軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148話 悪意の芽

「地面に穴が……? 今までそんなものはなかったぞ」

ラヴィの姿が見えていないレオナルドたちは、不審げに突然現れた穴を見る。

レナリアにも、なぜラヴィが地面に穴を開けたのかその理由が分からない。

「これ、ラヴィが開けた穴じゃないよ」

パタパタとラヴィの元へ飛んだフィルが、穴の縁に手を当てる。

「え? じゃあどうして穴が開いているの?」

「分かんないけど、誰かが土魔法を使ったんだと思う」

「どういうこと?」

「魔法で穴を掘って、ラシェがつまずいた後は、分からないように上から土をかぶせて穴を隠してたみたいだ」

「一体誰がそんなことを……」

言葉を失うレナリアの代わりに、話を聞いていたアーサーがレオナルドたちに説明をする。

それを聞いたレオナルドは顎に手を当てて考えこんだ。

「それは変だな。競技場は事故がないように管理されているはずだ。特に今は王族である我々が在籍しているから、例年になく厳しくチェックしていると聞く。誰にも知られないようにこっそり忍びこんで穴を開けることなど不可能だ」

アーサーもレオナルドの意見に同意する。

「学園長はああ見えて、学園の独自性を守っている。ということは土魔法の教師の誰かが単独で行ったということか」

レオナルドはそう言って、無言のままのマーカスに目を向ける。

マーカスは王位継承権の六位を持ち、王族に連なる「レイ」の名を持っているが、今はこの学園の教師だ。

どちらの立場としてここにいるのか、ここで明確にしてもらいたいとレオナルドは考えていた。

「……この穴が土魔法によるものであるというのは確かなのか?」

「精霊が断言していますね」

アーサーの言葉に、マーカスは銀縁の眼鏡に指を当てる。

「なるほど。ではそれは疑うべくもなく真実なのだろう。学園に勤める土魔法の教師は三人だ。動機にもよるが……いずれにせよ、事実が明らかになれば君たちに開示しよう」

そう言いながらも、マーカスは同僚の一人の姿を思い出す。

風魔法クラスの生徒がこんなに良い成績を残すのはおかしい、絶対に何か不正を行っているのだとかなり強く主張していた。

風魔法クラスの躍進のせいで土魔法クラスの生徒たちの成績は最下位だ。

それでそんなことを言っているのだろうと気にも留めなかったが、もしかしたら……。

「安心しました、マーカス先生。ちなみに、セシルの怪我を治したのは霧の聖女で間違いありませんね?」

霧の聖女に関しては、本当に存在するのかどうか、学園内でも議論が分かれている。

そこでマーカスが実際に見たと証言してくれれば、信ぴょう性が増すだろう。

マーカスも、このシェリダン家の掌中の珠であるレナリア・シェリダンに何か秘密があるのだということには気がついていた。

同僚のポール先生から話を聞いていても、レナリアの行動や発想は、あまりにも規格外だ。

元々魔法の研究が好きで魔法省に入ったマーカスである。

レナリアの謎を知ることができる機会に、あっさりとその提案を飲んだ。

「もちろんだ。私がその説明をしよう」

薄れていく霧の外から、集まった人々の声が少しずつ聞こえるようになってくる。

レオナルドとアーサーの発生させた霧は普通の霧だったが、レナリアはこっそりフィルに頼んで、周囲に風の膜を作って霧の中の音を遮断していた。

さすがにずっとそのままでは不審がられるだろうと思って解除すると、なぜかそこにいるはずのないものの声が聞こえてきた。

「セシルさま、大丈夫ですか! あたしが回復します!」

レナリアは思わず体を起こして立ち上がったセシルと顔を見合わせる。

この少し高めのキンキンとした声には、二人ともとても聞き覚えがある。

もちろんマーカスにもそれが誰の声か分かったので、自然と眉間にしわが寄る。

「アンジェ・パーカーは停学中だったはずだが……」

そこで何か気がついたように、マーカスは観覧席のあるほうに顔を向けた。

「もしかして、ここに教皇が……?」

「マーカス先生、それはどういう——」

聞き返そうとしたセシルの言葉にかぶせるように、アンジェが霧の向こうから走り寄る。

「セシルさま、無事でしたか!」

アンジェがそう言って抱き着こうとするのを、セシルはスルリとかわした。

大体、怪我をしているかもしれない相手にいきなり抱き着くというのは、あまりにも配慮に欠けるのではないかとセシルは不愉快になった。

そもそもマーカスの言う通り、アンジェは停学中でエレメンティアードには参加できなかったはずだ。

なぜここにいるのだろうと思いながらも、セシルはレナリアをアンジェの視線から隠すように、レナリアの前に立った。

「霧の聖女が治してくれた。君の出る幕はない」

そうきっぱり言うと、アンジェはぷうっと頬を膨らませる。

「あたし、知ってるんですよ。霧の聖女なんていないんでしょ。ちゃんと聞きました」

「ほう。一体誰から聞いたんだ」

腕を組んで上から見下ろすレオナルドに威圧されながらも、アンジェは得意げに後ろを振り返る。

「王太后様ですよ」

そこには豪奢な衣装を身にまとった、厳しい顔つきの王太后がこちらに向かって歩いてきていた。