作品タイトル不明
幕間 仲間になったら必要です
「……あ……ふぅ」
闘武祭が終わって二日目の朝。
艶の混じった息遣いとシーツが擦れる音で俺は目を覚ました。
今日まで疲れを癒す為に朝の訓練を無しにしているが、習慣でいつもの早朝に目覚めてしまったようだ。
そしてすぐ横に顔を向けてみれば、フィアが穏やかな表情で眠っている。
寝顔ってのは無防備な状態だから、大抵は可愛らしく見えると思うんだが、フィアの場合は寝顔でも美しいの一言である。
初めてフィアを見た時、神秘的で芸術品のような美しさを持つ女性だと思っていたが、十年近く経った今でもそれは全く変わらない。むしろ恋をしたせいか、女性としての美しさが増していると思う。
女性が羨む綺麗な肌に、指で梳いても全く引っかかりを見せない流れるような美しい髪。エルフはこれが基準だと言うのだから、狙われるのも当然かもしれない。
そんなエルフであるフィアに俺は好かれるようになり、気づけば恋人になっていた。だから俺は男として、恋人として……フィアをしっかり守ってやらないとな。
そう考えながら寝顔を眺めていると、フィアの目がゆっくりと開かれ、彼女は顔を寄せてきて俺に口付けをしてきた。
「ん……おはようシリウス」
「おはよう。朝から情熱的だな」
「寝起きで貴方の顔を見ちゃったから、つい……ね」
フィアは目を細めて柔らかい笑みを浮かべながら、俺の顔をじっと眺め続けていた。
「ふふ……困ったわね。まさかこんなにも溺れるなんて思わなかったわ」
「溺れる? 男にってやつかい?」
「そうよ。貴方と出会う前の話なんだけどー……」
俺と出会う以前、フィアはとある町で娼婦をしている子と知り合いとなり、酒飲み仲間になったそうだ。
「お互いにお酒好きで息が合ってね、短い間だったけど色々興味深い話を聞かせてもらったのよ。その中に一人の男を好きになり過ぎた娼婦の話があったわ」
それはとある娼婦が客としてきた男に本気で惚れ、男の言いなりとなって金も体も全て貢いだそうだ。しかし男は下種だったらしく、その女性は最後には捨てられたらしい。そういう子を男に溺れると言っているそうだ。
こんな話が広まっているのは娼婦の失敗例を伝え注意させる為だそうだ。店側からすると従業員が減る話なので、積極的に広めろと言われたらしい。
「話を聞いた時はそこまで男に夢中になるのかしら……と思っていたけど、今の私って完全に貴方へ溺れちゃってるわよね? それがちょっと可笑しくてね」
「男としては嬉しい話だが、フィアは何が困るんだ?」
「だって、今の貴方にお願いされたら何でも聞いちゃいそうだもの。お金が欲しいって言われたら渡しちゃうし、抱かせろと言われたら迷わず捧げるもの」
「そりゃあ不味いな。でも、俺がしっかりしておけば大丈夫だろ?」
「そうね、シリウスなら安心して委ねられるわ。でも、何かあったら遠慮なく言ってよ。私だけじゃなくてエミリアもリースも、レウスとホクトだって貴方の為になりたいって常に思っているから、無理だけはしないでね」
俺の為に……か。嬉しい事を言ってくれるが、すでに皆からは十分すぎる程に貰っているんだよな。
前世の知識を糧に作り上げたものだが、俺の力はこの世界では異常だ。本気を知られれば、何も知らない人からすれば恐怖を覚えるに違いあるまい。
だがそんな俺を慕い、付いてきてくれる弟子や仲間達がいてくれるからこそ俺は寂しくないし、充実して生きていけるのだ。
「無理なんかしていない。君や仲間達を見守る事が俺の人生を充実させてくれるんだ。そんな風に俺は自由に生きているから、皆にも自由に生きてほしいって思う。特にフィアは、フードで耳を隠そうとせず堂々と歩いてほしい」
「エルフってばれちゃうと面倒事が多いわよ?」
「俺が守るから安心しろ。フィアは自由に生きて、自然に笑っているのが一番魅力的だからな」
「……ああもう!」
突然フィアが叫んだかと思えば、俺の体の上に乗って貪るような口付けをしてきたのである。
行動に驚きつつも落ち着かせるように背中撫でてやると、フィアは顔を離してから真剣な表情で俺を見つめてきた。
「無理はしないでって言いたかっただけなのに……そんな殺し文句卑怯よ!」
「卑怯も何も、俺の素直な気持ちなんだが」
「ええい黙りなさい! 朝食の時間までまだあるわよね!?」
「ちょっと待て、今からか?」
「体が火照ってしょうがないのよ。それに私達エルフは子供を宿せる確率が極端に低いから、今の内に練習しておきましょ」
確か資料によると……数百人住むと言われるエルフの集落で、一人の女性が数十年に一度子を宿せば多い方らしい。
