軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48. 極上の昼寝

「それでですね、そのデザイナーさんとリラが意気投合して、すっごく素敵なドレスのデザインができあがったんですよ。ドレスの完成が楽しみです。あっ、そうだ、そのレースがこの森の魔蚕の素材を使ってできているので、ハーリアルレースという商品名になったんです。事後承諾で申し訳ないんですけど、ハーリアル様の名前を使っても大丈夫ですか?」

「グルルゥ」

高位貴族との商談を終え、いったん一山超えたという事で、今日は久しぶりのお休みを頂いたので、騎士学校に行っているカインの目を盗んでハーリアルのところへ遊びに来ている。

「すぐに遊びに来ると言っておったのに! 待ちくたびれたぞ! 会わなかった間の土産話をたっぷり聞かせてくれないと許さないからな!」

久しぶりに会った森の主様は、忙しくて会いに来れなかったことにご立腹で、「うそつき!」とぷんぷんしていた。

「ごめんなさい。新しく始めた事業が忙しくて中々お休みが取れなかったんです。今日はこの間のお礼にブラシを持ってきました。ミルはブラッシングが大好きなので。良かったら、ハーリアル様にもブラッシングしていいですか?」

そう言って持参したミルのものよりかための猪毛でできている大型犬用の大きめのブラシを取り出すと、機嫌がすぐに直り「我、ブラッシングなんてはじめてだ!」とわくわくした様子ですぐさま獣化し、はやくはやくと目で急かされた。

たっぷりの土産話をご所望だったので、ハーリアルのふかふかの毛皮を梳かしながらここ最近にあった出来事を順に話していった。

本当に色々あったので、話題は沢山ある。

獣形態だと人語を話せないようなので事業の話がお気に召したかはわからないが、ブラッシングを始めると喉をゴロゴロ鳴らしてぐでーんと溶けていたので気持ちはよさそうである。

ミルはというと、ハーリアルにも慣れてきたようで、今は側で丸くなってお昼寝している。

この姿でこうして並んでくっついている姿を見るとホワイトタイガーの親子のようだ。

最近は本当に怒涛の日々だったので、木漏れ日の中、花畑でもふもふの毛づくろいをしていると、とても癒される。こんなに穏やかな時間を過ごしたのは久々だ。

今日、いい天気で良かったなぁ。

一連の出来事を話し終えるころには白い毛皮がサラサラのツヤツヤになっていた。

人型に戻ったハーリアルも、毛皮はないはずなのになんだか肌つやが良くなっているような気がする。

そこら辺、連動しているのだろうか。

「ブラッシングというのは、いいな。とても気持ちがよかったぞ。土産話もとても面白かった。商売のことはよくわからぬが、我の名前がついた商品というのがとてもいい。ハーリアルレースというのがどういうものなのか、我も見たいぞ!」

大変ご満足いただけたようで、ハーリアルは恍惚とした表情でむふーっと息を吐いている。

ハーリアルレースは次に来るときに持ってくると約束した。

「時にリリー。其方は歌や踊りはやらぬのか? 楽器でもいいぞ。我はそういった楽しいものが好きなのだ」

ふと思いついたようにハーリアルが言った。

確かに好奇心旺盛なこの主様はそういったものが好きそうである。だが、こと芸術方面において私のセンスは壊滅的なのだ。

そのような期待を込めた目で見ないでいただきたい。

「すみません。私、歌も踊りも楽器もできないんです。そういうの、本当に苦手で。お見せできなくて、ごめんなさい」

正直に伝えると、ハーリアルはしゅんと肩を落とした。

前にも見たことがある、こちらの罪悪感を刺激する傾国の憂い顔である。

「そうか……。苦手であれば仕方がないな。以前人の子が開いた宴に参加した折、歌や踊りが見事で、気に入っていたのだ。久しぶりにまた見たいと思ったのだが……」

宴で歌や踊りを披露するようなプロの人と同じものを求めるのはやめてほしい。

恥を忍んでお遊戯会レベルのものを披露してがっかりされるのがオチだ。

「すみません。歌や踊りはできないんですけど、私は商人です。新しい商品を生み出して売るのが私の仕事なので、誰も見たことのない新しいものを見せる事ならできますよ。今日は私がお兄ちゃんと考えたハンバーガーというものを持ってきました。ちょうどお昼時ですし、今から一緒に食べませんか?」

