軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 土のプロ現る

ムスビがどこからともなく飛んできたと思ったら、その脚にアルマジロを抱えていた。

「……え?」

首を傾げる俺に、ギュッ、って感じの鳴き声で、アルマジロが応えた。

二本脚で立ち上がって、俺に向かって両手をふりふりと振っている。なんらかのジェスチャー。

なにも分からん。

……もしや、精霊獣の仲間だろうか?

不思議な生き物を見かけた時のお約束。ミスティアに聞いてみることにした。

「わあ~! ソウジロウといると、伝承の存在がぽろぽろ出てくる~!!」

「やっぱり精霊獣とかそういうのか?」

「そういうのです!」

まあアルマジロっぽいけど、どう見てもサイズ感が違う。ひと抱えある。

「『リドルズ』っていう精霊獣です。良い土を作ってくれます」

「土を?」

アルマジロは土に手をついてジッと見つめるポーズをする。ええ土ですか?

「うん。畑とか、穴掘りとか得意なのよ」

アルマジロが三本の爪を地面に突き立てて引っかいた。すると、地面が柔らかくされている。

爪、以上の何かの力が働いているっぽい。さてはまた魔法だな。

「……昨日、俺が菜園作りたいとか言ったから?」

ムスビに振り向いてそう訊ねると、白いもふ毛の前肢を振っていた。

どうやらそうらしい。

「じゃあ……きみの名前は、ウカタマで。豊穣の神様だけど、いいかな?」

もはやいつもの流れを省略して、名前をつけてみる。球になれそうな体だからウカタマ、とかは伏せる。

アルマジロの精霊獣は、首を縦に振った。分かりやすいなジェスチャー。

うーん、芸が細かい。

ウカタマは、ミスティアを見て土を叩いている。それから、どこか遠くを振り返る。

なんだろう?

