軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77話 シャインの願い

「わあ。シャイン凄く怒ってるね」

どこか愉快そうにフィルが言うと、チャムが首を傾げる。

「なんでー?」

「レナリアの側に、ボクだけじゃなくてチャムもいるからじゃないかな」

「いたらダメなのー?」

「そんなことないさ。でも、なんでチャムが一緒にいるんだろうって疑問に思ってるかもしれないね。教えてあげてもいいけど、もう子分はいらないし……。そもそもシャインを子分になんてしたくないから、教える必要はないかな」

シャインはアンジェの守護精霊だ。基本的に一度守護精霊として契約をしたら、守護した相手が死ぬか、もしくは自分が消滅してしまうまでは側を離れることができない。

本当はレナリアの守護精霊になりたかったのだが、洗礼式の時にフィルに力負けしてしまったため、仕方なくその後に洗礼を受けたアンジェの守護精霊になった。

実はシャインは以前にも聖女と呼ばれた少女と契約をしたことがあって、その時は一緒に洗礼を受けた子供たち同士が学園で仲良くしていたことから、今回もそうなるだろうと考えていたのだ。

シャインがかつて守護した聖女は、レナリアほどの魔力は持っていなかったが、心優しく、まさしく聖女にふさわしい女性だった。平民で身分はなかったものの、一緒に学園で学んだ王子に望まれ王家へと嫁いだ。

聖女と一緒に洗礼を受けた子供たちは側近として生涯彼女の側に仕えていたから、てっきり今回もアンジェが聖女であるレナリアの側近になるのだろうと思って、シャインは契約をしたのだ。

元々アンジェはシャインと契約できるほどの魔力を持っていないのだから、そのうちに自然と契約が切れてしまう可能性が高い。

そうなればシャインは契約者のいない精霊に戻る。

それまでの間、アンジェが側近として側にいれば、レナリアはシャインの素晴らしさに気がついて、エアリアルとの契約を破棄して自分と契約を結び直してくれるかもしれない。

それが無理だったとしても、レナリアの魔力量であれば複数の精霊と契約ができるだろう。あの生意気なエアリアルと一緒というのは癪に障るが、我慢できないこともない。

そう思っていたのに、楽しみにしていた学園で、レナリアとアンジェには全く交流がなかった。

それどころか、避けられてすらいるようだ。

こんなはずではなかったと思うシャインは、エアリアルの横にまだ生まれたてのサラマンダーの姿を見て愕然とした。

思わず暴発してしまいそうになったが、前回それでレナリアに迷惑をかけてしまったことを思い出して踏みとどまる。

あの時――。

アンジェから命が失われたあの瞬間、シャインは契約から解放され、レナリアに力を貸すことができた。

その時に触れたレナリアの魔力が忘れられない。

原始の魔力そのものの、力強く、そして豊かで暖かい魔力。

あんな魔力を持つ人間がいるなんて初めて知った。

ずっと繋がっていたい。

そう思ったのに、レナリアがアンジェを蘇生させてしまって、再び契約の鎖に繋がれてしまった。

シャインは意気消沈したが、いつか絶対にレナリアの守護精霊になってみせると奮い立った。

なのに、なぜレナリアの守護精霊が増えているのだろう。

呆然としながらも、シャインはいつのまにか増えていたレナリアの守護精霊から目が離せなかった。

「大丈夫かしら。また暴発してしまわない?」

心配そうなレナリアに、フィルは「大丈夫じゃない?」と軽く答える。

「前にシャインが暴発した時、レナリアがみんなを守るために倒れちゃったのを後悔してたみたいだから大丈夫じゃないかな」

フィルとレナリアは心で繋がっている。

だからあの瞬間、レナリアが前世の時のように自分の命を削ってでもアンジェを助けようとしていたことを知っている。

あんな失礼な奴なんか見捨てればいいのにと思うが、そんなことできないのがレナリアなのだ。

そしてフィルが好きなのはそんなお人好しすぎるレナリアなのだから、仕方がない。

きっとこれからも同じような無茶をするだろうから、そうならないためにフィルが気を付けるしかない。

チャムを子分にしたのだって、いざという時にレナリアの助けになる精霊がもう一人いればいいという考えからだ。

本当はレナリアを独り占めしたいけれど、レナリアのためなら我慢できる。

シャインに対しても、口もききたくなかったけれど、また同じことが起きたら大変だ。

だから、また暴発したらレナリアに嫌われるぞと釘を刺した。

本当はいくらでも暴発して、レナリアから姿も見たくないと言われるくらい嫌われてしまえばいいのにと思っているほど気に食わない相手ではあるけれど。

「とにかく、あんまり関わらないでおけばいいよ」

フィルはそう言ってレナリアの肩に座った。

空を見上げると、どんよりとした雲が風に流され、少しずつ日の光が差してきている。

頬に当たる風は、湿り気を帯びたものから、少し乾いた、爽やかなものに変わっている。

蜂蜜色の髪をそよがせるフィルは、このまま晴れるといいなぁと伸びをした。

そこへ、耳障りな金切り声が聞こえてくる。

「だから、あたしはあの白いリッグルがいいんです!」

「いや、しかし、あのリッグルはもうすでに主を決めております」

「そんなの関係ないです。だって白いリッグルなんて、あたしにピッタリじゃないですか。聖女なんですから」

「でもリッグルとしてはそれほど優秀ではありませんよ。こちらのほうが――」

飼育員が必死にそう言うが、アンジェは聞く耳を持たない。

そのピンクトルマリンのような目が、レナリアを貫く。

レナリアは何が何だか分からずに、目を丸くしてその視線を見つめ返した。

それが気に入らなかったのか、アンジェは肩をいからせながら、大股でこちらに向かって歩いてきた。