軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71話 レオナルドの頼み・前篇

支度を整えたセシルは、一緒に朝食を摂るために、侍従を連れて兄レオナルドの部屋へと向かった。

魔法学園の男子寮の最上階には三部屋しかない。一つは王族専用の貴賓室で、残りの二つも王族、もしくはそれに準ずる貴族しか入れない。

現在この最上階に部屋を持っているのはレオナルドとセシルだけだ。来年レオナルドが学園を卒業すれば、しばらくはセシルだけとなるだろう。

「兄上、おはようございます」

貴賓室には厨房が備わっていて、わざわざ食堂まで行かなくても済むことから、朝食はレオナルドの部屋で一緒に摂るのが兄弟の習慣になっている。

「おはようセシル」

既に席についていたレオナルドは、セシルの顔を見て意味ありげに口の端を上げる。

「残念だが、朝食のパンは普通のパンだぞ」

テーブルの上には、王宮から派遣されている料理人が焼いたパンが置かれている。

どうやら昨日の一件は既にレオナルドの耳に届いているらしい。

飄々としているようでも、さすがに世継ぎの王太子だけのことはある。おそらく学園内部の情報は、全て把握しているに違いない。

「初心者が作ったパンですから、研鑽を尽くした料理人に敵うはずもないでしょう」

「そうか?」

侍従たちが毒見済の食事を並べると、レオナルドは腹心の護衛を残して退出させた。

何かセシルに内密の話があるのだろう。

「確かにレナリアは美しいが、問題は多いぞ」

人払いをしたレオナルドは、単刀直入にそう言った。

まだ芽生えたばかりの気持ちを言い当てられたセシルは、無言で返す。

手に取ったパンは、既に冷めきっている。何度も毒見をした食事は、セシルたちが食べる頃には冷たくなっているのが普通だ。

昨日食べたレナリアの手作りのパンは、まだほのかに温かかった。

だからあんなにおいしく感じたのだろうか。

レオナルドは気にもせずに、乱暴な動作で、それでも優雅にパンをちぎって口に入れた。

「まず王太后の反対があるだろう」

「そうでしょうね」

そんなことは言われなくても分かっている。

たとえセシルがレナリアを望んだとしても、かつて自分の夫の愛を独り占めしたレナリアの祖母を憎んでいる王太后の猛反対に遭うだろう。

それでなくても、王太后の望みは、このエルトリア王国を母国であるゴルト王国の属国状態にすることだ。

表立っての侵略は武力での制圧となり民の反感を買うが、王家に次々とゴルト王国の血を混ぜてじわじわと王統を侵略する王太后の企ては、民の知らぬところで着々と進んでいる。

レオナルドの結婚相手についてもゴルト王国の姫君を強く推していて、さすがにそれは普段気の弱い父王も反対しているのだが、レオナルドがもうすぐ卒業という年になって、王太后の圧力はさらに強まっている。

「兄上のほうはどうなっているのですか?」

王太后の企みを阻止するために、レオナルドは王国を支える公爵家の姫との婚約を考えている。

エルトリア王国に二つある公爵家には、レオナルドと年齢の釣り合う娘は、ベアトリス・ハーデンしかいない。

王太子の誕生に合わせ子供を儲ける貴族が多かったが、高位貴族においては、女児よりも男児の誕生のほうが多かったのだ。

もちろん分家から養女として引き取り娘として育てる家もあったが、エルトリアの王家の血筋からゴルト王国の血を薄めるという目的を思えば、元は王家から分かれ、王家の姫が降嫁することが多い公爵家の直系の娘でなければ意味がない。

ベアトリスはレオナルドより二歳年上なので、王太后はゴルト王国では年上の妻が好まれていないという理由から、レオナルドが彼女を婚約者として考えているとは思ってもいない。

王太后が油断している間に、レオナルドは卒業式にベアトリスを婚約者として披露をする心づもりでいた。

もちろんセシルもそれに協力している。将来セシルの護衛騎士となるランベルト・パリスは母がハーデン公爵家の出身でベアトリスとは従姉弟にあたるので、ランベルトを介してやり取りをしているのだ。

「もちろん麗しのベアトリス嬢との仲は良好だよ」

ベアトリスは学園でも優秀な成績を残して卒業し、今では領地でお妃教育を受けている。

王太后の目もあり実際に会う機会は少ないが、それでも手紙のやり取りで交流を深めていた。

「だが最近は王太后がゴルト王国の姫ではなくて別の女を薦めてくるようになってな」

「意外ですね」

王太后は何としてもゴルト王国の姫との縁組を成立させようと、何度か姫をエルトリアに招いていた。

レオナルドもセシルも、王太后によく似た性格の姫を丁重にもてなしはしたが、決して歓迎したわけではない。

だが王太后はしつこいくらいに姫を妃にと薦めてきていたはずだ。簡単に諦めるとは思えない。

「何でも、ゴルトの姫は真実の愛に目覚めたのだそうだ」

「真実の愛、ですか?」

あの傲慢な振る舞いの姫からそんな言葉が出てくるのかと、セシルは驚きに目をみはる。

「伯爵家の次男に一目ぼれをして、結婚できないなら死ぬと大騒ぎをしたそうだ」

「……はあ」

「あの国では娘のわがままを叶えてやるのが王室の伝統なのか、次男を次期伯爵として、姫を降嫁させることになったらしいぞ」

「それは……」

まさに自分たちの祖父の時と同じことをしている。

あの時は国力の低いエルトリア相手に無理を押し通したが、国内の貴族にも同じことをして、王家に対する敬意が薄まるということはないのだろうか。

「そのおかげで私はいい駒を手に入れられた」