軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談 姉弟の流儀

「パパーっ!」

「こっちこっち!」

「はは、そんな逃げ方じゃ、すぐ捕まえられるぞ」

子供たちと追いかけっこしながら、俺はエリナ村の広場を駆け回っていた。

今度はこちらが捕まえる番であり、幼いながらも鍛え抜かれた足腰と技術で逃げ回る子供たちを、俺は加減しながら追いかける。

「……どうなってんだろうな、あの子たち?」

「ああ……空飛んでいる時があるけど、本当に人なのかあれは?」

「今日もシリウスさんの子供たちは元気ですなぁ。ははは!」

この村に来て間もない人たちと、長年過ごしている人たちの呑気な会話を聞きながら、俺は次々と子供たちを捕まえていき、最後に屋根から木の上に逃げた子供を捕まえた。

「ほいっと。上にばかり逃げていたら、簡単に逃げ道がなくなるんだぞ」

「ああー!」

「また駄目だった……」

「もう一回! もう一回!」

すでに数回も繰り返しているのだが、まだまだ子供たちはやる気も元気も満々のようだ。

今日もエリナ村は、いつも通り平和な日々をー……。

「ぬははははははぁ―――っ!」

「ライオル殿が暴れているぞーっ!」

「レウス殿かベイオルフ殿を呼べ!」

……いつも通り、騒がしい日常となっていた。

何やら村にある訓練場で爺さんが広範囲の技を放ってしまったのか、ちょっとした騒ぎになっているようだ。

いつもならレウスやベイオルフが止めに入るのだが、あいにく今二人は村から少し離れているので、俺が行くしかなさそうだ。

「ちょっと待ってな」

「「「うん!」」」

素直に頷く子供たちであるが、何が起こるのかと楽しそうに俺の後を追ってくる。

まあ、爺さんが起こす騒ぎなんて、この村の子供たちにとってはただの面白イベントみたいなものだ。

集まった村人たちが俺の姿を見るなり道を空けてくれたので、訓練場の中心でご機嫌に笑う爺さんへと話し掛けた。

「爺さん、何をやっている?」

「おお、お主か! いやなに、つい嬉しくて力が入り過ぎただけじゃ」

「だからって、軽々しく周辺を吹っ飛ばすなよ」

この破壊跡、爺さんが放った『衝破』か?

ほとんど加減せず放ったのか、これは後始末が大変そうである。

「で、妙にご機嫌だが、一体何があったんだ?」

「うむ! 不意を突いたとはいえ、この子の剣が遂にわしの髪を掠めおってな。嬉しくてつい……のう?」

「気持ちはわからなくもないが……」

どうやら子供と模擬戦していたようで、相手が振るった剣が爺さんの髪の毛を数本飛ばしたらしい。

手加減していたとはいえ、この若さであの爺さんにそこまで迫れたとは……実に将来有望である。

まあその子供は爺さんの『衝破』で吹っ飛ばされたのか、訓練場の端っこで気絶しているようだ。

「今日の訓練はここまでにしとけ。誰か、リースを呼んできてくれ」

「必要ないわい。わしの子じゃ、掠り傷じゃ」

簡単に状態を確認したところ、爺さんの言う通りただ気絶しているだけのようだ。

念の為、リースに診てもらえと伝えてから周りへ簡単な指示を出し、後始末を任せて訓練場を出たところでレウスとベイオルフが村に帰ってきた。

「兄貴! 戻ったぜ!」

「ただいま戻りました」

「おかえり、二人とも。用事は済んだのか?」

「ええ、無事に解決しましたよ。ですが……」

「帰る途中でこいつと出会ったんだよ」

そう言う二人の後ろには、一人の男が立っていた。

見たところ若い男であるが、ぱっと見て一番気になるのは……。

「銀狼族……か? こんな所に一人でとは、珍しいものだな」

レウスと同じ銀狼族であり、まだ幼さが残りながらも活力に満ちた青年である。

何か特別な事情でもない限り、同胞や家族から離れようとしない銀狼族が何故こんな所にー……いや、どこかで見た事がある?

