軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114話 ダニエル・マクロイの苦悩

ダニエル・マクロイは最高学年の五年生だったが、今年のエレメンティアードには出場できない。

教皇の甥であるロイド・クラフトの指示で白いリッグルを燃やしたことで罰を受けて、エレメンティアードを開催する期間は停学処分となってしまったのだ。

「まったく、なんでこんなことに……」

停学中は領地に帰ろうと思っていたが、事態を重く見た家からは帰ってくるなと言われてしまった。

ダニエルの家は伯爵家だが、その領地は聖主座国に隣接していて、教会との関係が深い。

代々嫡男以外を聖職者にすることが多く、エルトリア王国の中で教会派と呼ばれる派閥に属している。

ダニエルは嫡男だが、これからのことを考えると廃嫡されてどこかの教会に押しこめられ、弟の代わりに聖職者になる可能性が高い。

しかし光の精霊シャインの加護を持たないダニエルは、司祭見習いか聖騎士になるより他に道がない。

エレメンティアードに出れないとなれば、その職にすら就けるかどうか……。

五年生は個人戦で、それまでに学んだ魔法や剣技を来場者にアピールする。

特に今年は王太子のレオナルドも出場することから、王族の来賓も予定されていると聞く。

まだ三年生のロイドや、一緒に停学になったアンジェは一年生だから、エレメンティアードに参加しなくてもそれほどダメージはないが、ダニエルは違う。

エレメンティアードを観戦しにくる貴族たちの前で個人戦の競技を見せることができなければ、卒業後の進路が閉ざされてしまうのと同じだ。

聖職者にすら治せない怪我や病気で参加できないならともかく、不祥事による停学だ。

ダニエルの未来は、黒く塗りつぶされてしまったようなものだ。

「せっかく、次期教皇のロイドさまと聖女のアンジェさまの側近になれると思ったのに……」

現在の教皇は、そのカリスマ性で絶大な人気を誇っている。

命の灯さえ消えていなければ救うことができる、奇跡の手を持つ仮面の教皇。

その無機質な仮面の奥には、想像を絶するほどの美貌を持ち、その美貌で人々を惑わさないように、自ら封印しているのだという。

ダニエルは実際に教皇の素顔を見たことはないが、その顔を見ることの多いロイドは、確かにそうだと肯定していた。

その教皇の甥ということで、ロイドは未来の教皇の座を約束されているようなものだ。

だからダニエルの父も、在学中にロイドと仲良くするようにとダニエルに厳命していた。

それが裏目に出てしまうとは。

それまでもロイドはダニエルに無理難題を言うことが多かったが、アンジェが入学してからというもの、その言動はどんどん過激になってきている。

確かに聖女を大切に思う気持ちは分からないでもないが、それにしても……。

ダニエルは聖女とされているアンジェに思いを馳せる。

入学した直後は、聖女とはいってもただの無知な平民で、特別な力などありそうにない普通の少女だと思っていた。

だがロイドによって下にも置かない姫君のような扱いを受け、さらに一年生のオリエンテーリングで奇跡を起こしてからは、どんどんわがままになっていった。

同じクラスの平民のクラスメートたちに対しても、まるで女王のような振る舞いをしているとも聞いた。

あれほどの奇跡を起こせる聖女ならば、 敬(うやま) われるのが当然だと思っていたが、もしあの奇跡がアンジェによるものではなく、セシル王子の言うように霧の聖女によるものであれば、今まで信じていたものは何だったのだろうと、ダニエルは 虚(むな) しさと後悔に明け暮れていた。

停学が決まってから、ダニエルは自室に引きこもっていた。

幸い個室を与えられていたため、ハウスバトラー以外と接することはない。

本来は食事を摂るためには食堂まで行かなくてはいけないのだが、停学中ということもあって、三食すべてハウスバトラーに運んできてもらっている。

寮つきのハウスバトラーはそれほど多くはないが、今年度はレオナルド王太子とシェリダン侯爵家のアーサーという重要人物が二人も学園に在籍していて、彼らが専属の侍従や執事を連れてきているため人員に余裕があり、ダニエルのわがままにも対応してくれているのだ。

「これから一体どうすればいいのだろう」

ダニエルの処罰は停学となっているが、実際はまだ確定ではない。

リッグルへの攻撃が、レナリア・シェリダンへの攻撃と捉えるかどうかで、退学になるのもありえると伝えられている。

もしそんなことになれば、教会に押しこめられるどころの話ではない。

おそらく家から放逐されるか、教会でも最下級の下男に落とされるか、それとも……。

備え付けの机に向かっていたダニエルは、予想される暗い未来に両手で顔を覆ってうなだれる。

その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

ダニエルが停学処分になってからというもの、同じ教会派の生徒ですらこの部屋を訪れるものはいない。

一体誰だろうと思ってドアを開けると、そこにはいつものハウスバトラーではなく、もっと上質のお仕着せを着た従僕がいた。

「ダニエル・マクロイさまですね。王太子レオナルド殿下がお呼びです」

「レオナルドさまが……?」

突然のことに、ダニエルの頭はうまく働かない。

一体自分に何の用があるのだろう。もしかしたら、今よりももっと悪いことが起こるのだろうか。

それとも同じ学園の生徒として、救いの手を差し伸べてくれるのだろうか。

不安と期待で混乱しながら、ダニエルは従僕の後に従った。