軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嫉妬

ベイルの町の奴隷商館に行き、セリーのメイド服を受け取った。

ついでとばかりに新しく入ったという奴隷を紹介される。

十八歳の狼人族の女性。結構可愛い。

髪の毛はぼさぼさで肌のつやもちょっと悪い気がしたが、磨けば問題はないだろう。

学校で一、二とはいわないが、クラスの中ではそこそこ光る存在、というところではないだろうか。

日本にいるときの俺だったら、多分相手にもしてもらえないレベルだ。

しかしどうなんだろう。

ロクサーヌとセリーがいる今となっては、そこまでほしいとも思えない。

俺もエラくなったというべきか、 卒業(・・) して冷静になったというべきか、贅沢になったというべきか。

家に帰ればロクサーヌもセリーもいる。

無理にがっつく必要はない。

パーティーメンバーは六人までだ。

慎重に選ぶべきだろう。

五人までという制約があるのではないが、無限にというわけにもいかない。

戦力の充実という名目もあるのだし。

「いかがでしたでしょうか。彼女はまだブラヒム語を話せませんが、こちらでしっかり教育した後、お引渡しできます」

「今回は遠慮しておこう。悪くはなかったが」

「……さようでございますか」

面接を終え、奴隷商人のアランに断った。

お金もないし、しょうがない。

早々に話題を変える。

「それよりも、セリーに対しての遺言をしたいのだが頼めるか」

「どのような遺言でございましょう」

「俺の死後、セリーは解放することにしたい」

「遺言の変更は三百ナールになりますが、よろしいですか」

セリーに対する遺言を頼んだ。

今回は一つしか頼むことがないので、三割引は効かない。

銀貨三枚を払う。

「頼む」

「では左腕をお出しください」

「ああ」

遺言にインテリジェンスカードを使うらしい。

奴隷商人が俺のインテリジェンスカードを出し、なにやら処理した。

終わった後、確認する。

加賀道夫 男 17歳 探索者 自由民

所有奴隷 ロクサーヌ セリー(死後解放)