もしかして会った事があるのかと首を傾げていると、レウスに促されて俺の前に立った青年が頭を下げた。

「久しぶりです。俺は 義父(おやじ) ……ガーヴの弟子のアクラです」

「ああ! あの時の子供か」

エミリアとレウスの肉親……お爺さんである、ガーヴ。

彼はレウスと同じ呪い子と呼ばれる、狼の姿へと変身出来る子供を養子として引き取り育てていた。

そして数年前、俺とエミリアの子を見せにガーヴの村へ行った事があるのだが、その時に子供と会っていたのを思い出したのだ。

つまりその子供が成長したのが……。

「随分と大きくなったな」

「当たり前ですよ! 何年経ったと思っているんですか?」

そのやんちゃそうな笑みに、本当に成長したんだなと驚かされる。

何せ初めて会った時は人見知りが激しいと言うか、こちらから話し掛けても碌に返事もしなかったからな。

「それで、何故君はこの村に? ガーヴの身に何かあったのか?」

「いえ、 義父(おやじ) は元気ですよ。ここに俺が来た理由は世話になりに来たと言いますか、とにかくこれを読んでいただけたらと」

そう言いながらアクラが取り出したのはガーヴからの手紙である。

何やら事情がありそうなので、こんな村のど真ん中ではなく家に戻って話を聞く事にした。

そして家へと戻り、おやつが用意されたと言われて食堂へと向かった子供たちを見送った後、客間のテーブルに着いてから手紙を読んだ。

その間、家にいたエミリアたちがアクラへと話し掛けており、彼は無邪気に皆と語っていた。

「大きくなりましたね。お爺ちゃんは元気ですか?」

「は、はい! 元気満々です! エミリアさんもお元気そうというか、あの頃と変わらず美しいままですね!」

「何だ? 姉ちゃんは兄貴の奥さんだぞ? 変な目で見るなよ」

「そ、そんな事ないっすよ!」

やはり同族から見てもエミリアは魅力的なのか、年頃のアクラにとっては中々刺激的らしい。

デレデレしているアクラを他所に手紙を読み終えた俺は、皆にその内容を告げた。

「どうやら、アクラに外の世界を教えてやってほしい……つまりここで鍛えてほしいそうだ」

「そうです! 親父からここで色々学んで来いと言われたんです。シリウスさんに認められるまで帰って来るなとも言われました」

「ふむ……まあ、問題はないよな?」

一応皆に確認の視線を向けてみるが、反対意見はなさそうなので受け入れる事にした。

とりあえず礼儀として、アクラには改めて挨拶をしてほしいと促せば、彼は皆の前に立って頭を軽く下げた。

「アクラと言います。親父に鍛えられているので、体力には自信があります」

「よろしくね。ところでガーヴさんの養子となると、レウスからすればおじさんになるのかしら?」

「あはは、凄く若いおじさんだよね」

「い、いえ……さすがにそれは困るんで、俺はレウス兄さんの弟と思っていただければ……と」

まあそう考えるのが妥当か。

そして一通り挨拶を済ませたところで、子供たちにおやつをあげていたノエルとディーがやってきた。

「シリウス様もおやつを食べませんか? 今日はディーさんの新作ですよ」

「ちょっと配合を変えてみたんです。よろしければ味見していただけたらと」

「ああ、ならありがたく貰おうか」

ディーの作った菓子を食べてみたところ、甘さは若干控え目だがこれはこれで美味い。

他にも細かい感想をディーへ伝えていると、ノエルがアクラへとお菓子を差し出していた。

「はい。アクラ君……だっけ? 貴方も食べる?」

「あ、貰います」

「ぬふふ……向こうで聞いていましたが、レウ君の弟なら私の弟みたいなものだよね!」

「そ、そうだな……」

「私はノエルで、こっちはディーさん。よろしくね」

「おう、よろしく!」

「…………」

ノエルの無邪気な笑みに、アクラは困惑しながらも笑みで返していた。

その内ここの空気にも慣れるだろうと思いつつ残りの菓子を口に入れていると、レウスが意味深な視線をアクラへ向けている事に気付く。

同族かつ、同じ能力を有しているので、彼について何か感じているのだろうか?

