軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

表と裏

「へぇ……今回はまた不思議な人たちを連れて来たわね。ジラードの知り合いなの?」

「今朝説明したでしょう? 闘武祭で優勝したシリウス様と、その仲間たちですよ」

「ああ、そういえばそんな事を言っていたっけ? それにしても……珍しいわね」

銀狼族にエルフ、そして有翼人に百狼までいるパーティーだからな。ある意味世界で唯一とも言えるメンバーだろう。

カレンが有翼人だとは知られてはいないようだが、頭に竜の角を生やした女性は近づいて来るなり俺たちの事を興味深そうに眺めていた。

「ルカ。彼等はサンジェル様のお客様です。その目で見るのはお止めなさい」

「あ……ごめんなさいね。気になるものがあったら、つい観察しちゃう癖があって」

「人は研究対象ではありません。ヒルガンに比べれば可愛いものですが、もう少し欲を抑えるべきですね」

ちなみにジラードの説教を受けている女性は異様に薄着で、下着ではないかと思う程のシャツと短パンによって、彼女の胸や太ももがやけに強調されていた。

一応、上に白衣らしきものを羽織っているので露出も多少は緩和されているが、観察という言葉と白衣のせいか前世で見られた科学者を彷彿させる。

そんな事を考えている間に小言は終わったのか、ジラードは咳払いをしてから彼女の紹介を始めた。

「皆さん。彼女が王から竜奏士の名を授かったルカです。私の同僚でもあります」

「ルカよ。城で飼育している竜の管理、世話を任されているわ」

科学者どころか、本当にそういう事をしているようだ。

なにせ竜の角が生えた女性……ルカが手に持った紙の束には、竜の記録と思われる図と文字がびっしりと書き込まれているからだ。

その研究熱心さに感心しながらこちらの紹介を済ませたところで、ルカは早速姉弟へと質問をしてきたのである。

「でも銀狼族なんて久しぶりに見たわ。ねえ、貴方たち銀狼族は家族や仲間を大切にするから、基本的に故郷を出ないって聞いたんだけど……貴方たちはどうして旅をしているの?」

「私はシリウス様の従者ですから」

「俺は兄貴の弟子だからな!」

「……エミリアは俺の妻で、レウスは義弟なんだ。だから俺の旅に同行しているんだよ」

「なるほど、それだけ深い信頼関係を築いた結果って事ね。血筋や同族すら上回る絆……興味深いわ」

気になった事をメモしているのだろう、ルカが猛烈な勢いで手元の紙に文字を走らせていると、今度はエミリアが質問をしていた。

「ところでルカさんは竜族……なのでしょうか?」

「ん? そうね、一応そうなるのかな?」

「一応? 何だか曖昧ね」

「私は人族と竜族のハーフみたいなの。ほら、角はあっても尻尾がないでしょ?」

本来、竜族とは上竜種が人の姿に変身している状態である。

どれだけ人の姿に変わろうと、竜の角や尻尾、そして体のあちこちに鱗が残るものだが、目の前のルカには言葉通り竜の角しかなかった。

「ハーフみたいって、両親から何も聞いていないのか?」

「だって私の父親は生まれてから一度も会った事も名前すら知らないし、人族だった母親も私を生んですぐに亡くなったからね。こうして竜の角があるんだから、そう結論付けるしかないじゃない」

「う……ごめん」

「申し訳ありません。知らなかったとはいえ、無粋な質問でした」

「気にしないで。親がいないのは貴方たちも似たようなものでしょ?」

「……何故そう思うのですか?」

「勘よ。そういう人の放つ独特な空気が、私には何となくわかるから」

生まれてから両親がいないどころか、竜の角が嫌でも目立ってしまう彼女だ。これまで様々な苦難があったに違いあるまい。

だからこそ勘という曖昧な言葉でも、思わず納得してしまう程の重みがあった。

だが……彼女は本当に人族と竜族のハーフなのだろうか?

