軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十三話 復活と襲撃

なんだかとても暖かい。まるで春の陽だまりに包まれているかのようだ。

「ん……」

天国にでも来てしまったのだろうか、と重いまぶたを持ち上げると、そこには見慣れない天井があった。

【仮死状態を解除しました】

【毒の無効化に成功しました】

【経験値を250獲得しました】

【 能力(スキル) がアップしました】

【 階級(ランク) がアップしました】

(う、うるさっ)

目覚めと同時に鳴り響く連続した電子音に、思わず目を瞑り耳をふさいだとき、

「オリ——」

『オリヴィア~~~!!』

「うぐっ」

突然上から芋の入った麻袋でも落とされたかのような衝撃がありうめいてしまった。

「いったい何……」

『目が覚めて良かったよ~! 僕のほうがお腹ぺこぺこで死んじゃうよ~ぅ!』

どうやら芋の袋による攻撃ではなく、食いしん坊な神獣が飛びかかってきたらしい。ブンブン尻尾を振りながらつぶらな瞳で空腹を訴えてくる。

「し、シロ? いつの間に牢に戻って……って、ここ、どこ?」

あきらかに薄暗い古塔ではない室内に視線を巡らせると、私が横になっているベッドのそばに、ありえない人物が立っていた。

「え……ノアさま?」

「オリヴィア」

「これは、夢ですか?」

ノアはなぜか泣きそうな顔で笑うと「夢ではないよ」と私を抱きしめた。

「本当に、君は僕を驚かせる天才だ……」

「ノアさま? 本当にどうしたんで——あっ」

しっかりと抱きしめてくるノアの肩越しに、顔を赤くしている聖女セレナを見つけて我に返った。

慌ててノアの体を押しのけ、状況を把握しようとあちこちに視線を巡らせる。

ここは北の古塔の牢ではない。美しく整えられた室内には微かに見覚えがある。逆行前に見た貴賓室だろうか。

「私はいったい……?」

「覚えていないのか? 君が亡くなったというバカげた報告を受けて北の塔に駆け付けると、君を外に運び出す男たちと出くわしたんだ」

「あ……! そういえば私、義母に襲われたんでした!」

「何!?」

「あら? でも傷が……」

魔族の毒爪で体を切り裂かれたと思ったのに、痛みがまるでない。だが体を確認すると服はしっかり破れている。

ノアは傷はセレナが光の回復魔法で治したと説明してくれた。聖女にお礼を言うと、ひどく恐縮されてしまう。

「パナケイアが力を貸してくれただけで、私は何も」

「聖女さま、お顔の色が……」

「あはは……実はちょっと、フラフラします」

聖女も毒を盛られ回復したばかりなのに、無理をして私を治してくれたのだろう。

さすが主人公、なんて慈愛に満ちた子だろうか。

それにしても、私は毒は無効化できても物理攻撃はそうはいかないはずだ。現に傷を負ったようなのに生きているのは、仮死状態に入ったからか。

(死ぬ前に耐性以上の毒で仮死状態に入ったから無事だった? だとしたらラッキーにもほどがあるでしょ)