だがここで何も言わないって事は、まだあいつの中で確証がないのだろう。

とりあえず俺も色々と気にしつつ、他の者たちと同じように接する事を決めたのだった。

アクラがこの村にやってきてから早くも数日が経過したが、順応は中々に早かった。

銀狼族の高い身体能力に加えてガーヴにしっかりと鍛えられているので、村で行われている鍛錬について行くのを苦にしていなかったし、寧ろ強敵と戦える事に喜んでいるようだった。

レウスに始まりベイオルフにジュリアと、勝てないながらも次々と強敵に挑んでいく姿勢はいい事だと思う。

「あんたが最強と呼ばれる剛剣か? 俺と勝負してくれよ!」

「小僧の弟とやらか。いいじゃろう、かかってくるといい」

「何だ? 木刀とか俺を舐めてー……」

「ぬりゃああああぁぁぁぁ―――っ!」

「ぎゃああああぁぁぁ――ーっ!」

まあ、一部は喜ぶどころか恐怖を植え付けられているようだが、ここでの生活をアクラは概ね楽しんでいるようである。

「だが、やはりまだ若いか」

欠点を上げるとすれば、礼儀だろうか?

ここでの生活に慣れた事で、ガーヴの下で過ごしていたような砕けた口調を使うようになったのだが、そこに問題がある気がするのだ。

別に口が悪いとか、そういう話ではない。

まだ若い子であるならば調子にも乗るだろうし、その辺りの加減は追々学んでいくだろう。

ちゃんと自分より強い相手には敬意を示しているのだが……明らかにアクラは、自分より弱い相手を軽んじているように感じられるのだ。

それを露骨に見せないのはガーヴの教育によるものだと思うが、最近はやんちゃというか……呪い子の影響なのか妙に好戦的であり、自分の言葉を聞かない事が多いと、ガーヴからの手紙に書かれていたのである。

