軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十九話 キョウカの視点/享楽の角笛

後部くんたちが、泉から出てきた大きな魔物と対峙している。そして、泉の西側にテントを張っていた私たちは、監視していた罠の近くに後部くんが仕掛けた避雷針に、雷が落ちてきて――それが魔物だと悟ると、すぐに戦いの準備を整えた。

「ガルルル……」

「待って、シオンちゃん……まだ攻撃しちゃだめ。近づくと感電するかもしれないわ」

モコモコの体毛をまとい、くるんと巻いた角を持つ、『ストレイシープ』が大きく成長したような姿をした魔物――ワタダマみたいに顔が怖いということはないけれど、その黒い瞳には、確かにこちらへの敵意が込められている。

「……ギィ……」

『サンダーヘッド』は綺麗に並んだ歯を見せて笑う――その歯はきっと草を食むためのものじゃない。私たちを食べようとしている、肉食の獣みたいな顔。

「ふぇぇっ……と、遠くからサイコロ投げるくらいならできますけど……っ」

「キョウカさん、アリヒトさんの位置が私達の後ろに来るように回り込みましょう」

「ええ、そうね……敵が後部くんの方に行かないように、慎重に……」

まだ『サンダーヘッド』は、バリバリと全身に雷を纏ってはいるけど、こちらの動きを牽制したりはしてこない。私たちは警戒しながら、スズナちゃんの意見に従って移動する――その途中で。

「きゃぁぁっ……!」

「――エリーさんっ……!」

『サンダーヘッド』から目を離してはいけないと思いながら、私はスズナちゃんの声で何があったのかを感じ取る。大きな魔物の攻撃を、エリーティアさんが受けてしまった――でも、彼女は。

「大丈夫……これくらいなら、まだ……っ!」

エリーさんの声が聞こえる――ダメージを受けているのに大きな声を出したのは、私たちを心配させないためでもあるのだろう。

「私たちも早く目の前の魔物を倒して、後部くんたちに加勢するわよ!」

「はい……っ、いきますっ! アリヒトさん、『お願いしますっ!』」

スズナちゃんは後ろにいる後部くんを信頼して、凛とした声で言う。次の瞬間、私は後部くんがスズナちゃんのすぐ後ろにいて、一緒に攻撃してくれているような、そんな感覚を覚えた。

◆現在の状況◆

・『スズナ』が『皆中』を発動 →二本連続で必中

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:ヒュプノスシュート

・『スズナ』が『サンダーヘッドA』を攻撃 →命中

・『支援攻撃2』が発生 →『サンダーヘッドA』が混乱

・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:フォースシュート・スタン

・『スズナ』が『サンダーヘッドA』を攻撃 →命中

・『支援攻撃2』が発生 →『サンダーヘッドA』がスタン

・『サンダーヘッドA』が放電 →『サンダーヘッドA』の充電レベルが0に低下

「ピギィッ……!」

スズナちゃんの一本目の矢も、二本目の矢も命中する――二本目が当たったとき、『サンダーヘッド」が身体にまとっていた電気も消えた。

(凄い……スズナちゃんが攻撃するタイミングに合わせて、後部くんはその都度使う魔石を変えてる……!)

けれどこちらを支援すると同時に、後部くんは大きな魔物に果敢に斬り込んでいくエリーティアさんを、そしてテレジアさんを支援しないといけない。

彼は会社にいた頃から、幾つもの案件を同時に処理することが上手かった。どのプロジェクトのことを聞いても把握していて、正確に答えてくれるので、私もつい彼を頼ってしまった――と、今思い出しても申し訳ない。

今の私にできること、するべきことは、後部くんのパーティの一員として役割を果たすこと。皆と一緒に、前に進むために――無心で戦うこと。

「シオンちゃん、一緒に仕掛けるわよ!」

「ワォォーンッ!」

私はクロススピアを構えて、『サンダーヘッド』に向かっていく。スズナちゃんの弓が当たったとき、羊が纏う雷が弾けるようにして消えたところを見逃さずに。

『群狼の構え』を覚えてから、シオンちゃんとパーティを組んでいるだけで、私は今までの自分とは思えないくらい、速く走れるようになっていた。

「――やぁぁぁぁっ!」

◆現在の状況◆

・『キョウカ』が『ダブルアタック』を発動

・『サンダーヘッドA』に二段命中 支援ダメージ24

・『シオン』が『ヒートクロー』を発動

・『サンダーヘッドA』が『サーマルパワー』を発動 →『サンダーヘッドA』の充電レベルが1に上昇

・『サンダーヘッドA』の体力が回復

「――ピギャァァァァッ!!」

私の槍の攻撃は、確かに通じた――でも、シオンちゃんが熱風と共に爪を繰り出したとき、『サンダーヘッド』はひるみもせず、全身にバチバチと稲光をまとう。

(っ……今のは……一体、何が起きたの……!?)