エルフがそっち方面に積極的じゃないのもあるが、長寿のため時間の感覚が人や獣人と違うので、危機感を感じにくいそうだ。
だからフィアの言い分もわからなくもないがー……。
「本当は?」
「気持ちが治まりそうにないの。これじゃあ貴方に益々溺れちゃうわね」
「正直でよろしい。そして幾らでも溺れなさい。俺が全部受け止めてやるさ」
「その包容力が大好きよ!」
その後、エミリアが呼びにくるまでフィアの相手をするのだった。
「おはようございます」
「おはよう兄貴!」
「オン!」
エミリアとフィアを引き連れ、宿の食堂兼酒場にやってきた俺達へテーブルに座っていたリースとレウスが朝の挨拶をしてきた。床にはホクトが座っていて、こちらも元気に挨拶してくれる。
「おはよう。すまん、待たせたようだな」
「い、いえ……朝の訓練が無いのでちょうど良い時間ですから」
「なあ兄貴、姉ちゃんとフィア姉どうしたんだ?」
妙に艶々した表情をしているフィアと、俺の腕に抱きついているエミリアを見れば二人の困惑顔も当然かもしれない。
「シリウスの御蔭ですっきりしただけよ。レウス、貴方もシリウスみたいに女性を満足させられる良い男になりなさいね」
「勿論だぜ! つまり兄貴を目指せって事だろ?」
「そうね。でも、レウスにはレウスの良さがあるから、それを生かして頑張りなさい」
「おう!」
レウスとフィアの会話を聞きながら座ろうとすると、エミリアは俺の腕から離れて椅子を引いてくれた。フィアに負けじと自分の匂いを俺に擦りつけようとしていたようだが、流石に従者としての仕事は忘れていなかったらしい。
そしてテーブルに並べられた朝食を前に全員が揃ったところで、皆の視線が俺に集まった。俺の合図がないと食事が始まらないからだ。
「それじゃあ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
この数日で俺達にあっさりと適応したフィアも合掌をし、朝食は始まった。
パンとスープにサラダ、そして朝食には重たそうな焼いた肉もあるが、俺達には問題ない話だ。
むしろー……。
「お代わりお願いします」
「俺もお代わり!」
「シリウス様、サラダはもう少し食べられますか?」
「ああ、いただこう。エミリアも遠慮せずに食べなさい」
「……よく食べるのが強くなる秘訣なのかしらね?」
量が足りないのである。
テーブル一面を埋め尽くしていた料理が瞬く間に全員の胃へと収まる頃、すぐさまお代わりが運ばれてきた。
「はい、お代わりとサービスの追加料理持ってきたよ」
「すまんな、何度も往復させて」
「お兄ちゃん達の御蔭でお客さんが増えたんだから大丈夫だよ。沢山用意しているから、遠慮なく食べてね」
周囲を見渡してみれば酒場のテーブルはほとんど人で埋まっており、カチアと従業員が忙しくも楽しそうに給仕をしていた。
初めてここへ泊まった頃より明らかに客が増えているのは、俺が闘武祭で優勝した際に宣伝した御蔭だろう。あの宣言が口コミで広がり、たった二日で見事な変化を見せていた。
元から立地条件も悪くないし、客へのサービスが行き届いている上質な宿だ。もう数日あれば満室も夢ではあるまい。
客が増えたので従魔であるホクトは外に出すべきかと思ったが、ホクトは特別という事で許可してもらった。一部の客から苦情がきたそうだが、ホクトの礼儀正しさと飼い主である俺が闘武祭の優勝者という事を伝えたら大人しくなったとか。
それから朝食が終わり、食後のお茶とデザートの果物を口にしながら今日の予定を話し合う事にした。
「俺とレウスの怪我も大分癒えたし、今日は冒険者ギルドへ行こうと思う」
「えっ!? もしかして闘武祭の賞金は食費に回さないんですか!? おかずが一品減るなんて嫌です!」
「俺魔物狩ってくるよ!」
「ちゃんと回すから落ち着け二人とも。実はこんな手紙がきてな」
我が家の腹ペコ 姉弟(リースとレウス) を宥め、ここへ来る前に受付に立っていたセシルさんの夫から渡された手紙を取り出し、テーブルの中央に置いて皆に見せた。
今朝預かった物らしいが、内容を簡潔に説明すると冒険者ギルドへ顔を出してほしいと書いてあったのである。
「ギルドの職員が私達に何の用でしょうか?」
「闘武祭の表彰式の時に俺のギルドランクが初級と答えたのが問題らしい。これによると闘武祭の優勝者が初級だと、冒険者ギルドが俺を軽んじているように見えるから一度話し合いたいそうだ」
現在、俺のギルドランクは八級で、世間一般的には初級冒険者と呼ばれる。
エミリアとリースは俺と同じで、暇を見ては魔物を倒しに出ていたレウスは七級……これもまた初級だ。