『お主たちに頼るのは我ながら情けないとは思うが、呪い子の事も含めて今の私では難しいようだ。あの子の未来の為にも、どうか頼めないだろうか?』

エミリアと結ばれた俺にとってはガーヴも家族同然のようなものなので、頼ってくれるのは嬉しく思う。

そしてガーヴの本音はアクラ本人には聞かせておらず、ただの修行として送られてきたとしか聞かされていないらしい。

そんなわけでアクラには色々と注視していたわけだが、それについてレウスに話してみたところ……。

「なあ兄貴。あいつの事は俺に任せてくれねえかな?」

「……わかった」

というわけで、アクラがエリナ村に滞在するようになって半月が経った頃……月が特に明るい夜にレウスはアクラをとある場所へと連れて来た。

そこは村から遠く離れた広場であり、周囲への被害だけでなく、子供たちに見せられないような戦いの為の戦闘場でもあった。

そしてレウスの要望により、見届け人は俺とエミリアとホクトだけだ。

「こんな所まで来て何をするんだ、レウス兄ちゃん?」

「ああ、ちょっと本気で殴り合おうって思ってさ」

「おう! 今度は一撃くらい当てて見せるぜ!」

「一撃とか生温い話じゃねえ。俺を殺す気でこい」

「……わかった」

レウスの様子にアクラも冗談じゃないと察したのか、静かに拳を構えた。

そして僅かな睨み合いの後、先手を取ろうと飛び出したアクラが拳を振るうが、レウスはその拳を軽々と受け止めた。

「本気って言っただろ? お前の変身を見せてもらう為に、俺はわざわざここに呼んだんだぞ?」

「でも、あの姿は……」

「なら俺が先になってやろうか?」

そう言いながらレウスは拳を受け止めた腕だけを変化させ、驚くアクラの拳を掴んだまま力技で投げ飛ばしていた。

「な、何だそれ!?」

「俺と戦えば教えてやるさ」

レウスは腕だけでなく全身を狼の姿へと変え、拳を振りかぶる。

殺意が込められた一撃に本能が爆発したのか、アクラもまた変身してから腕を交差させてその拳を受け止めたが、防御越しでもアクラを大きく吹き飛ばしていた。

「は……はははは! そうかよ……ならやってやるよ!」

並の相手なら先程の一撃で倒れていただろうが、やはりあの姿だと大して効いていないのか、アクラはすぐさま立ち上がりレウスへと果敢に向かって行く。

変身した事で格段に向上した身体能力により、凄まじい勢いの拳が放たれるが、レウスは軽々と躱しては反撃を叩き込んでいった。

それでもアクラの勢いは止まらず、殴られながらも攻撃の手を緩める事はなかった。

決してレウスが手加減しているとかではなく、それだけ変身時の肉体が頑丈かつ、痛みに強いのだろう。

だが実力差は明確であり、アクラがほぼ一方的に殴られているような状況だが、彼に退く気は一切見られない。

「普通なら勝てないと判断して下がるんだろうが、それでも戦うのは変身の影響なんだろうな」

「だと思います。過去のあの子も、その衝動を堪えるのが大変だと言っていましたね」

もちろん今のレウスは本能に呑まれる様子は微塵もなく、その力を完全に掌握していた。

本人の血の滲む努力と、強い意志により至ったものであり、師として……親代わりとして本当に誇らしいものだ。

その後も戦いは続き、最初は全力で戦える事に興奮していたアクラであるが、攻撃が一切当たらない状況に焦りが見えるようになってきた。

「くそ!? 何で……何でだぁ!」

「ただ力を放ってるだけじゃ、当たるわけねえよ」

おそらくレウスの力であれば正面から受け止められるだろうが、敢えて受け流したりと技術で冷静に対応していくレウスの姿に、エミリアが目を細めながら呟いた。

「何だか、懐かしいですね。家を出ようとしたレウスと、それを止めてくださったシリウス様の雄姿を思い出します」

「……そうだな。ただ、俺としてはちょっとやり過ぎたかなと、後悔している面もあるんだよな」

「いいえ。あの時のあの子には必要な処置だったと思います」

まだあの屋敷でエリナと一緒に過ごしていた頃、己が呪い子だと知った時……レウスは屋敷を出て行こうとした。

呪い子の運命以外にも力に溺れているような様子も見られたので、俺は殴ってでもレウスを止めたわけだが、そういうのをあいつは再現し、アクラに理解させようとしているのだろうか?

