軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

記憶力

吸精のスタッフを持って商人ギルドに飛ぶ。

仲買人の二人は待合室で待っていた。

俺が杖を手に持っているのを見て、安堵している。

こっちはこっちで俺が戻ってこないので心配していたのか。

世に心配の種は尽きまじ。

セリーに融合してもらったので、多少時間はかかっている。

MP吸収のついたスタッフを用意できないので逃げ出したとでも思っていたのだろう。

セリーといいこいつらといい、失礼なやつらだ。

「悪い。ちょっと探すのに手間取ってな」

「では、部屋に戻りましょう」

会議室に入り、武器商人の男に吸精のスタッフを渡した。

男が武器鑑定の呪文を唱える。

「確かに吸精のスタッフです。間違いありません」

「そうだろう」

間違いのあろうはずがない。

「MP吸収のスキルがついた武器の名前は、吸精になります」

「吸精か。覚えた。記憶力はいい方だ」

「傷もなく、状態もいいようです。取引に何の支障もありません。それではこちらを」

男がさらに別の呪文を唱え、アイテムボックスを開いた。

中から聖槍を取り出す。

ちゃんと空きのスキルスロットが五個ある。

取り替えたりはしていないようだ。

「聖槍の確認はどうしましょうか。私とは仲買人同士なので贋物を渡したりしない取り決めになっておりますが。もしよろしければ私が知り合いの武器商人を呼んでまいります」

ルークが提案した。

俺はあれが聖槍だと鑑定で分かるが、普通は分からない。

確認をする必要があるのか。

武器商人ならここにもいるが、売り手側だ。

ではルークの知り合いなら信用できるのか。

知り合いの武器商人と売り手が結託している恐れもある。

ルークだって仲買人仲間なのだから、手を組む可能性はある。

疑えばきりがない。

「そこまですることはない。あの形、あの輝き。オークション会場で見初めた聖槍に間違いはない。記憶力はいい方だ」

「問題ないというのであればよろしいですが」

「きちんと買い取るときに確認はしたのだろう?」

男に質問する。

バラダム家の出品者から買い取るときに武器鑑定で確認を取ったはずだ。

ルークが話を持っていったのは買い取った後だから、バラダム家とこの仲買人がつるんでいることはない。

「もちろんです」

「であれば問題はない」

聖槍を受け取った。

ちゃんと空きのスキルスロット五つつきの聖槍だ。

面倒だが呪文を唱えてアイテムボックスを開き、中に入れる。

男も自分のアイテムボックスに吸精のスタッフをしまった。

「堂に入った態度、恐れ入りました。私が武器鑑定したときにもまったく驚いておられませんでしたし、見事なものです。よい取引をさせてもらいました」

「そうか」

武器商人だということは分かっていたからな。

いきなり武器鑑定をしたのは驚かせようというつもりもあったのだろうか。

「それでは、私はこれで」

男がルークとも挨拶を交わし、立ち去ろうとする。

「あー、その前に。はさみ式食虫植物かコボルトのモンスターカードを持っていないか」

「モンスターカードですか。所持しておりますが」

やはりあるのか。

MP吸収のスキルをつけるには二つのモンスターカードが必要だが、オークションにそろって出てくるとは限らない。

両方集まれば融合で使ってしまうだろうが、それまでどちらか一枚は手元に持っているはずだ。

「吸精のスタッフが手に入ったのだ。それはもう必要ないのではないか」

「確かにそうですね」

「取引のついでに、モンスターカードを買わせてもらえないだろうか」

「なるほど。もちろん使い道がないではありませんが、大変なのも事実です。高値で落札したので、オークションに出すとしても逆ザヤになることは覚悟しておりました」

男は俺に告げながらルークを見た。

ルークが「私ならかまいません」と言ってうなずく。

勝手に取引するのは客を奪うことだという解釈もできなくはないのか。

仲買人の結束は固いようだ。

「どうだ」

「はさみ式食虫植物のモンスターカードは使ってしまったのでありませんが、コボルトのモンスターカードは予備のものを含めて二枚所持しています。そうですね。一枚四千ナールということでよろしければ、お譲りいたしましょう」