世界には多種多様の種族が存在するが、他種族同士による子供は基本的にどちらかの種族として生まれる。

例えば俺の従者であるノエルとディーの子供になると、猫の獣人か人族のどちらかしか生まれないという事だ。

猫の耳か尻尾だけが生えた人……というハーフが生まれる可能性はなくもないが、それは非常に稀なケースである。

更に竜族の場合は種族による相性が重要らしいので、人族では子を身籠るのは不可能に近いと竜族のアスラードから聞いた事がある。それゆえに上竜種は、相性の良い有翼人と共に暮らしているのだから。

要するに存在するのはあり得ない……とも言えそうなルカだが、現にこうして目の前にいるのだ。絶対にないとは言い切れないので、とりあえず受け入れておくとしよう。

それにハーフである彼女だからこそ、竜を自在に操れるのも納得出来た。

「竜が言う事を聞くわけね」

「ああ。上竜種の血だろうな」

カレンの故郷に滞在していた頃、上竜種であるアスラードとゼノドラが下竜、中竜種へ指示を飛ばしていた光景を見た事がある。

つまり種として明確な上である上竜種ならば、竜も話が通じるという事だ。

おそらくルカに流れる上竜種の血によって、ここの竜たちは彼女の言葉を聞いてくれるのだろう。会話が出来るのならば、後は信頼関係……といったところだな。

しかし一つだけわからない事があったので、続いて俺も質問をしてみた。

「一つ聞きたいんだが、何故彼女の存在は隠されているんだ? ハーフだろうと、彼女なら色んな意味で目立つと思うんだが」

「その……情けない話なのですが、城の重鎮たちが口を挟んできたせいなのです。サンドールを救った英雄が、得体の知れない種族なのは恥だと騒ぎまして……」

「どこかで聞いた事のあるような人たちですね」

「兄貴風に言うなら、小さい奴ってとこか?」

人族が至上だと考える、学校に入学した頃のエリュシオンで偶に見られた連中のようだ。

もちろん、当時のジラードとサンジェルは抗議したそうだが、当時はまだ二人の立場と言葉も軽く見られていたので、結託したアホな連中を言い包める事が難しかったらしい。

結局、英雄として戦った者を無視するわけにはいかないという事で、ルカの正体は隠蔽される形となったそうだ。

報われない処置に憤りを感じるが、当の本人が全く気にしていないので俺たちは揃って首を傾げていた。

「随分と酷い扱いなのに、貴方はそれで良かったの?」

「それに数年前の話なんだろう? 今ならそういう連中を見返す事が出来るんじゃないのか?」

「実は何度かルカの事を公表しようとしたのですが……」

「私が断ったの。目立つ事は嫌いだし、私はジラードの傍にいられれば十分だもの」

「……とまあ、本人が嫌がるので現状のままなのです。ルカはもっと評価されるべきだというのに……惜しい事です」

「立場や人の目なんてどうでもいいわ。それより貴方を支える方が私は大切なの」

最初は恋人同士なのかと思ったりはしたが、話によると二人は幼い頃からの付き合いらしく、血の繋がりはなくても家族のような付き合いらしい。

つまり兄弟のようなものなのだろうが、傍から見るとルカはジラードに心酔しているような感じがするな。

そのせいか二人のやり取りに見覚えがあるような……。

「……見慣れた光景ね」

「うん。エミリアとシリウスさんみたい」

「主への忠誠心なら私の方が上です!」

「「勝負の話じゃないから」」

大切な人の為に己の全てを捧げる姿勢はエミリアと似ているかもしれない。

そんなルカをライバルだと認識し始め、耳を立てて警戒しているエミリアの頭を撫でて落ち着かせていると、ジラードが苦笑しながら話の補足していた。

「当時は悔しい思いはしましたが、今はそれでも良かったと思うんです。ご覧の通り、ルカは男を自然と惹き寄せてしまう女性ですから、下手に表へ出れば不埒な男たちが群がってきそうで……」