そう考えている間も一方的な戦いが続いているが、アクラの一撃がようやくレウスの胸元へ直撃したが……。

「っ!? 嘘……だろ?」

「……そんな拳で通じるわけねえだろ?」

おそらく岩すら容易く砕く一撃だっただろうが、その拳は相手の体を僅かに揺らした程度であり、レウスはまるで大木のように揺るがなかった。

驚愕するアクラは反撃とばかりに殴り返されて吹き飛ぶが、レウスは追撃はせず静かに構えを取った。

あの構えは……。

「お前も来いよ。爺ちゃんから教わってんだろ?」

「……やってやるよ!」

やはり本能が抑えきれないのか、アクラもレウスと同じ……ガーヴの必殺技である『シルバーファング』の構えを取った。

俺たちもさすがに不味いかと思うよりも先に二人の技が同時に放たれ、互いの拳がぶつかって凄まじい衝撃波と打撃音が周囲へと響き渡る。

「く……そぉ……」

「まだ、爺ちゃんには程遠いみたいだな……」

あれ程の力がぶつかり合えばお互いただでは済みそうにないのだが、結果はアクラの拳から多少の血が流れるだけだった。

変身時の強い肉体もあるのだろうが、あれはきっとレウスがほぼ同じ力でぶつけた事により、衝撃を上手く相殺した御蔭なのかもしれない。

渾身の必殺技さえ通じず、さすがに勢いを失って立ち尽くすアクラに、レウスは拳を突き出したまま語り掛ける。

「お前より強い奴は世界には沢山いるんだよ。でも、それを体や頭で理解は出来ても……奥底にあるものがそうじゃないって……俺は負けてねえって……そう感じるんだろ?」

「あ……う……」

「でもな、それでもお前は理解しなきゃならねえ。お前が全力出しても勝てない存在はいて、自分は弱いって理解しなきゃならねえんだ!」

「弱い? 俺が? そんなー……ぐっ!?」

アクラの否定は拳により強制的に黙らされ、レウスは更に殴りながら言葉を続ける。

「強さってのは、力だけじゃねえんだ! お前より強くなくても、色々と助けてくれて、支えてくれた人たちが弱いわけねえだろうが?」

「そんなの……」

「お前さ、ノエル姉とディー兄の事を下に見ているだろ? ただの従者だって、甘く見てねえか?」

「っ!?」

「俺はな、兄貴たちだけじゃなく、あの二人がいたから成長出来たんだ! そんな二人をくだらねえ目で見てんじゃねえよ!」

ノエルとディーは大人の余裕で流してはいたが、確かにアクラはあの二人に対して素っ気ない感じが見られた。

おそらく本能的に相手の実力を察して対応を変えるというか、悪く言うなら大した相手じゃないと無意識に見下してしまうのだろう。

「作ってくれたもんはちゃんと美味いって伝えやがれ! おかわりくらい自分で入れろ! ノエル姉とディー兄に甘ったれ過ぎんな!」

「……アクラの躾けよりも、こっちの方がメインな気がするな」

「かもしれません。ですが……あの子らしいとも思います」

「だな」

俺とは違う方向から、あの二人は弟のようにレウスの世話を焼いてくれたからな。

レウスにとっては忘れてはならない恩人であり、そもそも今では二人の娘と結ばれて義理の親にもなっているのだ。

そんな二人が甘く見られて怒り心頭というわけである。

「尊敬される人ってのはな、腕っぷしだけじゃねえんだ! 寄り添ってくれる暖かさ、自分の為に美味い飯を用意してくれる人を大事に出来ない奴になってんじゃねえ!」

「ぐはぁ!?」

「だから……前の馬鹿な俺のように、お前にもわからせるだけだ! お前の心を……本能さえへし折って、大事な事を知ってもらう為にもな!」

更にレウスの攻撃は激しさを増し、アクラはやられ放題である。

明らかに俺の時以上に激しいし、やり過ぎにしか見えないのだが、そこまでしなきゃ変えられない程に銀狼族の本能は根深いのだろう。

実際、未だにアクラは抵抗を続けるどころか、まだやれるとばかりに拳を振るっている。

「まだ……まだ……俺はぁ!」

「お前が強くなりたかったのは、守りたかったもんは何だ! 母ちゃんや家族だろ! それを忘れようとするんじゃねえ!」

後はもう……あいつに任せるしかないか。

俺はエミリアと視線を交わしてから、黙って二人の行く末を見守り続けるのだった。

時間としては一時間くらいだろうか?

