軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

115. 恋バナ

び、びっくりした……。

クラウディアのもとへ向かいながら、先程ユーリが言っていたことを思い出し、頬が熱くなる。

誰かにそういう意味で好きって言われたの、二度の人生の中でも初めてだ。

まさか、こんな私を好きになってくれる人がいるだなんて。

ドッキバックと激しい音を立てる心臓が痛い。

どどど、どうすればいいんだろう……。

恋愛の経験がなさ過ぎて、こういう時にどうしたらいいのかがわからない。

正直、頭の中は大パニックで自分の気持ちもよくわからない。

ユーリは返事は待ってほしいと言っていたし、お言葉に甘えて結論を先延ばしにさせてもらってもいいのだろうか。

「リリアンナ様」

ぐるぐると悩んでいると、カインに呼び止められた。

さっきまで談話室にいたはずなのに、いつの間に。

「カイン、どうしたのですか? 今からお茶会ですか?」

カインが押していたワゴンにはティーセットや軽食が所狭しと並んでいる。

「必要かな、と思いまして。これからクラウディアのもとに向かうのでしょう? リリアンナ様のお部屋に用意しておきますから、今日は女の子だけでゆっくりお茶にされてはいかがですか。クリストフなどは近づかないように人払いしておきます」

「!」

たしかに、お菓子パーティーをするのなら、大きいテーブルのある私の部屋の方が適している。

後で頼もうと思っていたのに、言う前から先回りで用意されていて驚きだ。

「すごいです! どうしてわかったのですか?」

「リリアンナ様は落ち込むことがあると、よく甘いものを食べて自分を励ましていらっしゃいましたから。今日はちょうど、カールハインツ商会が王都に出店するカフェの試作品が届いたので、楽しみにしているといいですよ」

「最高です! すぐにクラウディアと一緒に向かいます!」

お兄ちゃんが、私の行動パターンを理解しすぎている……!

驚くほど気の利くカインと別れ、クラウディアの部屋の前に着き、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、コンコンと扉を叩いた。

「クラウディア、リリアンナです」

声を掛けてからしばらくすると、扉がそっと開いた。

部屋の主であるクラウディアの顔は、涙に濡れている。やっぱり、泣いていたようだ。

「リ、リリアンナ、様……。も、申し訳ございません。無理を言って同席して頂いたのに、主を残して一人戻ってきてしまうなんて…」

「そんなこと、気にしなくて良いのです。それよりも、良かったらこれからわたくしの部屋で温かいお茶を飲みませんか? クラウディアさえよければメラニーも呼んで、男子禁制のお菓子パーティーを開催しましょう」

「え……」

「今日は無礼講です。おしゃべりしながら、甘いケーキやクッキーを好きなだけ食べて、自分を甘やかしちゃいましょう」

クラウディアのうるんだ瞳がまん丸に見開かれ、揺れている。

クシャッと不器用に笑ったクラウディアの瞳から涙が一雫、零れ落ちた。

「ふふっ、あまり食べすぎると、夕ご飯が入らなくなってイングリットに叱られてしまいますよ」

「大丈夫です。今日だけは見逃してもらえるように、がんばってお願いしますから」

「リリアンナ様……ありがとうございます。わたくしは、大変なことを、してしまったのに……」

「言ったでしょう? どんな結果になったとしても、わたくしはクラウディアの味方だと。それに、クラウディアが自分を責める事なんて、何一つありません」

涙を拭いて、少し落ち着きを取り戻したクラウディアと共に自室に向かうと、テーブルにはお茶やお菓子が並べられており、カインに声をかけられたというメラニーもすでに待機していた。

軽食はお菓子だけではなく、揚げたてらしいフライドポテトやサンドイッチまで用意されている。

いつの間にこんなにたくさん……。

敏腕執事もかくやというほどの、カインの気遣いである。

三人でテーブルを囲み、各々好きな料理を小皿に取る。

今日はお茶もセルフサービスだ。給仕は側仕えの仕事だからとクラウディアは少し渋ったが、このパーティーは彼女が主賓なので私がゴリ押した。

「おいしいです」

ケーキを一口食べたメラニーがいつも通りの淡々とした様子でそう言った。

「カールハインツ商会が王都に出店するカフェの試作品なんですって。あとで味の感想をまとめてレポートにしましょう」

「……おいしいということしか、わからないです」

フォークを握りしめたメラニーが、ケーキを見つめながらへにょんと眉を下げた。

普段口数の少ないメラニーは、言葉で表現するということが苦手なのだろう。

たしかに豊富な語彙力で食レポをするメラニーは想像がつかないので少し笑ってしまった。

「こうしていると、なんだか領地のわたくしの部屋で、カインが持ってきてくれた下町の料理を皆でつついていた時のことを思い出しますね」

「あの時の料理も、とてもおいしかったです」

「リリアンナ様、大変です。ケーキを食べたら揚げ芋が欲しくなり、揚げ芋を食べたらケーキが欲しくなる……。甘いものとしょっぱいもので無限に食べられてしまいます。このままでは、ブクブクに太ってしまいそうです……」

