軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38. 騎士アロイスの奮闘① <アロイス視点>

「リリー!!!」

ユリウス様の悲鳴のような叫び声があたりに響き渡った。

時刻は朝方、もうすぐ商会の就業時間になるという頃、我が主であるユリウス様はいつものごとくリリーを店の前で待っていた。

リリーの家族は非常に過保護で、彼女が一人で行動することを心配するため、なるべく一人にさせないようにすると約束し、ユリウス様はそれを律義に守っている。

正直過保護すぎだろう、リリーはその年齢にしてはかなりしっかりしているから少しくらい一人で行動したところで、この安全な辺境伯のお膝元で一体何が危険なのだ、我が主を煩わせるのではない、と思っていた。

それが、まさかこんなことになるとは思わないではないか。

いつものように兄と連れ立ってこちらに向かってくるリリーが姿を現したが、時を告げる鐘の音が鳴ったことで、兄の訓練の時間が近付いているのだろう、商会に到着する手前で兄は踵を返し足早に去っていった。

いつも連れている猫と共にそれを見送ったリリーがこちらに来ようと振り向いたその時、どこからか現れた男たちにより何かを嗅がされ昏倒し、麻袋に詰められていた。

それを目撃したユリウス様が声を上げ駆けつけようとするが、男達は手際良くすぐに姿を消してしまった。

私はユリウス様を挟んでリリーとは反対側、少し離れた場所から主の様子を伺っていたため、私の位置からは間に合わなかった。

くそ、私がついていながらみすみす攫われるなど……!

「リリー!」

男たちが逃げた方向へ追いかけようとするユリウス様に慌てて駆け寄り押しとどめる。

「ユリウス様! なりません!」

「アロイス!? なんでお前がここに……」

「そんなことより、今はリリーです。私が騎士団に報告に行きますから、貴方はデニスのところで待っていてください」

「僕も行く!」

「なりません! 奴らの目的が分からない以上、御身が危険です。安全な場所でお待ちください」

「僕も助けに行くっ!」

「貴方の護衛騎士である私が、わざわざ危険の中へ飛び込んでいくのを許すとお思いですか! 本来であれば、この後もお側を離れず貴方を守ることが、護衛騎士の行動としては正解でしょう。しかし、彼女が貴方にとって大切な存在であることも存じております。あなたの代わりに、私が助けてまいりますから、どうかここでお待ちください」

ユリウス様は悔しそうに唇を噛んでいる。

自分の力で助けに行けない事が悔しいのだろう。騎士として、その気持ちは痛いほどよくわかる。しかし、この状況で主自ら探しに行くことを許すわけにはいかない。

「もし貴方が自ら助けに向かえば、もしもの時、私はリリーより貴方の安全を優先します。それでも、貴方はご自分が行くと言われるのですか」

「ぐっ……」

追い打ちをかけるように言外に足手まといだと伝えると、主は俯いてしまった。敬愛する主にこんな顔をさせてしまうなんて胸が痛いが、どうかわかってほしい。

「……わかった。…………お願いアロイス。リリーを助けて」

「必ず」

目立たぬよう騎士服ではなく平民の着るような簡素なシャツを着ていた私の服の袖をきゅっと握り、泣きそうな顔をして小さな声で助けを求める主の言葉に力強く頷いた。

ユリウス様の小さな救難信号を見逃し続けてきた私だが、今回は助けてほしいと声に出してくれたのだ。

騎士の誇りに掛けて、今度こそ必ず、その心ごとお守りして見せる。

私はユリウス様を抱えてデニスの執務室へと走った。

「自分で走れる!」と抗議の声が聞こえた気もするが、事態は一刻を争う。

私が抱き上げて走った方が早いので却下した。

私達が駆けこんできたことに目を丸くしていたデニスに簡潔に状況を説明し、私の代わりの騎士が来るまで主の側にいてほしいと指示をすると、すぐさま踵を返し、店の外に出て緊急信号の狼煙を打ち上げた。

煙の方向と色からユリウス様の護衛騎士仲間がここにすぐ駆け付けてくれるはずだ。

商会の馬を一頭借り、ここから一番近い門に向かって走らせる。

騎士団に向かう前にそちらに向かうのは、街の外に逃げられる前に街道に通じる門を封鎖するためだ。

リリーを攫った男たちの風貌からすると奴らは恐らく他領の者だろう。他領に逃げられれば辺境伯騎士団が捜索するのにも限界がある。

決して逃がすものか……!

