軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27話 真の聖女

泉の女神像は、変わらずに優しい微笑みを浮かべ、左手に本を持ち、右手を差し伸べている。

だがその慈愛のまなざしの先は、阿鼻叫喚の様を表していた。

目を押さえ、痛みに地面を転がっている者がいる。

痛みを訴えて叫んでいる者がいる。

高位の守護精霊と契約した数人は、かろうじてシャインの暴発に耐えたようだ。

セシル王子とマーカス先生も、目を覆いながらしっかりと立っている。

そしてアンジェは……。

「あ~あ。でも魂は傷ついてないから、転生の輪には入れるよ。少しでも光の属性があって良かったね~」

フィルは倒れ伏すアンジェを見て、興味なさそうにしている。

「死んで……しまったの?」

「そりゃあね。あんなに間近でシャインの暴発を食らったから仕方ないよ」

レナリアはあまりの事に衝撃を受けた。

確かにアンジェは愚かだっただろう。

無意識にシャインを怒らせてしまったのかもしれない。

だがそれは、死ぬほどの罪だろうか。

「……助けるわ」

レナリアは決意を胸にアンジェを見つめる。

フィルは魂がその場に残っているなら、今のレナリアには蘇生すら可能だと言っていた。

ならば……。

「いいの? 聖女だってバレちゃうよ」

レナリアのタンザナイトの瞳が揺れる。

思い出すのは前世での最期。

もし、あの時に戻ったなら自分は……。

ゆっくりと目を伏せ、深く息を吐く。

「今世で聖女になるのは御免だけど、前世で聖女だった誇りまで捨てたくはないわ」

再び見開いたそのまなざしに、迷いはない。

「霧で隠しましょう。フィル、泉の水を全部蒸発させられる?」

「……全部は無理かな」

「そう。なら、できる限りでいいわ」

エアリアルであるフィルは空気中のあらゆる魔素を集める事ができる。

だから契約者が属性を持っていれば、全ての魔法を使えるのだ。

ただ、やはり本来の属性を持つ精霊の方が、魔素を集めやすいのは確かだ。

「ねえねえ、手伝って欲しい?」

すぐ近くで聞こえた声に目を向けると、そこには小さな小さな炎が浮いている。

さっき生まれたばかりのサラマンダーだ。

「あなたの魔力、大好き。だから手伝ってあげる」

小さなサラマンダーはレナリアの返事を待つことなく、泉へと向かうとその水を熱した。

地面を這うように、白い霧が泉から生まれる。

それは一斉に立ち昇り、周囲の視界を覆った。

「サラマンダーに抜け駆けされた! 僕のレナリアなのに!」

「フィル。あなたにはもっと重要な事をお願いするわ。アンジェを助けるの」

金色の髪を逆立てて怒っていたフィルだが、レナリアに期待されていると分かってすぐに機嫌を直す。

「そうだよね。僕じゃないとできないもんね。あの子を助けるのは気に食わないけど、レナリアが望むなら仕方ないな。力を貸してあげる」

「ありがとう、フィル」

レナリアはフィルに導かれて急いでアンジェの元へ行くと、うつ伏せたままの体に触れる。

怪我はないようだが、ピクリとも動かない。

「息をしていない……」

前世で瀕死のケガ人を癒した事はあるが、死者の蘇生は初めてだ。

できるのだろうか、と迷いが生じるが、やるしかないと決断する。

「女神よ、全ての癒しを 賜(たまわ) りたまえ」

するとレナリアを中心に、光の輪が波紋のように波打った。

優しい光が、アンジェだけでなく痛みにうめく者達をも癒す。

「無茶だよ、レナリア。皆癒すなんて無理だ!」

「無理でも、私がやるしかないでしょう!」

きっとシャインの暴発によってつけられた傷は、この時代の治癒師に治せるものではないだろう。

前世ですら、それを為せるのは聖女だけだった。

そしてこの場にいる聖女は、レナリアただ一人。

絶対に救ってみせる。

決意を胸に、魔力を放出する。

だがフィルの助けだけでは足りない。

レナリアは命を削る覚悟をする。

「シャイン! お前のせいでもあるんだから、力を貸せっ」

フィルの言葉に慌てて飛んできたシャインが、レナリアへと光の魔素を渡す。

光の波紋が、一層輝きを増した。

どれくらいの時間が過ぎたのだろう。

レナリアにとって永遠とも思える時間が過ぎると、光の波紋はゆっくりと消えていった。

それと同時にレナリアがガクリと膝をつくと、霧が晴れてどこか戸惑いの表情をした生徒たちの姿が現れる。

「レナリア、レナリア! しっかりして!」

慌てるフィルの声が聞こえる。

「あたしの事を怒ったから、シャインが皆に罰を与えたんです。でもシャインは優しいから全部治してくれたんですよ。感謝してくださいね!」

自慢するかのようなアンジェの声が聞こえる。

そして――

「私の聖女」

千年前のマリウス王子の声が耳元で聞こえたような気がした。