ミスティアを見ると、ウカタマの見ている方と同じ方向を指差して教えてくれた。

「種とか挿し木とか、面倒見るものがほしいんですって。それに使うから、神樹の一部と、おトイレを土に還すのに使いたいって」

そこで気付いた。指を差してるのは、遠くにあるトイレの小屋だ。なるほど。

「つまり、堆肥化するってことか」

「そうみたい」

「……くみ出したりするのか?」

「穴掘り得意だから、地下道を掘って自分でなんとかすると思うわよ?」

「そうなのか?」

ウカタマを見ると、コクコクとうなずいてその場で地面の下に潜って消えた。めちゃめちゃ早い。モグラみたいだ。

「願ってもない申し出だな。助かるよ。……ウカタマの食べ物とかは、なにあげればいいんだ?」

「木と水と、あとは果物……だったはず」

「木はいくらでもある。果物……野苺なら、森の中にありそうだけど」

相談してたら、ウカタマがもこりと地面から顔だけ出して見上げてきた。

「それも栽培させて、って言ってるみたい」

自給自足ですか。

手間いらず。ということは、必要なのは手間じゃない。

「つまり、土地が必要だな。ちょっと向こうの方を開拓するけど、一緒にやるか?」

もともと、菜園というか畑くらいは作るつもりだった。手を貸してくれるなら、願ってもないことだ。

ウカタマはうなずいた。

この拠点に、菜園担当が増えた。

自家栽培の菜園から採れたて野菜で作るソトレシピ……なんてものも、いずれ作れるかもしれない。

いいな。めっちゃ美味そうだ。

ウカタマのために、俺は後回しにしていた抜根作業をした。

木を伐採した後に残る切り株を、文字どおり根こそぎ抜き取る作業である。畑を作るならこれをしなければ、森の中に広い土地など作れない。

やったことがある人なら分かると思うが、抜根は重労働でおまけにかなり面倒くさい。

切り株の周りの土を掘り返すのがまず一苦労。

木の根が土を掘り起こすことを邪魔するので、力ずくでシャベルを突き刺していかねばならない。太い根が邪魔なら、根切りという道具やツルハシなんかで、力ずくでぶち折る。

掘り進めて根を露出させては鋸で切断して、さらに掘り進めてはまた邪魔されて切断するの繰り返し。

そうしてぐるっと切り株周りを掘り起こして、最後は力ずくで切り株を引っこ抜く必要がある。

足の太さほどの木ですら、きちんと掘り返してやらないと抜けない。単純に引っ張っただけでは、車で引いても抜けないのはしょっちゅうだ。

もう本当に面倒くさい。特に人力だと。

小さな切り株一つに大わらわになる。

楽にやりたいなら、重機を使うしかない。

そんな苦手意識から、後回しにしてしまっていたわけだが。

「〈クラフトギア〉なら……楽にいけるか?」

いけた。

チェンソーや鋸を使わなくても、地面を根っこごと簡単に掘り返すシャベル。

三脚を立てずとも空中に『固定』して浮かべたチェーンブロックで引っ張れば、いともあっさり切り株は地面から引っこ抜けた。

ユンボ以上のパワーというか、物理現象にインチキをしている気分。というかしている。確実に。

切り株を抜いてできた穴に土を埋め戻し、切り株はそのままウカタマが引き取ってくれた。

土塊がついたままの切り株を、ウカタマは喜んで転がしていった。いや大きさのわりにパワフル。

ともあれ、楽なのは助かる。

俺は抜根作業を進めて、森の中にある程度の広さを持つ土地を拓いた。

「このへんを菜園にしてもらうとして、まあ初めは……なんだろう。美味しい野草とか育ててもらおうかな」

ウカタマはこっくりとうなずいて、さっそく土を掘り返し始める。

しばらくしてからもう一度様子を見に行くと、ただの森の地面だった場所は、畝の連なる畑に変貌していた。

仕事が早い。

ひと仕事を終えたウカタマは、その辺に積んでおいた根っこ付きの切り株の一つを、カリカリと囓っていた。

木を食べるんだな。ビーバーみたいだ。

その日もミスティアは、しっかりと獲物を携えて帰ってきた。

弓も無いのによくやる。

「毛皮はムスビに、内臓と骨はウカタマに……捨てるところが無くなったなー」

解体した魔物の部位を、それぞれの容器に入れておくと引き取り先が持っていってくれる。

手元に残るのは肉くらいだ。

これも枝肉にしつつ、期待の眼差しを向けるマツカゼに小さく切った肝臓や端切れを投げてやったりする。

「甘やかしてるわねー」

「いっぱいあるしつい……」

一緒に解体してるミスティアが、おかしそうに笑っている。

「いいわよ。魔石いっぱい食べさせてるから、成長が早いのよね。たくさん食べても、成長しちゃうもの」

毎日たくさん肉食べてるけど、そういう理由だったのか。

言われてみると、なんだか走り方もしっかりしてる気がする。まだ数日しか見てないけど。

骨をウカタマに投げると、マツカゼが走ってきて二匹は見つめ合った。

ウカタマが骨を咥えて走る。マツカゼが追う。

本気じゃなくて遊びっぽいからほうっておこう。

「みんな珍しい生き物なんだよな? なんでこんなにほいほい集まるんだ?」

「ソウジロウの神気を浴びに来てるんだと思う」

「神気?」

「神璽が祈りを捧げる神殿に、神気が宿るのは当たり前ですから」

「……よく分からないけど、悪いことじゃないよな?」

「もちろんよ。むしろ、良いことね」

そのあたりは、深く考えないことにした。

ふと女神様を思い出す。アナは「現代日本では干渉できなかった」と言っていた。

この世界は、神様が干渉する割合を増やした世界なのかもしれない。

「ソウジロウにはそういう運命がついてるのよ、きっと。なにしろ、最初に会ったのも珍しい 生き物(エルフ) だったんですもの」

「そういう運命なら、大歓迎だな」

田舎育ちなので、作る量が目分量だと多めになってしまう。

それに、ソトレシピに限らず、たくさん作る方が美味しいものというのは多い。

「ミスティアが一緒にいてくれるのは、嬉しいからな」

「え? えへへー、そうなんだ? 私も、わりと今楽しい……かな。ずっと一人だったし」

そんなことを話したその日、ミスティアは大きな猪を仕留めてきてくれた。

張り切らないと狩れない獲物、と言っていたのに。

良いことが立て続けに起きるもんだな、異世界は。