだのか……たった一人で、この魔物に……!)

「――ッ!!」

◆遭遇した魔物◆

・『★流浪のストラダ』が『月穿ち』を発動

・『☆隻眼の愚視』が『護衛召喚』を発動 →『★片腕の使徒ラザール』召喚

・『★片腕の使徒ラザール』が『アトラクトガード』を発動 →『★流浪のストラダ』の攻撃を引き付け 無効化

ストラダの攻撃を自分で受けることもしない――全身を甲冑で包み、左腕のない騎士が現れ、ストラダの蹴りをその片腕で受け止める。

『隻眼の愚視』の割れた仮面の向こう側の眼は、足を掴まれて宙吊りになったストラダを、ただ見ている――見下している。それこそが、 愚(・) 視(・) という名の由来なのか。

誰も動けない。それだけの距離が開いている――それでも。

『貴方がそれを望むのならば。私もまたそれを支え、加護を与える』

「――ストラダ、『支援する』っ!」

◆現在の状況◆

・『アリヒト』が『支援防御1』『支援防御2』を発動 →支援内容:『ガードアーム』

・『★片腕の使徒ラザール』が『幽世の処断』を発動

騎士――ラザールの失われた左腕の輪郭が薄く見える。その腕と同様に握られた剣も透明で、輪郭だけが浮かび上がっていた。

『っ……!!』

ストラダに向けられた剣を、ガードアームが受け止める――ラザールの透明な剣に込められた禍々しい力に、アリアドネが声なき声を上げるのがわかる。

「――ワォーンッ!」

◆現在の状況◆

・『セレス』が『シオン』に騎乗して『ライドオンウルフ』を発動

・『シオン』が『ヒットアンドアウェイ』『緊急搬出』を発動 →対象:『★流浪のストラダ』

「セレスさん、シオンッ……!」

『愚視』とラザールに近づくことに危険が伴っても、彼女たちがストラダを救出してくれた――そしてシオンは離脱して距離を取り、セレスさんは俺の近くでシオンから飛び降りる。

「まだ生きておるが、治療を急ぐ必要がある……!」

「シオンはそのまま退避していてくれ! 俺たちは……」

ラザールは地面に立っているが、『愚視』はその後方の空中にいる。天秤に攻撃する必要があるメンバーは、『愚視』の動きに注視して備えなければならない。

『ストラダ』に対して『アザーアシスト』を使い、『体力のポーション』を使って『支援回復2』をかけるが、うまく効果が出ていない――傷が深すぎると効果が出ないのか。

一刻も早く脱出しなければならない。そのために、この二体を倒す――持てる限りの方法で。