鞄から茶色のしっぽ亭のロゴマークの入った紙袋を取り出して手渡した。

耳としっぽがピーンと立った幻覚が見えるほどにハンバーガーに興味津々なのがわかる。

機嫌がころころと変わる子供みたいな人だなぁ。

「おお! これはうまいな! このようなものは初めて食べたぞ! これをリリーが作ったのか? リリーはすごいのだな」

「今食べているこれを料理したのは私じゃないんですけど、最初に考えたのは私とお兄ちゃんです。うちの家はご飯屋さんなので」

持ってきた敷物に並んで腰を下ろし、日の光が水面にキラキラと反射する湖を眺めながら皆でハンバーガーランチだ。

ザ・ピクニックといった雰囲気である。

ミルの分も持ってきたので渡したら、はぐはぐと食べ始めた。グルメなミルの舌にも合ったようで何より。

それからも取り留めのない世間話を続けたが、ハーリアルはどんな話も楽しそうに聞いてくれた。

この森の主様は、意外と聞き上手なのだと初めて知った。

「最近よくうちの店にくるレオンという男の子が動物好きで、ミルと仲良くなりたくてお菓子とかのお土産をいっぱい持ってきてくれるんです。ミルは最初は相手にしてなかったんだけど、その子が持ってきた桃のドライフルーツがすごくおいしくて。まんまと餌付けされちゃったんですよ。今ではもうメロメロです」

「メロメロか」

「メロメロです」

「貢ぎ物を持参するとは、中々見どころのあるやつであるな、そのレオンという者は。ところで、最近は我の知らない美味しいものがたくさんあるのだな。その桃のドライフルーツというのも美味そうだ」

「それも持ってきましたよ。おやつに食べましょうか」

「何!? でかしたぞ、リリー!」

レオンがいつもたくさんくれるので、家にまだまだストックがあるのだが、この美味しさに舌が慣れるのが嫌で、少しずつ食べるようにしている。

強請ってもたまにしか出してもらえないので、私の言葉を聞いたミルはそれまで自分の話題に無視を決め込んでいたのに、膝に乗り上げて甘えた声を出してくる。

○ゅ〜るを前にした前世の実家の猫にそっくりだ。

ハンバーガーを完食し、デザートに桃のドライフルーツをしゃくしゃくと齧る。

いつも通り、ミルと私の大好きな味である。

「うむ。このドライフルーツというのも美味い!」

ハーリアルも気に入ったみたいだ。

お腹が膨れたらなんだか眠くなってきた。

天気もいいし、大きな木のおかげでいい感じに木陰になっていて今お昼寝したら気持ちいいだろうな。

「む。眠いのか? 今日は天気も良いし絶好の昼寝日和であるからな。仕方がない、特別に我の毛皮に 包(くる) まれて昼寝をする栄誉を与えてやろう。ブラッシングのお礼だ。ありがたく包まるが良い」

眠そうにしていた私に気がついたハーリアルが、虎の姿で敷物の上に転がった。

こ、これは、もふもふ毛皮布団……!

こんな幸せがあっていいのだろうか?

「い、いいんですか?」

恐る恐る尋ねると、返事の代わりにポンポンと前脚で敷物を叩いて、早く来いと言っているようだった。

「失礼します。……わぁ」

ハーリアルのお腹の辺りに横になると、ふわっふわでものすごく良い夢が見られそうだった。

ミルも私の胸元にやってきてくるりと丸くなった。

極上のもふもふに全身包まれて、最高に幸せなお昼寝となった。

ちなみに思いの外ぐっすりと寝入ってしまったせいで、カインの帰宅よりも早く帰ろうと思っていたのに寝過ごしてしまい、家に戻ると案の定お怒りの兄にたっぷりと叱られる羽目になるのであった。