軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

敗北

「コボルトのモンスターカードでございましたね。こちらにあるのは二枚。まだ他のモンスターカードは手に入れておりません」

「そうか」

武器商人の男が取引の話に応じ、モンスターカードを出してきた。

コボルトのモンスターカードが二枚だ。

他のモンスターカードもあったらと注文を出しておいたのだが、持っていないらしい。

ないというのなら多分本当にないのだろう。

ここで俺に安く買い叩かれるのは癪かもしれないが、持っていてもしょうがない。

融合に成功するかどうか分からないし。

「それと、今回のために用意したスタッフがございます。もしよろしければ安くお譲りいたしますが、いかがでしょうか」

武器商人が続いて杖を取り出す。

スタッフだ。

いらなくなったので一緒に売ってしまえということか。

今回のために用意した、かどうかは疑問だな。

聖槍を買う前から杖は用意してあったはずだし。

やはり仲買人は油断ならん。

「悪いがスタッフは間に合っている」

「さようでございますか。やはりいろいろお持ちなのですね」

「前回手に入れた聖槍もあるしな」

武器商人が持ち出したスタッフに空きのスキルスロットはなかった。

あれにモンスターカードを融合しようとすれば、失敗するだろう。

引き取ってやる必要はない。

「こんなのもあるのですが」

武器商人はスタッフを引っ込め、別の杖を取り出す。

ダマスカスステッキというらしい。

縞模様のついたステッキだ。

これには空きのスキルスロットが一つついている。

「ダマスカスステッキか」

「お分かりになられるのですか。さすがでございます。そのとおり、ダマスカスステッキでございます」

「ステッキ系の武器は足りてない。そのステッキなら、引き取ってもいい」

ダマスカスステッキというのだから、名称的にダマスカス鋼でできたステッキではないだろうか。

ダマスカス鋼の武器で空きのスキルスロットがあるものは貴重だ。

武器屋でも簡単には手に入らないし、買っておいてもいいだろう。

いらなければ何か適当なモンスターカードを融合してうっぱらってもいい。

ダマスカスステッキという武器は武器屋でも見たことがないので、危ないかもしれないが。

この武器商人が勝手に作ったとか。

あるいは縞模様を描いて外見だけ似せているとか。

いや。鑑定でダマスカスステッキと出たのだから、贋物ということはない。

「ありがとうございます。それと」

「まだあるのか」

武器商人はダマスカスステッキをテーブルに置く。

続いて、アイテムボックスからもう一枚モンスターカードを出した。

ハイコボルト?

「実は、必ずしも今回のためにというわけでもございませんが、機会があってハイコボルトのモンスターカードを所持しております。いかがでございましょう。ハイコボルトのモンスターカードにダマスカスステッキとコボルトのモンスターカードを二枚おつけします。これらとひもろぎのロッドとを等価ということで交換いたしませんか」

武器商人が提案してくる。

ハイコボルトのモンスターカードについては、知っていて当然という扱いなんだろうか。

俺は初めて聞いたが。

分からん。

どうすればいいのか。

セリーも連れてくればよかった。

「ハイコボルトか」

とりあえずうなずいて、ルークを見る。

この場で助言を得られるとすれば、ルークだ。

「モンスターカードの融合をなされているのなら、悪い取引ではないと思います。ハイコボルトのモンスターカードは、めったなことではオークションに出品されません。相場以上の価値があるでしょう。私も初めて見ました」

