軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話 泉の女神

アンジェが光魔法を使えないのは、本来は守護精霊を得られるほどの魔力を持っていないからだろう。

そしてそうなってしまった責任は、レナリアにもあるといえばあるような気もする。

でも光属性を持っているのだから、たとえ回復魔法を使えなかったとしても、質の良いポーションを作る事ができるのではないだろうか。

ポーション製作にはドリュアスかシャインの加護が必要になる。

属性が多少変わるだけで、普通に使うだけならばそれほど効果に変わりはない。だが、光魔法を使って作るポーションはアンデッド系の傷によく効くから、アンジェはきっと重宝されることだろう。

聖女になるのは無理だろうけれど……。

「わぁ、綺麗だね!」

先に泉に到着していたフィルが、一目見て歓声を上げる。

森を抜けたその先、清廉な空気が漂う泉の中央に、その女神像はあった。

左手に本を持ち、右手は差し伸べるかのように伸ばされている。

右手の指先からは、祝福のようにきらめく飛沫と共に、水が流れ落ちる。

滑り落ちたしずくによって生まれた波紋が泉に広がり、水面で誇らしげに咲く睡蓮の花を揺らす。

ふとこぼれたため息は誰のものだろう。

心が洗われるように美しい女神像がそこにあった。

「綺麗……」

レナリアも思わず呟く。

それが誰かは思い出せないけれど、どこか懐かしい面影がある。

かつて聖女だったレナリアを導いた、ディオネだろうか。

「凄い綺麗ですね。あっ、この女神像ってあたしに似てませんか?」

全く空気を読まないアンジェの甲高い声が響き渡る。

像に見とれていた皆は、その声にハッと我に返った。

「似てるかな? 気のせいだよ」

空気を読まないのはアンジェだけではなかった。

嘘のつけない性格のアークも、アンジェの言葉を一刀両断にする。

「そんな事ないですよ。ほら、目! 目が似てます」

どこからその自信が来るのかは分からないが、アンジェはそう主張した。

同意を求めるようにセシルを見るが、あっさりと無視される。

「女神像に書かれた文字を読むんだったな」

セシルはオリエンテーリングの課題となっている、本に書かれた文字を見ようと泉に近づく。

「聖女よ、 永遠(とわ) に……。これは女神ではなく聖女なのか?」

セシルが像を見上げる。

女神像はこの学園が創立された九百年前からここにあると伝えられており、誰が何の目的で作ったのか、どのような材質でできているのかは分かっていない。

それどころかなぜ女神像から 滾々(こんこん) と水が湧き出ているのか、その原理すら、よく分かっていないのだ。

同じような像は学園だけではなく世界各地にあり、信仰の対象となっていた。

「聖女なんだったら、やっぱりあたしじゃないですか。聖女って似るんですかね」

聖女、と聞いて、レナリアの心臓は早鐘のように打ち始めた。

思い出した。

似ているのはディオネではない。

かつてのレナリアだ。

マリウスと並んで描いてもらった絵姿の自分に、似ているような気がする。

レナリアは思わず泉へと足を運んだ。

つま先が、水に触れる。

その瞬間――。

辺りは光の洪水に包まれた。

「なんだ、これはっ」

ランベルトが急いでセシルを背にかばう。

少し離れた場所にいた護衛たちも、急いでセシルの元へと走ってくる。

「殿下、ご無事ですか!」

この場に自分の護衛を連れてきたのは王家の血筋を持つセシルとレナリアだけだ。

「お嬢様っ」

滅多に聞けないクラウスの焦った声が聞こえる。

「うわぁ、凄い!」

護衛達とは逆に、はしゃいでいる声に目を向けると、まるで全身に光のシャワーを浴びているようにして飛び回るフィルがいた。

その後ろにシャインやウンディーネも続いていて、どの精霊も喜んでいるように見える。

「ほら見てレナリア。精霊が生まれるよ!」

フィルが指さしたのは女神像だ。

そこから小さなしずくや炎が生まれては消えていく。

「綺麗……」

精霊は女神によって生み出された祝福だと言われている。

こうして見ると、確かにそうかもしれないと思う。

「精霊の誕生か……。絵で見たことはあるが、まさかこうして実際に目にする事ができるとは……」

感極まったようなセシルの声が聞こえる。

護衛達も、保護する対象の元まで来ると、足を止めてその神秘的な光景に見入っていた。

「あたしのシャインです! ほらシャインが精霊を産んでるんです!」

アンジェが興奮して叫ぶ。

確かにアンジェにはフィルが見えないから、シャインが精霊たちを先導して飛んでいるように見えるのだろう。

フィルが見えるレナリアとセシル以外の生徒たちは、感心するかのようにアンジェを見た。

「消えてしまうわ」

小さな精霊が消えていくのが悲しくて呟くと、レナリアの側に戻ってきたフィルが明るく答えた。

「消えてないよ。もう少し力を蓄えて人間と契約できるようになるまで、大気に隠れてるだけ」

「大気に?」

「うん。生まれたばかりの精霊は上手に自分の属性の魔素を集められないからね」

「大気から魔素を選んで集めているの?」

「そりゃそうさ。他の属性が混ざっていたら、うまく魔法が使えないでしょ? もちろんエアリアルだけは別だけどね。だって大気には全部の属性が入っているからね!」

「もしかしてエアリアルの守護があれば他の魔法も使えるの? 水魔法とか火魔法とか……」

びっくりして聞くレナリアに、フィルはあっけらかんと言う。

「うん。レナリアは使えるでしょ?」

何を今さら当然の事をとフィルは呆れているが、レナリアはてっきり自分が前世で聖女だったから使えるのかと思っていた。

「じゃあ他の人たちも?」

「どうだろう。魔力が少ないから無理じゃないかな」

衝撃の事実を知らされたレナリアは、この事が他の人に知られたら絶対に注目されてしまうだろうから、絶対に内緒にしなくてはと決意した。