軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

居眠り

「きょ、今日はもう遅いからこれくらいにしよう。明日の朝はゆっくりでいい」

雰囲気が悪くなったので、話を打ち切ることにする。

後はおいおいでいいだろう。

「分かりました、ご主人様」

ロクサーヌが笑顔で返事をした。

そしてすぐ険しい顔つきに戻る。

俺に対して怒っているのではない。

ロクサーヌとルティナの仲が心配だ。

「寝るといっても、うちにはベッドが一つしかない。そこで雑魚寝している。ルティナも一緒にベッドで寝るか?」

「大丈夫です。奴隷なので床の上で眠ることくらいは覚悟しています」

さりげなく誘ってみるが、断られた。

ロクサーヌ並みの回避能力だ。

ベッドは横にしてつなげただけだから、本当は二つあるが。

そういう問題ではない。

いや。二つに戻して、三人ずつ寝るという手はあるか。

そこまではすることもないだろう。

床の上で寝ることに音を上げてくれる可能性もある。

ひどい作戦だ。

「予備の毛布があるので、渡しておけばいいでしょう」

ロクサーヌも作戦に賛同してくれるらしい。

「そうだな。ミリア、毛布を持ってきてくれるか」

返事がない。

「ミリア?」

ロクサーヌが呼びかけた。

居眠りのようだ。

「寝てるのか」

「ミリア、予備の毛布を取ってきてください」

「××××××××××」

ロクサーヌに起こされた後、ミリアはなにやらつぶやきながら部屋を出て行く。

寝ぼけているときに出てくる言葉はブラヒム語ではないらしい。

「ご主人様の前だというのに」

「まあ時間も時間だからしょうがない」

怒っているロクサーヌをなだめた。

これ以上刺激を与えるのはまずい。

普段より遅い時間なので寝てしまうのはやむをえないだろう。

セリーですら眠そうにしていた。

ベスタも夢の世界に旅立つ寸前だ。

体温が下がってきているのかもしれない。

ミリアが毛布を持って戻ってくる。

今度はカンテラの明かりがあるので、ちゃんと見えた。

「悪いな。じゃあ俺たちは上へ行って寝るか」

「はい、です」

「ではこれで」

ミリアから毛布を受け取って、ルティナに渡す。

命令してベッドに寝かせる手もあるが、本人が嫌がるのだからこれでいい。

「あまり特別扱いはよくないと思います」

「特別扱いといっても床の上で寝るのだからな。しばらくはこれでいいだろう」

「そうですか」

カンテラを持って二階の寝室に上がるとロクサーヌが意見してくるが、問題ないと言い聞かせた。

自分で言ったがしばらくはこのままなのか。

かといって一人用のベッドを買ったら、それこそ特別扱いになる。

しょうがない。

「そんなことより、ルティナは信用できそうか」

「信用ですか?」

「迷宮に連れて行けば、いろいろと知られてしまうことになる。だから、すぐには迷宮に入れないようにしたのだ」

「なるほど。そういうことだったのですか」

ルティナをすぐに迷宮へ連れて行かない理由も説明した。

ロクサーヌは気づいてなかったらしい。

誤解が解けてなによりだ。

「どこまで信用できるか、まだ今日一日では分かりません。ただ、恨みも持っているようですし、スパイということはなさそうです」

セリーが冷静にアドバイスをくれる。

状況をどこまで把握しているのか不明だが、割と的確だろう。

公爵からの刺客という可能性もあったのか。

「スパイ?」

「内情を探るために送り込んできた者のことです」

「そんなことはさせません」

ロクサーヌはスパイという言葉を知らなかったようだ。

セリーの説明に気を入れなおしている。

間者や乱破、素破みたいな存在はこの世界にもあるだろうが、庶民には縁がないのかもしれない。

そう考えると、セリーはよくスパイを知っていたな。

さすがというべきか。

「しばらくは注意を払ってくれ。今日はもう寝よう。眠いだろう」

夜も遅いので深くは突っ込まずに終わらせる。

全員でベッドに潜り込んだ。

せっかくなのでお休みのキスは明かりはつけたまま行う。

ただし、長時間楽しむことはできなかった。

みんな眠そうだし。

俺もまぶたが重くなってきている。

ベスタと長い時間キスをしているとミリアなどは寝てしまいそうだ。

ここで、誰も寝てはならぬなどと歌いだしたらいい迷惑だろう。

ベスタもいつもほど情熱的に吸ったり舌を動かしたりはしてこなかった。

ミリアもほんの挨拶程度で離れていってしまう。

少し寂しい。

セリーとも短い時間ですませた。

ロクサーヌとはやや狂おしくキスをする。

さすがはロクサーヌだ。

最後だしな。

いったん唇をはずした後、カンテラの火を消し、暗い中で再びロクサーヌの唇を貪った。

隣でベスタが身じろぎした感覚に、意識が浮上する。

ぼんやりとした多幸感の中、目覚めた。

二度寝は気持ちがいい。