「薄着だからじゃないのか? もっと服を着た方がいいぜ」

「魅力を振りまくのは悪いとは言わないけど、せめてもう少し体を隠すような服を着た方が……」

「私は体が包まれるような感覚が嫌いなの。この上着だって、ジラードが頼むから仕方なく着ているだけだし」

「いや、そんな薄いものよりもっと厚いコート類を着た方が……」

「寒くないから平気よ」

竜族の血によるものなのか、寒さや暑さといった環境に強いらしい。

こちらの心配を余所に本人は平気そうにしているので、気遣いは無用のようだ。

それから俺たちの紹介を始めたのだが、最後に紹介したカレンが妙に大人しい事に気付いた。

竜とは馴染み深いので、最初は楽しそうに周辺を眺めていたのだが、今はどこか緊張した様子で一点を見つめているのである。

「竜を見て緊張しているのね。心配しなくても、人は襲わないように躾けてあるから近づいても平気よ」

「この子は竜に怯えるような子じゃないはずだが……カレン、何かあったのか?」

「え!? えーと……」

「もしかして、あの子が気になるのかしら」

カレンの視線の先には、六歳くらいの女の子が水の入った桶を重そうに運んでいた。

確か竜に関する実験で雇われた子だと聞いたが、見たところ奴隷のような首輪もなく、酷い扱いを受けているような様子はない。

「あの子供は町で雇った手伝いだから、私たちとは関係ないわよ?」

「この子は同年代の子と話した事があまりないからな。何か作業をしているようだが、あの子と話をさせても大丈夫だろうか?」

「別に構わないけど、あの子とは意志の疎通が難しいわよ? それにサンジェル様もそろそろ来るみたいだし、後にした方がいいと思うわ」

「ルカ。子供には退屈な話になりますから、好きにさせてあげましょう」

「というわけだ。カレン、行ってきたらどうだ?」

「うん!」

サンドールの城では勝手に動かないように言い聞かせておいたので、あの女の子に話し掛けたくても我慢していたようだ。

故郷を出てから同年代の友達も出来たので、人との出会いに楽しさを覚え始めているのかもしれない。

緊張しながらも張り切って女の子の下へ向かうカレンを、俺たちは目を細めながら見送った。

「えっと……は、初めまして」

「……誰?」

「私、カレンって言うの。よろしくね」

「……ヒナ」

「ひな? えーと……あ、名前だね! ヒナちゃんって、呼んでいいかな?」

「いいよ」

「ヒナちゃんは何をしているの?」

「お仕事」

「そ、そうなんだ。カレンもお家でやってたけど、大変だよね」

「私は……平気」

「あの……えっと……」

「…………」

会話が続かなくていたたまれないのか、カレンは肩を落としながら俺たちの下へ戻ってきた。

ヒナと名乗った女の子は不思議そうに首を傾げているだけなので、見たところ元から怒っていたわけでもないし、カレンの言葉で機嫌を損ねたわけでもなさそうだ。

あの女の子は感情を表すのが苦手なのか、会話も最低限で済ますのだろう。

無表情で淡々と語るような相手は、まだ人付き合いに慣れていないカレンには厳しい相手かもしれない。

「うー……」

「わかったから、そんな顔をするな」

戻ってきたカレンが俺へ縋るような視線を向けてきたので、簡単なアドバイスを送った方がよさそうだ。

己より遥かに大きい竜が傍にいながらも、恐れるどころか寧ろ近づいて作業をしている点からして、あの子は竜の事が好きなのかもしれない。

更に好きな事なら話も弾むと伝えれば、やる気を取り戻したカレンが再びヒナへと迫っていた。

「ね、ねえ。ヒナちゃんは……竜が怖くないの?」

「……何で? 竜、格好いいよ」

「やっぱりそうなんだ。カレンも竜が好きなの。大きくて頼りになるもん」

「私も。だからお世話が楽しい」

「じゃあ、カレンもお仕事を手伝ってもいいかな? 竜にお水をあげるんだよね?」

「……重たいよ?」

「鍛えているから平気だよ」

「……なら、こっちに来て」

物静かで独特な雰囲気を放つ女の子だが、根は優しいのかカレンの事を受け入れてくれたようだ。

そんな二人が並んで水を運ぶ光景は微笑ましいのだが、あのままでいいのだろうか?

