軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

【ヴィラ歴425年3月】

紅茶を片手に新聞記事を確認するのはフィーヌの日課だ。

事業を行っている以上世の中の流れを知ることは最低限行うべきことだし、辺境伯夫人という立場上、辺境の地域に住んでいる関係で王都の情報にどうしても疎くなってしまうので、新聞は貴重な情報源のひとつなのだ。

「あら」

フィーヌは競売情報の欄に目を留める。

「どうした?」

フィーヌの声に気付いたホークが、彼女を見る。

「ダイナー公爵家が所有している土地の所有権を売るようです」

「入札するのか?」

「ええ、そうしようかと」

フィーヌはにこりと微笑む。

借金で首が回らなくなっているダイナー公爵家はここ最近、持っている土地の所有権を次々と売りに出していた。

今日の新聞に売りに出されている土地はダイナー公爵領の中でも特に辺鄙な場所で、競売しても二束三文にしかならないだろう。しかし、その地下には大きな金鉱脈があり、その埋蔵量はダイナー公爵領最大の金山であったリリト金山に匹敵する。

ただ、ちょっとばかし上層地盤が固くなっているのでなかなか掘り返せないだけだ。

「またあいつが顔を真っ赤にして押しかけてくるかもしれないな」

「押しかけられても困ります。だって、言っていることがめちゃくちゃですから。こちらは正当な手続きを踏んで土地を入札しているだけなのに」

フィーヌはほうっと息を吐く。

「それに、聡明なダイナー公爵閣下は以前、ご自身の判断に後悔することなどないとおっしゃっておられましたから心配しなくていいでしょう」

「それもそうだな。余計な心配をしてしまったようだ」

フィーヌの皮肉に、ホークは愉快そうに肩を揺らす。

そのとき、ドアがノックされアンナが入ってきた。

「本日の郵便物です」

「ありがとう」

フィーヌは手紙を受け取ると、それを順番に眺めていく。

ふと、懐かしい家紋があるのを見つけた。

「お父様から?」

フィーヌは怪訝な顔で、封筒を見る。そこには確かにショット侯爵家の封蝋が押されていた。

「珍しいな。なんだろう?」

「開けてみます」

フィーヌは封を切って手紙の中身を読む。

「あらあら」

「どうした?」

「レイナが離縁するそうです」

フィーヌは肩を竦める。

父からの手紙には、元気に暮らしていることやフィーヌの近況を気遣う文言と共に、レイナがダイナー公爵家を飛び出して大騒ぎになったと書かれていた。

バナージとの仲は最悪で、慰謝料などを巡って離婚裁判になる見込みのようだ。

(お父様は、優しいだけの人じゃないわ。役に立たない穀潰しの娘をいつまでも屋敷に置くことは許さないでしょうね)

離縁したあとの貴族令嬢が生きていくのは容易ではない。フィーヌは屋敷を飛び出した際、宿屋で働いて生計を立てようとしていたが、プライドが高いレイナに同じようなことができるとは到底思えなかった。

となると残された道は、妻に先立たれた高齢の貴族の後妻、もしくは金を持っている貴族の愛人だ。

どちらにしても、平坦な道ではない。

「まあ、わたくしには関係のないことです」

「そうだな」

ホークはふっと笑う。

「あとは……」

フィーヌはまだ見ていない手紙を見る。

「バナージ様からだわ」

フィーヌは封を切って手紙を読む。

そこには、お願いだから助けてほしい、少しでいいから金を貸してくれという旨がつらつらと書かれていた。

「ほう。あいつがこんな手紙を書くなんて、よっぽど弱っていると見える」

「そうですね。まあそれも、私には関係ありません」

フィーヌは手紙を元の便箋に戻し、立ち上がる。そして、煌々と燃える暖炉の火にくべた。あっという間に燃え落ちる灰を見つめ、微笑みを浮かべる。

「ところでホーク様」

「どうした?」

「わたくし、とても素敵な宝物を授かりました」

「またダイヤモンド鉱山でも見つけたのか?」

ホークは器用に片眉を上げる。

「もっといいものです」

フィーヌは口元に弧を描く。

「あなたの子供を授かりました」

にこっと笑うとホークは呆けたような顔をする。そして、じわじわと喜びを実感したのか凛々しい表情をくしゃりと崩した。

「おめでとう、フィーヌ」

「きゃっ!」

立ち上がったホークに腰からぐいっと持ち上げられ、高い高いのようなポーズにされたフィーヌは悲鳴を上げる。

「ホーク様。下ろしてください」

「悪い。つい、嬉しくて」

バツが悪そうに頬を掻くホークを見て、フィーヌは胸の内が温かくなる。

(すごく喜んでくれていて、嬉しいな)

愛する人と幸せな時間を共有し、穏やかに暮らす。

かつて夢見た世界が手の届くところにあり、フィーヌは幸せを噛みしめた。

<了>