軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

入会式

「では部屋へ行くか」

微妙な空気を察したのか、エステル男爵が助け船を出してくれた。

さっさと歩き出して先導する。

ありがたい。

俺もすぐに続いた。

何しろ後ろからは異様なプレッシャーが。

皇帝と公爵と伯爵を含む四人がついてくる。

セバスチャンやその他の職員は置き去りのようだ。

入会式はこのメンバーで行うのだろう。

パーティーメンバーでも立ち会えないらしいからな。

皇帝と一緒の入会式か。

エステルは、階段を三階まで上がり、廊下を進んで一番奥の扉を開けた。

つかつかと中に入っていく。

何もない普通の部屋だ。

俺が入ると、四人も続いた。

「思ったとおり問題なく入会できたようでよかった」

「はい」

公爵も入ってきて、少しだけ言葉をかわす。

続いて皇帝様ご一行。

皇帝の横に立った伯爵は、一目見て分かるいかつい武人だ。

皇帝の護衛だろうか。

豊かな口ひげを蓄え、頭髪の方はその分寂しげである。

上からのぞいたらバーコード一歩手前というところだろう。

背も高いから、ベスタでもなければ上から見下ろせないだろうが。

「よし。全員入ったな。準備が整い次第、隣の部屋でガイウス、カルロス、ミチオの入会式ならびに入会儀礼を行う」

部屋の奥まで進んだエステルが振り返り、全員を見渡した。

あくまで呼び捨てなのね。

伯爵じゃないもう一人の男も新規入会者らしい。

皇帝と一緒にロッジに入ってきたのだし、関係者なんだろうが。

「よろしく頼む」

皇帝がうなずく。

「よろしくお願いします」

「よ、よろしく」

皇帝が誰に対して言ったのか分からないが、もう一人の男も続いたので、俺も便乗して挨拶した。

「ガイウスとカルロスは第二位階、ミチオは第一位階での入会となる。入会式には最低会員三名の立ち会いが必要だ。本日は我の他、ガイウスとカルロスの推薦人であるブルーノ、ミチオの推薦人であるブロッケンが立ち会う」

