軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40話 悪魔崇拝

その日も私はユベール様に家まで送っていただきました。

「ユベール様、ありがとうございます。お帰りになる前にお茶でもいかがですか?」

「いえ、私は勉強の予定がありますので」

「あ、そうでしたね」

「フェリシア嬢に王太子妃の 宝冠(ティアラ) をプレゼントするために頑張ります」

「私もユベール様のために刺繍を頑張りますわ」

しばしの別れを惜しんで、私たちは今日最後のじゃれ合いをしました。

そして明日もまた学院で会うことを約束しました。

「ではフェリシア嬢、明日また学院でお会いしましょう」

「はい。ユベール様、また明日」

私はユベール様をお見送りすると、従僕たちが開いた玄関の大扉から屋敷の中へと入りました。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

玄関ホールでは執事が私を出迎えました。

「お嬢様がお帰りになったら 居間(パーラー) へ連れて来るようにと、奥様の仰せです」

「お母様が?」

「はい。居間でお待ちになっていらっしゃいます」

私は母が待っているという居間へ行きました。

「お母様、お呼びでしょうか」

「ああ、フェリシア、帰って来たのね」

母は優れない表情で、どこかそわそわしているように見えました。

「フェリシア、聞きたいことがあるのだけれど……」

母は私にソファをすすめると、早速本題らしきものを話し始めました。

「今までフェリシアが、王妃様に入れ知恵していたのよね?」

私の顔を窺うようにしてそう言った母に、私は呆れてしまいました。

「はあ?」

私がどれだけ説明しても、私の言葉を信じなかった母が。

今更、私の言葉を信じる様子で確認をして来ました。

この母の変化は、王妃様とルシアン殿下に悪魔憑きの噂が流れ始めたからでしょう。

母は、私の言葉は聞けなくても、世間の評判なら聞くのです。

私はイラっとしてしまいました。

「そんな馬鹿なことがあるわけないと。お母様がおっしゃっていたではありませんかぁ」

「で、でも、王妃様が急に人が変わったようになられたのは、悪魔のせいなんかじゃないでしょう。フェリシアが王妃教育に行かなくなって、王妃様に入れ知恵するのをやめたからよね?」

「お母様が自分の娘より信用している王妃様はぁ、とーってもご聡明なんですよねぇ? 私ごときが考えた案を、ご聡明な王妃様が使うわけないじゃないですかぁ」

「でもフェリシアはお勉強はできるのだもの……」

「残念! 王妃教育をしているときは、私はお勉強はできてませんでしたぁ!」

「出来ているじゃない」

「それは今でしょう? 時系列がずれていまーす! 王妃教育を受けていたときは、私はお勉強はできていませんでした! お勉強ができない私が考えたアイディアなんかを、ご聡明な王妃様が真似っこなさるわけないじゃないですかぁ。お母様がそうおっしゃっていました!」

「成績は……、王妃様に命令されてフェリシアは成績を落としていたのよね?」

「そんな馬鹿なことがあるわけないじゃない! って、そうおっしゃったのはお母様ですよぉ?」

「で、でも、成績が戻ったんだから……」

「私の成績が戻ったのはぁ、勉強したからですよぉ!」

「フェリシア、貴女は最近は遊んでばかりで勉強なんかしていないじゃないの」

「成績が悪いのは勉強していないせいだったんですから、成績が上がったのは勉強したからに決まっていまーす!」

王妃様が悪魔憑きだという噂話を、母は信じたくないのでしょう。

だから現実的な原因を求めているのですよね。

それで私が過去に話したことを、以前は否定したのに、今になって急に受け入れたのですよね。

まあ、悪魔憑きだなんていう子供っぽい与太話は、信じられないのは当たり前なのです。

そんな与太話を信じるのは、知識で汚れていないピュアピュアな大草原の心を持つルシアン殿下くらいでしょう。

貴族の皆さんは、これを馬鹿話だと解った上で、ルシアン殿下を廃太子するために利用していることは明白です。

母には、この馬鹿話を盛り上げている皆様の思惑が読めないのでしょうか。

だから私ははっきりと言って、教えてあげることにしました。

「お母様、王妃様は悪魔憑きですわ!」

「そ、そんな馬鹿なことがあるわけないでしょう!」

ああ、やっぱり母は、私の言葉は聞かないのですよね。

私は残念な気持ちになりながら続けました。

「だってご聡明だった王妃様が、急に別人になられたのですもの。悪魔が取り憑いたに違いありません!」

「フェリシア、ふざけていないで本当のことを言いなさい!」

「ええー、お母様は悪魔の味方をなさるんですかぁ? 悪魔崇拝ですかぁ? 親が悪魔崇拝だなんてやだわぁ。恥ずかしいわぁ」

「ば、馬鹿なことを言わないで!」

「悪魔崇拝しちゃってる馬鹿はお母様でしょぉー!」

「親に向かって何てことを言うの!」

「だってぇ、悪魔崇拝でしょぉ? いくら親でも悪魔崇拝は無いわぁー」

私は母に、常識を説きました。

「ねぇねぇ、お母様ぁ、我が国は神の地ですから悪魔崇拝なんかしちゃったら国外追放ですよぉ? お母様ぁ、国外追放されたいんですかぁ?」

誰も神なんか信じていませんけどね。

でも宗教は政治に利用できるのです。

だから邪魔者は悪魔ということにして国外追放したり言えないようなことをしたり、というのは、よくある陰謀です。