軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

デコイ

「ミチオ様、わたくしが魔法を使うのは二回ずつでよろしいでしょうか」

何回か三十階層のボス戦をこなすと、ルティナが聞いてくる。

答えにくい質問を。

今現在、ルティナは戦闘の役に立っていない。

三十階層ではルティナが何度魔法を放っても俺の魔法使用回数が減ることはなかった。

ぶっちゃけ、戦闘に関してルティナはいらない子なのだ。

ルティナが使う魔法の数をもっと増やせればいいのだが、詠唱が必要なルティナが何度も魔法を使えるほど戦闘時間は長くないし、戦闘時間がかかるボスはどうせミリアが石化させてしまうからルティナが魔法を放つメリットは大きくない。

それに、たとえルティナの魔法四発か五発で俺の魔法を一回減らせるとしても、それはルティナの魔法の威力が俺の魔法の四分の一、五分の一以下だと言っているに等しいわけで、あまり回数を使わせるのもはばかられる。

だからといってルティナに対しおまえは役に立っていないというのはもっとはばかられるわけで、この件はうやむやにしていた。

それを聞いてくるか。

まあそうだろうけども。

二十九階層のボス戦から三十階層のボス戦に戦闘の重心が移ったのだから、確認は必要だ。

オーバードライブを使う前、二十九階層ではルティナが魔法を二発撃つことで俺の魔法の使用回数を一回減らせていた。

だからルティナには魔法を二回使わせている。

使うときには二回か、MPがなければ零回だ。

その後、オーバードライブを使うようになって俺の魔法の威力は約二倍になった。

現状ではルティナの魔法の威力が俺の魔法の威力の四分の一以下なのは疑いない。

魔法使いと魔道士の違い、レベル差や装備品、ことにひもろぎのイアリングの効果もあるから、そのくらいの違いはあるのだろう。

ただし、オーバードライブにはいいこともある。

オーバードライブを使うようになって魔法一発めと二発めの間隔は短くなった。

サンダーストームを二回使った場合、もはやはた目には完璧に雷魔法を一回使ったように見えるだろう。

一回使ったか二回使ったかはセリーにも分からないはずだ。

魔法の使用回数が減ったかどうかは俺の自主申告で決まる。

「そうだな。二回で頼む」

しょうがない。

うやむやにごまかした。

正直に話してボス戦のみで多数使ってもらうという手もあるが、それだとその他の戦いではいらない子だということが分かってしまうし。

上の階層へ行けば、いろいろと変化も出てくるだろう。

厳密にいえば、ルティナの魔法によって俺の魔法の使用回数が減るかどうかは、必ずしも直接は魔法の威力と関係ないはずだ。

仮に三十二階層の魔物が俺の魔法八・一発で倒せるとするなら、ルティナの魔法によって俺の魔法〇・一発分のダメージを与えると、俺は魔法九発ではなく八発で魔物を倒すことができることになる。