ケーキとフライドポテトを交互に食べていたクラウディアが、衝撃を受けたような顔をしている。

気付いてしまったか、甘いものとしょっぱいものの無限ループの恐ろしさに……。

何はともあれ、さっきよりも元気が出てきたみたいで何よりだ。

やっぱり元気がないときにはおいしいものを食べるに限る。

「この程度では太らないだろう」

「メラニーは毎日鍛錬で体を動かして、消費しているからそんなことが言えるのよ」

「クラウディアだって、選定式の準備でトレーニングをしているのではないのか」

「選定式が間近に迫っているから、最近の練習では本番形式で歌うばかりで体を動かしていないの。衣装が入らなくなったらどうしましょう……」

「大丈夫ですよ。明日、一緒に鍛錬場の周りを走ることにしましょう。きっと明日のわたくしたちが何とかしてくれるはずです」

「まぁ、リリアンナ様ったら」

「私もお供いたします」

和気あいあいととりとめのないことをおしゃべりしていたが、ふと沈黙が訪れ、クラウディアが料理をつついた手を止めてポツリと呟いた。

「……本当は、レオンハルト様のお話をお受けするつもりでいたのです。きっと急なことで心が追いついていないだけなのだから、自分の中でしっかりと折り合いをつけて、これからはレオンハルト様をお支えしていこうと。けれど、今日あの方の言葉を聞いて、どうしようもなく悲しくなってしまって。気が付いたら逃げ出してしまっていたのです。わたくし、何てことを……」

クラウディアは俯き、両手で顔を覆ってしまった。

メラニーには先ほど簡単に何があったか説明してあるので、心配そうに見つめている。

「わたくしは恋愛も婚約もしたことがないので、偉そうなことは何も言えませんが、クラウディアの気持ちは少しだけわかる気がします。クラウディアはきっと、貴女がレオン兄様を大事に想うのと同じくらいに、レオン兄様がクラウディアのことを大事にするつもりがなかったことが悲しかったんですよね」

色々経験不足の私は想像することしかできないけれど、自分と同じくらいの好意を返してもらえないのは、きっと辛いことだと思う。

「……そう、かもしれません。うぅ、わたくし、なんておこがましいのでしょう。レオンハルト様に自分と同じくらい好きになってほしいだなんて」

「そんなの、当たり前の気持ちなのではないですか? あんな風に言われたら、誰だって傷つきますよ。悪いのは、レオン兄様だと思います」

「レオンハルト様は、なんとおっしゃったのですか? あの方が、女性を傷つけるようなことを言うでしょうか?」

私の言葉に、メラニーが不思議そうにしている。

「……俺は風、だそうです」

「風……?」

メラニーはますます不思議そうに首を傾げた。

「レオンハルト様の属性は、炎では……?」

「ですよねぇ」

あまりよくわかってなさそうなメラニーにあえて説明はせず、同意するだけにとどめておいた。

「実は正直、自分の気持ちが自分でもよくわからないのです。レオンハルト様に対して憧れの気持ちがあったのは事実ですが、あの方の隣に自分がいる未来なんて想像をしたことがなかったですし、恋愛小説を読んでドキドキするような客観的な気持ちと、変わらないような気もするのです」

「恋に恋していたということですか?」

「わかりません。一体、どうなれば恋と言えるのでしょうか?」

「難しい問題ですね……メラニーはわかりますか?」

「恋をしたことがないので、わかりません」

「わたくしもです。『好き』って、何なのでしょうね?」

「「「う~ん……」」」

話題がなぜか哲学的な方向に向かってしまい、恋愛経験の乏しい私たちは、三人そろってはてなマークを飛ばしながら首をひねるしかなかった。

『好き』って、難しい……。

ユーリは、なんで私なんかのことを好きになってくれたんだろう?

優しくて思いやりがあって、努力家で、商売人としても騎士としても優秀で、おまけに見た目もかっこよくて、すごくモテるのに。

ユーリのことは大好きだけど、その気持ちが恋かと言われると私もよくわからない。

それに、私と一緒にいてユーリは幸せになれるだろうか?

自分のこともままならないのに、ユーリのことを幸せにしてあげられる自信なんてない。

前世ではずっとぼっちで、転生してからもとにかくFIREすることを目標にがんばってきたし、誰かと一緒にいる未来なんて想像したこともなかった。

大好きな人たちとずっと一緒にいられたら嬉しいけど、相手はそうじゃなかったらと思うと、傷付くのが怖くてあえて考えないようにしていたところもあるかもしれない。

もし、私の目標がFIREだとユーリが知ったら、理解を得られるかもわからない。

FIREという言葉が割と知られるようになっていた前世でさえ偏見はあったし、家族の理解は重要な課題だったと思う。

というか前世のFIRE達成者たちは、いったいどうやって家族にわかってもらったんだ? 無理ゲーじゃない?

ユーリに「働きたくないってこと? それって怠惰じゃない?」とか面と向かって言われたら、泣いてしまうかもしれない。

こ、怖いよぉ……!

ユーリに嫌われてしまったらと思うと、恐怖で体がブルリと震えた。

「なんだか、考えれば考えるほど、よくわからなくなってきました。お互いに好き合って結婚した方って、凄すぎませんか? 好きになった方が自分を好きになってくれて、結婚までして、お互いを理解し合っているなんてどんな奇跡ですか」

「本当に……」

訳が分からなくなってきて、ため息とともに吐き出すと、クラウディアが真剣に頷き、メラニーもこくこくと無言で首を縦に振っていた。

今度、領地に帰ったらお養母様にお養父様とのことを聞いてみよう。

二人はお互いのことをよく理解して信頼し合っているように見えるし、何か知見を得られるかもしれない、と思った。