軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黄信号

二階層の本格的な探索を開始した。

ときおりはデュランダルでMPを回復しつつ、基本的には魔法で魔物を倒していく。

ニードルウッド Lv2

グリーンキャタピラー Lv2

今度は都合よく、デュランダルを出していないときにニードルウッドとグリーンキャタピラーの二匹連れが現れた。

見つけると同時にファイヤーストームをお見舞いする。

ファイヤーストームは魔物に確実に当たるので、引きつける必要がない。

火が消えると同時に二発めを念じた。

続いて三発め。

グリーンキャタピラーは三発めで斃れる。

ニードルウッドだけが残った。

振られた枝を受け、四発めはファイヤーボールを放って沈める。

ファイヤーストームとファイヤーボールは、魔物一匹に対する火力としてはやはり大差がないらしい。

グリーンキャタピラーは三発で倒せるようになったが、ニードルウッドには四回撃つ必要がある。

魔物の数が多いとファイヤーストームの消費MPが格段に増えるということもなさそうだ。

大量の魔物が湧いて全体攻撃魔法四発で全滅させられるなら効率がいい。

一階層のように魔物が大量に湧く小部屋はないものか。

と期待しているときに限って、そんな小部屋が出ないのはお約束なのか。

魔物が大量に湧くトラップは稀のようだ。

突き当りをチェックして小部屋を確認しつつ、ちまちまとデュランダルを出したりしまったりしながら、魔物を狩っていった。

一度迷宮を出た後、昼すぎからも二階層に入る。

グリーンキャタピラーはウォーターボールでもブリーズボールでもサンドボールでも三発だった。

特に弱点となる属性はないみたいだ。

ニードルウッドもブリーズボールとサンドボールは四回で倒れている。

火魔法が弱点ということもないらしい。

ウォーターボールは、前に当てたときにダメージを与えていた形跡がなかったので、試していない。

試してはみたいのだが、なかなかそのチャンスがない。

魔法を四回も放とうとすれば、どうしても敵の攻撃を受けてしまう。

四発撃ったときに倒せなかったとあわてふためくことを考えれば、テストはデュランダルを装備しているときに行うのが望ましいだろう。

しかし、デュランダルを出しているのはMPに余裕がないときだから、四発も五発もウォーターボールを撃ちたくはない。

デュランダルを装備しているときにニードルウッドを含む二匹連れで現れてくれたら、一匹をデュランダルで狩ってMPを回復しつつ、一匹に魔法を放つことができるのだが。

そうそう都合よく出てきてくれるものでもなかった。

ニードルウッド Lv2

ニードルウッド Lv2

ようやく出てきてくれたのは、そろそろ今日の探索を切り上げようかというころだ。

左側の魔物にウォーターボールを撃ち込む。

左のニードルウッドが半歩遅れたところに、二発めを当てた。

薄暗い迷宮内だ。周囲を赤く照らす火魔法と違って、ウォーターボールでは次にいつ放っていいかの判断が難しい。

ちなみに、魔物からも見えにくいなら遠くから撃っても避けられないのではないか、という希望的観測はきっちりと裏切られた。

グリーンキャタピラーがブリーズウォールを避けたように、何故か分かるようだ。

デュランダルをかまえて足を踏み出す。右側のニードルウッドを伐り倒した。

左側の魔物が振った枝をぎりぎりで避ける。

三発めのウォーターボールを念じた。

魔物は倒れない。

レベルアップのおかげで、今ではニードルウッドもファイヤーボール三発で倒せるようになっている。

ワンドが効いていた可能性もあるので、四発めも浴びせてみる。

元気に枝が振られた。受け損なって喰らってしまう。

やはり水魔法に耐性があるようだ。

一閃、デュランダルをなぎ払った。

魔物が上下に切り裂かれる。

リーフ

ニードルウッドが煙となって消え、幸運にもリーフが残った。

グリーンキャタピラーは今のところ糸しか落とさない。

魔物によってはレアドロップのないものもいるようだ。あるいは、確率が違うのか。

リーフも出たことだし、今日の探索を打ち切ることにした。

ワープと念じ、冒険者ギルドの壁を思い出す。

他にも移動できる場所はあるのだろうが、移動していいものかどうかがよく分からない。

あまり変な場所には行かない方がいいだろう。

宿屋であるベイル亭ロビーの内壁に移動してくる人もいたから、あそこも使えるが、使用しない方がよい。

建物へ移動する魔法は冒険者のフィールドウォークだろう。

冒険者でないのにフィールドウォークが使えては変に思われてしまう。

冒険者になったのだと強弁することも可能だが、インテリジェンスカードをチェックされれば俺が冒険者でないことは一発でばれる。

冒険者ギルドの建物内部に出た。

喧騒というほどではない程度に人のいる落ち着いた雰囲気が心地よい。

孤独な戦場から一瞬で移動してきただけに、なおさらありがたみを感じる。

「帝都へ片道の人、いませんか」

冒険者ギルドの中に出ると、同じように壁から出てきた人が客の募集をしていた。

帝都か。

行ってみるか。

募集している人も美人だし。

「いくらかかる」

三十パーセント値引をつけ、訊いてみる。

四十代のおばちゃん冒険者だ。

ただし、エルフ、♀。

見た目二十歳そこそこである。

年齢は見なかったことにしよう。

「通常は銀貨二枚、片道なので銀貨一枚の固定料金です」

「うむ」

三十パーセント値引は多分効いてないみたいだ。