「ブルーノだ」

「ブロッケンだ」

エステルの発言に続いて、伯爵と公爵が男爵の横に行く。

伯爵は推薦人だったのか。

さすがに皇帝は俺より上の位階での入会らしい。

よかった。

「では、三人はこの部屋でしばし待て」

挨拶をすませると、エステルが隣の部屋に行こうとする。

待て待て。

俺が皇帝と取り残されるのだが。

皇帝の関係者だろうもう一人の男も残るとはいえ。

すがるような視線を送るが、男爵も公爵も無視して隣の部屋に消えた。

まあ俺の事情なんか知ったこっちゃないわな。

伯爵まで皇帝を置いて入っていく。

前向きに考えよう。

逆に考えるんだ。

貴族の割合が六分の四から三分の一に減った、と考えるんだ。

定義にもよるが皇帝は貴族でないと考えれば、この場から貴族はいなくなったことになる。

「ミチオは人間族か」

「確かに、うけがわれられ」

無理。

皇帝から話しかけてくるとか。

「普段の言葉遣いでよいぞ。ロッジでは対等に話をすることが規定であろう。朕の周りの者が使うのは慇懃な言葉ばかりでな。市井の言葉が聞けると楽しみにしておったのだ」

それは皇帝陛下が相手では慇懃な言葉を使うだろう。

「わ、分かった」

「して、 卿(けい) は人間族か?」

二人称までがおかしい。

「そうだ」

「だとすると相当に若いの。いくつになる」

「十七歳だ」

インテリジェンスカードを見れば年齢が分かる。

サバは読まない方がいい。

「その歳で入会か。非常に優秀なのだろうな」

「いや、それほどでも」

「いかん。いかんな。謙譲も過ぎれば悪徳となる。他の会員や、入会を認められなかった者たちのことも考えよ」

皇帝にたしなめられてしまった。

確かに、入りたくても入会を認められない人もいるだろうから、その人の前で優秀じゃないとは言えない。

皇帝の言うとおりか。

生まれつき持てる者は覚悟が違うようだ。

「なるほど」

「朕なども歳を取ってからの入会だからな」

「それもまた立派なことでは」

「言い訳をさせてもらうと、朕が本格的に迷宮に入るようになってから、まだ日も浅い。いろいろと忙しい身なのでな」

それはそうだろう。

皇帝なんだし。

逆になんで入るのかと問いたい。

「そうなのか」

「朕の役職などは秘密だが、朕の役目は継嗣を作ることだ」

朕とか言っている時点で秘密にする意思があるのだろうか。

しかしとりあえず、俺は知らなくていいことらしい。

俺は知らない。

この人が皇帝だとは知らない。

「後継ぎね」

「先祖より子孫へ伝えねばならんものがあるからな」

なんだろう。

江戸時代の名君、上杉鷹山みたいな。

国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして我私すべきものにはこれなく候、ってやつ。

国家は先祖から伝えられて子孫に残すものだから、君主が好き勝手にしていいものではないぞということだ。

朕は国家なり、とかの方が言いそうなのに。

「よく分からんが大変だな」

「朕が本格的に迷宮に入れるようになったのは、第一子が成長して十五歳になり無事成人してからだ。まだ十年にも満たん」

皇太子が十五歳になって後を継げるようになったので迷宮に入れるようになったと。

この世界では乳幼児の死亡率も高いだろう。

確実な後継者ができるまで好き勝手はできなかったらしい。

鑑定によれば皇帝は三十九歳だ。

その子どもが十年前に十五だと、現在は二十五歳。

あれ。

微妙に計算合わなくね?

「あー」

「何か不審な点でも?」

「それにしては若く見える」

「言ったであろう。それが朕の役目であると」

十四歳にしてやりまくりなのか。

妊娠期間を一年見れば、十三歳からやりまくりということになる。

十五歳で成人だからそこからだとしても、十五にしてやりまくりだ。

皇帝の十五は成人にして性人にして盛人なのか。

うらやましい。

いや。うらやましいというべきかうらやましくないというべきか。

義務としてのセックスは大変だという話は聞いた。

う、うらやましくなんてないんだからね。

「そうなのか。それにしても何故歳を取ってから入会を」

「朕などは迷宮を退治せねば存在意義はない。子どもも成人したことだから代わりはいるしな」

皇帝がどこか悲壮な決意を語る。

皇帝もいいことばかりではないようだ。

公爵夫人のカシアにしてもそうだったが、この世界の貴族はたいそう立派な考えを持っているらしい。

みんなそうなんだろうか。

「そろそろ始めようか」

悲壮な決意になんと応えるべきか戸惑っていると、エステルが戻ってきた。

ナイスタイミング。

「始まるのか」

「全員、これを着用せよ」

男爵は白い衣服を持っている。

同じものを自分でも着ていた。

ぶかぶかのTシャツだ。

鑑定すると、ダルマティカというらしい。

「ダルマティカか」

「ミチオはよく知っているな。会に伝わる装備品だ。入会儀礼の際にはこれを着ける」

エステルがダルマティカを渡してくる。

「どこかで見たような」

「うちの魔道士が着けている装備品です」

「ああ、そうだったか」

皇帝ともう一人の男が会話した。

やはりもう一人の男は皇帝の関係者のようだ。

うちの魔道士と言っているから同じパーティーなのか。

パーティーメンバーも入会できるのだろうか。

「着けたら隣の部屋に行くぞ」

「男爵よ、複数の人が同時に入会するのは珍しいと聞いたが、そうなのか?」

皇帝がエステルに尋ねる。

「そうだな。我が会長になってから複数の人が同時に入会するのは初めてだ」

はい。重大発言来ました。

エステル男爵は帝国解放会会長だったらしい。

会長なら試験官には十分だろう。

「やはり珍しいのか」

「入会に相応しい人材はそんなに多くない。三人同時というのはほとんど例がないかもしれん。二人同時というのは、知ってのとおり皇帝が入会する場合には護衛の近衛兵が一緒に入会するのが慣例だから、過去にもあったはずだが」

もう一人の男は皇帝の護衛だったのか。

近衛兵の中で一人だけ選ばれるのだから強いのだろう。

さすがに皇帝ともなれば常時護衛が必要らしい。

ここでは伯爵も男爵も護衛なしだ。

身代わりのミサンガがあるとはいえ大丈夫なんだろうか。

公爵はもうどうでもいいが。

「うむ。となれば、やはり入会の順序はミチオを先にしてもらうのがいいだろう」

何か考えていた皇帝が告げる。

「俺が?」

「朕は職業柄、人を敬うことに慣れておらん。ともすれば人を見下すこともあるかもしれん。それはよろしくないだろう。ミチオに先に入会してもらい、卿を 師兄(すひん) として敬うようにすれば、朕の驕慢の心もいささかは和らぐはずだ。三人も同時に入会するのは珍しいという。これも何かの導きに違いない」

