軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルティナ

公爵の連れてきた女の子にカシアが声をかけた。

ルティナというらしい。

「カシア姉、さま……」

ルティナは一言だけ口にすると、悔しそうに唇を食い締める。

おそらく彼女は元々この城にいた人だ。

カシアとは姉妹らしいが、今は敵と味方だろう。

ルティナのかたくなな表情がそれを物語っていた。

「よかった。無事でしたのね」

「……いいえ」

無事といえば無事だが、無事でないといえば無事でないのだろう。

そんなルティナをカシアが抱きしめる。

群を抜く美人二人によるあでやかな共演。

美しい情景だが、そんなことを思っている場合ではないか。

「閣下」

ゴスラーがやってきた。

「どうだ?」

「城内の制圧はほぼ完了いたしました。抵抗もありません。ただ、伯爵の行方が」

「分からぬか」

「はい」

公爵とゴスラーが会話する。

セルマー伯が見つからないようだ。

ひょっとして、今日は外出していたとかかもしれない。

行き当たりばったりで決行日を決めるから。

「いなくなられても手段がないわけではないが、面倒だな。居城を逃げ出すのは貴族にとって名折れとなる。捜索には全力を尽くせ」

「分かりました」

冒険者がいればこの世界では逃げ出すのは簡単だ。

どこかへ移動してしまえばいい。

隠れるくらいなら逃げ出すと思うが、そうでもないのだろうか。

逃亡がどのくらいの不名誉なのか。

貴族の責務である迷宮討伐をすでに怠っていたのだから、貴族の名誉にもこだわってはいないかもしれない。

それは関係ないか。

「すまぬが、伯爵が見つからん。どこにいるか知っておるか」

公爵がルティナに尋ねる。

こういう場合、炭置き小屋とかにでも隠れているのではないだろうか。

公爵には陣太鼓を打ちながら指揮してほしかった。

一打ち二打ち三流れ。

「知りません。知っていても、教えません」

ルティナがきっぱりと言う。

天野屋ルティナは女でござる。

「……カシアは、どこか隠れていそうな場所に心当たりはないか?」

「そうですね。冬場に暖を取るための薪を置く部屋が、寝室のどこかからつながっているはずです」

「姉様!」

ルティナが抗議するが、カシアとは敵味方だ。

というか本当に炭置き小屋があるのか。

「貴族の責務を忘れたわけではないでしょう」

「ですが」

「あなたがついていながらなんということです」

カシアの反論にルティナが口ごもった。

迷宮の討伐が進んでいないことはルティナも分かっていたらしい。

「ゴスラー」

「は」

その隙に公爵がゴスラーを送り出す。

「父も爵位を継いだころにはがんばっていました。ですが、なかなか結果が出ず。いつのころからか騎士団の統率はおざなりになりました。さらには大きな盗賊団が暴れまわって有能な配下を何人も失ったとか。その後は酒に逃げるようにもなりました」

討伐が進まない原因は確かに伯爵にもあったようだ。

これはシャッポを替えざるをえないか。

「そこまで追い詰められていたのですか」

「わたくしにもっと力があれば」

「大丈夫です。すんでしまったことは仕方がありません」

カシアがルティナの頭を抱き寄せて慰める。

「姉様に同情されることではありません」

ルティナはその手を払いのけた。

どこまでも強気だ。

美しい真っ青な瞳でカシアをにらみつける。

懸命に涙をこらえているかのようだ。

「あなたの父は元々あまり伯爵には向いていませんでした。荒事を避け、迷宮に入ることにも二の足を踏むような優しい人です。末弟なので本来なら爵位を継ぐことなく、自由に暮らせたでしょうが。長兄であるわたくしの父と次弟が長く争ったため、やむなくお鉢が回ってきたのです。父たちの争いについては、わたくしからも謝ります」

