軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盗賊捜し

町を追い出された盗賊が復讐しに帰ってきた。

文字どおり小耳に挟んだだけだが、捨ておけない情報だった。

村を襲い俺が屠った盗賊たちは、元々この町のスラムを拠点にしていたらしい。

町を追い出された盗賊というのは、彼らの仲間だろうか。もしそうだった場合、復讐を遂げる相手とは誰だろうか。

胆が冷えるのを感じた。

冷静に考えて、復讐する相手が俺である可能性は小さい。

第一に、町を追い出されたのがそもそもの原因だろうから、復讐するならそっちが先だ。

第二に、村を襲って返り討ちにあったのだから、逆恨みもいいところである。

第三に、多分写真がないこの世界で俺の顔が簡単に判明したりはしないだろう。

とはいえ安心はできない。

町を追い出されたから復讐するといっても、騎士団を相手にするのは難しいだろう。

逆恨みだからといって、向こうがそう思わなければやめてくれるわけもない。

村の人間や騎士団から情報を得ていけば、俺にたどり着くことも可能だ。

盗賊の目的が何であれ、俺が狙われる可能性は否定できないだろう。

町を追い出されたという盗賊を見つけて屠るまで、枕を高くしては寝られない。

いやも応もなく、俺は盗賊を狩って賞金を稼ぐはめに追い込まれた。

その日は夕方近くまでベイル町を探索する。

スラムの奥には入っていない。

盗賊も誰一人見つけられなかったが、町の大体の地理や地勢は把握した。

俺にはワープがあるのだから、町の地勢を知っておくことは重要だ。

北にスラムがある理由も分かった。

ベイルの町には川が二つ流れている。いずれも、南から入り込み北に流れ出ていた。

宿屋の裏手などに井戸もあったので、どこまで飲料水として使っているのかは知らない。しかし下水はおそらく川に垂れ流しだろう。

都市に入ってきたばかりの南の水は清浄だが、下流へ行くにしたがって濁ってくる。

スラムの辺りまで来ると、川は悪臭を放っていた。

そんな場所には誰も住みたがらない。

金持ちや力のあるやつから順に、南側から家を建てていっているのだろう。

残った北側がスラムになるわけだ。

盗賊を見かけなかったのは、やはり用心しているからだろうか。

鑑定を使える人間がそうそういるとも思えないが、昔この町にいたのなら、顔が知られている可能性はある。

あるいは夜が盗賊の活動する時間なのかもしれない。

スラムの奥に入らなければ会えないのかもしれない。

町の外にいる可能性もある。

いろいろと考えながら、迷宮に着いた。

「どこまで進んでいる」

値引をつけて、迷宮入り口の探索者に訊く。

「七階層です」

「四階層まで、頼む」

「はい」

三階層では金にならない。

下の階層に連れて行ってもらうべきだろう。

コボルトLv3は魔法で一撃、他もデュランダルを使えば一撃だ。

夜中には入り口の探索者もいなくなる。

夕方のうちに連れて行ってもらった方がいい。

「……いくらだ」

向こうから何も言ってこないので、こっちから訊いた。

「銀貨を、行きたい階層の枚数だけです」

「分かった」

分かりやすい値段設定だ。

常識だったのかもしれない。

リュックサックから銀貨四枚を取り出す。

本職の前でアイテムボックスの呪文をごまかすことはできないだろう。

作動するタイミングがおかしいかもしれないし。

銀貨を渡すと、探索者はアイテムボックスを出してしまった。

おお。あの呪文だ。

考えてみれば、詠唱省略をはずせば済む話か。

詠唱省略も詠唱短縮もなければ、正しい呪文、正しいタイミングで魔法が発動するだろう。

探索者がパーティー編成の呪文を唱える。

編入確認にイエスと念じると、探索者はすぐ迷宮の中に入っていった。

俺も続いて中に入る。

「ここが四階層です」

「ぇ」

中に入ると、すぐに探索者が言った。

突然のことに、反応できない。

壁をくぐった先は、迷宮入り口の小部屋だった。

後ろに黒い壁があって、道が三本、前と左右から出ているいつもの小部屋である。

それは予想通りなのだが。

パーティー解放と頭に浮かぶ。

探索者は戸惑っている俺をおいて後ろの壁から出て行った。

一度一階層の入り口に出て、そこからダンジョンウォークで移動するんじゃないのか。

てっきりそうすると思っていたのだが。

探索者は何も唱えず、直接ここに来た。

詠唱省略?

そんなわけないよな。

どうやら入るときに階層を指定できるっぽい。

あるいは詐欺?