初めて見たと言っている割に、驚いた様子はない。

ルークと武器商人の間では予め話し合いがすんでいるという感じか。

相場以上の価値があると主張するところを見ると、相場としてはひもろぎのロッドより安いと考えておくのが妥当だろう。

ハイコボルトのモンスターカードが何のスキルになるかは分からない。

ただ、めったに出品されないということなら、手に入れておいた方がいいか。

俺なら無駄になることはない。

「うーん」

「さすがにこれだけでは条件が悪すぎましたでしょうか。では、これらに加えて、三千ナールではいかがでしょう」

俺が考え込むと、武器商人はあわてて条件を引き上げてきた。

「うーん」

「相場としてこのくらいが妥当かと存じますが」

というか、最初の条件なら三千ナールはぼるつもりだったのか。

性質悪いな。

「うーん」

「では、五千ナールではいかがでしょう」

さらに条件を引き上げてくる。

相場として三千ナールが妥当なら、相場に少し色をつけた五千ナールは最初の提案としてあってよかったくらいではないだろうか。

引っ張ってこれか。

「別にダマスカスステッキも必要というわけでもないしな」

「それでは、六千ナールでは」

「うーん」

「ではいくらならよろしいのでしょう」

「いくらといわれてもな。ひもろぎのロッドがほしいのは俺ではないし」

この取引は流すべきではないだろうか。

三割アップもおそらく効かないだろう。

というか、有効になるとすれば、売却価格の三割アップが効くのだろうか、三割値引きが効力を発揮するのだろうか。

ひもろぎのロッドを売るつもりで来たので三割アップしかつけていない。

「分かりました。モンスターカード三枚とダマスカスステッキに加えて、一万ナールをお出しいたしましょう。それと、ギルド神殿の利用料に、そちらが用意する武器商人の鑑定料も負担させていただきます。これなら文句はございませんでしょう」

最後は俺が怒られてしまった。

逆ギレかよ。

なんか納得いかない感じだ。

やはり流すか。

「最初に、相場に少し色をつけたくらいでいいとおっしゃっておられたので、このくらいなら十分かと思います」

ルークが割り込んでくる。

確かに、金に困っているわけでもないので、がめつくする必要はない。

ハイコボルトのモンスターカードもダマスカスステッキも手に入れておいた方がいいだろうし。

しょうがないか。

「まあやむをえないか。その条件でいいだろう。武器商人の鑑定は必要ない。ダマスカスステッキなのは間違いない」

取引をまとめた。

モンスターカードとダマスカスステッキ、金貨一枚を受け取る。

三割アップは効かなかったようだ。

全部アイテムボックスに入れる。

その後で、ギルド神殿に赴いた。

モンスターカードをチェックする。

鑑定があるから必要はないが、チェックなしというわけにもいかない。

どうせ利用料は向こう持ちだ。

「今回の取引はどうだったのだろう」

武器商人と別れ、待合室に向かいながらルークに尋ねた。

「悪い取引ではないと思いますよ」

「最後が少しすっきりしなかったが」

「彼も商人ですから、利のない取引はしないでしょう。別に怒ってはいないと思います」

逆ギレさえも演技ということだろうか。

仲買人恐るべし。

というか、武器商人が逆ギレしてルークがなだめ役というのは、考えてみれば完全にヤクザか悪徳商法の手口だよな。

あるいは警察が自供を引き出すためのテクニックだ。

つまり、ヤクザも警察も同じということだな。

俺なんかでは太刀打ちできそうもない。

がんばればもっといけたのだろうか。

まあ相場に少し色をつけたというのは嘘ではないだろう。

しょうがない。

今日のところはこれくらいで勘弁しといてやろう。

「予備まで手に入ったので、コボルトのモンスターカードの注文はいったん取り消す。もっと安く手に入るようなら落札してくれてもいいが」

「分かりました」

コボルトのモンスターカードの注文を取り消して、家に帰る。

モンスターカードを取り出し、イアリングも準備した。

「セリー、モンスターカードの融合、いけるか?」

「はい。大丈夫です」

革のミトンを作ってぐったりしていたのはやはりMPの使いすぎではなかったようだ。

というか、MPの使いすぎだったら融合ができなくなるところだったのか。

危なかった。

回復薬を使うとか、手はあるが。

「ハイコボルトのモンスターカードというのを知ってるか?」

「コボルトの最上位種が残すモンスターカードですね」

セリーはハイコボルトのモンスターカードについて知っているらしい。

「やっぱり他のモンスターカードと一緒に融合するのか?」

「そのようです。ただし、通常のモンスターカードと一緒に融合するとコボルトのモンスターカードと一緒に融合したときより強力なスキルになる、という説もありますが、確実な成功例はないようです」

