軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話 アメリ(5)

謎が解けた日から、事態は急展開した。

学院でルシアン王子はフェリシアに婚約破棄をつきつけた。

ルシアン王子とフェリシアの婚約は解消され、ルシアン王子は新たにラルベル公爵令嬢セリーヌと婚約した。

「ラルベル公爵とガイヤール辺境伯がルシアン王子殿下の婚約解消を後押ししたらしい」

祖父母エルマン伯爵夫妻が、ルシアン王子の婚約解消にまつわる出来事をアメリに教えてくれた。

「ラルベル公爵は娘を王太子妃にしたかったのだろう」

「ガイヤール辺境伯にも何か見返りがあるのかもしれないわね」

「王妃様と共謀したのだろうという噂だ」

「裏で何か取り引きがありそうよね」

「王妃様が関わっているのですか? 何か確証があるのですか?」

アメリがそう質問すると、祖父母は難しい顔をした。

「確証はないが、おかしなことがあったのだ。少し前にフリアデル王国の特使を招いた晩餐会で妙なことが色々とあったのだよ。一番奇妙だったのは王妃様のドレスだったな……」

「あれには……驚いたわねぇ」

「どんなドレスだったのですか?」

「モンフォール公爵夫人のドレスにそっくりなドレスだったのよ。王妃様はわざと似たようなドレスを作ってモンフォール公爵夫人に恥をかかせたの」

祖父母はその光景を思い出すようにして、不味そうに顔を顰めた。

「王家とモンフォール公爵家は対立するかもしれん」

「ラルベル公爵とガイヤール辺境伯は王家側ね。巻き込まれないように気を付けなければ」

「それにしても……」

祖父は思案気に言った。

「あの日は、ルシアン王子殿下もおかしかった」

「殿下が何かなさったのですか?」

「特使様の前で大変な失言をなさったのだ。いつもの殿下らしくなかった」

祖父母は不思議そうにしていたが、アメリにはルシアン王子の失言の原因が推測できた。

(今まではフェリシア様が優れた台本を書いていらしたから、ルシアン殿下は台本によってご立派な発言ができていたのでしょう。でもルシアン殿下ご本人はただの劣等生で、傍若無人に他者の悪口を言うようなお方ですもの。台本がなければ、ただの残念な人でしかない……)

その後、さらに事態は急速に進んだ。

ルシアン王子の評価が急降下した。

学院の中ではさほど変化は感じなかった。

だが祖父母エルマン伯爵夫妻によると、社交界の裏では、ルシアン王子を廃太子すべきという声が上がりはじめているという。

ルシアン王子は次々と失態を重ね、評判は日に日に悪くなっているらしい。

ルシアン王子の評判の悪化は、お粗末な失言を連発してることが原因だった。

ルシアン王子のその急な変化を不思議がっている者たちが大勢いるらしいが、アメリにはそれは当然の結果にしか思えなかった。

(それが本来の、本当のルシアン殿下よ)

学院でのルシアン王子を知るアメリには、ルシアン王子に政治の才能があるという外の評判のほうが元々不審に思えていた。

(ルシアン殿下はもともと素行は悪かったのですもの。ルシアン殿下がご聡明だという外の評判のほうが不自然で不思議だったわ)

