軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十八話 秘したもの

木を伐り倒して開拓しているということは、樹冠の天井が無くなるということ。

「雨に備えないとなー」

いまのところ雨は降ってないけれど、いずれ来る時のために備えたい。

食事を取るのに使っている開けた場所に、屋根を作ったりしたい。

「か、完成予想図的には、どんな感じです?」

「野外バーベキュー場的なのかな。ああそうか。調理場とか屋根とか、あと雨なら焚き火にも当たりたいな……となるとウッドデッキはまずいか。うーん、コンクリートほしいなー」

「コンクリートは、さすがに無理では……」

「いやほら、靴の話した時に思い出したんだ。三和土っていう和製コンクリートなら、材料がだいたい揃ってる」

「たたき?」

「昔の家だと、土間や玄関の床は土から作るコンクリートみたいなので固めてあったんだよ。それが三和土」

「つ、作れますか? そんなの」

「赤土と砂利と消石灰。土と砂利はあるから、石灰だけあれば良いんだけど……」

「あっ、それが無いんですね」

「貝殻を焼くと作れる」

「海にしかないのでは……?」

そうなんだよな。また、町まで行かないといけないだろうか。

「あとは、成分的に言えば卵の殻も石灰になるかな」

貝殻も卵の殻も、炭酸カルシウムだ。

「と、鳥の巣とか見かけるから、卵、食べます……?」

「野生の卵って、産んだ直後か孵化する直前か分からないんだよな……」

「? なにか、ダメなんですか?」

「……割って焼こうとしたら、中から半分だけ雛になった黄身なのか肉なのかよく分からないどろっとしたのがべちゃって」

「ぴぎゃー!!!!」

千種は泣いた。

謝って落ち着かせるのに、ちょっと時間がかかった。

結局、下は地面のままにして突き固めるだけにしておいて、屋根だけつけておくことにした。

千種の闇魔法と〈クラフトギア〉があれば、作ったあとに屋根をごっそり宙に持ち上げて改築するのも簡単だからだ。

古い小屋を移設・改築するのにも使った手である。

千種はすっかり運搬役が板についてきていた。

重機として、活躍の場を持ちつつある。

食事場――野外ダイニングスペース、とでも言うべきだろうか。

ともあれ、憩いの場として機能するように、広く作る。

「あっ、あの、柱おっきくないですか?」

「このくらい天井が高くないと、解放感が無くなるから」

「あっ、なるほど……」

「野外空間の良さを保ちつつ、雨や強い陽射しから守られるように整える。それが今回の目標」

「お兄さん、そういうのこだわるんですね……」

「物を食べる時は、見栄えも大事なんだよ。こだわらなくなると、砂噛んでるみたいなメシになるし」

「それは極端では!?」

「それに、千種も喜んでくれるしな」

ちょっと喜んでほしい。そう思うと、実用一点張りの一歩先を考えてしまうのだ。

「まあその……はい。い、いいと思います、けど……」

千種がおずおずとそんなことを言ってくれた。

「ありがとう。ちょっと大がかりになるけど、持ち上げる時はよろしく」

「あっ、どうせ持ち上げるの蛸なんで、平気です」

千種はスンとして座ったまま蛸足を生やした。若者はこういうとこドライだ。

地面を均して固めてから、柱を立てたい場所に石を置いて目印にしておく。

野外ダイニング場は、だいたいテントが二つくらい入りそうな広さにした。

けっこうな広さなので、とりあえず大変なのは天井だ。

今回はいつもの片流しではなく、三角形の切妻屋根でいく。

「ふむ……ところで、千種は天井のこと思い出せる人?」

天井裏がどうなってたか、ちょっと記憶が怪しい。

「あっ、床しか思い出せません」

なんか辛い答えが返ってきた。

……でも、俺もブラック勤務の時は、地面だけ見て歩いてた気がする。

この話やめよう。問題は天井だ。

どう作るか具体的に考えていく。広く取ったスペースを、実際に眺めつつ想像で木材を組み立てる。

「敷桁と母屋と垂木と……あれ、ちょっと材木が足りない気がするな」

板を作りすぎて、柱材の数に不安がある。

「……よし、今日の仕事は伐採と製材だ」

「あっ、はい。行きます」

千種と一緒に、俺は新たな木材を求めて森へと向かった。

「ウカタマー、根っこがまたできたから引き取ってくれー」

菜園の近くで、俺はそう声をかける。

町で買ってきた野菜の種は、ウカタマが喜んで栽培してくれている。