どう見ても子供が運ぶ量で竜たちの喉を潤すのは厳しいと思うのだが……。

「兄貴、俺も手伝いに行った方が良くないか? カレンたちだけじゃ終わりそうにないぜ」

「心配しなくても大丈夫よ。あの子に任せているのは、生まれて間もない小さい竜が一体だけだから」

「さっき実験と聞いたが……もしかしてあの女の子に育てさせて、竜を操れるかどうか試しているのか?」

「鋭いじゃない。貴方の言う通り、同じ子供が育てたら素直になるかどうか実験しているのよ」

全くないとは言わないが、基本的に竜は卵から育てたとしても、大人になると人の言う事を聞かなくなるものである。

諸説が入り乱れる中で一番有力な説によると、成長すれば人と竜の種族による絶対的な差を本能で理解するせいだとか。

だがお互いに子供の頃から成長していけば、家族と思って言う事を聞いてくれるようになるのでは……という事でヒナは雇われているそうだ。

「人は本能的に巨大な竜を恐れるものよ。なのにあの子は竜に対する恐怖心が全くないの。だからあの子を選んだわけ」

「確かに、相手を怖がっていたら家族になれるわけがないわよね」

「つまり第二、第三の竜奏士を作ろうとしているわけか」

「竜を自在に操れる者が増えれば心強いですからね。戦力的にも、力を魅せつけるという意味でも……」

並んで小屋の中へと入っていく二人の少女を見送ったところで、ジラードが真剣な様子で周囲を警戒している事に俺たちは気付いた。

先程までの穏やかな雰囲気とは違うので、何か大切な話をするようだ。

「実は……シリウス様に少々お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「勧誘の話なら変えるつもりはないぞ」

「いえ、ただ貴方の率直な感想を知りたいだけです。まだ半日程度ですが、この城の現状をシリウス様から見てどう思いましたか?」

「……あまり良くないと思うな」

後継者問題で揺れている状況なのに、支えるべき家臣たちの行動が見事にバラバラだからな。

そうなればいずれ足場が崩れ始め、国全体が崩壊していく可能性も十分あり得るだろうと、俺は要望通り素直に答えていた。

「やはりそう見えますか。我が国ながら、本当に恥ずかしい話です」

「大国ならではの問題だろう。そういえば、病に臥せっている王の状態はどうなっているんだ?」

「あ、そうだね。倒れて動けないとまでは聞いたけど、回復する見込みはあるのかな?」

「……わかりません。これまで様々な治療魔法や薬を試してみたのですが、王はもう数ヶ月も眠ったままなのです。生きているのは確かなのですが、今後目覚めるかどうかは……」

城の連中にも見られたが、ジラードもまた王が復活する事を諦めているようだ。

眠ったままの原因が不明な上に、数ヶ月も改善が見られなければそう思うのも仕方がないかもしれない。

あまり深く関わるつもりはないのだが、サンドールの王が復帰すれば現状が改善される可能性もあるので、後でリーフェル姫に治療を申し出るかについて相談してみるとしよう。

まあ俺が言わなくても、病人を放っておけないリースが診察したいとか言い出しそうだが。

「そして王が目覚めないのをいい事に、サンドールを牛耳ろうと企む者たちが動き始めたのです。昼食前に出会った連中はその一部ですね」

「あの連中か。何か嫌な気分になる連中だったな」

「欲望の赴くままに行動する者の目だな。ああいう人物が国の頂点になってしまえば、国が大きく変わってしまいそうだ」

「その通りです。それゆえにサンジェル様は戦い続けているのですが、やはり味方が少なく……」

「だからこそ、お前たちの力を俺に貸してほしいんだ」

ジラードの様子から何を話しているのか察したのだろう。城から歩いてきたサンジェルがジラードの会話を引き継ぎながら俺たちの前にやってきた。

だが先程までの豪快な笑みは鳴りを潜め、今は厳しい表情で俺たちへ語り掛け続けている。

「俺はこの国を、親父が築いてきたサンドールを誇りに思っている。だから、国が壊されそうになっているのを黙って見ていられねえんだよ」

「それが私たちを勧誘する理由ですか?」

「ああ。連中に負けないような優れた人材が欲しいってジラードに相談していたら、お前たちの話が出てきてな」

「実力は闘武祭の結果が表していますし、銀狼族やエルフという目立つパーティーでも無事に旅を続けています。もちろん圧倒的な強さを持つ百狼の御蔭もあるのでしょうが、皆が様々な事に精通していなければ出来る事ではありませんから」