リュックサックを下ろして巾着袋を取り出し、銀貨を一枚渡した。

「そのリュックサックくらいなら大丈夫でしょう。友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」

エルフの冒険者がパーティー編成呪文を唱えた。

俺の脳裏に、パーティーへの編入を受諾するかどうか、確認メッセージが浮かぶ。

イエスと念じると、すぐに消えた。

なるほど。パーティー編成はこんな風になっているのか。

迷宮の入り口でも同じようにパーティーを編成していた。

移動魔法を使って移動できるのは同じパーティーのメンバーだけなのだろう。

リュックサックなら大丈夫だと言ったから、何でも運べるというわけではないようだ。

リュックサックは手荷物扱いというところか。

アイテムボックスの中身は大丈夫だろうか。

などと心配している余裕もなく、エルフの冒険者がフィールドウォークを唱える。

目の前の冒険者ギルドの壁が黒く変色した。

迷っている時間はない。

考えてみれば、ダンジョンウォークでもワープでもアイテムボックスの中身は大丈夫だった。フィールドウォークでも問題ないだろう。

俺も遅れないようについていく。

壁の向こうには、大きな部屋が広がっていた。

基本的な構造は同じだから、帝都の冒険者ギルドなのだろう。ベイルの町の冒険者ギルドの三倍くらいの大きさだ。

カウンターも十列分くらい並んでいる。

パーティー編成呪文の詠唱が聞こえるとともに、パーティー解放と脳裏に浮かんだ。

一緒に来たもう一人の冒険者が会釈して去っていく。

彼は、自分がパーティー編成呪文を唱えると、続いてフィールドウォークを唱えて黒い壁を出し、帝都の冒険者ギルドにいた五人を連れて入っていった。

あの冒険者はベイルの町に行ったことがなかったのだろう。

そこで、ベイルの町に行ったことのあるエルフの冒険者に一度ベイルの町まで連れて行ってもらい、帰ってきてから、自分のパーティーを連れてベイルの町に行ったのだ。

「そういえばこの前、魔法使いがフィールドウォークをやっていたが、魔法使いでもフィールドウォークを使えるのか?」

せっかくの機会なのでエルフの女性に訊いてみる。

「さあ。聞いたことはありませんが。見間違いじゃないですか」

「そうか。そうだろうな」

「では、私はこれで」

エルフの女性も立ち去った。

やはり魔法使いがワープやダンジョンウォークを使うのはまずそうだ。

もっとも、本当に関心はないという感じだった。他人のジョブやスキルにいちいち興味は持たないのかもしれない。

俺がイケメンだったら喰いついてきたのだろうか。

くっそー。そういうことかぁ。

俺は一度冒険者ギルドの外へ出る。

帝都には建物がひしめいていた。

レンガの色そのままの茶色っぽい建物だ。

近代的なビルではないだけに、かえって圧迫感がある。

古代ローマとか全盛期のバグダッドとかに迷い込んだ感じだ。

もちろん行ったことはないが。多分、こんな感じだったのではないだろうか。

目の前の道は、広く、まっすぐに延びている。

中世の都市は敵を通さないように道が入り組んで作られている、という話が歴史の副読本に書いてあった。

道がまっすぐな帝都は、それだけ平和なのだろう。

日はまだ高い。

ベイルの町とは時差があるのかもしれない。

別に観光に来たわけでもないので、すぐに冒険者ギルドに戻る。

左側に張り紙を出しているボードがあった。

近づいてみるが、やはり読めない。

キョロキョロと辺りを見回すと、綺麗なお姉さんがにこやかにやってきた。

「お読みいたしましょうか」

さすがは帝都のギルドだ。

代読屋のレベルが違う。優雅で上品だ。

年齢は二十一歳の村人。ロクサーヌのような目の覚めるほどの美人というわけでもないし、服も紺色のだぼだぼの衣装だが、華やいだ雰囲気がある。

「うむ」

「六分で十ナールになります」

値段はベイルの町の探索者ギルドと一緒らしい。

リュックサックを下ろし、銅貨十枚を出してお姉さんに手渡した。

渡すときに指先が触れて、ちょっとドキドキしてしまったのは仕方がない。男の子だもの。

「頼む」

「では、この時計が落ちるまでになります」

砂時計のシステムまで一緒のようだ。

お姉さんの腰元を合法的にガン見できるチャンス。

とはいえ、いつまでも見ているわけにはいかない。

くそっ。だから時間課金なのか。

「ブランチの買取をしてくれるところがあるか」

「えっと。冒険者になられたばかりですか?」

初心者がするような質問だったのだろうか。

冒険者ですらないが。

「どうしてだ?」

「買取の募集が出るようなアイテムは決まっています。より強い魔物が落とす手に入れにくいアイテムなどです。ブランチはギルドで買えば在庫がいっぱいあります。わざわざ買取の依頼を出す人はいないでしょう」

質問返しをしてみると、親切に教えてくれた。

なるほど。

ブランチの買取依頼なんかあるはずがない。それを探すのはものを知らないよほどの初心者ということか。

「では、糸なんかもないな」

「ありませんね」

「毒消し丸を買い取ってくれるところもないか?」

旅の恥はかき捨てだ。

どうせ初心者だとばれたのだから、この際、全部聞いてしまおう。

「ギルドで買えますから」

「ワンドなんかはギルドでも買取してくれるのか?」

「魔物の残したアイテムでも、装備品や腐る食材はギルドでは買い取りません。装備品は武器商人などに、食材は、料理屋などの売り先を探すか、自分で消費するか、市の立っている日に売ることになります。アイテムボックスに入れておけば腐りませんから」