遺言はインテリジェンスカードにきっちりと表示されるようだ。

となると、解放すると告げて実際には解放しない詐欺は難しいのか。

奴隷にインテリジェンスカードを見せなければ問題ないか。

「それでは、こちらをお渡ししておきます」

更新されたインテリジェンスカードを見ていると、奴隷商人が何かを渡してきた。

パピルスか何かだ。

折りたたまれて、真ん中に蝋で封がしてある。

「これは?」

「帝都にいる奴隷商人への紹介状でございます。やはり鍛冶師の奴隷はいないとのことでしたが、ぜひ一度お立ち寄りください」

鍛冶師はもう必要ないのだが。

まあここの商館にはもうめぼしい奴隷はいないみたいだし、ちょうどいい。

お金がたまったら、行ってみることにしよう。

メイド服のケースを持って、家に帰った。

ケースはセリーに渡す。

「セリーの服だ。タンスにでもしまっとけ」

「着てみてもよろしいでしょうか」

「そうだな。いいだろう」

うなずくと、セリーが一度俺の方をうかがい、部屋の隅へ移動した。

服を脱ぎだす。

ここで着替えるのかよ。

いや、もう着替えを隠すような仲でもないが。

確かにいまさらではある。

いつも見ているのだから、特に新鮮というわけではない。

いや、着替えているところをはっきり見たことはあまりないが。

ちょっと恥ずかしそうに隠そうとするのが新鮮だ。

「えっと。私も着てよろしいでしょうか」

思わず目を楽しませていると、ロクサーヌが割り込んできた。

了承すると、部屋の外に出て行く。

「出かけておられる間に、ルークから連絡が来ました。芋虫のモンスターカードを落札したそうです」

着替えながらセリーが話す。

「芋虫のモンスターカードって、あれだよな」

「はい。身代わりのスキルがつきます」

ついにきたか。

多少高くてもいいと言っておいたから、当然早めにはくるのだろうが。

「ミサンガにつければいいのか」

「はい。芋虫のモンスターカードは武器に融合することはできません。また、コボルトのモンスターカードと一緒に融合することもできないようです」

「身代わりのスキルだけということか」

「そうです。落札価格は四千三百ナールだと言っていました。前回は確か三千九百ナールだったはずです。お手盛りしたに違いありません」

メイド服を着ながらセリーが説明した。

ボタンを開き、下からはく。

メイド服のボタンは背中でとめるようになっている。

「文句をつけるほど極端に高いわけでもないか」

セリーの後ろに回り、とめてやった。

「ありがとうございます。そこがずる賢いところです。こちらがクレームをつけないぎりぎりのところを考えているのでしょう」

元々の評価が最低だと、何があろうと悪く解釈するようだ。

ロクサーヌがメイド服を持って入ってきた。

ボタンを開いてメイド服を置く。

何故ロクサーヌまでここで着替える。

この世界にはブラジャーというものはない。

つまりロクサーヌが服を脱ぐとすぐにむき出しになるわけで。

揺れる。

脱いだ勢いのせいか波打つように揺れる。

柔らかで弾力のある白い果実が豊かに揺れる。

それはもう、ブルブルと音が出そうなほどに揺れる。

は、迫力が。

ロクサーヌ、その大きなものを早くしまいなさい。

「……やっぱりロクサーヌさんのは大きいです」

「ロ、ロクサーヌもボタンを閉めてやる」

「ありがとうございます、ご主人様」

ロクサーヌの背中に回った。

セリーの方はどうフォローすべきか。

「セリーも、よく似合ってるぞ。小柄なおかげで可愛らしい」

「ありがとうございます」

セリーのメイド服姿にはお人形さんみたいな可愛らしさがある。

ロクサーヌのメイド服姿は、清楚で可憐なフリルとその下に息づく肉感的な母性の象徴とのギャップが魅力だ。

二人ともそれぞれにたまらない。

やはりメイド服はいいものだ。

女性らしさが強調される。

「ご主人様」

ボタンを閉じると、ロクサーヌが振り返った。

「なんだ?」

「私の衣装はどうですか」

「もちろん最高に似合っているぞ」

「ありがとうございます。あ、あの……」

それから目をそらせて顔を伏せる。

「どうした」

「この間みたいに運んでいただけますか」

いやも応もない。

すぐにロクサーヌを両手で抱きかかえた。

柔らかでぬくもりのある軽やかな重みが返ってくる。

どこに運ぶのか。

いうまでもない。

「セリーは次に運ぶからちょっと待っていなさい」

そのままロクサーヌを寝室に運んだ。

寝不足だ。

昨夜はメイド二人の奉仕を心行くまで楽しんだ。

メイド二人がかりによる左右両側からのご奉仕。

俺のいうことを何でも聞いてくれるメイドの敬愛のこもったサービスを存分に堪能した。

その後、蝋燭をともして遅い夕食を取り、色魔をつけてさらに楽しんでしまった。