畑がまた少し広がっている。いずれこっちの世話についても、ウカタマの話を聞いてみたい。

今は任せっきりにも程がある。

「う、ウカさーん。ね、根っこですがー」

千種が一緒に呼びかける。姿が見えないが、地面の中だろうか。

呼びかけに応じて、ウカタマが地面の中から顔を出す。

「ああ、そこにいたのか。新しい根っこだけど、どの辺に置いておけば……ん、あれ?」

こちらへ寄ってくる精霊獣のアルマジロ姿に、どことなく違和感がある。

「……お前はウカタマか、ほんとに?」

「えっ」

と、千種が言った時、その足下からもう一匹アルマジロに似た精霊獣が顔を出した。

「あっ、ウカさんが、ふ、ふたつに!」

せめて二匹に、とか二人に、とかならないかそれ。

「二匹目からは……コタマにしておこう。三匹四匹増えてもみんなコタマでいいかな……?」

ウカタマが増えた。いや、種族的にはリドルズだっけ。

まあとにかく、アルマジロの精霊獣がいつの間にか増えていた。

ウカタマとコタマがふんふんうなずいてる。いいらしい。ありがたい。

……ムスビが増えたらコムスビになるか?

別になっても困らない気もする。お相撲さんみたいだけど。

「最初の子が分かるようにしとくねー」

ミスティアは、嬉しそうに新入りを迎えた。

さすが生き物好きのエルフだった。

「嬉しそうだな」

「精霊獣が増えるってことは、良いことだもの」

ミスティアがうきうきとウカタマの首にリボンを巻いている。

そういえば、マツカゼの首にもミスティアが巻いたリボンがある。

……どこに持ってたんだろう。

ウカタマは特に嫌がりもせず、巻き終わるとトコトコ走り去っていく。

「あっ、またリボン巻いてる……乙女趣味な……」

足下をすれ違ったウカタマを見て、通りすがりの千種がそんな感想を漏らす。

「乙女趣味……」

聞き咎めたミスティアが、千種を振り返る。

「あっ、ごめんなさい。なんでもないです」

「し、仕方なくない? だってほら、たまたま巻くものがリボンくらいしか残ってなかったー……的なー……」

「そもそもなんでリボンがあるか分かんないことはないです分かります持ってますよねリボンわたしも昔読んでるように見せかけてジャンプ読んでましたすみません」

「別に巻こうと思ってたわけじゃなくてただなんとなく捨ててなかったのが手元に残っちゃってそれでやるしかなかったしー……っていう感じのやつでー……!」

なんか二人で青くなったり赤くなったりしている。

俺はこっそりとその場を離れることにした。

「ワンッ」

マツカゼが遊んでほしそうに吠えてくる。

「静かに。見つかるとまずい」

「誰に?」

ミスティアが笑顔で俺を見ていた。

まだ頬が赤いままだ。攻撃色だ。

「……女の子がこういう時に八つ当たりするのは知ってる。ひと思いにやるがいい」

「やらないわよ!」

もー! とか言いながら両手で口元を隠している。

初めて見るな。こんなにうろたえてるところ。

「うぅ~……恥ずかし……ソウジロウはなにも分かってなさそうだからバレないって思ったのに……」

でかいでかい。ひとり言がでかい。

あと俺もちょっと思ってたからアレ。

千種はいつの間にか消えていた。おのれ闇の魔法使いめ。こういう時だけ素早くなる。

仕方ない。俺も覚悟を決めよう。

「ミスティア」

「うぇっ!? な、なにかしら?」

「俺も、あのリボンはちょっと可愛いすぎるなって思ったことはある」

「そ、そうよね……」

「でも俺は、ミスティアが好きなものは好きでいいと思うから」

「――っ、そ、そうかな?」

「俺もキャンプはブラック社畜に似合わない趣味だったけど、結局好きだからブッシュクラフトまでやってたんだ。それに――」

これを口に出すのはちょっと照れるが、言う。

「ミスティアは、ちょっと可愛いのも似合うと思う」

「あ……も、もうっ、ソウジロウは! ダメでしょ!」

ここで!?

肩を思い切り叩かれた。思いもよらないタイミングの八つ当たりに俺が驚いている隙に、ミスティアは走り去っていた。

と思ったら立ち止まってこちらを指差した。

「ソウジロウは神璽なんだから、女の子口説くのは禁止です!」

再び走り出すミスティア。

口説いてないが……。

マツカゼが残ったので、その背中を撫でながら遠くを見る。

「うーん……女の子は難しいな、マツカゼ」

マツカゼは素知らぬ顔で尻尾を振っていた。

首元のリボンをウカタマと見せあっている。お前たちは平和だな。