こちらが考えている以上に俺たちの事を知っており、実力も評価してくれているようだ。

その言葉にエミリアが満足そうに頷いているが、今は置いておこう。

「私なりに情報を集めた結果、皆さんの力があればこの状況を打開出来ると思い、サンジェル様に進言したのです」

「聞いた時は半信半疑だったが、実際に会って納得出来たぜ。お前たちは頼りになりそうな連中だってな」

「この城に勤めるだけあって、連中も狡猾で中々尻尾を掴ませてくれないのです。どうか皆さんの力を貸していただけませんか?」

度重なる勧誘も、全ては故郷を守りたいが為か。

その志は立派だと思うが、残念ながら俺も簡単に頷くわけにもいかないのである。

「申し訳ありませんが、俺の主はリーフェル姫ですからこの場で答える事は出来ません」

「わかっているさ。けどよ、それを理解した上での頼みなんだ」

「連中の策略により、王に仕えていた信頼出来る臣下が次々と城を追い出されています。先の氾濫に活躍した私たちは大丈夫かもしれませんが、その威光も何時まで保つか……」

「偶に私を部屋に招こうとする奴もいるのよ。本当に鬱陶しい連中だわ」

「なら……俺の臣下が無理なら、手を貸してくれるだけでもいい。エリュシオンの姫さんに話をしておいてくれよ」

もはや形振り構わず頼み込んでくる様子から、状況はかなり深刻らしい。

中立者や味方になりそうな者が次々と消えていくのに、敵は増える一方なのだから当然とも言えるか。

「認めたくはねえが、俺には王としての能力が足りねえ。だから連中に舐められているんだ」

「そのような事はありません! サンジェル様こそ、次代の王として相応しい男です」

「全ては己が一番だと思い込む、愚かな連中たちのせいですよ」

先程といい、出会った時といい、サンジェルが遅れてやってくるのは、敵対している連中が嫌がらせのようなタイミングで仕事を回してくるせいらしい。

相当振り回されているらしく、つい弱音を吐いているサンジェルだが、臣下である二人が必死に励ましていた。

「……そうだったな。俺はこんな所で躓いている場合じゃねえか」

「その意気です。状況は不利ですが、私たちはまだ負けていませんから」

「いい加減、ヒルガンにも働いてもらいましょう。女癖が悪くて、最近は英雄のメッキが剥がれかけていますし」

本人が口にしたように、サンジェルはまだ王として足りないものが多いと思う。

若さもあって己の能力不足に嘆いているようだが、その強き志と、良き臣下に支えられているのならば、いずれは王として大成するだろう。

正直……王という立場より、国を守りたいと願う強い意志には惹かれるものがあったからな。少しだけだが、応援してやりたいとは思った。

その後、小屋から戻ってきたカレンと合流した俺たちは、更に城内を案内してもらい、夕食をご馳走になってからサンジェルたちと別れた。

別れ際に前線基地の見学は出来るのかと聞いてみたが、今の状況では厳しいと言われてしまった。

残念ではあるが、その辺りは予想していたので悔しくはない。

そもそもサンドールから前線基地までは、馬だけでも半日以上はかかる場所にある。

予定によると王たちは明日にも前線基地を発つそうなので、俺たちが向かったところで入れ違いになるだけだ。アルベルトたちと会うのはまだ先になりそうだ。

そしてサンジェルたちと別れた俺たちは、城内に用意してくれた部屋に戻らずにリーフェル姫の部屋にやってきていた。

「そう、手を貸してほしい……ね。貴方に目を付けたのは、さすがと言うべきかしら」

「不味い状況なのはわかりますが、助力は断るつもりです。少し後味が悪いですけど」

「それが無難ね。手を貸した場合のリスクが大き過ぎるわ」

「王様はどうするの? 寝込んだまま……だよね?」

「心配しなくても、明日ジュリアに話してみるわ。王が治るに越した事はないし、優れた医者が二人いるって私から伝えれば、診察くらいはさせてくれるかもしれないわ」

「あまり期待されるのも困りますが、全力を尽くしますよ」

治療が成功すればの話だが、王が復活すればサンジェルの状況も改善すると思うので、現時点で最も適した選択だと思う。

それが原因で面倒な連中に目を付けられたとしても、前線基地から王たちが帰ってくれば 大陸間会合(レジェンディア) はほぼ終わりらしいので、絡まれる前にサンドールを出てしまえばいいのだ。