逆に、魔族の爪に毒の効果がなければ私は即死だったかもしれない。

想像するとゾッとした。震える私に気づき、ノアが再び抱きしめてくる。

「恐い思いをさせてすまなかった。もう傍を離れないから」

「ノアさま……」

ノアは私の首からペンダントを外した。

なぜ首にかけていると気づいたのか、と思っているうちに、ペンダントトップにしていた指輪を外し、私の手をとる。

「もう一度言わせてくれ。オリヴィア……僕と生涯をともにしてくれないか。君を守るのも幸せにするのも、僕でありたい。君を愛しているんだ」

「……はい。はい、ノアさま」

私もお慕いしております、と微笑むと同時に指輪がしっかりと指におさまり、ノアも幸せそうな笑顔を見せてくれた。

そして次の瞬間には熱烈な口づけに襲われていた。

逆行前も含めて初めての口づけは、とびきり甘く柔らかかった。その心地良さにうっとりと酔いしれる。

ベッドに押し倒される勢いのそれに驚きつつも、拒む理由もない——と目を閉じかけたが、視界の端に興味津々といった顔のシロと聖女が映り我に返った。

「んん……の、ノアさま! 聖女と精霊が見てますよ!」

「ん……? 何だ、まだいたのか」

「ここ、私が寝てた部屋なんですが……いえ、何でもないです。私たちのことは気にせず、どうぞ続けてください! 遠慮なく!」

『オリヴィア良かったねぇ。でもその求愛行為終わったら、ちゃあんと僕にデトックス料理作ってね?』

聖女とシロにそんな風に言われても続けられるほど、太い神経は持ち合わせていない。

私がお願いすると、ノアはしぶしぶといった様子で止めてくれた。

「まあ、これからいくらでもふたりきりになる時間はあるか。いっそ警護も兼ねて婚約式までオリヴィアをどこかに閉じ込めるという手も——」

「の、ノアさま! それより大変なんです!」

何やら不穏なことを呟き始めたノアを止め、牢に現れたのは継母だが、直接攻撃してきたのは魔族だと説明した。

「魔族だと? 侯爵夫人が魔族と契約していると?」

「いいえ。義母は魔族に憑りつかれているようでした。魔族が姿を現したとき、義母は正気を失っていたのです」

私を攻撃したあと、魔族と継母がどうなったのか、仮死状態に入っていた私は知らない。

継母を探さなければと言おうとしたとき、前触れなく何かが爆発するような音と衝撃が私たちを襲った。

「な、何事でしょう?」

すぐさま私を抱きしめ守ってくれたノアに尋ねる。嫌な予感がした。

全員でバルコニーに出て外を確認すると、王宮の一角が崩れ、土煙が上がっていた。

驚く私たちの眼下に、騎士や文官が次々と集まってくるのが見えた。群衆の中に見覚えのあるシルエットを見つけ思わず叫ぶ。

「ジャネット⁉」

「誰だ?」

「義理の妹です。義母の連れ子で……一緒に王宮に来ていたのね。でも義母の姿がありません」

「そうか。だが娘は何か事情を知っているかもしれないな。保護の名目で拘束を——」

「あ! あれを見てください!」

聖女が指さす方向を見ると、崩れた壁から何者かが姿を現した。

「あれは……!」

太く禍々しい角、大きな黒い翼。そして血のような真っ赤な瞳。

獣のような手足に鋭い爪をつけたその姿は、継母に取り憑いていた魔族だった。しかも体には布切れがぶら下がっている。まるで貴族女性服の残骸のようなそれは——。

(継母のドレス!)

導き出された恐ろしい答えに、私は言葉を失い後ろによろめいた。

「どうしたオリヴィア⁉」

すぐさま私を支えてくれた、ノアの腕にすがる。

ガタガタと体が震えるのを止められない。

「の、ノアさま……あの魔族は、義母です」

「何だって?」

「義母は、魔族に体を乗っ取られたんです!」

魔族は精霊と同じく、実体を持たない。

だが実体を持つ方法がひとつだけある。それが対象の体を乗っ取ることなのだ。

乙女ゲーム【救国の聖女】では、魔族に乗っ取られた者は体ごと精神を飲みこまれてしまう。魔族を払うことができなければ、払うことができても遅くなれば、乗っ取られた者に待つのは——死のみなのである。

ノアたちと外に出ると、王宮は大混乱に陥っていた。

継母の体を乗っ取った魔族が爪の攻撃で毒をまき散らし、騎士が次々と倒れ、貴族たちが逃げまどっている。

「騎士たちよ! 隊列を組み直し奴を囲め!」

「王太子殿下⁉」

「ここは危険です! すぐに避難を——」

「いいから目の前の敵に集中しろ! これ以上被害を広げるな!」

ノアの指示に、バラバラになっていた騎士たちが集まってくる。

さすが未来の国王になる人だ、と感心しながら私は倒れている騎士に駆け寄った。幸いまだ息がある。

「シロ! 倒れている人たちの傷口を洗って!」

『ええぇ~? 何でボクがそんなこと……』

「つべこべ言わない! 聖女さまは回復魔法を!」

「は、はい! 喜んで!」

やる気のない神獣と従順すぎる聖女に指示を飛ばしていると「お母さまぁっ!」と叫ぶ声が聞こえてきた。

顔をそちらに向ければ、ジャネットが涙を流しながら宙を羽ばたく魔族を仰ぎ見、泣き叫んでいる。

あんな所にいては危険だと思ったとき、ジャネットに駆け寄る騎士の姿があった。

(あれは、お父さま……!?)

魔族が天に向かって咆哮した直後、大きく鋭い爪を振りかざす。

「お父さま、危ない!」