軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78.未来の領地

私は思考する。まず考えるべきはこの寒さだ。夏とは正反対の極寒。壁と天井で守られ、吹雪が届かない室内ですら吐く息が凍る。

手足は寒さでかじかんで、ポケットの中に入れていても動かすのが億劫になる。どうしても露出してしまう部分、顔の肌には痛みが。

眼球は秋ほどではないけど水分が飛んでしょぼしょぼする。

今も部屋を暖炉の炎で温めているけど、まったくと言っていいほど効果は薄い。

「トーマ君、街の人たちはどうしてるのかな? 部屋の中で」

「基本はここと一緒だ。どの家にも暖炉がある。そこで薪を燃やして温めて、できる限り着込んで寒さをしのぐ」

「それは限界があるのではないのか? 薪の量にも限度はあるだろう? なくなった後はどうするのだよ」

「なくならないように調整してる……と思うよ」

トーマ君らしくない歯切れの悪い返答に、私と殿下は似た表情を見せる。そんな私たちの表情に気付いたトーマ君が、自分から説明に口を開く。

「実際のところ、どうしてるのか見てるわけじゃないんだ。外はこんな状況だし、確認しに行きたくても気軽には行けないからな。それに、今は冬の初めで平気だが、いずれ外も歩けなくなる」

「どうして?」

「雪だ。このペースで振り続けるから、当然積もるのも早い。四、五日もすれば一階部分は完全に雪で埋もれて外に出られない」

「雪ってそこまで積もるんだね」

私が生まれ育った王都では雪が降らない。だから実際に見る機会は少なくて、積もるところも見たことがなかった。

雪山はすでに積もって固まった上を歩いているし、滞在する期間も短いから気にしていなかったし。私は雪の恐ろしさを知らない。

風に舞う雪も、積もれば相応の重量になる。建物の上に積もればそれだけ重さがかかり、天井が耐えられなければ家が倒壊する。

だからこの領地の家は、中心がとんがった斜めの屋根が多い。雪が流れて落ちてくれるように。そうしないと家が壊れてしまうからだろう。

そういう構造でも雪は積もる。本来ならば外に出て雪かきをするらしいが、残念ながら危険すぎてできない。

「今はまだ平気だ。でも、重さによって建物の老朽化はさらに進む。いずれ限界になれば、崩れる家だって出てくる。そうなったら……生き埋めだ」

私はごくりと息を飲む。本来どこよりも安全で、安らげる場所のわが家が……この時期はまるで牢屋の中みたいだ。

領地の人々は今も、いつ崩れるかわからない恐怖に耐えながら生活している。早くなんとかしてあげないと、と心の中で思う。

顎に手を当て考える私を見て、殿下はニヤリと笑みを浮かべる。

「期待の錬金術師はどう考えるのだ?」

「そうですね……」

「お前も少しは考えてくれ。見学のために連れてきたわけじゃないんだぞ」

「うむ、それもそうだな」

殿下は一呼吸置いてから自分の考えを語り出す。

「俺なら建物を一新する。雪の重さ、寒さに耐えられるだけの素材を使ったものに。そうすれば倒壊する危険性はなくなるのだよ」

「建て替えるって……結構な量あるんだぞ」

「無論全てだ。このぼろい屋敷も建て替え時ではないか?」

「だから一言余計なんだって。大体、すべて建て替える材料もなければ人手もないぞ」

「俺が準備するのだよ。協力することを約束した以上、俺も手は尽くしてやる」

殿下は自信満々にそう語る。この領地は決して広くはないけれど、建物全てを一新するためにかかる費用、時間を考えると……私の頭じゃ計算できない規模になりそうだった。

それを平然とやれると言ってしまうのだから、一国の王子がもつ権力の大きさには圧倒される。

でも、トーマ君は首を横に振る。

「ありがたい話だけど却下だ」

「なぜだ?」

「時間がかかりすぎる。建て替えている時間、領民たちはどうする? それにこんな吹雪の中で建て替え作業なんて無理だろ?」

私もトーマ君と同じ意見を思っていた。建物を全て建て替えられれば安心度は増す。でも、それに時間をかけている間、季節はさらに巡る。

春になれば強風が、夏になれば灼熱が、秋になれば乾燥が襲う。これまで三つの季節を体験していく中で対策を用意してきた。

建て替え作業はその対策の一部を使えなくしてしまう。その間、領地の人々は苦しい思いをすることになる。

何より、今を必死に耐えている人たちを助けることができない。これまでそうだったように、私たちは今からできる対策を考えないといけない。

「ふむ、悪くはない案だと思ったのだがな。その期間くらい我慢しろと……普通なら言えるのだが……」

「我慢は常にしているよ。これ以上の我慢をさせたくないんだ」

「つくづく度し難い環境なのだよ。建て替えが難しいのであれば、人を動員して外の雪を掻きだすことはできるが……焼け石に水か。人と物さえ用意できればたやすいと思っていたのだが……存外そうでもないのだな」

「ああ……難しいよ。だからこそ、彼女の存在が大きいんだ」

そう言ってトーマ君が私を、つられて殿下も私に視線を向ける。二人の視線に宿った期待が、私の身体を震わせる。

寒さではなく、武者震いというものだ。

「アメリア、いつも頼ってばかりですまない」

「ううん、もっと頼っていいんだよ。私は嬉しいから」

「ありがとう」

「それで、期待の錬金術師の意見を聞きたいのだよ」

今一度同じセリフを口にして、殿下は再び私に問いかける。殿下も自分の意見はすでに提言した後だ。トーマ君も私の意見が聞きたくて待っている。

「……そうだね」

実をいうと、まだ意見がまとまっていない。二人が話している間も黙々と考えてはいた。案は浮かんでいる。ただ、実現できるかどうかは確定的ではなかった。

足りないのは情報、素材、人手、時間……とにかくいろいろ不足している。

「アメリア?」

「ごめん。まだ考えている途中なんだ。こうしたいっていう案はあるんだけど……」

「だったらその案を聞かせてほしい。悩んでいることも含めて」

「共に思考すれば答えも見つかるかもしれん。早く共有するのだよ」

「わかりました」

確かに、一人で悩んでいても仕方がない。今はみんなで考えるべきと、殿下の意見に同意する。

私はみんなに頭の中で思い浮かべた未来の領地について語る。