軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14

夜会の半ばでジェイラスは使い物にならなくなった。

ひっそりとやり取りを見ていたジェイラスの友人たちが、友情でもって彼を回収してくれた。

ジェイラス、友人はいた。

「何で婚約解消したのに突っかかっていくんだよ!?」

「え、だって……解消しただけで……また結べば……?」

ジェイラスはまだ理解していない。いや、理解を放棄したいのだ。

フランター伯爵は自分にまだ良くしてくれると言っていたし、リーシャも自分のアドバイスをようやく聞いたのだから、きっとまた……と、期待したかったのだ。

「ジェイラス、お前……」

彼が実は現実逃避をしていたのだと、友人たちこそが理解した。

婚約を解消された、その時点から。

あの斜め上の前向きさは、つまりはそういうことだったのだ。

「お前……頭良いのに案外ポンコツだったんだな」

ジェイラス、リーシャに斜め上なアドバイスをしていたのはいただけないが、確かに頭は良いし――なんだかんだアドバイス好きなのは性分であったのか、友人たちの勉強を見たりしてあげていた。

彼らは確かに一週間前に彼から「婚約解消」になったと聞いたのだ。

フランター伯爵令嬢がフリーになったのならば後釜に……と思いながらも、外交に関わるフランター家は自分には荷が重いと諦めた。そしてジェイラスを慰めた良いお友達たちだ。

だからこれは日頃の彼を知る友人たちが借りを返すもので。

それは思いやりからの――現実の突き付けだった。

「お前、フランター伯爵令嬢に嫌われてるんだよ!」

真実の一撃。

友人たちはリーシャからの様子で、言葉で、あっさりとそれを察したというのに。

「現実みようぜ。お前……もう、フランター伯爵令嬢とは御縁ないから……」

「……え?」

頭を殴られたような。

ジェイラスは先ほどのリーシャの眼差しをみて、ようやく気がついた。

そして友人たちはさらに真実を。

「婿入りさせてもらう立場なのに、なんでそんな上から目線で話せたんだ?」

「お前、自分を何様だと……いや、お前成績良いし、顔も良いから……あー……」

「なんか、空回っちゃったのか……?」

ジェイラスはその言葉一つ一つにまた頭を殴られたのかと思った。鈍器で、だ。

それほどの衝撃だった。

自分は望まれて婿入りするはずだ。

あのように出来が悪く華がない娘の代わり――いや、華で、あった。

しかもとてつもなく色香のある極上の華であった。

しかも出来が悪いだなんてとんでもない。帝国の方々と楽しそうにそちらの言葉で。

実際には殴られてはいなかったが同じくらいの衝撃に、ジェイラスは目眩がしてへたり込んだ。立っていられなくて。

現実は、憧れであったフランター家への婿入りがなくなり――憧れた伯爵や夫人にも、もはや挨拶だけしか許さない。

そしてなにより。

リーシャに、嫌われた――否、ずっと嫌われていた。

その現実に、ジェイラスは手の届くところにあった宝が、とてつもなく遠くに離れてしまったことに気がついた。

友人たちはジェイラスを彼の部屋まで運んでくれて、ご家族へも連絡してくれた。

王都にとんぼ返りしてきた父親のディーラー伯爵はお疲れ様である。

そうしてジェイラスは「ちょっと休め」と親と友人たちからのアドバイスで、しばらく故郷に帰ることになった。彼が婚約者にしていたアドバイスより、よほど的確なアドバイスであった。

そうして数日間。

故郷でジェイラスがやったことは、兄に連れられて釣りに行ったことくらいだ。

麦わら帽子を被せられて。

家にはちゃんと、ジェイラスの分の麦わら帽子もあったのだ。

こういうときはそっとしておくのが良い。だけれど、一人にしてもいけない。

そして、話ができそうならば誰かに話したほうが良い。

リーシャが侍女にうながされて親友に話したように。

兄は話をしっかり聞いて、やはりジェイラスの友人たちと同じ事しか言えなかった。

「お前……もしかしたら、フランター家のお嬢様のこと、好きだったんじゃあないか?」

兄の言葉に、また頭を殴られたような。

黒かったから。

嫌いな故郷の土色だったから。

だから自分から好きだと認めたくなくて。

自分が好きなのに、リーシャの方はそうではない空気を察してしまったから――また明後日の方向の八つ当たりだったのだ。

そりゃあ、出会ったばかりの男にはそんな態度だろうよと、兄にまた諭されて。

「……お前の方が、一目惚れしたんじゃん」

ジェイラスはリーシャのその良さを、その本心では気がついていたのだ。

リーシャの気を引きたくて、自分の方が惚れた弱みを握られるのが怖くて、あんな上から目線をしてしまっていた。

あんな、また頓珍漢な。

この故郷のことも、本当は好きなことも。

初恋を失ってから気がつくことこそ愚かで滑稽なことはない。

「お前、勉強は出来たのに他はポンコツ……んんッ、からきしだったんだなあ……」

もう殴られ過ぎて満身創痍なジェイラスは、それでも踏ん張って王都に戻ってから受けた試験に、案の定――落ちた。

ほとぼり過ぎたし、誰もジェイラスに嫌味は言わなかった。友人たちは優しかった。

女生徒に少しばかり陰口は言われたが、それは仕方ない。

「鏡をみろですって」

あのアドバイスが、とんでもなく失礼だと兄にも母にも、しっかりと諭されてきたジェイラスはその陰口を受けるしかない。

学年も校舎も離れていたこともあり、ジェイラスはその後、リーシャとは会うこともなかった。

彼女がもはや自分からの謝罪も欲しくないのはさすがに理解したから。

挨拶すらも拒まれているのだから。

会いに行き、謝罪することこそ、迷惑だ。冷静になったジェイラスはそうしたことをちゃんとわかるようになった。

リーシャとジェイラスの婚約期間が短く、会っていたのはフランター伯爵家ばかりであったこともあり、二人の婚約があまり知られていなかったこともある。

やがて噂も陰口もなくなった。

フランター家が「解消」としてくれたからだと、その頃にはようやく受け入れていた。

鏡をみる。

想いこそ鏡のように跳ね返るのだと彼は思い知った。

もしもジェイラスが素直にその色が、黒を本当は好きだったことを認めることができていたら……――。

そしてジェイラスは本命部所の試験に落ちた。願っていた外交の仕事には就けなかった。