全速力で馬を走らせ、兵士たちの守る門に到着しすぐに門を閉めるよう指示を出した。

だが平民の格好をしている私に唐突に命令され兵士たちは困惑し動こうとしない。

腰に差した愛剣を抜き、辺境伯騎士団の紋章が見えるようにして魔力を流し名乗りを上げる。

「私は辺境伯騎士団近衛隊所属、アロイス・ヘットナー! 緊急事態である! 今すぐ門を封鎖し、他の門にも使いを出して城壁の全ての門を閉じよ!」

「「「は、はいっ!」」」

魔法剣を扱えるのは騎士だけなので、これ以上の身分証明はない。

私の魔力によって光る剣を見て、兵士たちは門を閉めるためにようやく動き出した。

慌ただしく動き始めた兵士たちを横目に門の責任者を呼び出し、もう一つ指示を出す。

「少女が一人誘拐された。下町の娘で年は七才。攫ったのはならず者のような恰好をした男三人組で恐らく他領の者だ。少女を昏倒させ麻袋に詰めて運んでいる。詳しいことは言えぬが、その子供は我が領にとって重要人物である。兵士達を動員し、街の捜索にあたってほしい。まだそう遠くへは行っていないはずだ。重要な情報や目撃証言が手に入ったら騎士団に報告してほしい」

「わかりました!」

兵士達に指示を出し終わると、次は急いで騎士団のある城へと向かう。

騎士団の兵舎に到着し、事態の報告をする為、そして騎士を動かす許可を得る為、騎士団長室を目指して走る。

「団長、アロイスです! 緊急でご報告したい事があります!」

団長の部屋の扉をノックし、返事も待たずドアを開けて中に入った。

「アロイス!? 返事も待たず、無礼であろう!!」

部屋の中には私の無礼に声を荒げる騎士団長だけではなく、同じ騎士のアードルフ殿となんと領主様がいらっしゃり、何かを話し合っている最中だったようだ。

領主様の後ろには、例の筆頭側仕えを捕らえる時にもいた領主様の護衛騎士二名が控えている。

通常、このような時間に騎士団長室に領主様がいらっしゃることはない。

何か重要な話をしていたに違いない。何たる失態。

「領主様!? お話中のところ、大変失礼いたしました!」

「いや、良い。ユリウスについているはずのお前がここにいるのだ。息子にも関係する事なのだろう? 私も共に報告を聞こう」

「はっ! ご報告いたします!」

領主様のお言葉に甘えて、ありがたく先程起こったことを報告していく。

「その娘は、ユリウスに笑顔を取り戻してくれた恩人だ。何とか助けてやりたいが……」

「はい。もしリリーが失われるようなことがあれば、再びユリウス様がお心を閉ざしてしまわれるのではないかと、私はそれが何より恐ろしいのです」

「なぜ神はユリウスにばかり試練をお与えになるのか……」

「しかし、平民の娘一人連れ去られただけで騎士を導入して大々的に捜索すれば、怪しむ者もおりましょう。秘匿していたユリウス様の所在が公になりかねませんぞ」

騎士団長の指摘に、そこまで思い至る事の出来なかった己の考えの浅さを恥じていると、ノックの音が響いた。

「失礼いたします! アロイス殿はこちらにいらっしゃいますでしょうか?」

「アロイスならここにいる。入れ」

部屋の主である団長が入室を許可すると、同僚の騎士が入室してきた。

「何があった?」

「ご報告いたします。先程兵士がやってきてアロイス殿に言伝を預かりました。幌馬車に乗った見慣れぬ風貌の男三人組の目撃情報が複数上がっているとの事。馬車は北の方角へ向かっていったそうです」

「承知した。報告感謝する」

報告に来た騎士が退室してから、口を開く。

「北……まさか、ハーリアルの森を抜ける気でしょうか?」

「馬鹿な、騎士でもない者が魔の森へ入るなど、自殺行為だぞ」

「門が閉鎖されたことで逃げ場を失い、 自棄(やけ) を起こしたのかもしれぬ。犯人が野垂れ死ぬのは勝手だが、少女の命が危険だ。ただちに助け出さねば」

「すぐに森に向かいます!」

急いでハーリアルの森に向かおうと立ち上がると、領主様から引き留められた。

「私の護衛騎士を連れていけ。この者たちであれば腕は立つし、ユリウスの事情も知っているから軽率に情報を漏らすこともない。大手を振って騎士団を動かすことは出来ぬが、一人で広大な森を探すより見つかる確率はわずかでも上がるであろう」

「領主様……よろしいのですか?」

「構わない。私にはしばらく騎士団長についてもらうことにする。行け」

「「「はっ!」」」