軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 完成! 至高のソース

「この間作ったやつで十分おいしいと思ったんだけどな。まだ改良するのか?」

「うん。あれじゃ、だめ」

今日はカインと二人で市場に来ている。

ハンバーグソースの材料を探すためだ。

手間になってしまうけど、ケチャップとウスターソースを別々に作って混ぜ合わせようと思っている。それ以外の方法を知らないし。

ケチャップとウスターソースができれば別々にも使えるから作れる料理の幅が増えるだろうという目論見もある。

実は前世で、ケチャップもソースも自作しようと調べたことはあるのだ。

調べたけど、とても手間がかかるしスーパーで買う方がよっぽど安かったので、行動には移さなかったことが今になって悔やまれる。

思い出せー。材料はなんて書いてあったっけ?

前世のレシピの記憶をなんとか引っ張り出し、からりと晴れた青空の下、色とりどりの商品が並ぶ市場で、カインと二人で人ごみを縫いながら材料を買い集めていく。

トマト、玉ねぎ、ニンジン、セロリ、にんにく、しょうがにりんご。

海外のマーケットに買い物に来たみたいでとても楽しい。

この間、塩を買いに来た時にはゆっくり見て回る事ができなかったのでうきうきと周りを見回していると、まるで孫を見るような慈愛に満ちた微笑みを浮かべている兄と目が合った。

はしゃいでいたのを見られて恥ずかしくなり俯く。

はっ、これは、推しとのデートと言ってよいのでは!?

前世を含めてデートなどしたことがなかったので、人生初デートがこんなに優しくてイケメンのお兄ちゃんだなんて感無量だ。

あらかた材料を集め終わり、最後の難関に挑む。

スパイスである。

前世ではスパイスにそれほどなじみがあったわけではなく、見た目や匂いではわかる気がしない。材料に使うスパイスの名前もうろ覚えだ。

そんなめずらしい感じのものは入ってなかったような気がするんだけどな。

「うわぁ」

そうこうしているうちにスパイスを売っているお店につき、その光景に感嘆の声が漏れた。

店頭にはカラフルなスパイスの粉や実がこんもりと盛られたものが所狭しと並んでおり、壁や天井には粉にする前の乾燥させたスパイスであろう植物がつり下がっていて、食欲をそそるスパイシーな香りが漂ってくる。

わぁ、すごい、異国情緒! 自国だけど!

心の中でノリツッコミしながら、目当てのスパイスを探す。

あ、ローリエがあった。

あれは使ったことがあるし、葉っぱのままだから見た目でわかりやすい。

「おう、カイン! 今日もいつものミックスかい?」

奥から店主らしき髭の生えた男性が出てきて兄に声をかけてきた。

「こんにちは、おじさん。ううん、違うんだ。今日は新メニューに使うスパイスを探しに来たんだよ」

「おぉ、そりゃあいい! うちには多種多様なスパイスが揃ってるからな! 欲しいものは決まってるのかい?」

「よくつかわれているものは、どれですか?」

「まぁ、よく売れてるのはこの辺だな。これが胡椒、こいつがクローブ、こっちがナツメグ、シナモン……」

それだ!

この世界、食材の名前は前世とほとんど同じなのでありがたい。

「なつめぐと、しなもんをください。あと、だいたいなんにでもつかえるようなものはありますか?」

「んじゃあこれだな、オールスパイス。肉に魚に菓子にも使えてなんでもござれだ!」

「じゃあそれと、あとそこのはっぱをください」

「ローリエだな。わかった、ちょっと待ってな。」

店主はスパイスを袋に入れ手渡してくれた。

お会計をしながら宣伝もしておく。

「ぜったいにおいしいものをつくるので、しんめにゅーができたら、たべにきてくださいね」

「おう楽しみにしてるよ! うちのスパイスを使って、ぜひとも上手い飯を作ってくれ!」

がんばれよー、と手を振って見送る店主に手を振り返しながらスパイス店を後にした。

そして始まりました、第二回お兄ちゃんとリリーの新メニュー考案委員会!

まずはトマトケチャップを作っていきます!

「さいしょに、とまとをみじんぎりにします」

「またみじん切りか……」

玉ねぎのみじん切りが相当トラウマのようで、カインがげんなりしながらトマトをみじん切りにしている。

「これをおなべにいれて、つぶしながらにつめます」

トマトを煮込んでいる間に他の材料の準備もする。

本当はミキサーやブレンダーを使って攪拌するのだが、もちろんそんな道具はないので先にすりおろすことにする。

玉ねぎを見た瞬間、カインがゲェという表情をしたのでおろし金なら私にも使えるぞ、とやる気満々で腕まくりしたら、あわてて泣きながらすりおろしてくれて、危ないからと近づかせてもくれなかった。

今日も推しの安定のイケメンっぷりに、心のペンライトをふりふりして応援させていただいた。

にんにくもひとかけらすりおろしたら、半分くらいにかさの減ったトマトを裏ごししていく。

「では、ざいりょうをぜんぶ、まぜあわせます」

鍋に裏ごししたトマト、すりおろした玉ねぎとにんにく、ローリエを入れていく。

スパイスや調味料は味見をしながら調整していくために少しずつ加えていく。

「すぱいすやさんでかったすぱいすと、しお、さとう、こしょう、おすをちょっとずついれていきます」

「いろいろ入れるんだね。リリーの料理は材料を細かく刻んだりやることが多くて不思議な感じだ」

うちの店の料理は基本煮るか焼くかの二択で工程も味付けもシンプルなものが多い。

ソースやドレッシングなどはないようで、ハーブ塩やスパイスが主に使われる。

貴族の食べる料理とかにはあるのかな?

