軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111話 天然の風の魔石のせいだと思います

もちろんポール先生を始め、練習を見ていた風魔法クラスの生徒たちも呆然と立ち尽くしている。

魔法の色が見えるマリー・ウィルキンソンの顔色など、白を通り越して真っ青だ。

レナリアは、フィルと初めて会った時のような惨状を見せる森を見て、フラリと倒れ掛かる。

「わあっ、レナリア危ない」

フィルが風魔法で支えてくれたおかげでリッグルから落ちるのは避けられたが、レナリアはもう失神寸前だ。

思わずラシェの背中に突っ伏してしまう。

「今まで目立たないようにしてきたのに……」

もちろん杖には魔法増幅ではなくて、魔法減衰の魔法紋を刻んだ魔石を入れている。

だから全力で魔法を撃っても、問題はないはずだったのだ。

「あ……。魔法紋……!?」

そうだ。

杖には魔法減衰の魔法紋を刻んでいるが、それだと怪しまれるからということで、魔法増幅の魔法紋もダミーで刻んでいる。

それがフィルの魔力と重なって大きくなり過ぎたということにするのはどうだろうか。

それに魔法紋を刻んでいる魔石は、シェリダン領で採れた天然のものだ。

魔石は魔物から採れるものと、魔素の濃い場所で自然にできるものとの二種類がある。

自然にできる魔石のほうが純度が高く魔力を多く持っているが、あまり多くは採れない。

特に風の魔石を持つ魔物はほとんどおらず、天然の魔石となるとかなり稀少だ。

今までも風魔法クラスの生徒が魔法杖に風の魔石を入れたことはあっただろうが、シェリダン産の最高級の魔石と、名前をつけたエアリアルの協力が相乗効果となって、とんでもない効果を引き出したと言い張ればなんとか誤魔化せるのではないだろうか。

レナリアは気を取り直して姿勢を正すと、驚いて目を丸くしているポール先生に向かって神妙な顔を向ける。

「先生……。どうやらシェリダン産の天然の魔石と魔法増幅の魔法紋と私のエアリアルの威力が重なってしまって、こんな事態になってしまったようです」

レナリアは内心で冷や汗をかきながら、ゆっくりと手綱を操ってラシェをスタート地点に戻す。

ラシェに乗った高い位置からクラスメートを見ると、みんな信じられないというような顔をしてレナリアと破壊された森を交互に見ている。

あのランスですら、驚いて口が開いたままだ。

「そういえば、レナリアさんの使っている魔石は風の魔石だったね」

ポール先生は口元に手を当てて考えこむようにしてから、森を見る。

この練習場には魔法を外に出さないために吸収する魔法陣が設置されているが、四方を壁に囲まれた練習場に比べると、どうしてもその効果は弱くなる。

一応、一年生が当てる的には、中心に当たると赤く輝く効果の魔法紋を刻んだ魔石の他に、防御力を高める効果を持つ魔石もつけてある。

ただ、それぞれの魔石のバランスを考えないと、どちらの魔法紋も効果が現れなくなるので、そこまで強い防御力は持たせていない。

だから今までも魔法が強すぎて的を壊す生徒はいた。

レナリアの兄のアーサーもその一人だ。

というより、アーサーと王太子レオナルドが二人で競うように的を壊して、大量の反省文を書かせたのが、ポール先生にはついこの間のことのように思える。

さすがにその時に壊された的の魔石は、シェリダン侯爵家と王家が折半で新調してくれた。

今までの魔石よりも格段に性能が上がって、これでしばらくは壊れないと安心していたところに、この惨事である。

だが風魔法にこれほどの威力があるのだということを広く知らしめるためには良いかもしれないとポール先生は心の中で呟いた。

ポール先生はなぎ倒された木々を見る。

強い風によって吹き飛ばされたようで、折れるというよりは根っこごと倒れている。

もしかしてこれならば、木魔法クラスと土魔法クラスの先生に協力してもらって、すぐに元に戻せるかもしれない。

的だけは早急に新しく作らなければいけないが、防御の魔法紋を刻んだ魔石と、赤く光らせるための魔法紋を刻んだ魔石の二つだけであれば、それほど時間がかかるということもないだろう。

新しい的が出来上がるまでは、手前の的だけ使い捨ての的を用意すれば良い。

「先生、どうも申し訳ありません」

ラシェから下りたレナリアが頭を下げるのを、ポール先生は慌てて止めた。

「誰かに怪我をさせたわけでもないし、レナリアさんが謝る必要はないよ。レナリアさんはただ、エレメンティアードの練習をしていただけなんだから。これは……そうだね、うん。こうなることを予測できなかった学園側にも責任がある」

そう言いながら、ポール先生はレナリアが壊した的を回収しに行った。

「最上級生の使う的は、もう少し強度があるんだ。一年生が使うものだからといって、強度を上げなかったのは、学園のミスだ」

掘り返された木の根っこを避けながら、ポール先生は壊れた的を拾い上げる。

淡々としたその説明に、驚いて固まっていた生徒たちは、的が壊れたのはそれほど強度がなかったからなのかと納得した。

倒された木々の説明はされていないのだが、生徒たちはそれに気がついていない。

「とりあえず今日の練習は中止だね。各自、リッグルを 厩舎(きゅうしゃ) に預けてから教室に戻っていっていいよ」

申し訳なさそうに縮こまっているレナリアも、ポール先生の指示に従う。

誰にも見えてはいないが、落ちこんでいるレナリアをフィルとチャムが必死に慰めていた。

「ごめんね、レナリア。ボクも全力で魔素を集めちゃった」

(フィルのせいじゃないわ。思いっきりやってしまったのは私だもの。魔力減衰の魔法紋を過信しすぎたのよ……)

「レナリアー、元気出してー」

(チャムも、ありがとう)

肩を落としながら教室へ戻るレナリアを、ポール先生はじっと見つめていた。

その手には、レナリアが壊した的がある。

それは綺麗に半分のところで、割れていた。