実力的にはもっと上のランクを狙えると思うが、ガルガン商会の稼ぎで金に困らなかったので、冒険者ギルドへは碌に顔も出さず依頼をほとんどこなしていなかったせいだ。
「シリウス様なら一級なんて軽いものです。是非お話をして一級にしていただきましょう」
「だ、駄目だよ。ちゃんと依頼をこなして上がっていかないと」
「リースの言う通りだ。正直に言ってギルドランクにあまり興味はないんだが、わざわざ手紙を出してまで俺を呼んだんだ。顔くらい出すとしよう」
ギルドに登録した理由は色々とあったが、一番は身分証明できる物を作る為だった。
仮にも闘武祭の優勝者を敵に回すとは思えないが、後で拗れるのも面倒だから行く事に決めた。
「フィア姉は旅をしていたから、ギルドに入っているんだよな?」
「勿論入っているわよ。旅費を稼げないといけなかったからー……あったあった。これが私のギルドカードね」
フィアが懐から取り出したギルドカードには五級と刻まれていて、材質は銀製だから中級冒険者なわけだ。
「積極的にやっていればもっと上に行けたかもしれないけど、私は最低限稼げればそれで良かったからね。それに、エルフだからランクが上がり過ぎて目立つの嫌だったし」
精霊魔法が使えるフィアなら、強力な魔物だろうと一人で倒せたから上には行けただろう。
一人の時はフードを被って受付していたそうだが、上級まで上がって目立つようになればフィアの正体を知ろうとするアホも出てくるので、五級で止めておくのは正しかったのかもしれない。
「それじゃあ、準備が済んだらギルドへ向かうとしよう。何か依頼を受けるかもしれないから、準備を忘れずにな」
「わかりました。必要な物を揃えておきます」
「もしランクを上げる話なら、私達も頑張って上げないと駄目だよね。あ、カチアちゃん。この果物のお代わりもらえるかな?」
「俺も頼むぜ!」
「まだ食べるの!?」
「ふふ、よく食べるわね」
二人は絶好調で、俺達を眺めていたカチアと他の冒険者は驚き呆然としていた。俺とエミリアは慣れたものだが、すでにフィアも慣れているらしく、二人の食いっぷりを楽しそうに眺めていた。
美味しそうに果物を食べるリースとレウスを眺めながら、俺は脳内で食費の計算を見直すのだった。
準備を済ませて冒険者ギルドに向かう俺達だが、その道中は当然ながら目立った。
闘武祭の優勝者に準優勝者、百狼のホクトにエルフのフィアまでいるのだから目立つのも当たり前だ。ちなみにフィアは、フードを外して堂々と素顔を晒して俺達と一緒に歩いている。
周囲から向けられる視線の大半は好意的なもので、出店を開いている人が串肉をくれたり、見事な戦いだったと声も掛けられた。
中には妬みや企みが含まれた邪な視線もあったが、俺やホクトが睨みつければ逃げていった。少し練習が必要だが、お前だってわかるぞと勘付かせるようにピンポイントで殺気を放つのがコツだ。
「オン!」
「ああ、のんびり待っていてくれ」
騒がしい町中を歩いて冒険者ギルドへ到着すると、ホクトは何かあれば呼べと言わんばかりに吠えて従魔用の敷地に寝そべった。
冒険者の都と言われるだけあって大きな建物に入れば、大勢の冒険者が依頼を受けたり話し合ったりと騒がしい様子だった。
俺達が建物内部に足を踏み入れると、町中以上に遠慮ない視線が一斉に向けられた。
その内の大半はフィアを見て鼻の下を伸ばしていたが、一緒にいる俺やレウスを見て諦めるように溜息を吐いていた。おそらく闘武祭を見て敵わないと判断したのだろう。冒険者足る者、危険を感知出来なければ命が幾つあっても足りないからな。そう考えると、ここの冒険者達は質が高い方なのかもしれない。
絡んでこないならそれで良いので、俺達はギルドの受付前に並んでいる冒険者達の最後尾に立つとー……。
「あっ!? 来てくれたのねシリウス君! 急ぎだからこっちに来てもらえるかしら?」
受付の奥から大きな声が響いたので視線を向けてみれば、そこには闘武祭の実況をしていたあの女性がいたのである。
何故ここにー……と思ったが、他の受付嬢と同じ服装で奥から現れた状況からして、どうやら彼女はここの職員らしい。
彼女だと判明するやエミリアとリースがすぐさま俺の前に立ち塞がり、フィアが俺の腕に抱きついてきた。フィアは笑っているので、ただ俺と腕を組みたいだけかもしれない。
当然ながら遠くから眺めている冒険者達が羨ましそうに睨んでくるが、気にせずにエミリアとリースの頭を撫でて落ち付かせた。
「落ち着きなさい。ほら、呼んでいるみたいだから行くとしよう」
「ならこうしましょう。私は背中に回るから、二人は両脇に付きなさい」
「「はい!」」
「じゃあ俺が正面だな!」