一方、ルシアン王子と婚約を解消したフェリシアは、ヴェルニエ公爵令息ユベールと婚約した。

そしてフェリシアの成績は実力通りの正直な成績に戻った。

ルシアン王子と婚約解消したらフェリシアの成績が上位に戻ったことは、ルシアン王子との婚約中には成績を下げるよう王妃から指図があったという話と辻褄が合っていた。

「お爺様、お婆様……」

アメリは祖父母エルマン伯爵夫妻に進言した。

「ヴェルニエ公爵とは親しくしておいたほうが良いと思います」

「……アメリ、どうしてだね?」

王家と確執があるヴェルニエ公爵家と関わることを恐れているのか、祖父母は戸惑いを浮かべた。

だがアメリは確信を持って言った。

「王統はいずれヴェルニエ公爵家に移るからです」

ルシアン王子はもう駄目だろうことがアメリには解った。

もし有能な者が、ルシアン王子を盛り立てようとするなら、すでにやっているはずだ。

だが失態を繰り返すルシアン王子を助ける者は誰もいない。

ラルベル公爵が頑張っているようだが。

国費から援助を受けていて、さらに娘を王太子妃としてねじ込んだラルベル公爵が頑張ったところで、ルシアン王子を利用して甘い汁を吸いたいだけにしか見えない。

奸臣にしか見えないラルベル公爵を優遇しているルシアン王子の評判はさらに下がるばかりだ。

学院でもルシアン王子は優秀な生徒たちには全く相手にされていない。

知性に差がありすぎて会話が成り立たないということも原因だ。

しかし一番の原因はルシアン王子の性格と素行だった。

ルシアン王子は婚約者であるフェリシアを不出来だと大っぴらに罵り、最終的に婚約破棄をつきつけて切り捨てた。

ルシアン王子と婚約したフェリシアの実家モンフォール公爵家が、ルシアン王子の後ろ盾として忠義を尽くしていたのに、だ。

ルシアン王子は……。

援助をしてくれていた味方の悪口を言って、味方を背中から撃ち、さらに気分で簡単に味方を裏切って切り捨てた。

つまりは、恩を仇で返すような人物なのだ。

ルシアン王子のその行動を見て、多くの者たちが、彼は忠誠を捧げるに足りない信用できない人物であると評価した。

もちろんアメリも。

ルシアン王子に仕えても、いつ背中から撃たれるとも知れず、いつ簡単に切り捨てられるとも知れないのだ。

そんな男に、国王として権力を持って欲しいと望む者は、破滅願望のある者くらいだろう。

結論として、ルシアン王子の即位には貴族たちが反対すると予想される。

仮に何かの間違いで即位したとしても、次の世代の貴族たちは彼を引きずり下ろすだろう。

ルシアン王子よりもマシな王位継承者は、他にいくらでもいるのだから。

そしてルシアン王子を排除した場合、最も王位に近い王位継承者はヴェルニエ公爵家の男子たちだ。

ヴェルニエ公爵令息ユベールは学院での成績は優秀で、フェリシアが上位から消えている間はずっと学年首席だった。

知的で温厚な性格のため人望もある。

アメリたちの世代が、ルシアン王子とユベールのどちらを推すかは明白だ。

「今からヴェルニエ公爵に顔を売っておくべきでしょう」

「今回の試験のフェリシア様の順位について、アメリ様はどうお思いになって?」

「ぜひアメリ様のご意見をお聞かせください」

ラルベル公爵令嬢セリーヌとガイヤール辺境伯令嬢ブランシュは、暗い表情でおずおずとアメリに問い掛けた。

フェリシアはユベールと遊び歩いているらしいが、今回の試験の順位は学年三位。

アメリにはフェリシアの成績は当然の結果に思えるが、セリーヌとブランシュにはそれが解らないらしい。

(本気でお勉強をしたことがない人たちには、フェリシア様の凄さは解らないのよね)

アメリは、セリーヌとブランシュに回答した。

「フェリシア様の成績はフェリシア様の実力であると存じます」

「……急にフェリシア様が三位になったことを、おかしいとは思わなくて?」

セリーヌのその質問に、アメリは正解をすらすら答えた。

「一学年の最初の試験でフェリシア様は一位でいらっしゃいました。それから急に成績が落ちたことのほうが不自然でした」

アメリはつい笑い出したくなるのを必死に堪えて、平然を装って言った。

「フェリシア様は実力がおありなのに、試験は不自然に点数が低かったのでずっとおかしいと思っていたのです。ルシアン殿下の成績を超えないようにフェリシア様が成績を修正していたと聞いて、ようやく謎が解けました」