カシアの父とルティナの父親が兄弟になるらしい。

つまりカシアとルティナは従姉妹だ。

そういえば、カシアは従兄弟の次期伯爵も弟と呼んでいた。

従兄弟を弟とか姉とか呼ぶのはセルマー伯爵家の家風なんだろうか。

「もういいでしょう。殺しなさい」

ルティナが金色の髪をなびかせて公爵に振り向く。

殺せ、とか。

美人のエルフに言わせてみたい言葉のトップファイブに入るな。

そんなことを考えている場合ではないが。

「そこまでする必要はない。できれば穏便に済ませたい」

案の定、公爵にそのつもりはないようだ。

倒すのは伯爵一人でいいと言っていたしな。

「ここまでしておいてたわ言を」

「貴女には継承権の放棄をお願いしたい」

「わたくしも伯爵の娘です。それはできません。父が廃除されたとしても、わたくしが跡を引き継ぐのは当然のことです」

まあそう言うだろう。

「次の伯爵はすでに決まっている。早めに体制を立て直さなければならん」

「継承権はわたくしにあります。父の次の伯爵はわたくしです」

よく分からないが、ルティナがいるとカシアの従兄弟を次期伯爵につけることは難しいようだ。

直系親族がいるのに傍系に爵位を持っていくわけにはいかないのだろう。

ルティナに継承権を放棄させて、爵位を次期伯爵に持っていくと。

トップを排除するだけなら娘を次の伯爵にしてもいいのではないかという気もするが。

「それは認められない。残念ながら、貴女では全エルフ最高代表者会議の承認が得られない」

「な。全エルフ最高代表者会議まで……」

「ここまで迷宮を放置しておけば出てくるのは当然のことだ。ことはセルマー伯が爵位を失えばそれですむという問題ではない。すべてのエルフに対する背信行為だ。セルマー伯の娘を後継に据えるわけにいかないのは無論だろう。それに貴女ではまだ若すぎる」

そういえばと思ってルティナを鑑定すると、十五歳だ。

若いな。

それに村人Lv2。

低いな。

十五歳ではさすがに伯爵として未知数というところか。

しかも村人Lv2だ。

領内の迷宮討伐が進んでいないのだから、早急に体制を整えて進める必要がある。

ある程度経験と実績のある人でないと、任せる方も不安だろう。

しかし全エルフ最高代表者会議というところには悪い印象しか持てないな。

裏から邪悪に支配していそうというか。

これは完全に第三者である俺の勝手な見方か。

セルマー伯がメンバーらしいし、公爵も当然メンバーなんだろう。

というか、さっきからここでは俺が完全にいらない子だよね。

口をはさむこともできないし。

待機しろと言われたからどこかへ行くわけにもいかない。

部屋の外はどうなっているか分からないから行きたくもない。

「ですから、殺せばいいでしょうと申し上げました」

ルティナは気丈に言い張る。

殺せば継承権もくそもない。

「やはりこうなったか。仕方がない」

「ルティナ。わたくしたちのことを親の仇と付け狙ってもいいですから、生きなさい」

「殺しはしない。貴女には奴隷になっていただく」

カシアが説得しようとしたのを公爵がさえぎった。

「奴隷に?」

「ミチオ殿は継嫡家名というのをご存知か?」

カシアの疑問をよそに、公爵は俺に話を振ってくる。

「名称だけは聞いたことがあるような」

「貴族とその継承権を持っている親族には継嫡家名がつく。余ならばアンハルトだ。インテリジェンスカードで見せることもできるが、それは別によかろう。継嫡家名を失えば、自動的に貴族でなくなるか継承権がなくなる。継嫡家名とはそういうものだ。そして、奴隷になれば継嫡家名がはずれる」

「それで奴隷に」

公爵の名前はブロッケン・ノルトブラウン・アンハルトだ。

同様に、ルティナの名前についているアンセルムというのが継嫡家名なんだろう。

エステル男爵にも何かついていたような気がする。

カシアは、ルティナと同じアンセルムだから、ハルツ公爵ではなくセルマー伯爵の継承権を持つらしい。

「正規の手続きをとれば継嫡家名の順位に関係なく襲爵可能だが、今は非常時だ。セルマー伯を廃しても直系の実子が第一に優先される」

「それで継嫡家名をはずさせると」

「同じことです。わたくしは奴隷にはなりません。わたくしは犯罪などをしたことはありません。わたくしの同意なく奴隷にすることはできないはずです」

罪を犯していれば無理やり奴隷にすることができるのか。

きっと盗賊のジョブを持っていると奴隷に落とせるとかだろう。

そうでない場合には、本人の同意がいると。

俺も盗賊のジョブを持っている。

俺も俺の同意なく奴隷にすることが可能なのか。

「それができないことは自分で分かっていよう。貴族の責務を果たそうともせず、果たしていないことを認めることもなかったら、弟や妹たちに将来どんな目が向けられるか。貴女が死ねばすむという問題ではない。奴隷になれば、父伯に孝を尽くしたと取れるし、自ら責任を取って貴族の責務をまっとうしたとも解釈できる。弟や妹たちにとってもそれが一番いいのだ」