そして俺の両脇にエミリアとリースが、背中にフィアで正面にレウスと皆に囲まれた状態で受付前に向かっていた。
何だこの状況は? ……と思うが、俺を心配しての行動なので止めさせづらい。
「な、何という完璧な布陣!? これでは私の入る隙がないじゃない!」
「姉ちゃん達の敵は俺の敵だ! 兄貴には触れさせねえぜ!」
「しかも恋人が三人から四人!? 流石は闘武祭を制した御方。男だろうと受け入れる深い懐も素晴らしい!」
「ちょっと待て、レウスはただの弟子だ」
「待てよ兄貴! 俺達はただの弟子じゃなくて、将来は本当の兄貴ー……むぐっ!?」
大声で力説し始めたので、最近作ったべっこう飴のような飴玉をレウスの口に放り込んで黙らせた。蜂蜜を加えて一手間加えて仕上げた甘味に夢中のレウスは、舐めるのに集中して静かになった。
隣でエミリアとリースが物欲しそうな目を向けてくるので、同じく口に放り込んでやったのは言うまでもない。
「ごほん! それより手紙を貰ってここへきたのですが」
「おっと、そうだった! 悪いんだけど、すぐに上へ連絡するからちょっと待っていてほしいの」
女性は受付の奥で作業していた別の女性に連絡を頼み、続いて俺達のギルドカードを見せてほしいと言ってきた。
「一応ランクの確認をね。あ、申し遅れたけど私の名前はビューテ。強い男なら何時でも大歓迎よ」
明らかに俺とレウスを狙った視線をあえて無視し、ギルドカードをビューテに渡した。そして俺達全員の分を確認すると、顔を手で覆いながら深く息を吐いた。
「……あれほどの実力を持っていながら、本当に初級だったのね」
「あまりランクに興味がなかったもので。それで俺達を呼んだのはランクを上げる話ですか?」
「私も詳しく聞いていないけど、おそらくそれ関係だわ。ところで興味がないって言っているけど、ランクの区分けは知っているわよね?」
「それはまあ……」
ギルドランクは十級から始まり、依頼をこなしたりしてランクが上がる度に級の数字が減り、一級が一番上である。
ランクが上がれば難しく報酬が高い依頼を受けられるようになり、呼び方も変わるようになる
十級から七級が初級冒険者。
六級から四級が中級冒険者。
三級から一級が上級冒険者……と呼ばれるようになる。
噂では一級より更に上である特級と呼ばれるのもあるそうだが、成り方以前に興味がないので調べるつもりはない。
「それなら説明はいらないわね。詳しい話はマスターがしてくれるから、私に付いてきてくれる?」
「俺の仲間も大丈夫なのか?」
「問題ないわ」
先程連絡を頼んだ女性が戻ってきたので、俺達はビューテに連れられて奥の部屋へ通された。
案内されたのは会議に使われそうな部屋で、中には大きなテーブルがあった。
そのテーブルの向かい側に髪を完全に剃った、ライオルの爺さんと負けないくらいに鍛え抜かれた筋肉を持つ大男が座っていた。顔面に大きな傷を持ち、雰囲気からして只者ではないこの男がおそらく……。
「紹介するわ。こちらの御方が冒険者ギルド、ガラフ支部のギルドマスター、バドム様よ」
「バドムだ。よろしく闘武祭の優勝者、シリウス君」
立ち上がって俺に握手を求めてきたので応じたが、手を繋いだ瞬間……バドムは静かに笑みを浮かべた。
俺がバドムを只者ではないと気づいたように、向こうも俺の実力に気づいたらしい。このギルドマスターは手を繋いだだけでも実力の一端を測れる強者のようだな。
「……なるほど、君なら優勝も当然かもしれん。これ程の実力者が埋もれていたとは……世界は本当に面白いな」
そしてレウスとも握手をしていたが、興味深そうに何度も頷いていた。
「君はシリウス君の弟子だったな?」
「そうです。兄貴の一番ー……じゃなかった、二番弟子です!」
「そうかそうか。君もまた素晴らしい原石だ。将来が非常に楽しみだよ」
エミリアが発する無言の圧力ですぐに訂正するレウスに、バドムは楽しそうに笑っていた。
そして目上かつ、本能的に強い相手だと理解したのか、レウスの口調が珍しく敬語になっている。
その後エミリアやリースと続き、最後にフィアと握手をしたバドムは席に戻り、俺達に座るように手を向けてきた。
「それにしても君達は興味深いな。初級冒険者かと思えば、その若さでこれ程までに鍛えあげ、更に希少なエルフと幻と呼ばれる百狼と共にいるのだからな」
「生きる為に必要でしたし、フィアとホクトは俺の大切な仲間ですよ。それで俺達を呼んだ理由をお聞きしても?」
「うむ。すでに理解していると思うが、シリウス君とレウス君のランクを上げる話だ。手紙で書いたように、闘武祭で優勝した者が初級だと煩い輩が出てきそうでね」
「やはりそうですか。あまり上がるのも困るので、中級の六級で十分でしょう」