習慣のせいか、朝はいつもどおりの時間に目覚める。

おかげで睡眠時間が少し足りないだろう。

寝不足で迷宮に入るのは怖い。

これでもうちょっと眠いとか体が重いとか思考が鈍いとかの自覚症状があれば入らないが、そこまででもないというのがつらいところだ。

体調的にはほぼいつもどおり。

しかし客観的には睡眠時間が足りない。

ロクサーヌやセリーにも慎重に確認したが、二人とも調子が悪いということはないようだ。

一度迷宮に行かなくなったらあれこれ理由をつけて入らなくなりそうだし、迷宮には入ることにする。

丹念に気を配って注意深く魔物を狩っていった。

ニートアントはきちんと魔法三発で倒しているし、大丈夫そうか。

クーラタルの迷宮九階層を進み、小部屋に入る。

「ご主人様、宝箱です」

小部屋の中に入ると、中央が小さく盛り上がっていた。

宝箱だ。

久しぶりに見る。

「待て待て待て」

お 若(わけ) えの、お待ちなせえやし。

シミターを突き入れようとするロクサーヌをあわてて押しとどめた。

なんでもすぐにやろうとするんじゃない。

すぐやっていいのはベッドの上でだけだ。

考えなしにやろうとするとはロクサーヌも寝不足なのか。

ミミックの可能性がある。

慎重に準備はしておくべきだろう。

ワンドをしまい、デュランダルを出した。

かまえてから、ロクサーヌを見てうなずく。

「低階層ではボスが擬態している可能性はほとんどないと思います」

「そうなのか?」

「はい。十一階層より下で現れたことはないそうです。ただし、低階層では宝箱そのものの出現率が低いからだという人もいます。十二階層より上では、時々その階層のボスが宝箱に擬態しています」

ミミックというのはその階層のボスが出てくるのか。

セリーに話を聞いている間にロクサーヌがシミターを突き刺した。

床を切り開く。

出てきたのは銀貨だ。

「ご主人様、銀貨ですね」

中身は銀貨が十三枚だった。千三百ナール。

微妙な金額だ。

もっとドバっと出てこないものか。

あるいは低階層ではしょうがないのか。

宝箱に入っているのは迷宮で死んだ人の装備やアイテムボックスの中身だ。

十三枚ということは、元の持ち主は探索者Lv13だったりするのだろうか。

元の持ち主に軽く黙祷して、ロクサーヌから銀貨を受け取る。

「ついでだから次は俺も剣で戦う」

MPも結構使ったし、デュランダルを出したついでに回復しよう。

小部屋を出て、ロクサーヌに探索を促した。

ロクサーヌが先導する。

案内されたところに、ニートアントが四匹いた。

団体だ。

「来ました」

「行くぞ」

まずは左端のニートアントをデュランダルで袈裟懸けにする。

アリの突進を剣で受け流し、もう一振り。

左端のニートアントを倒し、セリーが相手をしている次の一匹にかかった。

ニートアントの後ろに回りこみながら、一撃を加える。

真ん中のニートアントの下に、オレンジの魔法陣が浮かんだ。

スキルだ。

ニートアントはこちらに毒を浴びせるスキルを使ってくるのだった。

やばそうだ。

後ろから回り込みつつ、体と腕を伸ばして真ん中のニートアントにデュランダルを喰らわせる。

ちょっと無理な体勢だがやむをえない。

デュランダルの詠唱中断で魔物のスキルをキャンセルした。

これで毒はない。

ほっとしたところに、痛みが走った。

右の太ももに打撃が加えられる。

放置していた左のニートアントに太ももを後ろ蹴りされたのだ。

太ももから全身に衝撃が伝播した。

結構な衝撃だ。

メッキをしていてもこの威力なのか。

蹴られた瞬間はそうでもないと思ったのに、どんどんと大きくなった。

ぐわっ。

伝わった衝撃に心臓を鷲づかみにされる。

痛みというのではなく衝撃だ。

心臓をじかに握られたかのような衝撃。

「ご主人様」

ロクサーヌやセリーが何か言っているようだが、うまく聞き取れない。

これはやばい。

たいした攻撃でもないはずだったが、ここまですごいのか。

左のニートアントに二発めのデュランダルを浴びせ、HPを吸収する。

しかし、全然回復した気がしない。

あぶら汗が噴き出た。

衝撃はどんどん大きくなっているような気がする。

何故だ。

心臓が握られる。

崩れてひざをついた。

痛みを我慢するだけで精一杯だ。

脳天にまで直撃する激震を耐える。

それでも戦慄はとまらない。

頭はボーっとして、熱にでも浮かされたような感じだ。

「××」

セリーが目の前に来て何か言った。

もう何と言っているのかもよく分からない。

全神経が衝撃を耐えることだけに集中している。

他のことを考える余裕はない。

セリーの顔が何故か迫ってきた。

唇が押しつけられる。

セリーの舌が動き、俺の口の中に入ってきた。

戦闘中に何をしているのだ?