朝方に一度気づいたが、またそのまま眠ってしまったようだ。

二度寝なんて久しぶりだ。

この世界に来てからは初めてかもしれない。

迷宮に入るなど、やることがあるしな。

夜も早いし。

目が覚めるとすぐにロクサーヌがキスしてくる。

そうか。

最近二度寝していないのはばっちり起きてしまうからか。

さすがに、今朝まどろんでいたときはロクサーヌも寝ていたのか。

それとも起きていたけれど俺の様子を見て寝かせてくれたのか。

どっちにしてもありがたい。

「おはようございます、ご主人様」

「おはよう、ロクサーヌ」

ロクサーヌと普通の声で挨拶した。

もう全員起きているようだ。

ベスタの動く刺激で目覚めたくらいだし。

昨夜の分を取り返すため、他の三人とは長くキスをする。

ベスタも本調子のようだ。

ベスタの積極的に動く舌の奉仕をそのままに受け入れた。

たっぷりのキスの後で着替える。

「もう日が出ていますね」

ロクサーヌが窓を開けると、部屋の中に光が入ってきた。

こんな時間まで寝ていたのか。

「今日はしょうがないな。これから朝食にしよう」

「はい」

全員で一階に降りる。

下に行くとルティナもリビングに立っていた。

すでに目覚めていたようだ。

「おはようございます」

「おはよう、ルティナ。これから朝食にするが、ルティナは何か作れるか?」

「いいえ。食事を作ったことなどありませんので」

ルティナが胸を張る。

それなりにボリュームもありそうだ。

じゃなくて。

伯爵令嬢ともなると食事を作ったことはないのか。

「まあしばらく手伝っていればすぐに覚えるだろう」

「わたくしはいずれ諸侯会議の方に専念したいのですが」

「うちでは、全員で作って全員で食べます」

ロクサーヌが口をはさんできた。

諸侯会議に専念はないよな。

食事を作るくらいの時間はあるはずだ。

「最初は手伝いでいい。何か作れるようになってくれ」

「分かりました」

一応善処してくれるらしい。

「朝食の食材やパンなんかはこれから買いに行く。後は、靴だな。装備品を一つ渡そう。武器はどうするか。何か持ちたいものはあるか?」

ルティナは、裸足ではないが、布でできた薄く柔らかそうな靴を履いていた。

セルマー伯の居城で履く上履きか室内用といったものだろう。

外に出るなら違う靴を渡した方がいい。

武器は、魔法使いになれば杖か槍だが、村人のまま杖は微妙だ。

それ以前に、杖を持って貴重な魔法使いだと言い触らすようなまねはどうなんだろう。

よく分からないので本人にまかせる。

「武器を携帯してもよろしいのですか?」

「何かしてこないなら大丈夫だ」

「それなら、うまく使えるとは思いませんが、片手剣をお願いします」

「片手剣か」

物置部屋に装備品を取りに行く。

「あの男にまみえたときのために少しは練習しておきましょう」

リビングを出るときルティナが何かつぶやいていたが、聞かなかったことにした。

物置で硬革の靴を手にする。

剣は、迷宮で使うわけでもないからシミターでいい。

リビングに戻ると、全員が無言だった。

少しとげとげしい雰囲気。

女の子同士和気藹々というわけにはいかないのだろうか。

「では、これをな」

「はい」

「靴を履いたら、冒険者ギルドに移動するので、一緒に来るように」

「分かりました」

履き替えさせて、街に出る。

買い物の間中、ルティナは周囲をきょろきょろと見回していた。

城の外にあまり出たことがなかったのかもしれない。

あるいは、クーラタルが初めてで珍しかったのか。

「クーラタルは初めてか?」

「はい。初めて来ました」

「時間があったら外に出てみるといい。迷宮があるから魔物が出るが」

「気をつけます」

魔物が出るといっても、俺は遭遇したことがない。

クーラタルの中心部分は人も多いから魔物が出てもすぐに片づいてしまうのだろう。

家と冒険者ギルドの間はほとんどワープで移動だし。

それに出るといってもおそらくはコボルトLv1だ。

クーラタルの住人なら問題ない。

村人Lv2のルティナには大変かもしれない。

「朝食だしあまり手伝うこともないから、今回のところは見学だ」

家に帰って朝食を作った。

作るのはハムエッグもどきだ。

簡単で手早くできる朝食の見本のような料理である。

「ミチオ様がお作りになるのですか?」

「ご主人様の料理は美味しくて素晴らしいのです」

ロクサーヌが俺より早く答えた。

「自由民の人というのは自分で料理をするものなのでしょうか」

「まあ人数もいないしな」

「料理専従の奴隷とかはいらっしゃらないのですか?」

何を言い出すのだろうか。

「いないな」

「何日も煮込まないと美味しいスープなどは取れないと聞きましたが」

「そこは、手早くまとめる技術を学んでくれ」

貴族の食べる料理はやはりそんなものなんだろう。

専従の調理人がいて一日かけて食事を提供すると。