いつも迷宮の入り口で商売しているのに、詐欺はないだろう。

とりあえず、デュランダルを出して正面に進んでみた。

ミノ Lv4

四階層であることは間違いないようだ。

Lv4の魔物が現れた。

牛だ。

茶色のバッファロー。ただし、体は長くなく、前後につまった変な感じである。

頭の上からはツノが二本伸びていた。

可愛らしさは微塵もない。

牛が凶暴そうにこちらをにらんだ。

ファイヤーボールを撃ち込んでみる。

ミノが小走りに駆け出した。

避けようともしなかったので、途中でファイヤーボールが当たる。

一度押されるが、魔物は火を耐え切り、再度走り出した。

二発めをお見舞いする。

ミノはまたも正面からぶち当たった。

火属性に耐性でもあるのだろうか。そんな感じでもないが。

ただ突っ込んでくるだけの馬鹿なのか。猪突猛進。

イノシシじゃなくて牛だが。

デュランダルをかまえると、ミノは目の前で止まった。そこに三発めを浴びせる。

ツノが振られた。ファイヤーボール三発では倒せないようだ。

剣で受けるが、結構力は強い。こんなツノで下から突き上げられたりしたらおおごとだ。

やばい事態しか思い浮かばない。

俺はデュランダルを上段から叩き込んだ。

残ったのは皮だ。

誰もいないことを確認し、アイテムボックスを出して、しまう。

びびって思わずデュランダルを使ってしまった。

魔物が明らかに害意を持ってツノをぶつけてくる恐怖。これは怖い。

ツノだからな。

人間の皮膚ごときなら、ブッスリいくんじゃないだろうか。

皮の鎧を着けているとはいえ、全身を覆っているわけではない。

ボーナス装備の中の胴装備五や六を出せばフルアーマーだったのでミノのツノ対策にはなるが、ポイントがもったいない。

ちなみに、足装備三の加速のブーツには、その名のとおり移動速度上昇のスキルがついていて、これで迷宮攻略のスピードが上がると思ったが、速くなるのはエンカウント時のみだった。

