軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

入会試験

「そうなると入会試験はパーティーメンバー全員で行うのか?」

ハルツ公爵に引き合わされた試験官のエステル男爵と話を続ける。

「普通はそうだ。もっとも、特定のパーティーメンバーをはずして他のメンバーだけで試験を受けることもできる。こちらとしてはそれでもかまわないが」

「いや。全員で受ける」

あわてて否定した。

別に知られたくない人がいるという意味で質問したのではない。

パーティーメンバーを減らして迷宮に挑むのは大変だろう。

「騎士団に所属するなどしてパーティーメンバーが固定でない場合にその事情が斟酌されることもあるが、基本的に試験は普段一緒に戦っているパーティーで受けてもらう。自前のパーティーメンバーを用意できないようでは入会の資格はない」

「そのときだけ助っ人を頼むとか」

「それは認められない」

「うーん。そうか」

いくらでも不正はできそうだ。

「試験での不正はあまり考えられていない。帝国解放会は迷宮に入って戦う意志を持たない人間が入会しても何の役にも立たない組織だ。無理に入ってもしょうがない」

俺の顔色を見て取ったのか、エステルが追加で説明した。

帝国解放会では自分が会員であると吹聴することもできない。

見栄や世間体で会員になる人はいないのだろう。

だったら試験するなよという気もするが、実力の足りないやつばかりに入ってこられても困るか。

「入会試験はどうやって行う?」

「どのような戦闘をしているか、戦いぶりをまず少しだけ見せてもらう。試験会場はクーラタルにある迷宮の二十三階層だ。その後でボス部屋に行く。戦い方があまりにひどいと判断した場合にはボス部屋へ行く前に失格となることもありうる。無理にボスと戦わせてもしょうがない。ボス部屋に入っていくのを見送ったら、我らは二十四階層へ先に回る。二十四階層で無事合流できたら、合格だ」