「二枚とも買わせてもらおう」

二枚あるのか。

さらにラッキー。

「ありがとうございます。こちらとしても助かります。今日はもう遅いので、取引は明日の朝でいかがでしょう」

「分かった」

「それでは」

モンスターカードを持ち歩いてはいないらしい。

アイテムボックスに入れとけばいいのに。

取引の日取りを決め、男が部屋を出て行った。

「勝手に取引をして悪かったな」

「いいえ。利にさとい者であればむしろ当然のこと。何の問題もありません」

「そうか」

二人になってから、ルークに謝っておく。

「彼の家は指折りの豪商として知られています。本当に確認なさらなくてよろしかったのですか」

「必要ない」

「あの者の家の実力は相当のものだと聞いておりますが」

「大丈夫だ」

「さようですか。やはりさすがでございます。腕には相当の自信をお持ちなのですね」

「まあな」

と言ってから気づいた。

あー。

そういう意味か。

どうも会話が噛み合っていないような気はした。

俺は鑑定で分かるから問題はないが、鑑定を持っていない普通の客ならどう動くか。

誰がどこまで信用できるか分からない状況で確認するのは大変だ。

それよりは事後報復を考える方が合理的だろう。

つまり、贋物をつかまされたら仕返しをすればいい。

月夜の晩ばかりではないということだ。

この世界に月夜はないが。

別に闇夜でなくても、俺は自由民だから決闘が使える。

だまされたなら合法的に復讐できる。

この世界ではそういう考えが普通なんだろう。

ルークがモンスターカードの贋物を持ってこないのも、報復を恐れてのことか。

ただし、向こうの家は豪商だ。

こちらから決闘を申し入れた場合、相手は代理の者を立てることができる。

金持ちなら強いやつも抱えているだろう。

それなのに仕返しできるのかと。

もう大丈夫だと言ってしまったのでしょうがないが。

「かなりの家だとは聞いておりましたが、これからますます力をつけてくるのでしょう。MP吸収のスキルがついた武器はそのためだったのですね」

「そのようだな」

どのようだが分からないが。

「モンスターカードの融合は前からやられていたのですか」

ルークが訊いてくる。

そういえば、MP吸収のスキルがついた武器は作らせたと答えたのだった。

はさみ式食虫植物のモンスターカードはルークからは買っていない。

ルークと取引する前に作らせていたと考えるのは穏当だろう。

取引する前からやっていたのだとすれば、長く融合を続けているかもしれない。

長い間融合を行い、今もルークに注文を出し続けている。

それだけの腕があれば、今後の取引にも期待できる。

関心を引くのは当然か。

MP吸収のスキルがついた武器をほしがったあの男のように、特定のスキルがついた装備品を求める客は多いだろう。

うまく俺を利用できれば、ルークには大きな利益となる。

俺にも多少の余禄は入るが。

「まあ融合は失敗が多くてな。なかなかうまくはいかん」

「さようですか」

適当にごまかした。

あまり便利に使われてもな。

依頼を百パーセント成功させるわけにはいかないし、失敗すればトラブルの元になる。

モンスターカードや装備品のことでルークとは今後も取引を続けるだろうが、あくまでギブアンドテイク、持ちつ持たれつの関係が望ましい。

白魔結晶ができる前だったらよかったかもしれないが。

白魔結晶を換金した今となっては、お金に困るような事態はそうは考えられない。

お金がないときにはうまい儲け話はなく、お金に困らなくなったら儲け話が出てくる。

うまくいかないものだ。

「とはいえ、はさみ式食虫植物のモンスターカードはこれで買いやすくなるだろう。手に入りそうだったら狙ってみてくれ」

「かしこまりました」

ルークには、はさみ式食虫植物のモンスターカードを注文した。

買いあさっていたところが買わなくなるのだから、値段も落ち着くだろう。

注文を出して、家に帰る。

「貴族の間では、結納にスキルのついた装備品でも贈る習慣があるのか?」

三人が作った夕食を取りながら、セリーに訊いてみた。

