軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イアリング

朝食を取った後、帝都に移動する。

冒険者ギルドの壁にワープし、外に出た。

「服屋へ行って、昨日見たような服を作ってもらおう」

「巫女のですね」

全員に告げると、ロクサーヌが代表して反応する。

「わ、私は……」

セリーはすでに巫女のジョブを持っているから、いらないんだよな。

しかしセリーだけなしというわけにもいかない。

「大丈夫だ。セリーは滝行をしたことがあるのだし、いろいろ教えてくれ」

「は、はい」

納得させて、店に入った。

いつもの男性店員がすぐに迎える。

「いらっしゃいませ」

「昨日の巫女を志願する者の服、あれを四人に作ってもらうことにした」

「ありがとうございます。寸法などは分かっておりますが、確認のために軽くチェックをさせてください」

「頼む」

四人が奥へと連れて行かれた。

個人情報はばっちり押さえられているようだ。

この店なら貴族令嬢のスリーサイズとかも全部知っているに違いない。

宝の山だな。

「仕立て上がりに五日ほどお時間を頂戴いたしますが、よろしいでしょうか」

「分かった」

「布地は絹を使いますので、一着千五百ナールほどになります。四着で、昨日お勧めしたばかりの商品をご購入いただけるのですし、特別サービスで四千二百ナールとさせていただきましょう」

千五百ナールは高いのか安いのか。

なんかよく分からなくなってきたな。

金銭感覚が麻痺しつつある。

円ではなくナールなので、ないといえば最初からないが。

衣装を頼んだ後は、迷宮に入って探索した。

探索は順調だ。

いや。堅調かどうか、本当のところはボス部屋に到達してみないと分からない。

軽快に進んではいる。

遊び人のジョブを獲得したことで、魔法を今までの二倍の速度で放てるようになり、戦闘時間も一気に短くなった。

これで順調じゃないというのなら、何が順調なのか、という感じだよな。

文句のあろうはずがない。

昼に休息を取り、午後も迷宮に入った。

「そろそろ夕方近いですね」

「よし。じゃあ帰って実験するか」

ロクサーヌが時間を告げたので、探索を終了する。

遊び人のスキルは、再設定できるようになるまでに時間がかかるので、簡単に試すことができない。

一日の終わりにテストしてみるのがいいだろう。

最後にテストするなら、遊び人のスキルをどういじっても問題はない。

「実験ですか? 風呂を入れるのでは」

ロクサーヌには、風呂を入れるから早めに終えると言っておいた。

「まあ風呂を入れる実験だ」

「連続で使えるようになったからですね」

セリーは俺が何の実験をするか大体分かるらしい。

単に魔法が連続で使えるようになったから試してみるだけだしな。

風呂を入れる時間が短くなるだろう。

「風呂、です」

「はい。楽しみですね」

ミリアとベスタは、純粋に喜んでくれているようだ。

夕食の食材を買い、家まで戻ってくる。

家に帰ると、玄関の下にメモがはさんであった。

仲買人のルークからか。

「ご主人様、ルーク氏からの伝言です。ヤギのモンスターカードを落札したそうです。五千五百ナールですね」

「お。ヤギか」

ヤギのモンスターカードは知力二倍のスキルになる。

現状でも割と順調なのに、さらなる強化になるな。

次の二十三階層からはもう一段上の魔物が出てくるだろうから、強くなっておくにこしたことはない。

「知力上昇ですね」

「そういえば、アクセサリーにもつけることができるんだっけ?」

「そうです」

つぶやいたセリーに確認する。

知力二倍のスキルはアクセサリーにつけることもできる。

アクセサリーにつける手もあるのではないだろうか。

今は順調に戦えているので、強化は喫緊の課題ではない。

身代わりのミサンガは予備まで作ったので、次はぜひ他のアクセサリーに手を伸ばしてみたい。

アクセサリーと武器の両方に知力二倍をつけて知力四倍にすることは無理らしいが、ひょっとしたらできるかもしれないし。

アクセサリーにつければ、ボス戦でデュランダルを出して戦いながら魔法を使う作戦も視野に入れられるだろう。

「いずれにしても受け取りに行くのは明日か。あ、いや。セリーも一緒に今来てくれ」

「はい」

「ちょっと行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

ロクサーヌたちを家に残し、セリーと二人で商人ギルドにワープした。

知力二倍のスキルをつけようにも、コボルトのモンスターカードがない。

ルークに頼んではいるが、まだ落札したという連絡はなかった。

「コボルトのモンスターカードの落札価格を見てもらえるか」

「分かりました」

商人ギルドの待合室で、セリーに落札価格を調べてもらう。

待合室にはオークションの結果が載ったノートが置いてある。

セリーがパピルスのノートをめくった。

「どうだ?」

「ヤギのモンスターカードが今日五千五百で落札されていますね。コボルトのモンスターカードは、昨日が五千二百。その前は、ええっと、ありました。四日前で五千二百になっています」