ボス部屋には一つのパーティーしか入れないから、ボス戦は見学しないようだ。

エステル男爵が俺たちのパーティーに入ってということもないらしい。

まあ試験で推薦者もいるとはいえ、後ろからバッサリということも考えられるしな。

一人でパーティーの中に入って迷宮へ行くのは無用心だろう。

入会したくないならここでまともに戦わない手もあるが、それは難しい。

手を抜いてピンチを招き、命を危険にさらしては元も子もない。

推薦者である公爵の面子をつぶすこともできないし、帝国解放会も変な組織ではなさそうだ。

まじめに戦うべきか。

「試験はいつやるんだ」

「そちらの都合がよければ、すぐにでも」

「こっちはそれでいい」

戦いぶりを見学するそうなので魔法は使えないが、デュランダルを出したときにいつもやっていることだ。

特に演習をする必要はない。

ボス戦は見学なしなので自由に戦える。

「クーラタルにある迷宮に来れるか。もっといえば二十三階層の入り口に」

「二十三階層の入り口で大丈夫だ。クーラタルの迷宮もときには行くようにしているからな」

「では二十三階層の入り口の小部屋でこの後すぐに待ち合わせよう」

「分かった」

俺はハルツ公領内の迷宮に入ることになっているので、クーラタルの二十三階層に行ったことがあるのは本当はまずいかもしれない。

だからといって、行ったことがないと嘘をつくのもどうか。

クーラタルの迷宮で誰にも会わなかったということはない。

公爵やゴスラーに情報がいけばかえって不信感を抱かれる。

実際にもちゃんとボーデにある迷宮で探索を行っている。

無理に隠すことはないだろう。

入会試験のせいで余計なことまでばれてしまった。

多分、俺がクーラタルの二十三階層に行ったことがなかったら、入り口で待ち合わせて案内してくれるのだろう。

それもめんどくさい。

入場料を取られるし。

二十三階層の入り口で待ち合わせればタダだ。

いや。迷宮入り口から入った場合、階層入り口の小部屋には常設の黒い壁から出る。

ワープやダンジョンウォークで移動した場合には小部屋に黒い壁を作ってそこから出る。

エステル男爵が先に待っていれば、俺がどうやって移動したかが少し分かってしまう。

入り口から入場料を払って入るのが無難か。

「では先に行って待っている。ブロッケン、行ってくる」

「ああ。行ってこい」

エステル男爵がハルツ公爵に挨拶して外へ出た。

早い。

先に行かれた。

「では」

「ミチオ殿なら問題はあるまいが、がんばられよ」

「落ち着いて受けてきてください」

俺も公爵とゴスラーに一礼して追いかける。

執務室の外に出たとき、もうエステル男爵の姿は見えなかった。

急げば先にクーラタルの二十三階層に行けるだろうか。

確実に先行できるわけではないから危険か。

そんなに高いわけでもないし、リスクを避けられるなら入場料くらい払っておけばいいか。

二十二階層のボスを倒して上がれば常設の黒い壁から二十三階層に入れるが、そこまですることもないだろう。

試験の後でクーラタルの騎士団に挨拶するとか。

エステルがクーラタルの騎士団から話を聞くとか。

可能性としてないわけではない。

男爵だし役職もあるみたいだし。

入場料は払うことにして、ゆっくり落ち着いてボーデの城から家に帰る。

用ができたからと、掃除をしているロクサーヌたちを適当なところで切り上げさせた。

「帝国解放会なるものにハルツ公爵が推薦してくれるそうだ。迷宮で戦う人の相互扶助を目的とした団体らしい」

四人を前に話を切り出す。

ゆっくりでいいなら家で説明してから行けば十分だろう。

「帝国解放会?」

「実力者のみが入会を許される団体ですよね。すごいことです」

「そうなのですか」

ロクサーヌとセリーが話す。

セリーも少しは俺のことを見直しただろうか。

いや、見直すとはなんだ。見直すとは。

セリーは元から俺のことをすごいと思っていたに違いない。

間違いない。

「そうらしいな」

「さすがご主人様です」

しかし公爵は実際にはロクサーヌの戦いしか見ていない。

ロクサーヌを見たから、推薦する気になったのではないだろうか。

本当は俺よりロクサーヌを推薦したかったとか。

ロクサーヌならさもあらん。

「帝国解放会では守秘義務が課せられるそうだ。会内部で知りえたこと、誰が会員か、また俺が会員となることなども一切秘密となる。無用な情報を出して狙われることを避ける意味合いがあるらしいが」

「用意周到ですばらしいことです」

「いまさら内密にすることが一つや二つ増えたところで問題ありません」

ロクサーヌは秘密主義に賛成らしい。

そしてセリーよ。

見直したのではなかったのか。

「ひみつ、です」

「大丈夫だと思います」

ミリアが言葉を覚えてしまうほどにあれこれ秘密にしていることは確かだが。

「これからクーラタルの二十三階層へ行って、戦いぶりを見てもらう。会員としてやっていけるだけの実力があるかどうか、判断するそうだ。魔法は使わないので、魔法なしでの戦いになる。剣はベスタに渡す」

「分かりました」

デュランダルはベスタに持たせて俺は後ろから聖槍を使えばいいだろう。

俺の入会試験でそれはどうかという気もするが、かまうまい。

入会を断られてもそれはそれだ。

「二十三階層はすでに突破しているのだから神経質になることはない。いつもやっていることだし、問題はないだろう」

「もちろんです」

もちろんロクサーヌなら大丈夫だろう。

というか、ロクサーヌが不安を覚えるような戦闘は俺がやりたくない。

「今回は入場料を払って入る。まずは冒険者ギルドに行くぞ」

家を出て、冒険者ギルドにワープした。

冒険者ギルドから迷宮の入り口までは歩く。

買い物で常に歩いている程度の距離だから問題はない。

クーラタルの迷宮にワープして一度外に出てから入りなおすのは怪しいだろう。

「迷宮の攻略地図もいかがっすかー」

騎士団の詰め所では相変わらず攻略地図を売っていた。

商売熱心なことで。

あ。

地図忘れた。

「二十三階層のルートを覚えているか?」

「はい。大丈夫です」

小声でロクサーヌに尋ねると、大丈夫らしい。

やはり迷宮に関しては抜かりがないようだ。

「では入場料を五人分」

銀貨五枚を出してペラペラのチケットを五枚受け取る。

せめて三割引が効いてくれればよかったのに。

入り口から入って二十三階層に行くと、エステル男爵はすでにいた。

男爵を含めて六人いる。

エステルのパーティーだろうか。

聖騎士である男爵の他、冒険者、探索者、魔道士、百獣王、禰宜というすごい顔ぶれだ。

結構レベルも高い。

百獣王というのは獣戦士の上位ジョブだったっけ。

実際に見るのは初めてだ。

禰宜は神官の上だろう。

こっちも初めて見た。

女三人、男三人で前衛後衛のバランスも取れたパーティーだ。

かなりのベテランぞろいだろう。

さすが試験官を務めるだけのことはあるというところか。

「お、ミチオか。よろしく頼む」

入り口に到着すると、エステル男爵がすぐに声をかけてきた。

「こちらこそ」

「そちらがミチオのパーティーか」

「はい」

「我も長い間上の階層で戦ってきているので、ミチオたちに何かアドバイスできることもあるかもしれない。それを望むなら、ここからボス部屋まで何度も魔物と戦いながらゆっくりと進む。あるいは望まないなら、我らはこの先のボス部屋に一番近い小部屋で待っておく。どっちがよい」