その間ずっと殴り合いを続けていた二人だが、遂にアクラが力尽きてその場に崩れ落ちた。

最早ボロ雑巾のようなアクラの変身が解け、それを確認したレウスもまた元に戻ったところで、俺たちは二人へと近づいた。

「終わったようだな。お疲れさん」

「おう。でも結構時間かかったと言うか、兄貴みたいに上手く行かなかった気がする」

「そんな事はないさ。立派だったぞ」

お互い子供だった俺とレウスの時とは違い、アクラはもう青年だからな。

苦労の度合いではレウスの方が遥かに上だろうし、圧倒はしていたがアクラの攻撃を何発も貰っていたので、レウスも無傷とはいかなかったようだ。

殴られた部分を痛そうに擦るレウスに、エミリアが背中を優しく叩きながら労っていた。

「シリウス様、あの子の応急処置が済みました。それとレウス、頑張りましたね。きっとお爺ちゃんも喜んでくれると思いますよ」

「……そうだといいけどな」

孫が義理の息子をボコボコにするという状況なので、ガーヴからするとかなり複雑な気もする。

それでも、呪い子の問題はレウスが一番理解出来るし、必要な処置だったと納得するしかあるまい。

とりあえず命の心配はなさそうだが、早く帰ってリースに診てもらった方がいいな。

「よし、帰るとするか。後は起きた時に、アクラがどうなっているかだが……」

「変わってなきゃ、もう一度殴るだけだぜ!」

「そうですね。それでも変わらなければ、私も加わりましょうか? お爺ちゃんの為でもありますし」

「い、いやいや!? 姉ちゃんは大丈夫だから! 俺だけで十分だからな……うん!」

確かに、エミリアは最終兵器のようなものだから、簡単に任せるわけにもいくまい。

レウスより力は劣るとしても、子供を産んでは育て、母親として様々な意味で強くなった彼女に勝てる者はこの村には存在すまい。

下手に敵対すれば、とある剣の爺さんが即座に出張って来るし、基本的にエミリアが言う事には俺も否定なんかしないから、ある意味エリナ村のボスとも言えるのが彼女である。

「シリウス様が何も口を挟まないのは、貴方に教えてもらった事を生かしているからですよ」

「俺は何も言っていないんだが……」

「シリウス様の事ですから」

自信満々に答えるエミリアの姿に俺は苦笑しつつも、実に頼もしい奥さんを誇らしく思うのだった。

※※※※※

あの子を孫と彼の下へ送り出してから数ヶ月……アクラは村へと帰ってきた。

普通に帰ってくるのではなく、ホクト様に乗って戻ってきたので村がちょっとした騒ぎとなったが、皆が喜んでいたのでホクト様には感謝せねばな。

だがそれ以上に、アクラの成長に私は驚かされていた。

たった数ヶ月だというのに、まるで数年は経っているかのようなアクラの成長ぶりに、私は別人なのかと思ったくらいだ。

「親父、戻ったよ」

「……うむ。立派になったな」

「そうかな? だと嬉しいんだけど。あ、これ……エミリアさんとレウス兄ちゃんからの手紙だぜ」

まず思ったのは、その落ち着きぶりだった。

村を出る前はまだ幼いというのか、血気盛んな面を危うく感じていたのだが、精神が大きく成長して立派な大人へと変わっていたのである。

私に褒められたら当然とばかりに胸を張っていたのに、今は謙虚に喜んでいる事に驚かされる。

「外の世界を知って、己の未熟さを痛感したようだな」

「ああ! シリウス様やレウスさん……本当に凄い人ばかりだったよ!」

……何か違和感を覚えたが、とにかくこの子が無事に帰ってきた事を喜ぶとしよう。

そして皆の提案により、アクラの帰還を祝う宴を開く事になったのだが、そこでも成長が見られた。

「あ、あの……アクラさん。お口に合うかどうか……」

「ん? ああ、ありがとうな。うん、美味いぜ!」

配膳してくれた隣家の娘から差し出された食事を、礼を言いながら受け取るだけでなく、娘の目を見ながら感想を述べているのだ。

以前は渡される食事を当然のように受け取り、相手の目も見ず食べ始めていたのに……礼儀もしっかりと身についている。

「親父。茶でも飲むか?」

「む? ああ……お前が淹れるのか?」

「まあ……な。向こうで何度もやらされていたせいか、淹れないと落ち着かないって言うかさ……」

「そうか。ならばいただこう」

しかも向こうから持って帰ってきた茶器を使い、自分で茶を淹れるようになっていた。

まだぎこちない点はあるものの、しっかりとした手つきで茶を淹れている姿に、孫からの手紙に書かれていた内容を思い出す。

確か精神の鍛錬として紅茶の淹れ方を叩き込んだと書かれていたが、なるほど……中々見事なものだ。

そして一番の問題でもあった呪い子による高揚や、好戦的な面も抑制されていた。

同じ力を持つ孫が……レウスがしっかりと躾けたからだそうだが、ここまでとはな。

あの子たちにアクラを預けて正解だった……と、思ってはいるのだが……。

「なあなあ、アクラ。向こうには強い奴が多かったんだろ?」

「ガーヴさんのお孫さんであるレウスさんとか、シリウスって人族もどれだけ強かったんだ?」

「シリウス様な! ああー……いや、シリウスさんも凄く強かったよ。俺はあの御方の足元にも及ばなかった」

「あ、ああ……そうなんだ?」

「ねえ、ガーヴさん。あの子……寝ているとよくうなされているみたいだけど、大丈夫でしょうか?」

「心配するな。向こうで色々としごかれたようでな。いずれ慣れると、孫たちの手紙に書かれていたよ」

「でも、剣の爺が来る……とか、変身はこりごり……とか、よくわからない事を口にしていますし……」

「だ、大丈夫だ」

孫たちの手紙に書かれていた最後の一文と、アクラの様子に……預けた事を少し後悔もしていた。

『悪い、爺ちゃん。やり過ぎたかもしれねえ』

『ちょっとやり過ぎたかもしれません。ごめんなさい』