「ひ、卑怯な」

搦め手から説得にかかる公爵は、確かに卑怯といえば卑怯だ。

弟や妹は人質か。

父のセルマー伯が廃されるのは仕方がないとして、姉の振る舞いによっては弟や妹に影響が及ぶということだろう。

父がすっぱいブドウを食べると子どもの歯が浮く、というやつだ。

大石内蔵助の子どもは、長男の 主税(ちから) は一緒に討ち入って切腹したが、残った遺児が浅野本家から求められて仕官したという。

そんなものなんだろう。

というか、ルティナが継承権を放棄したら弟や妹たちにいくのではないだろうか。

「十五歳で成人するまで継嫡家名はつかないが、姉の行動によっては、将来弟や妹がセルマー伯になる可能性も出てこよう」

実子でも未成年者は駄目らしい。

ルティナさえなんとかすればということか。

公爵もえげつない。

弟や妹に襲爵の目があるかどうかは分からない。

ないわけではないのかもしれない。

兄の子どもを自分の養子に迎えて自分の子を兄の養子に出した水戸黄門とか、実の父が養子に入った後に祖父に実子ができたため、その子どもが父の養嫡子になり、実父の養子の養子となった遠山の金さんとか。

貴族というのはいろいろ大変らしい。

たとえほとんどないとしても、公爵も可能性と言っているだけだ。

嘘ではない。

「ルティナ、わたくしもそれがいいと思います」

「……分かりました。好きにすればよいでしょう」

カシアにも説得されて、ついにルティナが折れた。

人質を取られるのは大きい。

「ミチオ殿」

「はい」

「よければ、彼女をもらってくれ」

ようやくかたがつくと思ったら、公爵がとんでもないことを言い出した。

「は?」

「今回もミチオ殿には世話になった。その褒賞としてふさわしいだろう」

「な、何をおっしゃっておられるのです」

抗議したのはカシアだ。

当然だろう。

当然か?

奴隷にすること自体には賛成したのに。

まあ自分が所有しておけばいいか。

「このミチオ殿は、余らにもうかがい知れない実力を持っているようだ。おそらくは遠くない将来、迷宮を倒して貴族の仲間入りをするだろう。そうなれば、元貴族である貴女にとって大いに活躍の場ができる」

公爵がルティナに告げる。

どんな理由があって公爵は俺を評価しているのか。

過大評価だ。

ひょっとして、迷宮で魔法を使っているところを見られたとかだろうか。

「迷宮をですか?」

ルティナは疑わしそうだ。

探るような目で俺を見た。

「余の騎士団の冒険者がいろいろ試した結果だ。さすがにペルマスクへ回復薬なしに移動するのは無理だろうが、少なくともターレへ休みなしに何往復もしたとき回復薬の使用は認められておらん。余の騎士団の中のもっとも優れた冒険者より能力があることは確実だ。どれほどの実力があるかは計り知れん」

「そうですか」

おそらくペルマスクへも実際に行ってみたのだろう。

そうやって比較したと。

俺だって実はペルマスクへは回復薬かデュランダルなしではきつい。

魔法を使っているところを見られたわけではないようだし、よしとしておこう。

「ミチオ殿、悪くない褒美だと思うが。このとおり、カシアによく似て美人だしな」

何を言っているのだろうか、この公爵は。

単純にのろけか。

あるいは、俺がカシアのことを好きなのを見抜いているのか。

俺はそんな目でカシアを見ていたのだろうか。

「い、いや。あ、いや。否じゃなく」

もちろんルティナもカシアも美人だ。

そこは間違いない。

あるいはエステル男爵にでも聞いたのだろうか。

そういえば、帝国解放会の掟は内部で得た情報を外部に洩らさないことだ。

公爵は帝国解放会会員なのだから、ばらしても外に洩らしたわけではない。

実はダダ洩れじゃないですかやだー。