軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第043話 前途多難だった昔(10年前)

「ハァ……」

俺は焚火で温まりながら横で寝ているガキを見る。

干し肉が美味しくないだの、ベッドがないと眠れないだの、文句を言っていたが、結局は干し肉も食べたし、こうやってすやすや寝ている。

まあ、疲れがあったんだろう。

とはいえ、疲れたのは俺も同じだ。

あれから森を抜ける際に魔物や兵士崩れの野盗に襲われた。

それは馬もいたし、問題なかったのだが、このガキがまあ、泣き叫ぶ、泣き叫ぶ。

鼓膜が破れるんじゃないかと思ったくらいだ。

そうやってなんとか森を抜けたのだが、さすがに疲れたので野営をしている。

馬がかなり走ってくれたおかげで戦地からは出られたし、明日にはこのノクスの地を離れることができるだろう。

問題はそこからどうするか……

「クソッ」

マジでどうするか。

馬もこのガキも高く売れる可能性が高い。

しかし、どこで売る?

特にガキの方だ。

もし、売ったとして、こいつが自分の素性を奴隷商に話したらどうなる?

戦争が終わり、停戦状態で相手の国の貴族令嬢を奴隷商に売った俺は打ち首にならないか?

戦場で死ねず、そんなしょうもない罪で死ぬなんてごめんだぞ。

そうなると、足のつかない裏の奴隷商に売るか?

詳しくは知らないが、治安の悪い町ではそういう店もあると聞く。

しかし、その場合、このガキに待っているのは本当の地獄だ。

いや、命があるさえもわからない。

普通の女奴隷ならまあ、使用人という名の愛人か娼館で客を取る道だろう。

でも、こいつはガキだし、多分、そういうことにはならない。

上手くいけば子供がいない夫婦のもとで幸せに暮らせる道もある。

「裏の奴隷商の場合は……」

御察しだ。

縁もゆかりもないガキだが、それはどうなんだ?

俺達はこういうガキの未来のために戦ったんじゃないのか?

敵国の人間とはいえ、俺達はあくまでも兵士を殺す兵士であり、女子供を殺す賊ではないのだ。

「となると……」

え? どうするんだ?

王都に戻り、素直に上官に話すか?

あんな別れをした隊長に会いたくないし、軍に関わるのも嫌だ。

そもそも奴隷商に売るのがマズい理由と同じく、帝国の貴族令嬢を連れ帰って俺はどうなる?

せっかく結んだ停戦条約が崩れないか? 俺のせいで再戦になるのか?

それに……

「逃げてきたんだったな……」

事情はわからないが、このガキもあの女も家に……国にいられないから国境を越え、逃げてきたんだ。

しかも、あんな数人の兵士だけでだ。

自殺行為としか思えない。

しかし、それだけ追い詰められたということだし、もし、俺がこいつを国に報告したらこいつは自国に帰ることになるかもしれない。

それはダメだろう。

「………………」

……じゃあ、どうすれば?

あれもダメ、これもダメ。

詰んでないか?

「あー、クソッ! 関わるんじゃなかった!」

素直に隊長と一緒に王都に戻り、金をもらえば良かった。

軍を辞め、王都を離れるのはそれからでも良かったのだ。

もういっそ、どこぞの町にでも置いていこうか……

「ハァ……とりあえず、ラエールの町に行こう」

ラエールは直近にある大きな町だ。

そこに着いてから考えよう。

そう結論付けた俺は目を閉じ、身体を休めた。

翌日、まだ寝ているガキを抱えると、馬に乗り、出発する。

しばらくすると、ガキが起きたのだが、大人しくしていた。

「あ、あの……朝ご飯は?」

ガキが聞いてくる。

「ない」

「え? でも、ご飯を食べないと死んじゃう……」

3食も食えると思うな。

俺は文無しなんだ。

「我慢しろ。今日には町に着くからそこからだ」

金はこの馬を売れば何とかなるし、その金で飯くらいは奢ってやる。

まあ、そもそもこいつの家の馬だしな。

あとは知らん。

その後も馬に乗り、走り続けるが、ガキは本当に大人しくしているし、俺の服を掴んで離さない。

よほど、昨日の魔物や賊が怖かったのだろう。

「お前、国に帰りたいか?」

一応、聞いてみる。

「お家に帰りたい……でも、お母様がもう帰れないって」

「父親は?」

「……会ったことないし、知らない」

会ったことがない? しかも、父親を知らない?

ホワイトウェイ家は俺でも知っている帝国の大貴族だぞ。

その娘が父親に会ったことがないなんてありえるか?

愛人の子か?

いや、あの女は間違いなく、貴族の女だったし、あの馬車の豪華さやこの馬の質からしても上位貴族だろう。

となると、父親はもっと上……あ、ヤバい。

このガキ、想像以上にヤバいぞ。

下手すると、皇族の庶子だ。

「そうか。悪いことを聞いたな」

ガキに謝り、それ以降は一切、会話をしなかった。

そのまま進んでいくと、街道に着いた。

左に行けば、ラエールの町経由で王都に行ける。

右に行けば、違う町だ。

「さて、どうするか……」

もう決めないといけない。

このガキをどうするかを……

「どこ行くの?」

ガキが聞いてくる。

「お前、どこに行きたい?」

「わかんない……」

そりゃそうだ。

こんなガキに判断できることじゃない。

判断しないといけないのは俺……

奴隷商に売るか、国に引き渡すか、ラエールの町に放り出すか…………ロクな未来が見えないならいっそこの場で殺すか。

俺はひたすら考える。

でも、どうしようもないのだ。

どの答えも俺には選べない。

何故ならこのガキの小さな手が俺を強く握っているからだ。

「お前、名前は?」

知っているが、聞いてみる。

「メアリー……メアリー・ホワイトウェイ」

「そうか。俺はエリック・ローウェルだ」

「エリック……」

クソッ!

何とかするか。

知り合いに頼んだらどこかで引き取ってくれるかもしれない。

「メアリー、今後は絶対にホワイトウェイを名乗るな。口にも出すな」

「え……」

「いいか? 絶対だ。この場で約束しろ。飯を食わせてやるから」

「う、うん……ご飯」

俺だって、腹減ったわ。

「よし、行くぞ」

俺は覚悟を決めると、ラエールの町に向かう。

まずはメアリーの貴族令嬢にしか見えない服をどうにかしないといけないからだ。

「……どこ行くの?」

「知り合いのところだ」

俺の知り合いは多くない。

それも大半は王都にいる。

しかし、王都は行けない。

となると、頼るべきはあいつだけだ。

「知り合い……」

「ああ。お前は絶対に何とかしてやる。お前の母親とそう約束したんだ」

「お母様……ひぐっ」

あーあ、また泣き出した。

どうすんだよ、この泣き虫……