軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76.真の極寒

寒さに強い動物といえば?

頭に何匹か思い浮かんだと思う。

彼らは寒さに適応するために進化を遂げた。

人間もそのうちの一つだ。

あらゆる環境に適応するため、人間は知恵と技術で文明を発展させ、ついにはどんな場所でも快適な生活が送れるだけの利器を生み出している。

ただし、どんなものにも限度はある。

暑さが得意といっても、マグマの中には入れないように。

寒さに備えたすべてを悉く凍らせてしまうような猛吹雪に見舞われたら?

そんな環境で生きられる生物なんて極めて少ない。

そういう意味では頑張っているほうだと思う。

今の私たちは――

「相変わらず頭のおかしい寒さなのだよ。こんな場所で暮らしたい物好きがどこにいる?」

「いるから街が成り立っているんだよ」

「改めて思うよ。この領地の……季節の巡りは異常に速いね」

私たちが隣国から戻ると、領地の季節は秋から冬に代わっていた。

乾燥問題が改善され、比較的生活しやすくなっていた街中は、今や誰一人として外に出ていない。

乾燥対策にスライムから作った水錬晶も……。

「カチコチに凍っちゃってる……」

予定では冬に入る前に一か所にまとめて保管することになっていた。

ただ、この様子からして間に合わなかったのだろう。

「いくつか撤去はされてる。半分くらい残ってるな」

「シュンさんたちがやってくれたのかな?」

「だろうな。後で礼を言っておこう」

「そうだね」

本来なら私たちも一緒に手伝うべき仕事だった。

臨機応変に対応してくれたシュンさんたちに感謝しなくちゃ。

「おい、いつまでのんびり歩いているのだ。早くボロい屋敷へ行くのだよ。このままでは俺が氷の彫刻になってしまう」

「ボロいとか言うな。わかってるよ。急ごうか。屋敷の状況も心配だしな」

「うん」

私たちは吹雪の中を進んだ。

まるで雪山で遭難している気分だ。

目の前が真っ白で先が見えない。

呼吸をすると、口の中に冷たい空気が入り込んで喉と肺が痛くなる。

慣れ親しんだはずの道なのに、どこか別世界のような感覚。

これまでの季節も大変だったけど、冬は格段に厳しい。

外を出歩くだけで、死の危険性すら感じるほどに。

やっとの思いで屋敷に到着した。

建物全体が雪で覆われて真っ白になっている。

晴れている日に見たら綺麗かもしれない。

ひとまず無事だった屋敷を見てホッとして、建物の中に入れる安心で気持ちが緩む。

「ふぅ、やっと帰ってこれたな」

「普段の倍は時間がかかったね。あの吹雪じゃ前も見えなくて危険だよ」

「そうなんだよ。この時期は外での仕事ができない。他の季節よりも命に関わる事態になりかねないからな。領民もわかってるから、基本室内に籠る」

「外に出なくても生活できる方法……もしくはなんとか外を行き来できる方法がいるね。それと……」

この寒さの対策も必要だ。

室内に入って多少マシになったけど、今でも手足が悴んで上手く動かない。

吐く息は真っ白で凍る。

瞳が一瞬で乾燥するから、瞬きの回数も増えている。

「戻ったか、トーマ」

「リア姉さんも一緒だ!」

「シュン」

「イルちゃん」

二人が私たちを出迎えてくれた。

イルちゃんはもこもこの毛布を羽織っている。

シュンさんは普段通りの格好に、一枚コートを羽織っていた。

二人とも室内とは思えない重たい服を着ている。

「水錬晶を回収してくれたのはシュンたちだろ?」

「まぁな。全部はさすがに無理だったが」

「街の人も協力してくれたんだよ!」

「そうか。二人ともありがとう。領民にも感謝しないとな」

トーマ君と目が合う。

私はこくりとうなずいて、二人にもお礼を言った。

私たちが不在の間、しっかり街と街の人たちをまとめてくれて。

「街の人たちは大丈夫そうですか?」

「心配いらないよ。別に初めてってわけじゃない。みんな慣れてるから、すぐに変化を感じて家の中に入ったよ。寒さがきつくなる直前までに、できるだけの蓄えを用意してね」

「一月は、出られないんですよね」

「基本はそうだな。毎回この季節はいろいろ節約する。水、食料、その他の生活に必要なもの。買い足したりできないから」

食料に関してはこの寒さで保存もしやすい。

そういう意味じゃ不便なだけじゃないと、シュンさんは明るく話していた。

長くこの地で暮らしているからこそ、そんな風に前向きなことを考えられるんだ。

つくづくすごいと思うし、尊敬する。

この地で生きる人たちを。

だからこそ、楽をさせてあげたいと思う。

「今回も頑張ってもらわないとな。アメリアには」

「任せて。私はそのためにここにいるんだから」

この地の錬金術師として、みんなの生活を豊かにする。

今の私にできる全てを使って。

やる気で胸が熱くなり、自然と寒さが和らいだ気になる。

「ところで、一つ気になっていたんだが……」

「なんで一緒に帰ってきたんだよ」

シュンさんとイルちゃんの視線が一点に集まる。

私たちの後ろにいるエドワード殿下に。

「あーえっと、いろいろあってだな」

「喜べお前たち! 今日からしばらく、俺はここに滞在することにしたのだよ!」

「……え」

「嘘だろ?」

二人は外の寒さよりも冷たい表情を見せる。

そんなに嫌なの?