そうなることに期待しよう。

ルティナの魔法の使用回数を調整するのはそのときからでいい。

そこまでは先送りでいい。

問題の先送りというのは案外正しい解決策でもあるのだ。

今日のところは波風を立てずにボス戦を繰り返した。

「そろそろ日が昇るころですね」

早朝の狩を続けていると、ロクサーヌが教えてくれる。

薬草採取士はどうなったか。

確認すると、Lv20にまで上がっていた。

おお。

見事だ。

さっきまで薬草採取士Lv19だったが、ぎりぎりでレベルが上がったらしい。

「じゃあ、ここまでにしておくか」

最後のボス戦を終え、戦闘を切り上げる。

ハーフハーブのドロップアイテムを生薬生成するのに多分Lv5が必要だった。

そのボスのドロップの生薬生成に薬草採取士Lv15では成功していない。

次に可能性があるのはLv20だろう。

倒したばかりのボスが残したアイテムを受け取る。

試してみればいい。

生薬生成と念じた。

緑豆が手のひらの上を転がり、中央に鎮座まします。

止まった緑豆は……ぴくりとも動かなかった。

変化する兆しも見せない。

薬草採取士Lv20ではまだ足りないようだ。

大丈夫。

大丈夫だ。

まだあわてるような時間じゃない。

俺には遊び人のジョブがある。

緑豆は、なんでもないような顔でアイテムボックスに放り込んだ。

なんでもない。

何もしていないんだよ。

「えっと。朝食の後は三十一階層のボス戦でしょうか?」

なんでもないという顔をしていたはずなのに、ロクサーヌが尋ねてきた。

今後どうするか考えていると思ったのだろう。

そっか。

そっちも考えないといけないのか。

「うーん。まあここで考えてもしょうがない。食事のときにでも話そう。とりあえず買い物に行くか」

その場は買い物に行くと言ってごまかす。

冒険者ギルドにワープした。

移動した後最初にいじるのは、遊び人のスキルだ。

遊び人のスキルに薬草採取士の生薬生成をセットする。

遊び人のスキル設定は、そう頻繁には行えない。

今の時間だと、これから買い物をして朝食を作って食べて後片づけをして、次に迷宮に入るとき元に戻すのにぎりぎりくらいか。

商人ギルドへでも行く用事があったら余裕だったのに。

こういうときには何もないんだよな。

かといって夕方迷宮を出てからだと、風呂を入れるため遊び人のスキルは中級水魔法をセットするので、生薬生成はセットできない。

結構使いにくい遊び人のスキル。

まあ遊び人だしな。

勤勉に働くようにはできていないのだろう。

となると今を逃せば生薬生成を設定するのは寝る前になってしまう。

本当は、こうなると分かっていたら昨夜寝る前にセットできたらよかったんだよな。

今日はハーフハーブのボスと戦うと分かっていたのに、そこに気づかなかった。

違うか。

緑豆を得るためにはボスを倒さないといけない。

ボス戦を行うときには遊び人のスキルは雷魔法だ。

やっぱ駄目だ。

「ハートハーブごときでは全然手応えもありませんので、すぐに三十一階層のボス戦に移るのがいいと思います」

朝食に入ると、すぐにロクサーヌが進言してきた。

そっちも問題か。

俺としては別に上の階層に進むかどうかを考えていたわけでもなく、普通に三十階層のボス戦を繰り返すつもりだったのだが。

いまさらそんなことは考えていないというわけにもいかない。

「うーん。どうしよっか」

「私も三十一階層に移った方がいいと思います」

ありゃ。

ロクサーヌはともかくセリーまで。

セリーがそういうなら考えるべきか。

「セリーもなのか」

「現状、三十階層ではぬるすぎるでしょう。早く上の階層に行った方がいいです。あまりやわな戦いに慣れてしまっても困ります。ルティナも加入したばかりですし」

なるほど。

俺は階層を上がることの危険ばかりを考えていたが、逆に生ぬるい戦いに慣れてしまう危険もあるのか。

さすがはセリーのいうことだ。

説得力がある。

「石化する、です」

「上の階層へ行っても大丈夫だと思います」

「わたくしも上へ進むのがよいと考えます」

全員上へ行けという意見らしい。

まあオーバードライブで戦闘時間もごっそり短縮されたから、長居してもしょうがないという考えは分かる。

ここは上に行くべきなのか。

「では三十一階層のボス戦に進んでみるか」

「はい。それがよろしいでしょう。さすがご主人様です」

ロクサーヌの勧める方にほいほいついていったら、いつか酷い目にあいそうだが。

まあ今回は他の四人も上に行けという考えだ。

従っておいてもいいだろう。

というか、他の四人も全員ロクサーヌに毒されてないか?