「……普通はランク上げに執着するものだが、君はあまり興味がなさそうだな」
君なら上級でもいけるだろうと、バドムは苦笑しながらビューテが用意したお茶を飲んでいた。
「ランクはのんびりと上げていくつもりでしたから。それより俺は弟子を鍛えて、世界を巡るのを優先していますので」
「冒険者とは自由に生きる者だ。なので求めていない限りはシリウス君を呼びたくなかったのだが、闘武祭の優勝となれば流石に見過ごせなくてな。先にギルド代表として謝っておく」
「いえ、そちらの事情もわかりますので。それで、俺は何をすればいいのでしょう?」
「すでに依頼を用意しているので、それを達成すれば君達全員を中級へとランクアップしてあげよう。詳しくは後でビューテ君から聞いてくれ」
「あの……従者である私達もよろしいのですか?」
「十分だ。さっき握手をした時点で君達の実力は大体わかったからね。常人を上回る魔力も感じるし、中級だろうと十分やっていけるだろう」
バドム個人は上級でもと考えているようだが、流石にそこまで特別扱いすれば周囲が煩いし、上級である三級に上がるには、本来ギルドの職員を随伴した特殊な依頼を受けないと駄目なので諦めたようだ。
何より俺が嫌がったので、依頼を達成すればフィアを除いた俺達は全員六級に上がる事に落ち着いた。
おそらく依頼は討伐系になるだろうと考えていると、隣のエミリアが質問とばかりに手を挙げていた。
「申し訳ありません。一つお聞きしたいのですが、一級より上である特級というランクがあるのは本当でしょうか?」
「特級は確かに存在するよ。何だい、君は特級になりたいのかな?」
「いいえ、私ではなくシリウス様です。シリウス様なら特級でも問題なさそうですので」
「おい、勝手に推薦しようとするな」
「ははは、確かに闘武祭を優勝できるシリウス君は強いだろうが、特級とは実力のみにあらず。本人が剣以外に興味がないのもあるが、あの最強である剛剣ライオルでも特級は無理だろう」
特級とは数十年に一人と言われ、それこそ全てにおいてのスペシャリストみたいなものらしい。
様々な技能に、下の者を導ける指導力。そして裏の世界を知り尽くし、非情な決断を下せられる冷静な判断力が必要不可欠だそうだ。
「更に各大陸の冒険者ギルドの長が認める実力があれば、特級の資格は十分だろう。ああ、剛剣ライオルを倒せれば誰も文句を言えんかもしれんな。まあそんな奴はいないと思うがな、ははは!」
バドムは笑っているが、俺はその条件を満たしている気がする。
しかしいきなり上級や特級になるのはつまらないと思うので、適当に返事をして黙っておく事にする。
「でしたらシリウス様ならー……むぐっ!?」
際どかったが、飴は間に合った。
そしてバドムと別れ、ビューテから依頼内容を聞いた俺達は町から外に出て、ホクトを先頭に近くの森を目指していた。
ちなみに歩きでも半日は掛からない距離なので、馬車は宿に預けたまま徒歩である。
街道から外れ、だだっ広い草原を歩いている俺達は依頼内容を思い出しながら歩き続けていた。
「依頼内容はオークの集団を討伐よね? 何体ぐらいいるのかな?」
「ビューテさんの話だと十体くらいと言っていたけど、それ以上はいると想定しなきゃ駄目よ」
「当り前だぜ姉ちゃん。どんな相手だろうと油断せず、常に最悪の想定はしておけだろ?」
「……何かあればアドバイスするつもりだったけど、必要なさそうね」
オークとは、巨大な豚が二足歩行している人型魔物の一種だ。
知能は低いが体の大きさと力は人の二倍はあり、雑食で何でも食べる。体に蓄えた厚い脂肪は剣や打撃を防ぎ、生半可な攻撃は通じないのである。大雑把に言えば、ゴブリンを二回り強くしたようなものだろうな。
初級の壁でもあり、一人で一体倒せれば中級の実力は十分と言われている。
「ところでシリウスは特級になりたいと思わないの? ギルドマスターの説明だと、貴方なら普通になれたんじゃないの?」
「そうですよ。シリウス様はライオルのお爺ちゃんを倒せているんですから、特級に相応しいと思います」
「うーん、私もそう思うけど、シリウスさんは必要な時以外は目立つの嫌いますもんね。闘武祭の時はフィアさんの為でしたし」
「リースの言う通りだが、特級になるって事は上になるって事だからな」
確かに特級になれば、色々と便宜を図ってもらえたりして手間が省ける部分が多いだろう。
しかし今回みたいに一つ二つ上げるならいいが、本来は苦労して上げるランクを、上からとはいえ一気に上げるというのはそれだけ反感を買う材料となる。