そういう貴族の常識を持ち込まないでほしい。

朝食ができたら、テーブルに持っていってみんなで食べる。

セリーとミリアが作ったスープを俺がよそい、ルティナの前には最後に置いたが、何も文句は言わなかった。

スープを配膳したら食事にかかる。

「人々の労働と貢納に感謝します。慈しみをもって」

ルティナだけが何かをつぶやいた。

食事前の祈りか。

さすがに貴族にはそういう習慣があるのだろう。

穏やかな言葉ではなかったような気もするが。

ルティナがハムエッグもどきを口にする。

「どうだ?」

「はい。美味しくいただいております」

感想を聞いたが、可もなく不可もなくという感じだろうか。

いいものを食べていたようだ。

しかも、ルティナの食べ方は美しい。

上品で、しなやかであり、流れるようになめらかだ。

ナイフの使い方にごつごつしたところがまったくない。

伯爵令嬢だけに洗練されているのだろうか。

公爵やカシアはどうだったか。

間近でじろじろと見たわけではない。

カシアを見つめるわけにもいかなかったし。

公爵の食事の仕方などには興味もない。

ルティナに対してなら、近くで見ても問題ないはずだ。

別に下心があるのでもないし。

横の席からじっくりと眺める。

ルティナの食事風景はエレガントだ。

ロクサーヌたちの食事の取り方も粗野だと思ったことはないが、明らかにものが違う。

スマートで、美しく、気品に満ちている。

食べてしまいたいくらいだ。

「朝食の後、俺はボーデに行ってくる」

公爵のところに、と言っていいかどうかは微妙なのでボーデに行くと告げた。

「はい」

「後のことはロクサーヌにまかせた」

「おまかせください」

食事の後で、公爵のところに向かう。

後片付けなどは、ロクサーヌにまかせておけば問題ないだろう。

ボーデの城は、昨日の今日だというのに落ち着いていた。

事件などなかったような感じだ。

「公爵は中におられるか」

「はい。執務室です」

本当に何もなかったかのように奥に追いやられる。

受付の騎士団員は事件のことを知らないのだろうか。

まあ昨夜動員された人が朝一から役務に就くことはないかもしれない。

ノックをして執務室に入ると、公爵は書類に埋もれていた。

ゴスラーはいない。

「おー。ミチオ殿か。すまん。昨夜は結局徹夜でな」

しょぼくれた表情の公爵が迎える。

明らかに睡眠不足だ。

「お疲れのようで」

「関係各所へ送る書類を早く作らねばならん。こればかりは二の次にはできんのでな」

「なるほど」

「こうなるのだったら早く来てもらえばよかった」

公爵がたどたどしい足取りでやってきて、ソファーに体をうずめた。

書類を作ることくらいは予め分からなかったのだろうか。

それとも何かあったのか。

「ゴスラー殿は?」

「さっきまでゴスラーも手伝ってくれていた。一時間くらい前までだったか。はて。二時間前だったか」

すでに記憶も怪しいらしい。

「忙しいのであれば」

「いや、大丈夫だ。彼女の様子はどうだ?」

「必ずしも取り乱してはいないかと」

「彼女の本性は素直で気持ちの優しいいい娘だ。今はまだ気を張っているだろうが。日がたてば落ち着いてこよう」

時間がたてば落ち着くのだろうか。

気を張っていることは確かだろうが。

どうなんだろう。

親戚のひいき目という可能性もあるのではないだろうか。

少し考えてみるが、分からない。

その間、公爵も何も言ってはこなかった。

不審に思って見てみると、目を閉じて首をそらしている。

寝てんじゃねえか。

他人の前でそんなに無防備でいいのだろうか。

ルティナを連れてきていたら確実にやばいところだった。

「公爵」

「大丈夫だ。彼女のことだが」

居眠りしていたことを認めるつもりはないらしい。

引き続き公爵と話した。

会談は、適当に終わらせる。

公爵は終始ぼんやりしていて、どこまではっきりした話なのかはよく分からなかった。

呼び出した趣旨は、ルティナのことをよろしくというところだろう。

この隙に何か言質を取ることも考えたが、やっていない。

言ったこと自体を覚えてなさそうだ。

契約書にサインさせる手もあったか。

ルティナを性奴隷にする契約書とか。

それはしていないが、ルティナが恨んでいるので俺たちにあまり近づくなとは警告しておいた。

睡眠学習に効果があればめっけものだ。

ちゃんと訪問したことだけは騎士団員にもアピールして、家に帰ってくる。

団長によろしくと言っておいたから、ゴスラーに伝わるだろう。

「ただいま。うぉっ」

家に帰ると、ルティナが床にうずくまって頭を下げていた。

何事か。

土下座?

いや。三つ指突いてのお出迎えか。

ロクサーヌがその後ろで満足そうに立っている。

「わたくしが間違っておりました」

ルティナが開口一番、謝ってきた。

何があったのか。

いや。何をされたのか。

何をした、ロクサーヌ。