軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 未来の義親子の密談

私を隠す、というノアの提案にギョッとしたけれど、父は当然かのように「可能です」と話しを続ける。

「随分使っておりませんが、先代が別荘を建てた小さな離島があります」

「離島か……悪くない」

「ええ。建物の手入れや人の配置に少々時間はかかりますが」

「では準備が整うまで、オリヴィアは王太子宮で預かろう」

にこやかにノアが言ったが、今度はその提案に父は難色を示した。

「そこまでしていただくわけには参りません。王都の外れにでも、オリヴィアを匿う場所を急ぎ用意いたします」

「さすがにすぐには無理だろう。警備の面も心配だ。このまま王太子宮に身をひそめるほうが現実的だと思うが?」

「さきほど王妃が関わっているからここも危険だとおっしゃっていたではありませんか」

「長い期間は難しいという話だ。しばらく離ればなれになるのだから、せめてその前に短い間だけでも傍にいてほしいと思うのは、婚約者として当然だろう?」

婚約者と父の間で火花が散っているように見えるのは気のせいだろうか。

ふたりとも落ち着きのあるタイプなので話し合い自体は静かに進んでいるのだが、なんだか言葉のナイフで切り合っているかのようだ。

いつの間にか、私は静養の目的で王立学園入学まで離島に身を隠すことが決定していた。元々病弱であった私が、森で道に迷い数日彷徨い続け、発見されたときには心身ともに衰弱していたため、という設定らしい。

私はふたりのやりとりに口を挟むこともできず、黙って聞いていることしかできない。

(私のことなのに、私の意思はいずこ……)

しかしこの過激な保護者たちに下手なことを言うのも良くない気がして、もんもんとしながら口を閉じていると、ノアの部屋を嗅ぎまわっていたシロが寄ってきた。

『オリヴィア~。僕、お腹すいた』

「ええ? 食事が必要なの? じゃあ……とりあえず、クッキー食べる?」

精霊に食事は必要なかったはずだが、神獣は食べるのか。面倒な。

茶菓子のクッキーを食べさせると、シロは『美味しいけど、何か物足りなーい』などと贅沢なことを言って、今度は昼寝をし始めた。なんてマイペース。さすがあのショタ神の遣いなだけある。

「オリヴィア。先ほどから気になっていたが、そのオオカミは……?」

いぶかしげに私とシロを交互に見る父。

私はシロの耳の付け根あたりを撫でながら父に紹介した。

「森で私を助けてくれた精霊フェンリルです。そのまま契約して、ここまで連れてきてもらいました」

「フェンリルと契約だと? だがお前は——」

父の戸惑う様子にピンときた。

この人は恐らく、私に加護がないことを知っているのだ。通常、精霊との契約は学園入学後、加護に合った属性で行われる。だが悪役令嬢オリヴィアには本来加護がない。一度目の人生でも私はどの精霊とも契約することができなかった。

(でもシロは精霊じゃなくて神獣だし、いまの私には創造神の加護があるしね。不本意だけど。ものすごく不本意だけど)

「稀に精霊に好かれ、幼い頃から契約をする者もいると聞く。オリヴィアは精霊に好かれているのだろう」

聖女だしな、とノアがなぜか自慢げに言うが、私は精霊にはむしろ嫌われているし、聖女でもない。

やはりノアを騙しているようで心が痛む。いつか真実を話せるときは来るだろうか。

父はまだ納得がいっていないのか、何か言いたそうにしていたが、結局それ以上追及されることはなく、密談は終わった。

「おはよう、オリヴィア」

目覚めると、朝陽より光り輝く王子スマイルが目の前にあった。

そのまばゆい笑顔に目をやられながらも、これだけは言っておかなければならない、寝起きでかすれた声をしぼり出す。

「ノアさま……逆です」

「ん?」

「何度も言っていますが、いまの私はただのメイドです」

壁にかけたお仕着せのメイド服を指さす。

王太子宮に身を隠している間、私はメイドに扮し生活することに決まったのだ。

「そうだな。メイド服を着た君もまた美しいよ」

「そういうことではなくてですね、私が・ノアさまを・起こすんです! 王子さまがメイドを起こしに来てどうするんですか……」

王太子宮に来て、今日で五日。

私は毎朝こうしてノアの王子スマイルで起こされている。私が早起きをしようとしても、彼はそれ以上に早く起きて、こんな風に私に添い寝しベッドでスタンバっているのだ。

「いいんだよ。僕が君の天使のような寝顔を見たいだけだからな」

「絶対にノアさまの寝顔のほうが天使だと思いますけど……。マーシャさん、殿下は朝に弱いっておっしゃっていませんでしたか……?」

ノアと一緒に私の部屋に来ていたマーシャが「そのはずだったのですけれど」と笑う。

「愛の力は偉大ですわね。お寝坊さんな殿下がこんなに早起きさんになられるんですもの」

「マーシャ、その言い方はないだろう」

「あらあら。照れていらっしゃるのですか? 婚約者さまの前では格好をつけたいお年頃なのですねぇ」

「マーシャ……」

マーシャには勝てず苦笑するノア。

ふたりの仲良さげなやりとりに、私も笑うしかない。

「ノアさまが健康的になられているのなら、いいのですけどね」

王太子のお付き侍女であるマーシャによると、ノアは王太子としてとても多忙な日々を過ごしているらしい。

まだ学園入学前の十三歳にして、すでに国王の政務の補佐を務めているという。次期国王としての教育は、貴族の勉学よりも先に行われているのだ。

諸外国との外交の場にも当然参加し、国の歴史や貴族の関係、周辺国の情勢などを積極的に学び、剣術の鍛錬までもしていると言うから驚きだ。

時間が足りるわけもなく、日付が変わるまで政務や勉学をこなしているノア。睡眠を削っているのだから、朝に弱くなるのも仕方がない。忙しいときは食事も抜いているという。

いままで若さで乗り切ってきたのだろうが、これではいつか倒れてしまうだろう。

だから私は領地の離島に引きこもる前に、ノアの生活改善を目指すことにした。睡眠や食事など生活の質を上げて、デトックスを促進させる。慢性中毒状態から脱してもらわなければ、安心して離島に引っこめない。

「殿下をお起こしするのは毎朝一苦労でしたから。オリヴィアさまのおかげで本当に助かっておりますわ」

目覚めの白湯を運びながら、マーシャがほくほく顔でそんなことを言う。

マーシャは元々、亡くなった元王妃の侍女で、ノアの乳母も務めていたらしい。この王宮でノアが最も信頼しているのが彼女だそうだ。

実質、マーシャはノアの母親代わりの存在なのだろう。マーシャにとってもノアは息子同然であることは、彼を見つめる視線の温かさでよくわかる。

「一日を君のかわいらしい寝顔を見ることで始められるというのは、この上ない幸福だな」

「私は毎朝ノアさまの甘いお言葉に溶かされて、そのうち消えてしまいそうです」

「それはいけない。君が消えてしまわないよう、しっかり捕まえておかなくては」

「またそういうことを……」

ザ・王子様なノアの魅力にたじろぎながらも、先にベッドを降りた彼が手を伸ばしてくるので、つい反射で私も手を差し出してしまう。

ノアの手に触れた瞬間、頭の中でピロンと電子音が響いた。

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【ノア・アーサー・イグバーン】

性別:男 年齢:13

状態:慢性中毒 職業:イグバーン王国王太子・オリヴィアの婚約者・オリヴィア強火担

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(王太子が強火担て……)

表示されたノアのステータス画面に、一瞬目眩を起こす私だった。