選べるのか。

もちろんなるべく見られない方がいい。

この世界の他のパーティーがどういう戦いをしているか知らないので役に立つアドバイスをもらえる可能性もあるが、普段は魔法メインで戦っているのだし。

「どうせ装備に依存した戦いをしているし、先に行って待っててもらえるか」

「装備か。分かった」

同行を断ると、男爵があっさりとうなずいた。

適当に思いついた言い訳だが、あれでよかったらしい。

実際、装備が変われば戦い方も変わってくる。

魔法を使わない以上、デュランダルとミリアの硬直のエストック、セリーが持つ詠唱中断のついた槍に頼った戦いになるし。

「頼む」

「手の内を明かしたくないというのは誰でも考えることだ。遠慮はいらない」

他のパーティーも大同小異なのか。

戦い方を開示したくないというのは、どこの世界でも同じなんだろう。

男爵はあっさりうなずいた理由を説明し、パーティーの探索者に指示を出した。

探索者がダンジョンウォークの呪文を唱える。

黒い壁が出ると六人が入っていった。

探索者がパーティーメンバーにいたのは、このためだったのだろうか。

臨時のメンバーなのか。

レベルが高かったから、そうではないかもしれないが。

「では俺たちも行くか。魔法なしで戦ってみよう。ロクサーヌ、案内してくれ」

「分かりました」

「ベスタはこれを」

「はい」

俺たちも後を追うことにする。

見られていることはないと思うが気持ち悪いので魔法はやめておいた。

ベスタにデュランダルを渡すし、練習だと思えばちょうどいい。

待ち合わせ場所の小部屋に俺もダンジョンウォークで移動することができるが、それもやらない。

俺が冒険者だという話は公爵から伝わっているだろう。

セリーを探索者にするか、探索者だということにしておけばすむが、そこまですることもない。

あまり嘘を重ねるのはよくないだろう。

俺もちゃんとファーストジョブを冒険者にしている。

冒険者がファーストジョブなのでボーナスポイントが少しきついが、博徒までつけたセブンスジョブ体制だ。

遊び人、魔道士、魔法使いの魔法系三ジョブも、ボス戦では魔法を使うのではずしていない。

遊び人のスキルは中級風魔法のままでいい。

ロクサーヌの案内で、待ち合わせ場所まで進んだ。

途中の魔物は問題なくベスタが屠っている。

「来たか。さっき確認したが、この先、ボス部屋までの間に魔物がいるようだ。我もすぐ後ろから見させてもらう。グミスライムでなかった場合にはもう一度戦ってもらうかもしれないが、行ってくれ」

小部屋に着くと、エステル男爵から指示が出た。

俺たちが先に出て、ボス部屋に向かう。

「グミスライムとクラムシェルですね。多分一匹ずつだと思います」

小部屋を出るとロクサーヌが小声で教えてくれた。

エステル男爵は魔物がいるとしか分からなかったのに、ロクサーヌは種類と数が分かるのか。

やはりロクサーヌはすごいとしかいいようがないな。

「ありがとう。さすがだな。グミスライムの方をロクサーヌとミリアで頼む」

「分かりました」

こちらも小声で返すと、ロクサーヌがミリアに何やらささやく。

グミスライムを相手にすることを話したのだろう。

魔物が出てきた。

ロクサーヌの判断どおり、グミスライムとクラムシェル一匹ずつだ。

四人はすぐに走り出す。

俺はグミスライムに状態異常耐性ダウンをかけてから走り出した。

せっかく博徒までつけているのだし使わない手はない。

直接効果の見えるスキルでもないし。

「やった、です」

グミスライムが石化したのは、ベスタがクラムシェルを倒すのより早かった。

ちょっと早すぎただろうか。

まあしょうがない。

ベスタがクラムシェルと石化したグミスライムを片づける。

石化した魔物にダメージを通せるデュランダルの性能が男爵に分かってしまうが、それもまたしょうがないだろう。

グミスライムが煙になると、後ろにいたエステル男爵がこっちにやってきた。

「魔物を殲滅するスピードも悪くない。文句のつけようがない戦闘だ」

「よかった」

合格に一歩近づいたようだ。