ヤギのモンスターカードはきっちり五千五百のようだ。

発注どおりの金額でしか落札しないらしい。

コボルトのモンスターカードは、前回も前々回も五千二百か。

なんか嫌な予感がするな。

前にMP吸収のスキルがついた武器をほしがっていたところが五千二百で買いあさっていた。

誰かがまた買い注文を出しているのだろうか。

同じくらいコボルトのモンスターカードを欲していれば、同じくらいの値段になるだろうし。

可能性はある。

その日はすぐ家に帰った。

風呂を入れなければならない。

遊び人のスキルには初級火魔法をつけ、風呂桶の上にウォーターウォールとファイヤーウォールを連続で出してみる。

「あちっ」

風呂桶に落ちた水に手をつけてみると、普通に熱かった。

成功だ。

思ったよりうまくいった。

ちゃんと熱湯地獄になっている。

ウォーターウォールとファイヤーウォールでお湯を作り出していく。

水を作るのと温めるのを同時にこなすので、かなり楽になるな。

これならもっと頻繁に風呂に入ってもいい。

ただし、使用するMPの量は減っていないので途中で回復が必要なのは変わらない。

むしろファイヤーウォールになって効率は悪くなったかもしれない。

入れはじめてすぐに、MP回復のためにロクサーヌを連れて迷宮に行った。

壁魔法は大体の場所を指定するだけなので、二つの魔法の出現位置をきっちり合わせられないんだよな。

ときどき結構ずれたりする。

訓練すればもう少しうまくなるだろうか。

もう一つ失敗したのは、遊び人のスキルを火魔法にしたことだ。

水魔法にしておくべきだった。

結構な熱湯になるので、水で薄める必要がある。

そのためにウォーターウォールの方が使用回数が多い。

まあしょうがない。

こんなにうまくいくとは思ってなかった。

次から水魔法にすればいいだろう。

食事の後、全員で風呂に入る。

身体を洗ってからお湯につかった。

風呂桶の中でロクサーヌを抱き寄せる。

セリーももっとこっちへ来なさい。

両手でロクサーヌとセリーを抱えた。

足元には、ミリアとベスタ。

お花畑の中にいるようだ。

ミリアは楽しそうに浮かんでいた。

ベスタも……浮かんでいる。

やはりお風呂から実験してみることにしてよかった。

正義は勝つ。

遊び人のスキルとしては、クリティカル発生やレア食材ドロップ率アップも試してみたくはある。

遊び人と、博徒や料理人とつけて重複するかどうか。

ただ、それはすぐに必要というわけでもない。

重複したところで確率が十倍になる、なんてことはないだろうし。

あと試すとすれば、色魔の精力増強が重複するかどうかか。

精力増強が重複すると、禁欲攻撃の威力が上がるだろうか。

禁欲攻撃の威力が溜まった性欲に比例するとして、精力増強を二つつけると二倍の速さで溜まるとか。

あまり試したくはない。

性欲を溜めるのも大変なので。

現状、精力増強は一つで困っていない。

無理に試すこともないだろう。

風呂を上がってからも、もちろん一つで困ることはなかった。

翌日、朝食の後で商人ギルドへ行く。

ルークを呼び出し、会議室に入った。

「聖槍を交換した仲買人のことを覚えておいででしょうか」

ルークがヤギのモンスターカードを取り出す。

ちゃんとヤギのモンスターカードだ。

まあしっかり落札していたしな。

「本家の嫁に貴族の娘を迎えたとかいう男だな」

「実は今回競りかけられそうになったのですが、引いてくれました。その代わり、もしヤギのモンスターカードで知力二倍のスキルの融合に成功したら、譲っていただきたいそうです」