「報告はこんなところでしょうか? 次は部屋を調べさせてもらいますね」

「ええ、私物以外なら好きに調べてちょうだい」

「兄貴、俺も何か手伝う事はあるか?」

「なら窓の外から誰か近づいて来ないか警戒しておいてくれ。メルトさんは……」

「ああ、俺は入口を見張っておこう」

他にも幾つか話し合い、大体の方針が決まったところで、俺は席を立って部屋内を歩き回っていた。

俺がこの城へ来た本来の目的は、リーフェル姫たちを守る事と、謎の気配を感じるという部屋を調べる事だからだ。

壁に手を当て、『スキャン』を発動させながら部屋の隅から隅へと移動していると、紅茶を飲みながら談笑する女性陣の会話が聞こえてきた。

「それでね、小屋にはカレンと同じ大きさの竜がいたんだよ。カレンが近づいたら怯えちゃったけど、ヒナちゃんが撫でたら嬉しそうにしていたの」

「へぇ、子供とはいえしっかりと懐いているようね。ところで、カレンはもうその子と友達になれたの?」

「……まだ。カレンはお手伝いをしただけだし、ヒナちゃんもカレンも友達になろうって言っていないから」

「ふふ、大丈夫だよ。友達はね、口にしなくても自然となっている時もあるんだから」

「二人で同じ事をしたり、一緒にいて楽しいと思えれば友達みたいなものですよ」

「そうなの?」

「でもあの子は口下手だから、きちんと言った方が良さそうな気もするわね」

「どっちなの!?」

新たな友達が出来そうで興奮の冷めないカレンが騒ぐ中、違和感を覚えた俺は魔力を集中させて壁の中を細かく調べ始めていた。

すると予想通り、壁の中に何か細いものが無数に存在しているのが判明したのである。

表面上は普通の石壁にしか見えないので、ナイフで壁の一部を切り取ってみれば……。

「やはり……か。だがこれは……」

そこには石同士の僅かな隙間を縫うように、植物の根らしきものが無数に伸びていたのである。

違和感の正体はこれで間違いないようだが、壁の中を浸食しているそれはどこにでもありそうな植物にしか見えない。

念の為に調べてみようと手を伸ばしたところで、俺の異様な行動に気付いたエミリアが首を傾げながら近づいて来た。

「シリウス様、何か見つけたのですか?」

「ちょっと気になる事があってな。だがこれは外れかもしれないな」

「植物の根……ですか? 壁の表面は綺麗でも、中は随分と荒れているのですね」

「古くから存在する城らしいからな。浸食されるのも仕方がないだろうさ」

皮肉だが、現在のサンドール城を表しているように思えるな。

内心で苦笑しながら引っ張った植物の根はあっさりと千切れてしまったので、俺は『クリエイト』の魔法陣で元の状態に戻してから、テーブルで待つリーフェル姫の下へ戻った。

「一通り調べてみましたが、特に異常はありませんね」

「そう、やっぱり気のせいだったのかしら?」

「とはいえ、警戒は怠らないように気を付けるべきかと。エミリア、ちょっと紅茶を淹れてくれないか? お前が淹れたのを飲みたいんだ」

「わかりました! すぐにー……用意します」

特に問題はない……そう装いながら、俺はエミリアへ目と手で合図をし、紅茶だけじゃなく紙と書くものを持ってくるように頼んでいた。

いつもと違う動きに皆が不思議そうにする中、俺はエミリアが持ってきた紙と羽ペンを受け取りながらカレンへと視線を向けた。

「どうしたの?」

「そろそろ夜も遅いし、カレンも眠たくないかって思ってな」

「……まだ眠たくない」

「あはは、ヒナちゃんの事を夢中で語っていたもんね」

「でもカレンはそろそろ寝た方がいいわよ。貴方なら、落ち着いたらすぐに眠くなると思うわ」

「明日も色々ありそうだが、余裕があったらまたヒナの下へ行くつもりだ。その時に眠たかったら嫌じゃないか?」

「んー……わかった」

いつもより眠る時間は早いが、今はカレンがいると少し不味い。

それでも素直に頷いてくれたカレンの頭を撫でながら、俺は窓の近くで警戒を続けているレウスを呼んだ。

「レウス。悪いがカレンを部屋へ連れて行ってくれないか?」

「おう。そのままカレンを守っていればいいんだろ?」

「仕掛けてくる奴はいないと思うが、一応な。頼んだぞ」

「悪いけど、私も部屋に戻るわね。今日は予想以上に疲れたみたいで、もう眠気がきているのよ」

「わかった。俺たちも少ししたら戻るから、先に休んでいてくれ」

「じゃあ私はカレンちゃんの添い寝担当という事でー……」

「……姫様の部屋はこちらです」

さり気なく三人と一緒に部屋を出ようとするリーフェル姫だが、メルトの手によって連れ戻されていた。