食材はアイテムボックスに入れておけば腐らないと。

いいことを聞いた。

「魔物の討伐の依頼なんかが出ることは?」

「魔物の討伐は領主の騎士団や戦士団が行う業務です。騎士団のメンバーとして冒険者を雇う募集ならありますが。お読みしましょうか」

まあ魔物の討伐などで稼げるようなら、奴隷商人がそう教えてくれただろう。

どこの馬の骨とも分からないようなやつにおいしい稼ぎを回したりはしないということか。

「いや。何か単発の仕事を依頼しているようなものは?」

「フィールドウォークで案内を行う仕事があります」

フィールドウォークで稼ごうにも、俺はベイルの町とこの帝都しか知らない。

そもそもフィールドウォークじゃなくてワープだしな。どこまでごまかせるのかという問題もある。

仕方がないので、残りの時間は買取依頼が出ているアイテムを教えてもらった。

クリアべっ甲、逆鱗、遮蔽セメント、銀の糸。

フカヒレとかサーロインとかは食材だろう。そんなアイテムもあるのか。

「時間になりました。続けますか」

「いや。もういい。ありがとう」

延長よりもアフターがしたい。

「アイテムの買取なら、ここよりもクーラタルの探索者ギルドに多くの依頼が出ていると思いますよ」

「クーラタルの探索者ギルドか。分かった」

分かっていないが。

名前を聞いたのも初めてだ。

わざわざ教えてくれた親切なお姉さんと別れる。

その後、カウンターで買取をしてもらった。

「一番安い疲労回復薬は何になる」

せっかくなのでカウンターのお姉さんに訊いてみる。

「強壮丸ですね。六十ナールになります」

「一番安い傷薬は」

「滋養丸。こちらも六十ナールです」

結構高い。

デュランダルの代わりにほいほい使ったら赤字になる。

結局買わずにベイルの町の冒険者ギルドに帰った。

周りに人がいないのを見計らって、「ムニャムニャ、フィールドウォーク」とつぶやく。

フィールドウォークの呪文は、聞いたけど、覚えられなかった。

そして、頭の中ではワープと念じる。ベイルの町の冒険者ギルドの壁を思い起こした。

目の前に出てきた黒い壁に入る。

これで他人の目にはフィールドウォークで移動したように見えるだろう。

一瞬の闇を抜け、ベイルの町の冒険者ギルドに出た。

ベイルの町は夕方だ。

帝都はベイルの町より西の方にあるらしい。

ちなみに、糸の買取価格は十ナールだった。

グリーンキャタピラーは、糸を吐いてきて厄介なのに、ニードルウッドよりお金にならない。レアドロップもないし。

確かに、魔物の組み合わせとしてはよくないのだろう。

今日の総売上は、千百四十四ナールである。

計算間違いではない、はずだ。昨日の四分の一しかいっていない。

ただし、生薬生成を行っていないので、リーフ四枚がアイテムボックスに入ったままである。

リーフ四枚で毒消し丸が四十個できる。毒消し丸四十個で千ナールになるから、昨日の半分か。

今日は魔法の使い勝手をテストしていたことが中心だったせいもある。

デュランダルをしまったことで探索に時間がかかるようになったことも影響しているだろう。

ベイル亭に帰った。

「三日分、頼む」

巾着袋を取り出しながら旅亭の男に告げる。

初日に払った宿代は、今朝までの分だ。

「はいよ」

「どこかに両替商のようなところはないか。銅貨ばかり溜まってな」