わけも分からず受け入れる。

口を開き、吸い取った。

いつもどおりの柔らかくて優しい舌だ。

その舌の上から、何かが転がり込んでくる。

入れ替わりに舌が抜けた。

追いすがろうとするも、転がり込んできたものが邪魔だ。

邪魔なものをどかすために飲み込む。

それから、セリーの口に吸いついた。

再び入ってきたセリーの舌に絡みつく。

絡みつき、すがりつき、しがみついた。

何もかも忘れたようにセリーの舌を味わう。

そうすれば衝撃を忘れるかのように、セリーの舌と絡ませあう。

実際、衝撃が収まってきた。

セリーとのキスは精神安定剤の役割も果たすらしい。

何故だか本当に衝撃が軽くなる。

全身を包んでいた重みが抜けた。

痛みが去り、鈍さが消え、頭をおおっていた曇りが晴れ上がる。

解放された心臓からしっかりとした鼓動が響いてきた。

火照りが冷える。

戦慄がなくなる。

思考が戻ってきた。

あれ?

俺は、何をやってたんだ?

「大丈夫ですか」

口を離し、セリーが訊いてくる。

「あ、ああ」

「毒消し丸を飲ませました。ニートアントの攻撃で毒を受けたようです」

どく?

毒。

毒か。

あれが毒だったのか。

運悪くニートアントの攻撃で毒にかかったらしい。

あの衝撃は毒によるものだったのだ。

実際すさまじい衝撃だった。

恐ろしいほどの衝撃だった。

あれでは確かに、放っておけば死に一直線だろう。

いや。今はそれを考えている場合ではない。

クリアになった思考で判断する。

まだ戦闘中のはずだ。

ニートアントが二匹残っている。

周囲を見渡すとロクサーヌが二匹を相手に戦っていた。

ニートアント二匹程度、完璧にいなしているようだ。

持っていたデュランダルで魔物に襲いかかる。

ロクサーヌに向かっているアリに横から斬りつけた。

一撃ごとに、残っていた体の鈍さが取れていく。

毒で受けたダメージをHP吸収で回復しているのだろう。

デュランダルできっちり叩けば元々問題になる相手ではない。

すぐに残ったニートアントを撃滅した。

「ご主人様、大丈夫ですか」

「もう大丈夫だ。悪かったな。ロクサーヌにも心配をかけた。一度、さっきの小部屋に戻ろう」

問題ないとは思うが、念のために体調なども確認するのがいいだろう。

ドロップアイテムの毒針を拾い、宝箱のあった小部屋に戻る。

「ここまでくれば大丈夫です」

「助かった。二人のおかげだな。ロクサーヌはよく魔物の相手をしてくれたし、セリーが薬を飲ませてくれなかったら危なかった。ありがとう。改めて礼を言う」

初めてだったせいか、毒にまったく対処できなかった。

毒にかかったという認識もないし、薬を飲もうなどとは思いもしなかった。

一人のときに毒を喰らっていたら、確実にやばかっただろう。

やはり迷宮は恐ろしいところだ。

「ありがとうございます。当然のことをしたまでです」

「は、はい……」

ロクサーヌは堂々と胸を張り、セリーは恥ずかしそうに下を向いた。

うん。

まあ口移しだったからな。

単にキスをするのとは違う気恥ずかしさがある。

「ですけど、ちょっと私もしてみたかったです。セリーばかり二度も」

ロクサーヌが小さな声でつぶやいたのが耳に入る。

そう。セリーには前にMPが切れたとき口移しで薬を飲ませたのだ。

これが二回めということになる。

「水でも飲んで一息入れるか。二人ともコップを出せ」

「はい」

リュックサックから小さな桶を取り出した。

ウォーターウォールで水をためる。

「ロクサーヌ」

「はい、何でしょう?」

「まだちょっとつらい。口移しで水を飲ませてもらえないかな」

胸の前でコップを掲げるロクサーヌに頼んだ。