「上に立てば多くのものが見えるだろうが、逆に下からでしか見えないものもある。上級や特級には必要になって上がればいいんだし、今はのんびりと行けばいいのさ」
「そのような意図があったんですね。申し訳ありません。差し出がましい真似をしてしまいました」
「俺の為だろう? 気にするな。それに不満や言いたい事があるなら遠慮なく言いなさい。隠して取り返しのつかない事態になったり、溜め込んでおくのが一番悪いからな」
「じゃあ、最近兄貴の飯を食べてないからもっと食べたい。後はフリスビーしたい」
「セシルさんの料理も美味しいですけど、私はシリウス様の料理が一番です」
「私もそう思います」
「オン!」
「そっちかよ! だから弁当を作っただろ?」
最初は昼食を買って町の外へ出ようとしたのだが、弟子達が俺の料理が食べたいと言い出したので、一度宿へ戻って弁当を作ってきたのである。
御蔭でそろそろ昼前だが、俺達の歩行速度は他の人より速いし、いざとなれば走って帰ればいいので時間の余裕はある。これは依頼なのに、完全にピクニック気分だな。
他にもブラッシングや撫でてほしいだの、ほとんど日常でやっている事ばかり挙げてくるので不満は溜め込んでなさそうだ。
安心しながら歩いていると、フィアが俺の横へやってきて肩に手を置いてきた。
「ふふ……お母さんは大変ね」
「俺は男だから父親だろ」
「それもそうね。女性を喜ばせる技術は立派な男だもの」
「そっちで男かい」
「冗談よ」
軽く舌を出しながら笑うフィアに毒気が抜かれ、何も言い返せず歩くのに専念する事にした。
それから草原を歩き続け、ようやく森が見えた地点で昼食を摂る事にした。
エミリアとリースに手伝ってもらった弁当を食べながら、この後の予定を話し合う。
「オークは森の奥にいるんだっけ? これ食べたら、森の奥へ突撃だな!」
「いや、森に入る予定はない。今は依頼より確認しておきたい事があるんだ」
「入らないのか? じゃあどうするんだよ兄貴」
「オークについては考えがあるから、今は俺達に必要な事を優先する」
初めて俺と出会った時に食べた、肉と野菜のサンドイッチを懐かしそうに食べているフィアに視線を向けると、彼女は首を傾げて俺を見てきた。
「どうしたの? あ、食べさせてほしいのね。はい、あーんして」
「そうじゃなくて、食べながらでいいから聞いてくれ。食事が終わったら、フィアの実力を教えてほしいんだ」
「私の?」
これから旅をするのなら、仲間の実力を詳しく把握しておくべきだからだ。
仲間になった日からずっと思っていたのだが、町中で見せてもらえばフィアの精霊魔法がばれてしまう可能性があるので、今まで保留にしていた。
しかし今回の依頼で町を離れたので、今が絶好の機会だと全員に説明した。
「俺達の後を付けてくる奴もいなかったし、現在周囲に人らしき反応はない。ホクトに見張りを頼んで、今の内に皆の能力を確認し合おう」
「そっか……仲間になるんだから必要な事よね。恥ずかしながら、ずっと一人で旅をしていたから気付かなかったわ」
笑いながらフィアは言うが、聞いているこちらは悲しくなってくる言葉だ。旅を楽しんでいたようなので後悔はしていないのが唯一の救いかもしれない。
「背中を預ける仲間だしね。それじゃあ私の精霊魔法を見せてあげましょう」
「はい! 私も精霊魔法の後輩として参考にさせてもらいます」
「リース姉は攻撃より治療と防御ばかりだからな。フィア姉がどう使うのか楽しみだな」
「う……そんな純粋な目で見られると緊張するわね」
家の腹ペコ姉弟の純粋な目に、フィアがプレッシャーを感じていた。
そんな中、フィアと同じ風を使うエミリアが気になったが、彼女は水筒からコップにお茶を注いで俺に手渡してきた。
「どうぞシリウス様。あの……私の顔に何か?」
「ああいや、エミリアとフィアは同じ風魔法を使うから、気にならないのかと思ってな」
「気にはなりますが、魔法以外にも力になれる事は沢山あります。私はシリウス様のお役に立てればそれで十分なんです」
俺が鍛えたものの、おそらく風の魔法に関しては確実にフィアの方が強いだろう。
しかし身体能力や従者としての能力はエミリアの方が上な筈だ。それを理解し、嫉妬もせず微笑んでいるエミリアに胸が暖かくなった。
「そうか……成長したな、エミリア」
「いいえ、まだまだです。シリウス様が見ていてくださる限り、私はどこまでも成長してみせますから」
体以上に心も大きく成長したエミリアの頭を慈しむように撫でてやれば、嬉しそうに尻尾を振りながら目を閉じていた。
「うふふ……幸せです」
「そうよね。魔法では勝てても、エミリアには色んな面で負けているもの。貴方の恋人として私も頑張らないとね。ところでシリウス」