いやいや。

言っていることはたいそう立派だが。

敬われる方の身にもなってほしい。

俺の心が和らがないだろう。

敬われる方の立場は皇帝が身をもって知っているはずなのに。

皇帝は敬われて当然だから平然としていられるのか。

「その覚悟、見事」

エステルが言祝いだ。

「やはりそうか」

「入会はミチオ、ガイウス、カルロスの順とする」

「それがよかろう」

順番が決まってしまった。

綸言汗の如し。

皇帝の発言は取り消せないのかもしれない。

というか、護衛のカルロスはあくまでガイウスの後なのね。

いつも一緒にいる護衛を敬うのではまずいのだろうか。

関係者内部で勝手にやっていてほしいものだが。

「では、準備を終えたらついて来い」

「はい」

しょうがないのでダルマティカを頭からかぶって着用し、隣の部屋に入る。

隣の部屋は、結構暗かった。

細い蝋燭が二本だけ立てられている。

白いクロスがかけられた細長のテーブルに燭台が二つあり、その向こうに公爵と伯爵がいた。

二人ともダルマティカ着用だ。

エステルがテーブルの向こうに回り、二人の間に入る。

「扉を閉めてくれ」

「分かりました」

エステルの指示で皇帝の護衛が扉を閉めると、隣から来る明かりがなくなり、部屋はさらに暗くなった。

幽玄な雰囲気だ。

蝋燭の小さな光だけがぼんやりと周囲を照らしている。

「ミチオは前へ」

「はい」

男爵の合図で、テーブルの前へ進み出る。

同時に、公爵が動いた。

テーブルの横に移動し、男爵と俺を等距離に置く。

「これより、帝国解放会へのミチオの入会式を執り行う。推薦人は推薦の辞を」

「帝国解放会会員であるわたくしブロッケンは、これなるミチオの実力と品性を認め、帝国解放会に相応しい人物であると推薦するものである。ミチオは帝国解放会に新風と競合を持ち込み、迷宮と魔物の駆除への力となるであろう」

「ミチオの実力はわたくしエステルが確認した。もしも入会に反対の者がいるならば申し出るように」

反対の者と言ってもここにいるのは推薦人と試験官の他は今日初めて会った人だ。

たぶんに儀礼的なセリフだろう。

「ミチオの入会に反対者はいないと認める」

少し時間を置いて、もう一人の立ち会い人である伯爵が発言した。

締めるのが彼の役割らしい。

「帝国解放会へのミチオの入会を認める。ミチオは、次の宣誓の言葉を復唱せよ」

「はい」

そんなのがあるのか。

「わたくしは帝国解放会会員として、努力と研鑽を怠らず、迷宮と魔物の駆除にまい進することを誓う」

「わたくしミチオは帝国解放会会員として、努力と研鑽を怠らず、迷宮と魔物の駆除にまい進することを誓う」

「また、帝国解放会内部の情報を洩らさないことを誓う」

「また、帝国解放会内部の情報を洩らさないことを誓う」

エステルの言葉をリピートして宣誓を行った。

内容的に問題のあるような宣誓でもない。

「入会式は以上だ。帝国解放会への入会を歓迎する」

「はい」

「引き続き二人の入会式を行った後、新会員には入会儀礼として、自らの性的な恥ずかしい秘密を懺悔してもらう。帝国解放会会員として強く生まれ変わるために必要な儀礼だ」

そんな儀礼までやるのか。

懺悔をして連帯意識を高めたり、会への帰属意識を持たせたりするのだろう。

イニシエーションってやつだ。

秘密ならいっぱいあるが。

「秘密か」

「帝国解放会に入会した以上、暴露された秘密を明かすことはルール違反となる。どんな懺悔をしてもこの場から洩れることはないので、安心してくれ。なお推薦人については、近すぎる場合もあるため、希望すれば席をはずさせることが可能である。後ろの二人も、入会式の間に何を話すか考えておくように」

「分かった」

「はい」

皇帝と護衛の男が返事をする。

皇帝にまで懺悔させるのか。

いっそのこと、地球から来たことを暴露してしまうか。

ここで秘密を暴露すれば、外部に洩れることなく皇帝や公爵たちだけに俺の秘密を知ってもらうことができる。

何かのときに役立つかもしれない。

ただし、異なる世界から来た、では悪ふざけとしか思われないだろう。

冒険者なのに無詠唱で魔法が使えることをばらすとか。

これならその場で検証が可能だ。

目の前で見せられたら、信じざるをえないだろう。

「自慰行為がやめられないなどの告白は聞き飽きている。こちらが認めるまで懺悔を続けさせるので、そのつもりでいるように」

そうだった。

性的な恥ずかしい話じゃなきゃ駄目か。

色魔に関連したことでもいいかもしれないが。

皇帝や公爵だけに秘密を共有してもらうことができるとして、メリットもありそうではあるが具体的にどんなものがといわれると難しい。

帝国の下部組織に迷宮と戦うための研究機関でもあったら、かっこうの研究材料として送られかねない。

懺悔するのは普通の秘密でいいだろう。