「ないのか」

思わず突っ込んでしまった。

ひょっとしてカスをつかまされたのではないだろうか。

「コボルト以外の魔物も最上位種は別のモンスターカードを残すとされています。こちらの最上位種のモンスターカードとハイコボルトのモンスターカードを一緒に融合した場合には成功例が報告されています」

「そういう使い方をするのか」

「逆に、最上位種のモンスターカードだけで融合に成功したという例もあまりありません。最上位種のモンスターカードの融合にはハイコボルトのモンスターカードを一緒に融合する必要がある、という意見もあります」

使用条件があるわけか。

確かに最上位種がカスカードを残すとは考えにくい。

条件が合えば、強力なモンスターカードなのだろう。

ハイコボルトのモンスターカードは他の最上位種のモンスターカードと一緒に使うと。

つまり、ハイコボルトのモンスターカードを使うためには、他の最上位種のモンスターカードを手に入れなければならない。

あの武器商人からしてみれば、ていのいい厄介払いだ。

今回はやられっぱなしのような気がする。

「まあ最上位種のモンスターカードもいつかは手に入れることがあるだろう」

「ええっと。最上位種のモンスターカードを融合することは鍛冶師ではできないのではないかという説があります」

セリーが申し訳なさそうに伝えてきた。

「駄目なのか?」

「鍛冶師では融合に成功した確実な例がありません。最上位種のモンスターカードを融合できたのは、鍛冶師より上級職である 隻眼(せきがん) というジョブに就けた者たちだけです」

「隻眼か」

「本来は目をやられてしまうほどの回数鍛冶を行った者に対する称号だとされています。それほどの長い時間鍛冶を行った者だけが得られるジョブです」

隻眼とはなんかかっこいいな。

竜騎士もびっくりだ。

確かに、鍛冶師のスキルを使うときには手元が光る。

あれを毎回見続けていたら目も悪くなりそうだ。

「あれは目に悪そうだもんな」

「実際にはジョブが隻眼になっても視力を失ったりはしないそうですが」

しないのかよ。

まあジョブが変わったくらいで目が見えなくなったのでは大変だ。

ジョブを元に戻せば視力も元に戻るのかという話だよな。

「今回はヤギのモンスターカードとコボルトのモンスターカードをイアリングに融合してくれ」

「はい」

イアリングとモンスターカードをセリーに渡した。

ハイコボルトのモンスターカードは、使わない方がいいだろう。

多分失敗すると考えた方がいい。

普通のモンスターカードと一緒に融合できるかどうか分からない上に、鍛冶師のセリーに扱えるかどうかも分からない。

リスクが大きすぎる。

ひもろぎのロッドはすでに手放してしまったのだから、知力二倍のスキルを確実に手に入れることが先決だ。

セリーがモンスターカードを融合した。

手元が光り、ひもろぎのイアリングが残る。

ちゃんと知力二倍のスキルもついていた。

「成功だ。さすがセリーだな」

「ありがとうございます」

セリーからひもろぎのイアリングを受け取る。

左耳につけてみた。

鑑定してみるが、やはり有効にはならない。

身代わりのミサンガをはずさないと駄目か。

アクセサリー装備は、最初につけた一個だけしか有効にならないらしい。

イアリングを両方の耳につけても、二つ有効にはならないだろう。

身代わりのミサンガをはずし、イアリングを着けなおす。

身代わりのミサンガをはずすのは怖いが。

まあ俺は後衛職だ。

後ろで魔法を撃っているだけならそこまで危なくはないだろう。

身代わりのミサンガが発動したことは今まで一度もないし。

MPを回復するためにデュランダルを持って前に出るときが心配か。

そのときには身代わりのミサンガを着けなおした方がいいかもしれない。

めんどくさい。

めんどくさいが、身代わりのミサンガを着けておけばよかったと後悔する羽目には陥りたくない。

身代わりのミサンガがあればよかったと後悔するということは、身代わりのミサンガではなく俺がその攻撃を受けたということだ。

それはまずい。

あかねさす 紫野行き あの世行き

面倒故に 我着けめやも

ひもろぎのイアリングには空きのスキルスロットがまだ二つある。

早く芋虫のモンスターカードを手に入れて融合するべきだろう。