武器五であるフラガラッハにはMP吸収がない。

なのでMP回復にはデュランダルを出さなければならない。

意外に使えなかったボーナス装備たち。

プレートアーマーのような防具も多分売っているだろうが、重い上に動きやすさを考えればあまり実用的ではないだろう。

今から考えればグリーンキャタピラーはよかった。

体当たり攻撃は、痛かったが、所詮は体当たりだ。

ニードルウッドに至っては、枝を振ってくるだけだもんな。

枝て。

コボルトのナイフも怖かったが、コボルトは弱い。

魔法でも一撃だ。

それを考えると、三階層でのレベルアップを放棄したのが駄目だったのか。

ミノLv4も魔法三発で倒せるようなら、問題はないだろう。

あるいは、初めて見たから怖いだけであって、慣れの問題だろうか。

ともかく、ここが四階層であることは間違いない。

探索者は何も呪文を唱えなかった。

迷宮に入るときに行きたい階層を選べば、そこに行けるのではないだろうか。

試してみるか。

と思ったが、入ってすぐ出て行くのは、四階層では歯が立たなかったみたいに見えてカッコ悪い。

ワープで冒険者ギルドまで戻り、実験は後日行うことにした。

「夕食の後に、お湯とカンテラをくれ」

「まいど。お湯にカンテラだから、特別サービスで二十一ナールでいい」

ベイル亭まで帰り、鍵を受け取る。旅亭の男に注文すると、男が値段を告げてきた。

お湯が二十ナールに、カンテラの貸し賃は確か十ナールだったはずだ。

何故か三割引が効いてしまった。

しつこく値引スキルをつけ続けた俺の勝利。

というわけでもないだろうが、今までは全部お湯二十ナールだったのに、いかなる心境の変化だろうか。

今日からは常連扱いなんだろうか。

いや。お湯が二十ナールでなかったときが一回だけある。

宿代と一緒に払った日だ。

単品だと二十ナールで、何か複数のものを頼むと三割引になるのだろうか。

お湯が二十ナールなのにカンテラがついて二十一ナールはないんじゃないか、という気がするが、ありがたく払う。

夕食で文字の二を確認した後、部屋に帰ってお湯で体を拭き、カンテラを持って外に出た。

すでに日は暮れており、暗い。

カンテラもそう明るくはない。夜中にこの光で作業することは難しいだろう。

蛍光灯とは比べ物にならない。

ないよりはまし、という程度だ。

明治時代にガス灯の立ったのが文明開化だというのが身にしみて分かる気がする。

ガス灯だって蛍光灯とは多分比較にならないだろうが、カンテラのこの暗さを思うとね。

足元を照らしながら歩く。

しかし暗い中で明かりを持って歩くのは、非常に目立つような。

少ないが、ちらほらと明かりを持って歩く人もいた。

明かりのあるところには誰かいるのだから、鑑定すれば一発で誰か分かる。これは鑑定スキルを持っている俺限定だとしても。

明かりを持たずに歩いている人がどれだけいるかは分からない。

闇雲に鑑定してみたが、ヒットしなかった。

北の方に向かって歩く。

旅亭の男にどこか酒場でもないか訊こうかとも思ったが、やめておいた。

酒場に入って酒を飲むつもりはないので、帰って鍵を受け取るときに酒を飲んでいないことはばれる。

泊り客が迷い込んだりしないよう危険な酒場があるところを知っているかもしれないが、俺が行きたいのはその危険な酒場だ。

下手に安全なお勧めの酒場でも紹介されたら面倒である。

北に進んでいくと、一画だけ非常に明るい通りがあった。

道に面した一階部分が開け放たれている建物が何軒も続いている。

娼館だ。

飾り窓というのか遊郭の張り見世というのか、一階には女性がいて、道行く男に声をかけたり、道の男が女性を選んだりしていた。

非常に華やいだ雰囲気を醸し出している。

夜中に明るいだけでも違うのか。

あるいは、こちらの性欲のせいか。

いや。入るつもりはない。

入るつもりはないが、見ているだけで胸が高鳴った。

ドキがムネムネとはこのことだ。

待て。

落ち着け。

冷静に考えるんだ。

病気のこともある。

ぼったくられる危険もある。

入らないのが正解だ。

大体、ロクサーヌほどの美人がいるとは思えない。

いたとしても、一見客につくことはないだろう。

入らないと決めて、落ち着いて娼館を見つめた。

娼館街のざわめきが聞こえてくる。

楽しそうだ。

ではなくて、……言葉が通じなかった。

娼館の方から聞こえてくるのは、よく分からない言語だ。

娼館の女性や客や多分いるだろうポン引きが話しているのは、ブラヒム語ではなかった。

宿の旅亭やギルドの女性には完全に言葉が通じるので気にしないでいたが、ブラヒム語を話せない人は多いらしい。

最初の村と一緒だ。

現地の人が話す言語はブラヒム語ではない。

娼館も現地人相手ということなのだろう。

どこかには、ブラヒム語を解する娼婦もいるのだろうが。

俺はしばらく通りの外側から眺めて雰囲気だけを味わい、そこを立ち去った。

言葉が通じないのに入っていくことはないだろう。

よそ者と見られて変なトラブルに巻き込まれないとも限らない。

娼館に入らず外からうかがうだけだった俺が周囲からどう見えたかは分からない。

明かりがあるので目立った可能性はある。

とはいえ、娼館の前まで来ても結局入らない気の弱い男も多いのではないだろうか。

あまり変には思われていなかったと希望的予測を立てておく。

その後、カンテラの明かりが尽きるまで町をうろつき、ワープでベイル亭に戻った。

内壁に出るのはまずいので、出たのは玄関脇の外壁だ。

街中ではフィールドウォークをしている冒険者は見かけなかった。

好き勝手なところに出るのはマナー違反なのかもしれない。

プライバシーも何もあったもんじゃないし。

夜中で暗いので、今の時間ならベイル亭の外壁に移動しても大丈夫だ。

宿屋に戻りカンテラを返すと、部屋に入って寝る。

深夜に目覚めた俺は、鍵を預けると、一度ワープでスラム街に出た。

成功だ。暗くて何も見えないが、さっき来た場所だろう。

多分娼館があると思われる方向を見るが、もう寝静まっているらしい。

一応、鑑定と念じた。

一人の情報が頭に浮かんでくる。

誰かいるようだ。

薄暗い迷宮の洞窟で魔物を鑑定できたことから分かってはいたが、やはり鑑定は光の有無には左右されないらしい。

二十七歳、村人の女性。

結構向こう側にいる。

この暗闇では、向こうから俺は分からないだろう。

こんな場所で何をしているのか。

と思っていると、突然道の角が明るくなり、松明を持った男が出てきた。

男は三人。三人とも盗賊だ。

この町で初めて盗賊を見つけた。

ただしレベルは低い。全員一桁だ。

村を襲った盗賊のうち賞金が懸かっていたのは二人だけだった。

Lv19には懸かっていたがLv11には懸かっていなかった、というところだろう。

少なくともレベル二桁はないと、盗賊としても半人前だと思われる。

三人は周囲を照らしながらバラバラになって動き始めた。

ここにいるとまずいか。

ワープを出そうかと思っていると、向こうの方で音がする。

三人が音の出た方に向かった。

男たちの持つ松明の光で女性の姿が浮かび上がる。

二十七歳の女性があわてて動き何かにつまづいたようだ。

盗賊たちは女性に駆け寄った。

何か聞き取れない言葉を発しながら、取り囲む。

一人の男が蹴りを女性の腹にめり込ませた。

「顔はやめときな。ボディー、ボディー」

本当にそんなことを言っていたのかどうか知らないが。

まさしくそんな感じだ。

三人がかりで暴力が加えられる。

女性はなにやら訴えていたが、無視された。

やがて一人の男が髪の毛をつかむと、女性を引きずっていく。

四人は道の角に入って消えていった。

辺りに静寂が戻る。

盗賊もいなくなったので、俺がここにいることが見つかる心配はなくなった。

その心配はなくなったが……。

嫌なものを見てしまった。

こんな場所に若い女性がいるのも不自然だから、あの女性は娼婦なのではないだろうか。

逃げ出そうとしたのか、お茶をひいたのか、客あしらいがうまくなかったのか。

盗賊たちが暴力で制裁を加えたというところだろう。

このスラムに盗賊は確かに存在し、暴力支配の一端を担っているようだった。