「そういうところはないな。別に銀貨じゃなくて銅貨百枚で払ってくれてもいいし」

両替商はないらしい。

両替商があって、金貨を三割引の七千ナールで売ってくれ、三割増しの一枚一万三千ナールで買ってくれたら、濡れ手に粟でもうけることができたのに。

考えてみれば、金貨一枚を銀貨百枚と交換したのでは商売にならないか。

両替商があったとしても手数料を取られるから、この手で稼ぐのは無理だろう。

銀貨五枚と銅貨百九十二枚を置く。

これで銅貨の数をかなり減らせた。

「それと、夕食の後でお湯を頼む」

「ええっと。宿代と夕食つき三日分にお湯だから、六百八十六ナールでいい。特別サービスだ」

何故か銅貨六枚が返ってくる。

お湯が二十ナールだから、三割引が効いたということか。

よく分からん。

「インテリジェンスカードのチェックはいいのか」

「チェックは十日おきだ。二日前に確認したから、まだ先だな」

「夕食は、もう頼めるよな」

「ああ。行ってきな」

俺にとって、夕食の時間は数字を勉強する時間だ。

昨日は一を確認した。

今日は何を選ぶか。

「いらっしゃいませ。今日はサーロインが入ったから、一がお勧めですよ」

食堂に入ると、旅亭の女性に四つあるメニューのうちの一つをお勧めされてしまった。

帝都のギルドでも聞いたサーロインという食材があるようだ。

一の食事には小ぶりだがステーキが入っている。あれがサーロインだろう。

「……で、では一で」

「ありがとうございます」

見たら食べたくなってしまった。

負けた。

四をお勧めにしてくれないものか、と思ったが、お勧めにしたい順に一から並んでいるのだとしたら、順当か。

明日はリベンジしてやる。

「三で頼む」

次の日の夕食は、お勧めも言ってこなかったので、三にした。

「かしこまりました。お飲み物はハーブティーでよろしいでしょうか」

よし。正解だ。

これで部屋の鍵にも使われている三と一の数字は判明した。

夕食のメニューは四つあるので、あと二つは二と四だろう。

どうやって確認するか。

夕食を取りながら作戦を練る。

などとぼんやり考えているのは、現実逃避だ。

分かっている。

実のところ、もっと大きな問題がある。

本当はそっちを考えなければいけない。

今日の総売上は三千三百二ナールだった。昨日の分のリーフを含んでの価格だ。

リーフの分を考えれば昨日と同じ程度。二階層をうろうろしていただけだから昨日とそんなに変わらないのはしょうがない。

しょうがないが、金貨一枚は遠い。

十日しかないのにすでに三日すぎてしまっている。

期日までにお金をそろえることができるだろうか。

正直、今のペースでは厳しい。

迷宮には、宝箱とか、その手のものもないようだ。

もっと下の階層に行けばあるのか、あるけども俺の気づかない方法で隠れているのか、そもそもそんなものはないのか。いろいろと考えられる。

本当に迷宮で一攫千金ができるのだろうか。

仮にできたとしても十一日後とかではしょうがない。

これからは時間との勝負にもなるだろう。

加賀道夫 男 17歳

探索者Lv21 英雄Lv17 魔法使いLv19

装備 シミター 皮の鎧 サンダルブーツ

レベルだけは順調に上がっていっているのが唯一の救いだ。

俺は自分の腕を見ながら、ため息をついた。