軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その後SS『王弟殿下を秘密裏に抹殺大作戦(仮)』

「隣国の王弟殿下を秘密裏に抹殺しようと思います」

王太子宮に来るなり、開口一番に物騒な宣言をかましたのは銀縁メガネとモスグリーンの髪がトレードマークの男。

王太子ノアの側近、ユージーン・メレディス公子だ。

ユージーンはこのような冗談を口にする男ではない。つまり抹殺うんぬんは公子ジョークではなく、本気の殺害予告ということになる。

「……朝から一体どうしたんだ、ユージーン」

「そうですよ。危うく、朝食で飲んだばかりのカブとセロリのデトックスポタージュを吹き出してしまうところでした」

オリヴィアはノアと宮で朝食を取り終えたところだった。食後の紅茶を飲もうというときに、この世のすべてを呪おうとするような顔をしたユージーンがやって来て、あの抹殺宣言だ。

「それは失礼いたしました。しかし事態は急を要するのです」

「隣国の王弟殿がどうした。我が国と戦争を起こそうとしているとでも言うのか?」

「いいえ。そんな可愛らしい罪ではありません。もっと悍ましい……奴は万死に値します」

戦争の画策が可愛らしい罪とは、一体隣国の王弟はどんな恐ろしい罪を犯したというのか。

そこまで考えたところで、オリヴィアはハッとした。

冷静沈着なユージーンがここまで取り乱すなど、誰に関することかもう答えはわかりきっているではないか。

「……ユージーン卿。もしかしてそれは、ユーフェミア公女のことですか?」

「ああ……。そういえば、公女に隣国の王弟殿から縁談が来ていたんだったね」

ユージーンは眼鏡の奥の瞳をカッと見開き「奴は姉上の人生に一切関わりのない害虫です!」ととんでもない暴言を吐いた。

王太子夫婦はドン引きするしかない。シスコンここに極まれりである。

「コホン……ユージーン。君の姉君を大切に思う気持ちはわかるが、公女の気持ちはどうなんだ? このまま独り身でいることを望んでいるならいいけれど、そうでないなら君のその愛情は公女にとって重荷になるのではないのかな」

「それは、私のせいで姉上が不幸になるとおっしゃりたいのですか?」

「落ち着いてくださいユージーン卿。ノア様は公女の気持ちが大切だとおっしゃっただけです。それより、なぜユージーン卿は王弟殿下をそこまで毛嫌いしているのでしょう?」

「奴は……美しく清廉で心優しく気高い完璧な私の姉上にふさわしい男ではありません」

「…………うん。だから、なぜそう思うんだ?」

ユージーンはぎゅうぎゅうに押しこめながらもいまにも爆発しそうな怒りの隙間から、絞りだすような声で言った。

「極秘裏に、王弟殿下の身辺調査をしたのですが――」

「待て待て待て。他国の王族の身辺を勝手に調査するな!」

「は? 家族の見合い相手の身辺調査くらいするものでしょう、普通」

「ぐ……っ。確かにその通りなのだが、肯定したくないのはなぜだ」

「ノア様。お気持ちは十分わかりますが、話が進まないのでまずは聞きましょう」

苦悩する夫を宥め、オリヴィアはユージーンに続きを促す。

ユージーンは姉に縁談がきたこと自体が腹立たしかったが、父であるメレディス公爵が乗り気なのと、ユーフェミア本人も縁談に前向きだったこともあり、腹立たしいことこの上ないがまずは相手の情報を集めることにしたのだという。余程気に入らなかったのだろう。腹立たしい、を二回言っていた。

情報を集め始めてすぐ、王弟の不誠実さを示す数々の行動が報告されたという。

王弟は国王の腹違いの弟で、母親は国内の序列一位の有力貴族の出らしく、国王と七つの年の差があっても、王弟を王にしようという勢力がかなり大きかった。しかし王弟は成人を迎える前から、かなり女癖が悪かった。城のメイドから始まり、同世代の令嬢、未亡人、他国からの要人まで女性と見ればそれが自然の流れであるかのように口説かずにはいられない。常日頃から身分を偽り娼館にまで出入りする始末。