セリーはともかく、ミリアやベスタは何も考えてなさそうだし。

「ハートハーブは食材を残さないので、ミチオ様にも戦い続ける意味はあまりないでしょう」

ルティナはルティナはこんなことを言っているし。

いったい俺のことをどう思っているのかと問い詰めたい。

問い詰めたいが、きょとんとして食い道楽では、と返されたら困る。

「食事が終わったらな」

「はい」

ロクサーヌは嬉しそうだ。

危ないので周囲に変な影響は与えないようにしてほしい。

「奴隷商のところへは行かれないのでしょうか」

ルティナが訊いてきた。

あ。そうか。

公爵から奴隷商人のところへ連れて行けと言われたのだった。

朝食の後迷宮に行くなら、いつ奴隷商人のところへ行くのかということだろう。

「あー。そういえばそれもあるんだったな」

「はい。早めにしていただけると、わたくしとしても助かります」

「そうなのか?」

早い方がいいのだろうか。

普通は後回しにしたいような。

忘れていた俺が言うことじゃないが。

「万が一ということもありますので」

万が一奴隷から解放されるなら、それはいいことなのでは。

いや。所有者が死んだとき奴隷も遺言いかんによって追い腹を切らされるのだ。

そっち方面だろう。

奴隷なのに所有者の表示がないと殉死と判断されるのかもしれない。

なにそれ。

怖すぎる。

「あー。悪かった」

「いえ。あの。分かっていただければ」

ここは謝るべきだろう。

公爵も教えといてくれればいいものを。

「ルティナの所有者の設定をまだしてなかったんだ」

ロクサーヌたちにも説明した。

いずれ分かってしまうし。

潔く認めるべきだ。

「所有者の設定をしていないと誰かが書き換えてしまう可能性もありますからね」

セリーが教えてくれる。

あら。

追い腹じゃないのか。

「そうなんだ」

「はい。奴隷になるときには本人の承諾が必要ですが、奴隷になった後、誰が主人になるかは選ぶことができません。最初に所有者を設定すれば、以後所有者の変更には前の主人の承認が必要となります。最初の所有者の設定は早めにやってあげるべきです」

誰が所有者か最初に設定しておかないと、他の人が勝手に主人に設定できるということか。

万が一とはそういうことか。

「あ、あくまで万が一のためです」

ルティナは万が一のときの用心として俺の奴隷になっておきたいと。

いい傾向だ。

まあもう抱かれちゃったしね。

「分かった。左腕を出せ」

そこまで言うのならやっておくべきだ。

ルティナに左手を出させると、いぶかしがりながらも伸ばしてきた。

奴隷商人のジョブをつけ、インテリジェンスカードをオープンさせる。

「え?」

インテリジェンスカードが出てきたことで、ルティナはさらに驚いていた。

奴隷商人のインテリジェンスカード操作では、所有者の設定、変更ができるようだ。

もっとも、誰でもいいというわけではなくて、近くでインテリジェンスカードを出している人を所有者に設定できるらしい。

俺も自分のインテリジェンスカードを出してルティナの所有者に設定する。

「ほー。できるんだな」

操作する人とセットする所有者が同じでもいけるようだ。

そりゃそうか。

奴隷商人が奴隷を購入したとき、その奴隷の最初の所有者に自分を設定しなければならない。

でなければせっかく買ったのに他人の奴隷にさせられてしまうかもしれない。

「ええっと。おできになるのですか?」

「インテリジェンスカードを見てみろ。ちゃんとできてないか」

ルティナにインテリジェンスカードを確認させる。

できているはずだ。

「は、はい。できています」

「じゃ成功だ。よかった」

「あの。ミチオ様のインテリジェンスカードを見せていただいてもよろしいですか」

ルティナは、俺のインテリジェンスカードの閲覧まで要求してきた。

まだ信用できないのだろうか。

「ほら」

と左腕をルティナの前に伸ばしてから、後悔する。

ファーストジョブを遊び人にしていた。

英雄も魔法使いも探索者もはずしているので、現状遊び人のレベルが一番高いのだ。

ファーストジョブのレベルはボーナスポイントに直結する。

そしてファーストジョブが、インテリジェンスカードにジョブとして表示される。

ルティナに俺のジョブが遊び人だと分かってしまう。

まあなんとかごまかしようはある。

あるはずだ。

まだあわてるような時間では。

どうしようか。

「お、お若いのですね」

驚くのはそっちか。

人間がエルフを見ても年齢はよく分からない。

その逆に、エルフのルティナが人間族の俺を見ても年齢はよく分からないのだろう。

「そうか?」

「この年齢で三十階層のボスを楽々突破とか。考えられません」

「ご主人様ですから」

ロクサーヌが胸を張ることなんだろうか。

「ええっと。それとミチオ様のジョブですが」

やっぱ気づいたか。

そうなるよな。

「この機会だから、みんなにも俺の秘密の一部を話しておこう」

「秘密ですか?」

セリーが食いついてきた。

「今現在、俺のジョブは遊び人になっている。実は遊び人のスキルには他のジョブのスキルを設定することができるんだ」

「他のジョブですか」

「奴隷商人のスキルをつければさっきみたいにインテリジェンスカードで所有者の設定ができるし、冒険者のスキルをつければフィールドウォークができるし、探索者のジョブをつければダンジョンウォークができるし、魔法使いのスキルをつければ魔法を使える。つまりはそういうことだ」

セリーやみんなに遊び人のことを説明する。

説明は、間違ってはいない。

万が一このことが洩れても、遊び人に関する話は事実だ。

俺の真実についての接近がそれだけ難しくなる。

敵の目を欺くための兵器をデコイという。

飛行場に置く張りぼての飛行機とか、パラシュート部隊が降下時に一緒にばら撒く人形とか、レーダーをごまかすチャフとか。

遊び人のことは、洩れなければ洩れないで問題ないし、洩れたとしてもそのときには 囮(デコイ) として機能するはずだ。