「知力二倍か」

「何かお約束がありそうでしたので、無理かもしれないとは伝えたのですが」

ヤギのモンスターカードは一枚だけ発注した。

その言い訳に適当なことを述べたんだっけ。

なんと言ってごまかしたのか、もう覚えてない。

「あー。うん」

「もしくは、あまっているコボルトのモンスターカードがあれば買い戻したいと」

「うーん」

あの仲買人からコボルトのモンスターカードを二枚買っている。

あまっていたら買い戻したいというのは分かる。

しかし使ってしまって俺の手元にはない。

ないと断ってもいいものだろうか。

意地悪していると取られかねないのでは。

「あの仲買人はすでにコボルトのモンスターカードの入札も再開しました。現在ご注文もいただいておりますが、五千ナールではしばらく落札は難しいかと思います」

コボルトのモンスターカードを五千二百で落札したのはあの仲買人らしい。

それなら値段も一緒になるはずだ。

「コボルトのモンスターカードか」

「MP吸収のスキルがついた武器を約束どおり入手し、時期も早く種類もスタッフだったことから、相手方の貴族の覚えもめでたかったようです。それで、他に魔法使いの使える武器が手に入るようならという話になったそうで」

貴族にゆすられているのか。

強欲な貴族というべきか、それくらいでないと貴族はやっていけないというべきか。

せっかく魔法使いにした子女を仲買人の一族に渡すくらいだ。

貴族といっても苦しいのかもしれない。

「今回は、MP吸収じゃなくてもいいのか」

「はい」

「スタッフじゃなくても?」

「魔法使いの使える武器であれば、ということのようです。相手は貴族ですので、あまり貧弱なものでも困りますが。ですから、知力上昇でなく知力二倍であれば、とのことです」

さて、どうするか。

仲買人が武器を調達するまで、コボルトのモンスターカードの値段は上がったままだろう。

その他、魔法使いの武器に有効なカードも全滅だ。

ヤギのモンスターカードはもういいが、はさみ式食虫植物のモンスターカードが入手しづらくなるのも痛い。

コボルトのモンスターカードも、もうありませんでは変な解釈をされる恐れがある。

ゼロ回答は避けたい。

「俺の手元にひもろぎのロッドがある」

「お持ちなのですか?」

「そうだな。コボルトのモンスターカードを一枚以上つけてくれるなら、売ってもいい」

ヤギのモンスターカードは今買ったから、コボルトのモンスターカードがあれば知力二倍のスキルをつけることはすぐにできる。

「ひもろぎのロッドですか」

「あと、今回他に用意できたモンスターカードがあったら、安く譲ってくれるとうれしい」

「魔法使い用の武器ですが」

「はさみ式食虫植物とか、有用なのもあるしな」

一瞬あせったが、大丈夫だろう。

「なるほど。巫女もいらしたのでしたね」

大丈夫のようだ。

「ひもろぎのロッドについては、特に恩を売るつもりはない。相場に少し色をつけたくらいの値段であれば、こちらとしては十分だ」

「分かりました。ではその旨を伝えましょう」

アクセサリーに知力二倍のスキルをつけてひもろぎのロッドと効果が重複するか試すことはできなくなるが、しょうがない。

元々駄目だっていう話だし。

ルークと話をつけ、帰る。

その後、防具屋でアクセサリーを見てみた。

防具屋に並んでいる中では、イアリングが最高品質のアクセサリーのようだ。

空きのスキルスロットが一番多いもので三つある。

イアリングか。

俺が着けても大丈夫だろうか。

別にイアリングをする男は軟弱だとか思っているわけではない。

しかし、日本にいるときの俺がイアリングなんかしたら、絶対に鼻で笑われただろう。

笑われることもなく無視されたかもしれないが。

「イアリングを俺が着けても問題ないか?」

「もちろん問題はありませんが?」

「や、やはりいいアクセサリーの方が防御力が大きいか」

「アクセサリーは主に魔法に対する防御を上げてくれます。よい装備品の方がもちろん防御力も大きいでしょう」

セリーに尋ねると不思議そうに教えてくれた。

魔法防御力が上がるのか。

それはま、イアリングに物理的な防御力はないわな。

そこら辺りは魔法でなんとかしてくれるのかとも思ったが、そうでもないらしい。

ちゃんと効果があるならイアリングでもいい。

ピアスでないだけましと考えるべきか。

装備品だから、この世界ではアクセサリーは女性が着けるものという考えもないのだろう。

ロクサーヌたちはキラキラした目でイアリングや指輪を選んでいるが。

ロクサーヌが商品を選ぶときはいつもあんなものか。

か?

「これなんかキラキラしてていいですね」

「きれい、です」

「それは可愛いと思います」

三人の選ぶ基準がおかしい。

しかし、幸いなことに空きのスキルスロットが三つある。

一つはあれでいいだろう。

「これなんてどうだ」

「うーん。そうですねえ」

「こっちは」

「それは悪くないかもしれません」

もう一つ、空きのスキルスロットが三つあるイアリングをロクサーヌの賛同を得て選ぶ。

二つ買うのは三割引のためだ。

他のとどこが違うのか、俺にはよく分からん。