あまりに問題行動を起こし過ぎるので、王弟を推す勢力が減り、無事現国王が即位した。それからしばらく王弟の問題行動は続いたが、最近ようやく王族の義務を思い出したのか、おとなしくなり今回の縁談となったらしい。

聞いているうちにノアは、これはユージーンが殺気立つのも仕方ないと納得していたが、オリヴィアはあんまりな王弟の人となりにムカムカし過ぎて耐えられなくなった。

「よし、王弟殿下を抹殺しましょう。今すぐに」

「オリヴィア!?」

「ありがとうございます。オリヴィア様には理解していただけると信じておりました」

ほっとしたように微笑むユージーンに、オリヴィアはキリッとした顔で頷いた。

既に気持ちはシスコンの同志である。

「当然です。私にとってもユーフェミア公女は大事なお友だちですから。ユーフェミア様を不幸にする輩は地上から消すしかありません!」

「待て待て待て! 恐ろしい結託をするんじゃない!」

「神子であるオリヴィア様が味方だと思うと大変心強い」

「お任せください。私の毒スキルで痕跡を残さずささっと始末して――」

「ヴィア、頼むから掃除でもするみたいに気軽に他国の王族を消そうとしないでくれ……」

何やら勘弁してくれとでも言うようなノアの様子に、オリヴィアとユージーンは顔を見合わせる。

別に気軽に言ったわけではなく、しっかりと考えた上での結論だったのだが。

「でもノア様、このまま王弟殿下とユーフェミア様がご成婚となったら、もしかしたら国際問題に発展するかもしれませんよ?」

「その通りです。万が一にもないことですが、もし姉上を妻に迎えても尚、王弟殿下が節操なく女性に手を出し続け、あまつさえ婚外子でもできようものなら――」

「やめてくれ。頭が痛い……」

ただでさえ日々政務に追われお疲れな王太子は、目元を覆ってうなだれる。

しかしオリヴィアたちが言ったことは大げさでもなんでもなく、実際に起こりえるそこそこ重大な事案なのだ。メレディス公爵家は王族の降嫁、王妃の輩出も何度もあった、イグバーン王国の中でも特に由緒ある家柄だ。宮廷内においても宰相のメレディス公爵の発言権は非常に大きく、影響力が高い。

その辺も考慮しなければならないとユージーンは言っているのだ。一応、建て前としては。本音はひたすらシスコンの怒りでしかないのだろうが。

「その王弟殿下が、来月使節特使として我が国を訪問予定なのです」

「まぁ。それはユーフェミア様に会う口実で?」

「そうでしょうね。愚かな蛾は火に飛びこむもの」

前世の飛んで火にいる夏の虫、的な言い回しに、オリヴィアも然もありなんと頷く。

「では、我が国の火竜の養分になってもらいましょうか」

「待て待て待て待て待て! 国の守護竜に変なものを与えないでくれ。まず、特使として来た相手を国内で抹殺してしまったら、それこそ国際問題だろう」

「使節ごと消去して、うちには来ていないと言えばいいのでは?」

「さすがユージーン卿、頭が良いですね!」

ちっとも良くない……とノアは疲れ切った顔でため息をついた。

とりあえず、即抹殺はなしだ、と王太子命令が出され、オリヴィアとユージーンは不満を全開にしながらも渋々了承した。

まずは王弟がユーフェミア公女と接触する前に、個人的な会話の場を設けると約束してくれた。王弟の人となりを実際の目で確かめるため、その席にユージーンとオリヴィアも必ず同席させてくれるという。

「構いませんが、私たちユーフェミア様大好き同盟の目は厳しいですよ?」

「ええ。報告通りのろくでなしだったときは……ふふふふふふふふふふふ」

目が据わったユージーンの様子には、ノアだけでなくオリヴィアもゾッとするものがあった。

乙女ゲーム『救国の聖女』では腹黒鬼畜メガネと呼ばれていた男だ。真っ黒な腹の中でどんな悍ましいことを考えているのか。

(でも一番はユーフェミア公女の幸せだし。シスコンはシスコンらしく愛を拗らせててもらいましょう)

気づけばオリヴィアもユージーンと同じような笑いを浮かべていて、ノアを震えさせるのだった。