なんにせよ、このケチャップとウスターソースが完成したら、このあたりの他の飲食店とは味で一線を画すはずだ。

混ぜながら火にかけてアクをとっていく。

味見のためにスプーンですくいとって、フーフーしてから口に含む。

「!」

あまりの衝撃に固まってしまった。

「リリーどうした? 俺も味見していい?」

兄の問いかけに無言でこくこくと頷く。

「うわぁ! おいしい! このタレすごくおいしいね、リリー!」

ていうか、おいしすぎる……!

前世のケチャップよりも酸味が少なくまろやかで、トマトの甘みがしっかり感じられる。

この世界、料理の味付けはシンプルだが、野菜などの食材は前世よりも身が詰まっているというか、野菜自体の甘みがしっかりあって味が濃い。

そのうまみがさらに凝縮されているように感じた。

うわー、このケチャップでオムライスが食べたい!

くそぅ、お米があればなぁ……。

ハンバーグが完成したら、次はオムレツを絶対に作ろうと決めた。

できあがったケチャップを清潔な瓶に移して、次はウスターソースに着手する。

本当かどうかはわからないが、ウスターソースは、ウスターというところに住んでいた主婦の方が、余った食材の切れ端と調味料を一緒に入れて保存していたらたまたまできあがったソースが元になっているらしい。

前世で作り方を調べた時も野菜や果物などの材料がレシピによってバラバラだった記憶があるので、結構雑に作ってもそれらしいものが出来上がりそうだ。

ケチャップの時と同じように、市場で買い集めた野菜や果物をすりおろしていく。

鍋にすりおろした材料と水、スパイスに塩や砂糖、お酢などの調味料を少量ずつ加えて煮込んでいく。

とろみがついてきたら、粗熱をとってからこちらも清潔な瓶に移して密閉する。

「これで、にさんにちねかせます」

冷暗所に三日置いておいたものを裏ごしして出来上がりだ。

ウスターソースよりもドロドロとしたとんかつソースのようなものになったが大丈夫だろう。

一口味見すると、こちらも素材のうまみが凝縮されていて風味豊かでとてもおいしい。

「よし、これでそーすのかんせい」

作業の大半を担当するカインには申し訳ないが、またハンバーグを作ってもらい、ハンバーグの肉汁が残るフライパンに完成したケチャップとソースを半量ずつ入れて一、二分煮詰める。

お皿に盛り付けたハンバーグにソースをかけて完成だ。

「みなさん、どうぞ、めしあがれ」

父、母、兄それぞれの前にハンバーグの載ったお皿を置いて、えへんと胸を張る。

作ったのはほとんどカインだろうというツッコミは受け付けない。

レシピを思い出すのとか、ハンバーグの材料を混ぜ合わせるのとか、がんばったもん。

見慣れない謎の茶色い液体がかかっているのを見て、お父さんとお母さんは本当にこれが食べられるのかと訝しげにしている。

カインは一緒にソースの味見をしてそのおいしさを知っているので、わくわく笑顔だ。

家族達が恐る恐る口に運ぶのを見て、私も完成したハンバーグを一口食べると、ジーンと感動が込み上げてくる。

そうそう、この味。これぞハンバーグ!

ソースが風味豊かで、前世で自分が作ったものよりもずっとおいしくできたと思う。

ハンバーグを初めて作った時にはおいしいおいしいとにぎやかだった二人が静かなことに気が付き、あれっと顔を上げると、三人とも目を見開いて固まっていた。

「み、みんな、どうしたの? おいしくなかった?」

私は美味しいと思ったが、異世界の住人にとっては食べ慣れなくてもしかしたら受け付けない味なのかもしれない。

不安に思って声を掛けるが、三人とも微動だにしない。

最初に覚醒したのは兄だった。

「すっごく、すっごく、すっごく、おいしいよ! 最初に作ったのもおいしかったし、ソースだけでもおいしかったけど、一緒に食べるともっともっともっとおいしい!」

「驚いた……。こんなにおいしいなんて。色んな風味が肉汁と絡み合って、まろやかで、まるで貴族の食べる料理じゃないかい!?」

「ああ。こんなに美味い料理は初めて食べた」

フッ、勝ったな……。

これなら絶対に売れる。

大絶賛の三人の反応を見て、新メニュー戦略の大成功を確信した。