吸精のスタッフは、結納にでも使うみたいな話だった。

ハルツ公もカシアの実家に決意の指輪を贈っているし。

「貴族のことまではよく知りません。聞いたことはありませんが」

「MP吸収のついた武器を公女を娶るのに用意するとか言っていた」

「ああ。なるほど。そのためですか」

どのためなんだろうか。

セリーには分かるらしい。

「公女ってのはどっかの令嬢のことでいいんだよな」

「貴族の令嬢ですね。魔法使いなのでしょう。MP吸収のスキルがついた武器は、その女性が使うのだと思います」

「嫁のためなのか」

結納じゃないようだ。

結婚指輪みたいな感じだろうか。

「力をつけてくるでしょう」

「そこまで分かるのか。さすがセリーだ」

ルークと同じことを言っている。

「ご主人様、負けていられませんね」

「まあ負けるつもりはないが」

ロクサーヌに返した。

「えっとですね。魔法使いがいるパーティーは殲滅力が高くなります」

俺が理解していないことに気づいたのか、セリーが説明してくる。

「そうだな」

「逆にいえば、迷宮で活躍しようと思ったならパーティーには魔法使いが必須です」

「そうだろう」

「しかし魔法使いは誰もがなれるものではありません。魔法使いになれるのは貴族や大金持ちの子どもに限られています」

自爆玉を使うのだったか。

確かに魔法使いになるのは大変らしい。

「そう聞いた」

「ただし、一から魔法使いを育てようとしても、なれるのは乳幼児だけ。一流の魔法使いまで育てるのに何十年もかかってしまってしまいます」

「分かる分かる」

「期間を短縮する一番の方法は、魔法使いを嫁にもらうか婿に獲るかすることです。公女を娶って、MP吸収のついた武器を求めているということは、迷宮での活躍に必須な魔法使いが手に入ったということなのです」

なるほどね。

MP吸収のついた武器を使う魔法使いがいるなら活躍できる、ということか。

「だから力をつけてくるというわけか」

「そういうことです」

「別に競っているつもりはないが、大丈夫だろう。代わりにもっといい武器を奪ってきたし。これだ」

アイテムボックスから聖槍を出した。

「槍ですか」

「槍ですね」

「槍、です」

「セリーが言っていた、魔法が強くなる槍だ」

セリーに聖槍を差し出す。

「聖槍ですか? 確かに言いましたが、よく覚えていますね」

「記憶力はいい方だと言っただろう」

今夜はセリーの記憶力がなくなるまで責め立ててやろう、と思う吉宗であった。

暴れん坊だけに。

「聖槍だとすると、かなり貴重なものだと思いますが」

セリーがおっかなびっくり受け取る。

「セリーが融合してくれた武器との交換で手に入ったからな。セリーのおかげだ」

「初めて見ます。本当にあるんですね」

見たことなかったのか。

まあ博物館や展示会があるわけではないし、そんなものか。

俺だってテレビでしか見たことがないものはいくらでもあるだろう。

翌朝、迷宮に入って聖槍の使い勝手を確かめる。

昨夜のことは、俺の記憶力がなくなるまで責め立てたので覚えていない。

朝起きたらフィフスジョブが色魔だったので、確かに責め立てたはずだ。

聖槍は、ひもろぎのロッドに比べればさすがに少し落ちるか。

それでもたいしたものだ。

スキルのついていない状態で少し落ちるなら、知力二倍のスキルをつければすごいことになるだろう。

「俺はロッドを使うし、詠唱中断のついた槍も必要だし、しまっておくしかないというのがちょっともったいないくらいだな」

「そうですね。ミリアに使わせるのは片手剣の形が崩れそうで怖いですし、私が使うのも間合いが変わるのでやりにくそうです」

ロクサーヌやミリアに使わせるのも難しそうか。

「クラムシェルだけが相手のときには詠唱中断は必要ありませんが、ケトルマーメイドやビッチバタフライがいれば必要です。持ち替えて聖槍を投げ捨てるようなことはやりたくないです」

セリーに二本の槍を持たせ、使わない方は投げ捨てるという作戦もあるとは思うが、それも大変らしい。

聖槍はおとなしくアイテムボックスにしまっておこう。