軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7話 聖女にはなりたくありません

レナリアがフィルと一緒に屋敷へ戻ると、両親も兄も、びっくりしてフィルの姿を凝視した。

フィルが言った通り、皆にもフィルの姿が見えるようになったようだ。

レナリアは驚いている家族の前で、誇らしげにフィルを紹介する。

「お父さまたち、見て。これが私の守護精霊なの」

「エアリアルは見えないんじゃなかったのか?」

クリスフォードは自分の守護精霊であるサラマンダーを呼び出すと、何やら会話を始めた。

基本的に、他の人が持つ守護精霊は、姿こそ見えるものの声は聞こえない。

だから父とその守護精霊が何を話しているかレナリアには分からなかったけれど、何度か頷くのを見ていると、どうやらフィルについての説明をしてもらっているようだ。

よく見れば、エリザベスとアーサーも父に 倣(なら) って守護精霊を呼び出している。

「本当にエアリアルなのか……」

しげしげとフィルを見つめるクリスフォードに、フィルは明るく挨拶をする。

「これからよろしくね!」

「なに。 喋っただと!?」

「まさかそんな。……クリス、あれは本当に守護精霊なの」

「父上も母上も落ち着いて。でも、本当に守護精霊なのか?」

驚く家族にレナリアは思いきって前世の記憶を取り戻した所から説明した。

最初は半信半疑だったが、それぞれの守護精霊から真実である事を聞いて呆然とする。

「レナリアが聖女だったなんて……」

話をしているうちに震え出したレナリアを抱きしめたエリザベスは、優しくその頭を撫でる。

「聖魔法を使える者は稀少だから、もしレナリアが使える事が分かればすぐに聖女と認定されてしまうだろう。聖女でしかも王家の血筋だ。おそらく王家が取りこみにくる」

そう断言するクリスフォードがしかめ面をすると、アーサーもまた同じような顔をした。

「それにこの美しさだ。王妃の地位も望めるでしょうね」

現在、王太子にもレナリアと同じ年の第二王子にも、決まった婚約者はいない。

学園を卒業する時に婚約者を決めてお披露目するのが通例だ。

「絶対に嫌です!」

思わず叫ぶと、エリザベスは優しい声で「大丈夫よ」とささやく。

「あなたが望まないのなら、決して聖女にはさせないわ」

「そうだね。まだお披露目もしていないのだし、変装すればいい」

エリザベスとアーサーの提案に、クリスフォードもそれはいいと頷いた。

そして私についてくれている侍女のアンナを呼ぶ。

アンナは茶髪に茶色い目の、それほど美人という訳ではないが、穏やかで優しそうな娘だ。父親はシェリダン侯爵家領軍の騎士団長で、レナリアが小さい時から仕えてくれている姉のような存在だ。

「お呼びと聞いてうかがいました」

突然シェリダン家当主に呼びつけられたアンナは、何か粗相をしただろうかと緊張しながら現れた。お辞儀をしながらエプロンの裾をぎゅっとつかむ指が、少しだけ震えていた。

「レナリアの学園入学のための準備が進んでいる事かと思うが、その際にレナリアを目立たぬようにしてもらいたい」

「目立たないように、ですか?」

アンナは思わず顔を上げる。

当主であるクリスフォードとエリザベスの顔を順番に見て、それからレナリアを見て首を傾げる。

シェリダン侯爵家の当主夫妻は、どちらも目を奪われるほどの美貌だ。

当然その娘のレナリアも、まだ十歳と幼いながら、将来は母以上の美姫になるだろうと言われている。

しかも母から王家のタンザナイトの瞳まで受け継いでいるのだ。

目立つなという方が無理である。

小さな頃からアンナがお世話をしてきたレナリアは、文句の付け所がないほど可愛らしい。

家族から溺愛されていたせいで少しわがままな性格をしていたが、それも洗礼式の後からはすっかりなりを潜めている。

アンナはきっとレナリアが入学したら、学園中の貴公子の目をくぎ付けにするだろうと思って楽しみにしていた。

更に腕によりをかけてお嬢様を綺麗にするぞと意気込んでいたのに、その反対の命令を受けるとは……。

だが雇い主のどんな無茶振りも笑顔でこなすのが、一流の侍女である。

アンナはじっくりとレナリアの顔を見つめた。

幼いながら両親の美貌を受け継いでいて、誰もが見とれてしまうほどの美少女だ。

さすがにこの印象的なタンザナイトの瞳は変えようがないが、薄く化粧をしてその美しさを目立たなくさせることは可能だろうか。

いや、たとえ不可能だったとしても、それを何とかするのがアンナの仕事だ。

侯爵夫妻の期待を裏切るわけにはいかない。

とすれば、よく見れば美しいがあまり印象に残らない顔、を作るのが一番だろう。

アンナは持てる技術の全てをかけて、レナリアの希望を叶えることにした。

こうして、レナリアは本来の美貌を隠して学園に入学する事になった。