軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31話 黒百合の会(2)

「一体どうして王妃様は、王族の女性たちに喧嘩を売るような真似をしたのでしょう」

私が首を傾げると、王妹殿下は含みのある微笑を浮かべました。

「順を追ってご説明したほうが良いでしょう」

王妹殿下はそう言うと、一人の夫人を振り向きました。

「まずはロチルド子爵夫人のお話からね。ロチルド子爵夫人、あのお話をお願いできるかしら」

「はい。ぜひともお話させてくださいませ」

ロチルド子爵夫人が語り始めました。

そうして私は、あの王妃様が、男爵家の生まれだったにも関わらず、どうして王妃にまで上り詰めたのかを知ることとなりました。

「私は娘時代に、友人たちと協力して孤児院のための慈善活動をしていましたの。友人たちも皆、下位貴族の娘でした。そこに当時男爵令嬢だった王妃様が途中から参加したのですわ。当時の私たちは知らなかったのだけれど、私たちの活動は下位貴族たちの間で少し話題になっていたらしいの。今だから解るけれど、話題になっていたから王妃様に目を付けられたのよ……」

ロチルド子爵夫人は、嫌なことを思い出したのか眉を歪めました。

「王妃様は自分からやりたいと言って私たちの活動に参加したくせに、ろくに協力しなかったわ。さぼってばかりだった。ところがね、ある日、気付いたら、私たちの慈善活動は王妃様が始めたことになっていて、王妃様が中心になって慈善活動をしているって社交界で評判になっていたの……」

ロチルド子爵夫人は口惜しそうに表情を歪めました。

他の夫人たちもロチルド夫人の静かな怒りに同調しました。

「あの女は、何でも得意気にひけらかしますからね」

「ロチルド子爵夫人たちの慎ましさが裏目に出てしまいましたね」

「本当の慈善家は、功績を誇って声高にひけらかしたりなどせず、静かに黙々と活動しているというのに」

「本物の実績のある者が認められず、声が大きいだけの嘘吐きが得をするなんて、嘆かわしいことです……」

皆の言葉に、ロチルド子爵夫人は頷きました。

「皆様がおっしゃるとおりです。私たちも、まさかそんな真っ赤な嘘を吐く人がこの世に存在するなんて知らなくて、とても驚きました」

「街中で、いきなり野生の猛獣に襲われるようなものですものね」

ヴェルニエ公爵夫人がぽつりとそう言うと、ロチルド子爵夫人は大きく頷きました。

「そう、そうなのです。全く予想もしていなかった事態で、驚きました。でも慈善活動をひけらかすなんて、はしたないことに思えて、そのときは皆に真実を言えなかったのです。王妃様が嘘を吐いていると皆に知らせることも、悪口を言うようで、はしたないことと思って自重してしまったのです。あのときもっと真実を叫んでいればと、今は後悔しております。異常事態だったのだから、こちらも普通の行動をとっていてはいけなかったのです。あのときは、まさか……」

ロチルド子爵夫人は眉を下げました。

「まさかそんな真っ赤な嘘のハリボテの実績で、男爵令嬢だった王妃様が王太子殿下の婚約者になるなんて想像もしていなかったのです。くだらない嘘など、すぐに暴かれると思っていました。でもそれは間違いでした。真実を言う者がいなかったら、嘘がまかり通ってしまうのです……」

「あの女は、王太子妃の座を得るために、あと一押しが欲しくて、ロチルド子爵夫人たちの活動を利用したのでしょう」

ヴェルニエ公爵夫人は皮肉っぽい微笑を浮かべながら言いました。

「あの女は令嬢時代には、センスが良くてお洒落だと評判の華やかな令嬢でしたからね。もともと当時王太子だった陛下のお目に留まっている令嬢だったのです」

「センスが良くてお洒落?!」

あまりにも意外な話に、私は思わず声を上げてしまいました。

「あの王妃様が?!」

王妃様の被害に合った者同士の、ざっくばらんな雰囲気に飲まれて、私は思わず正直な疑問を口に出してしまいました。

だって、王妃教育で定期的に王妃様に面会していた私は、普段の王妃様のセンスの欠片もない装いを知っていたのですもの。

「センスどころか 序列(プロトコル) も 服装基準(ドレスコード) も理解していない、あの王妃様が?! お洒落だったのですか?! 王妃様の普段のドレスは陳腐な成金趣味で目も当てられないものですのよ!」

「まあ、フェリシアさんったら!」

「ご慧眼ね!」

「さすがは公爵令嬢ですわね!」

私が叫んだ疑問を、皆様は面白そうにしてころころとお笑いになりました。

その皆様の反応を見てピンと閃くものがありました。

「もしや王妃様は昔から、他人のドレスのデザインを盗んでいたのですか?」

私は王妃教育で、ドレスについても回答させられていました。

私の母はドレスのデザインを王妃様に真似されました。

そして王族の女性たちもドレスのデザインを王妃様に盗まれたと、先程おっしゃっていました。

これはもう決まりでしょうか。

「そのとおりよ、フェリシアさん」

王妹殿下はそうおっしゃると、一人の夫人に話の水を向けました。

「サンド男爵夫人、フェリシアさんにドレスのお話を教えてさしあげて。例の婚約式のお話もお願いね」

「かしこまりました」

質の良いものを身に付けているハイセンスな貴婦人、サンド夫人が、語り始めました。

私の心に刺さるお話を。