「ん?」
「やっぱり食べさせてあげたいから口を開けてほしいわ。はい、あーん」
「…………あーん」
食事が終わり、その後俺達はお互いの力を披露し合った。
精霊魔法使いが二人もいるし、本気を出せば天変地異が起こせるメンバーなので、一部は口頭で説明しながら続けていく。
俺の銃魔法に、レウスの剣技。エミリアの風による刃の鋭さ、リースの水を使った壁や利用法にフィアは驚きつつも手を叩いて称賛していた。
「想像以上の強さね。私が旅をしていた頃、貴方達みたいな強者なんてほとんど見なかったわ」
「兄貴が鍛えてくれた御蔭さ」
「お前達が努力し続けた結果だよ。俺は切っ掛けに過ぎん」
「切っ掛けだろうと、貴方を信頼しての行動だから誇ってもいいと思うわよ。さて、じゃあ私の番ね」
フィアが前に出て、誰もいない草原へ手を向けて静かに呟いた。
「力を貸りるわ。風よ……」
呟きと共にフィアの魔力が放たれた瞬間、遥か先で大きな竜巻が発生した。
範囲を狭めて発動させた竜巻の勢いは凄まじく、人が為す術もなく舞うどころか、地に生えている木ですら引っこ抜かれそうな勢いである。
十分見せたのを確認したフィアが手を振れば、あれ程の竜巻が存在しなかったように消え去った。しかし地面は深く抉れているので、竜巻の威力をしっかりと物語っていた。
「ふぅ……ちょっと張り切り過ぎちゃったわね。これ以上強くすると制御しきれなくて、広範囲を無差別に薙ぎ払っちゃうのよ」
「それでも凄ぇ! 姉ちゃん、あれ出来るか?」
「ちょっとだけなら。でも、私だったらきっと魔力切れになりそうね」
「エミリアとフィアの使い方は方向性が違う。同じ事をやろうとしなくてもいいんだぞ」
フィアの精霊魔法は強力な風をぶつけて吹き飛ばす方向で、エミリアは風を完全に制御して風で切り裂く方向性ってわけだ。
その後も幾つかの魔法を放ち、最後に俺が教えた空を飛ぶ魔法を見せてくれた。
「……こんなところかしら? 今まで故郷から出られなかったから、毎日練習して時間を潰していたのよね」
「見事なものだ。俺が冗談で教えた魔法も再現しているし、空の飛び方も昔と比べようもないな」
「ありがとう。でもね、空を飛ぶのはこんなものじゃないわよ。時間制限があるけど、一人なら浮かせる事が出来るようになったわ」
「つまり俺もフィア姉みたいに飛べるって事か?」
「そういう事よ。飛ばしてあげるからこっちにいらっしゃい。あ、制御が大変だからあまり動かないでね」
呼ばれたレウスが前に出ると、風が吹くと同時にレウスの体が浮かんだ。そのままフィアを中心に周囲を飛び回らせ、レウスはゆっくりと地上に降ろされた。
「凄かったぜフィア姉! だけどさ、飛んでいる間は何も出来ねえな」
「私の風で浮かすから、踏ん張れないのは当然ね。ある程度なら相手の動きを封じられるけど、あまり激しく動かれると落としちゃうわ」
「そうなると主に移動用ですか。それでも凄いですよ」
「ありがとう。故郷の友達を実験台ー……じゃなかった、協力してもらってここまで出来るようになったの。ようやくシリウスに見せられたから苦労が実ったわね」
「ああ、誇ってもいいと思うぞ」
笑みを浮かべているフィアだが、並大抵の努力でここまで来れるとは思わない。
彼女の努力を称えながら、俺は笑みを向けた。
互いの力を確認し、ようやく依頼のオークに取り掛かろうとしたところで、レウスは日の傾きを眺めてから俺に顔を向けてきた。
「なあ兄貴。今からオークを探して退治してたら、帰るのが夜になりそうだぞ?」
「探す必要はない。ホクト!」
「オン!」
俺が指示を飛ばすと、ホクトは弾丸の如き勢いで森へ突撃していた。
その動きに首を傾げる仲間達だが、俺は戦闘準備するように言っておいた。
先程『サーチ』で確認したが、森の奥にオークの集団らしき反応を感知できた。そして俺が感知出来るって事は、当然ホクトも感知しているわけである。
つまりー……。
「アオオォォ――ンッ!」
探すのではなく、向こうから来てもらえばいいのだ。
ホクトが森に消えてしばらくすると、ホクトに追いやられてこちらに逃げてくるオークの集団を捉えた。
前世で山の奥で暮らしていた頃、よく俺とホクトがやっていた狩猟の一つだ。ホクトが獲物を追いかけて誘いこんで俺が奇襲して仕留めるやり方だが、懐かしいものだ。
「数はー……十五だな。連携の練習も兼ねて戦うとしよう」
「ならまずは、私の風で数を減らすわね。おそらく半分は削れると思うわ」
「その後に俺が突撃するよ!」
「私はレウスとは反対の相手を狙いましょう」
「じゃあ私は、討ち漏らした相手を狙います」
「俺は状況に合わせて動こう」