悔しそうに席へと戻ってきたリーフェル姫に苦笑しながら、俺はテーブルに皆が見えるように紙を置いて文字を書きながら呟いていた。

「今日の様子からして、明日はジュリア王女から勝負を挑まれそうな気がするな。俺も今日は早めに休んだ方がいいかもしれない」

「……レウスが苦戦した相手ですから、体調は万全にという事ですね」

「……師である貴方が負けたら格好がつかないものねぇ」

「そ、そうだね。あの王女様は凄く強かったし……」

「あの御方との戦いは、一瞬の油断が命取りとなる。」

「皆様、紅茶のおかわりはいかがですか?」

雑談をしながら文字で俺と会話を合わせてほしいと皆へ伝えれば、戸惑いながらも全員頷いてくれた。

それを確認してからこんな回りくどい事をしている理由について書けば、皆の表情に緊張が走っていた。

『この部屋だけじゃなく、城全体を監視する存在がいるかもしれない』

壁の中にあった植物の根……俺は気付かない振りをしていたが、根から人が手を加えたような魔力を僅かに感じたのである。

更に『サーチ』の結果では、その植物は壁の中を通して城全体に広がっているので、城に住まう者たちを監視しているように思えるのだ。俺の『サーチ』と似たような質を感じる。

そして筆談で説明しているのは、植物の正体に気付いた事によって、相手が強硬手段を取ってくる可能性もあるからだ。『コール』で伝えないのは、魔力が拡散する事によって怪しまれない為である。

もちろん俺の予想が外れていたり、盗聴されているというのも考え過ぎかもしれないが、念には念を入れておくべきだろう。

引き続き、表では旅の話をしながら、筆談で状況の説明へと入る。

『先程見つけた植物を通して、相手の位置を探っている可能性が高いようです。会話が聞こえているかは不明ですが、壁の中の植物や、文字で伝えている事は口にしないでください』

『つまり、シリウス様と似たような魔法や技術を持つ相手と仮定すればいいのですね』

『でも私たち、後継者問題とか結構深い話をしちゃっているような……』

『その辺りは大丈夫でしょ。もし不味い会話を聞かれていたら、すでに向こうから何か仕掛けている筈よ』

城に来てから様々な事を話題にしているが、今のところ強制的に排除しようとする行動は見られない。

少なくとも、現時点では俺たちの事は放っておいても問題はないと思われている筈だ。

とにかく普通に過ごす分には大丈夫そうなので、監視等の話題だけは避けるようにと纏めたのだが、やはり気になるのかリースが不満そうに文字で心情を書いていた。

『城の人たちを常に監視するなんて、誰がこんな事をしているんだろう?』

『それなら予想がつくじゃない。サンドールには神の目を持つと言われている英雄がいるでしょ?』

その場にいなくても、まるで神が見下ろしているかのように戦況を完全に把握している点から『神眼』の名を貰ったジラードの事だろう。

俺もまたジラードだと思っており、神眼と呼ばれる能力もこの植物を使ったものではないかと睨んでいる。

正直に言って真っ当な手段ではないが、能力主義なサンドールで生き残る為には必要な処置だったのかもしれない。

相手にすると困る話だが、今はジラードと敵対しているわけではないからな。

彼の行動はサンジェルの……ひいては国の為なのだから、俺たちに危害を加えない限りは放っておいた方が良さそうだ。

城での生活においては監視される事は珍しくもないし、隙を突かれないように俺たちが油断しなければいいのだから。

これで城に入った時から感じていた違和感が一つ減ったのだが……新たな謎も増えていた。

調べないと気が済まない事でもあるので、俺はリーフェル姫たちへ視線を向けながら新たな文字を書いていた。

『この城で、国の歴史や情勢について詳しい人は知りませんか?』

『何を調べるつもり?』

『後継者問題とは関係のない話です。サンドールには過去にどのような偉人がいたとか、個人的に気になっていまして……』

『個人的……ね。どうも普通の人じゃ駄目そうな感じだけど、誰かいい人はいたかしら?』

『それならば私にお任せください。サンドールの事ならば、表どころか裏にも詳しい御方を知っていますので』

『セニアの知り合いなの?』

『非公式ですが、サンドールで一番の情報屋です。相応の能力がなければ会う事すら出来ない御方ですが、シリウス様ならば問題はないでしょう』

セニアが苦労して掴んだ伝手に頼るのは申し訳ないと思うが、今はその言葉に甘えるとしよう。

そしてなるべく早く答えを出しておきたいので、すぐに出発したいと俺は返事をしていた。