「――五十嵐さんっ! すみません、シオンに『火柘榴石』を使わずに攻撃するように指示してください! 『サンダーヘッド』はおそらく、『熱を電気に変換する』性質があります!」

後部くんの声が聞こえてくる――彼が何をしているのかは範囲外で、ライセンスには表示されない。でも彼はしっかりと見ていて、状況を把握している。

「――ギィィッ……!!」

『サンダーヘッド』の頭から生えた二本の角の間に、稲妻が走る――けれど、それを攻撃には使ってこない。考えられる可能性は、『充電レベル1』では、まだ攻撃には電気を使わないということ――けれど槍で攻撃すれば、感電させられてしまう恐れがある。

私の『サンダーボルト』は、きっと逆効果だから使えない。新しく手に入れた槍『アンビバレンツ』で一気に勝負をかけたら――攻撃したときにダメージが返ってきてしまって、さらに感電してしまったら、耐えられるのか分からない。

「キョウカさん、私がもう一度、アリヒトさんの援護を待って矢を射掛けます!」

「わ、私もっ……その前に、当たらぬも八卦ですけど、『ラッキーセブン』いきますっ!」

◆現在の状況◆

・『ミサキ』が『ラッキーセブン』を発動

・『サンダーヘッドA』の状態異常耐性が少し低下

「はわぁっ、気休めにもならない感じのが出ちゃった……私、もしかして厄日ですかっ!?」

「そんなことないわ、今の状況なら……後部くん、もう一度スズナちゃんに『スタン』の支援をお願い! 敵の電気を散らしてくれるはずよ!」

「――キョウカさん、危ないっ!」

突破口を見つけたと安心した、その一瞬に、私は思いがけない光景を見ていた。

「――ッ!」

「メリッサさん……っ!?」

『サンダーヘッドA』の出方をうかがっていたメリッサさんが、突然大きな包丁を振りかざして私に斬りかかってくる――完全に意表を突かれたけれど、私にはこんなときに使える切り札、『ブリンクステップ』がある。

技能を発動させて回避したあと、ぶん、と風切り音が通り過ぎて、叩き下ろされた包丁で土がえぐられる――メリッサさんが理由もなくそんなことをするはずがない。

(待って……さっきから、何か音が聞こえてる。あの大きな魔物が、何か……音を鳴らしてる……?)

「みんな、耳を塞いでくれっ! あの音を聞いちゃ駄目だっ……!」

後部くんが必死に叫んでいる――けれど私は瞬時に反応することができずに、聞こえてくる音を少なからず耳に入れてしまった。

ライセンスの表示をさかのぼると、何が起きていたのかが分かる――メリッサさんが、私に攻撃をしてきた理由も。

◆現在の状況◆

・『★誘う牧神の使い』が『享楽の角笛』を発動 →女性に対して『魅了』状態を付与

・『メリッサ』『リョーコ』『カエデ』『アンナ』が魅了 士気が低下

・『メリッサ』が『★誘う牧神の使い』の命令で行動 →『キョウカ』に攻撃

・『キョウカ』が『ブリンクステップ』を発動 →攻撃を回避

(『享楽の角笛』……あの魔物、もしかして女性探索者の天敵みたいなものなの……? でも、どうして一部の人たちだけが……絶対成功するわけじゃない……?)

「な、なんだかいい気分になる音なんですけど……っ、メリッサさん、これでやられちゃったとか……?」

「メリッサさん、しっかりしてくださいっ……『祓いたまえ、清めたまえ』っ!」

◆現在の状況◆

・『スズナ』が『お清め』を発動 →『メリッサ』の魅了状態が解除

「っ……私……今、いったい……」

「スズちゃん、ぐっじょぶ! 良かったー、私同士討ちなんて絶対嫌だから!」

「ごめんなさい……何か私、迷惑を……」

「今は気にしないで、それより良くわからないけど、私たちにあの音が効かなかったから、敵が戸惑ってるみたい……今がチャンスよ!」

「バウッ!」

『サンダーヘッド』は、『誘う牧神の使い』が出す音は、きっと必殺の力を持っていると思っていた――でもそれが私たちに効かなくて、次の手を打てないでいる。

「ピギッ……ピギギィッ……」

「声だけなら、ちょっと可愛い声だけど……ごめんなさい。あなたを狩って、リーダーの加勢をしなくちゃ」

「――ピギィィィッ……!」

『サンダーヘッド』が、頭に集めた電気で攻撃しようとする――でもそのときには、スズナちゃんがすでに、二回目の『皆中』を発動させて、弓に矢をつがえていた。