一人で戦ったとしても、今の俺達ならオーク程度なら問題ない筈だ。今回は連携の練習台として、一気に殲滅させてもらう事にした。
上空から風で押し潰すフィアの精霊魔法で半分近くが圧死し、残ったオークは突撃したレウスの剣とエミリアの風魔法で真っ二つにされ、逃げ出そうとしたオークはリースの放った水の玉と、追いついたホクトの前足によって倒された。
あっさりとオークは全滅し、俺達は討伐証明であるオークの牙を手早く剥ぎ取った。
後はこれを届ければ、依頼は完了である。
「よし、それじゃあ帰るとするか」
「こ、こんな簡単でいいのかな……」
「シリウス様が良いならそれで良いのです」
他にもホクトに殲滅してきてもらう手もあったし、まだ連携の確認として戦っただけましだと思う。
依頼の為にここまできたが、主な理由は仲間の能力確認だったので、あっさりと終わらせるのに抵抗なんて一切感じない。
オークを全滅させて町へ帰る道中、俺は思い出した事があってレウスを呼び止めた。
「レウス。渡す物があったのを忘れていた。受け取れ」
「ん……何だこれ?」
渡したのは剣のマークが刻まれたメダリオンだ。
最初は首を傾げていたレウスだが、刻まれた剣のマークからこれが何か気づいたようである。
「これって……ライオルの爺ちゃんの剣? 兄貴、もしかしてこれ……」
「ああ、お前の想像通りだ。爺さん曰く、免許皆伝の証らしい」
数年前、ライオルの爺さんと別れる間際に渡された物だ。俺の目から見て、レウスが剣士として一人前になったら渡してくれと頼まれた物である。
そして先日の闘武祭でレウスは俺の想像以上の力を見せてくれた。これを受け取る資格は十分だろう。
「お前も立派な剣士だ。これからも頑張れよ」
「兄貴……任せてくれ! 絶対爺ちゃんを倒して、兄貴の後ろに行くから待っていてくれよ!」
少し涙ぐみながら、レウスはメダリオンを握り締めて喜んでいた。
……が、感動するのはまだ早い。
このメダリオン、爺さんは免許皆伝だとか言っていたが、実はー……。
「これを見せれば、おそらく爺さんは本気で攻めてくる。先日の俺と同じように殺気を放ちながら剣を振るってくるだろうな」
「……えっ!?」
つまりこれは爺さんのリミッター解除装置である。
言い方を変えれば、ライオルが本気を出しても戦えます……というわけだ。
それを理解したレウスは呆然としながら頭を抱えていた。
「あのさ……兄貴? 俺が昔、爺ちゃんと戦ってた時って本気からどのくらいの強さかな?」
「四割だな。そしてこの数年でどれだけ強くなったかわからないから、考えるだけ無駄かもしれん」
「お……おお……」
過去に散々ボコボコにされた記憶が蘇っているのだろう。そして俺と違い、爺さんは手加減が下手糞だ。思わず斬り殺してしまいましたー……となっても、何らおかしい話ではない。
レウスは目に見えて震えだしたので、頭を撫でて落ち着かせた。
「まあ……怖いとは思うがお前も成長しているんだ。お前の目指す先の為に、頑張って強くなっていこう」
「わ、わかった! 兄貴と一緒なら怖くないぜ!」
そうは言うが、レウスの尻尾が垂れ下がっているので怖がっているのは丸わかりだ。
爺さんがどれだけ強くなったかは再会してみないとわからないから、俺も大丈夫だとはっきり言えないのが辛い。もしかしたら年齢のせいで体力が落ちているかもしれないと考えたが、あの爺さんにはそれはありえなさそうだ。
何にしろその時に備え、俺はレウスが殺されないように訓練メニューを改めて見直す事に決めるのだった。
その後、オーク討伐の依頼を完了した俺達はランクが六級となった。
中級冒険者の証でもある銀製のギルドカードを貰って弟子達と笑みを浮かべていると、カードを手渡してきたビューテが拍手をしながら祝福してくれた。
「おめでとう。これでシリウス君達は中級冒険者になったから、中級向けの依頼を受けられるようになるわ」
「ありがとうございます。ところで、中級になるとどのような依頼があるのでしょうか?」
「そうね、初級では対処できそうにない魔物や、特殊な地での採取などと、一味違った依頼が増えるわね。稀にだけど、依頼者から指名される指名依頼なんてのもあるわね」
「指名を受けるって事は、それだけ名が売れた証拠って事か」
「そういう事よ。早速だけど、シリウス君に指名依頼が来ているの。これが依頼書よ」
「いきなりか。えーと……」
『シリウスへの指名依頼。ギルド受付のビューテとデートに出かけるのを依頼します。その後、宿へお持ち帰りー……』
「「えいっ!」」
「ああっ!?」
私情満載の依頼書は、エミリアとリースの手によって破かれるのだった。