軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最優先事項

「シリウス……ありがー……」

――ナイフ狙撃……間に合わん。

――刺された位置は心臓だが……まだ。

――敵の数は五人……フィアに近いのは一人。

――ホクトと弟子たちは一歩遅れて駆け出している。

――フィアを最優先で確保。

――奴は殺す。

――距離算出、加速……減速……。

フィアの胸にナイフが突き立てられる瞬間……俺は 並列思考(マルチタスク) で状況把握を済ませながら地を蹴り、全力で加速しながらフィアへと迫った。

「俺の女からー……離れろっ!」

そして速度を殺しながら、左手はフィアの背中に回し、右手をエルフと思われる男たちに向けて『インパクト』を加減せずに放った。前方一帯を薙ぎ払うその衝撃波は、五人のエルフを巻き込んで吹っ飛ばす。

『インパクト』を放ったのはエルフたちを薙ぎ払うだけじゃなく、放った反動で前に出る勢いを殺す為である。

反動の御蔭でその場に踏み止まれた俺は、フィアを腕の中に抱き留める事が出来た。

「フィア! しっかりしろ!」

「……ふふ……流石ねぇ……」

相手の手元が狂ったのか、それともフィアが反射的に動いたのかわからないが、胸元に刺さったナイフは心臓から僅かに逸れていた。

すぐに『スキャン』を行い確認したが、全身に傷を負ってはいてもどれもそこまでは深くない。

適切な処置さえ施せば……まだ助かる!

「「フィアさん!」」

「フィア姉!」

脱いだコートを枕にしてフィアを寝かせていると、追いついた弟子たちがフィアの姿を見て飛び込んでくる。

そしてホクトから降りたリースはすぐに魔法を使おうとしたが、フィアがそれを拒むようにリースの手を握って止めていた。

「待って……治療は……私より……」

「何を言っているんですか!? ナイフが刺さっているんですよ!」

「私より父さんを……父さんを……お願い……」

フィアが向けたの視線の先に、彼女より酷い状態で倒れているエルフ……フィアの父親と思われる姿があった。すぐさまレウスが回収しに向かってくれたが、出血量からすでに事切れているように見えなくもない。

しかし彼女が危険を冒してまで救おうとした父親だ。確認もせず諦めるわけにはいかない。

そしてレウスが運んできたフィアの父親は、フィアという二百を超える娘がいるのに関わらず、二十代と言っても通じるような青年にしか見えなかった。

元はフィアと同じ髪色が流れた血によって赤く染まっている中、俺が『スキャン』を使おうと手を伸ばした時、こちらに向かって無数の魔法が放たれているのに気づく。

「オン!」

しかし前に飛び出たホクトが足と尻尾を振るい、魔法を全て叩き落としてくれた。

予想以上に奴等の立ち直りが早い。

全員仕留めても構わないつもりで『インパクト』を放ったが、吹っ飛んだだけで堪えている様子は見られない。フィアを追い込んだ相手なだけはある。

横目で改めて確認したが、相手は全員男で見た目だけはエルフである。

しかしフィアやアーシャとは明らかに違う独特な雰囲気に、離れていても感じる濃密な魔力からして一人一人が学校長のロードヴェル並の魔力を持っている気がする。

なるほど……これがエルダーエルフという連中か。

様々な意味でエルフと違うが、何より違和感を覚えるのは感情だろう。表情が一切変わらず、まるで機械のような冷たさを感じる。エルフであるフィアとその父親を手にかけようとした事に何一つ罪悪感を感じていないようだ。

そう考えている間に『インパクト』の広範囲攻撃を警戒したのか、エルダーたちは前に三人、後ろに二人と別れて俺たちを挟み込んでいた。

フィアをこんな目に遭わせた連中だ。さっさと殺してしまいたいが……。

「全周防御!」

「「はい!」」

「オン!」

まずはフィアの処置が最優先である。

ホクトは前方を、姉弟には後方の防御を任せ、俺とリースは治療に専念する。

「リース……父さんを……」

「大丈夫ですよフィアさん、間に合わせてみせます。でも、本当に酷い怪我。何でこんなにも全身に傷が……」

「致命傷にならない攻撃でいたぶっていたのかもしれないな」

父親の体は風の魔法で体中を切り裂かれるだけじゃなく、土の魔法で岩をぶつけられた打撲の跡も多数見られる。

すぐに『スキャン』で調べてみたが……無数の傷と出血多量によって明らかな重症だ。

しかし幸いと言うべきなのか、内臓深くの重要器官までは達していない。リースの治療魔法を施せば助かる見込みは十分にある。

「この人の治療が最優先だ。急げ!」

「でも。それだとフィアさんが……」

ただ、これ程の重症となると集中して治療を行わなければならないので、今のリースでは一人が限界だ。

その間にフィアを放置するわけにはいかないので、必然的に俺が処置する事になるが、俺の再生活性は人の持つ治癒力を促進させるもので重症には効果が薄く時間がかかる。

フィアの状態はあくまで父親よりはー……というだけで、ナイフは辛うじて心臓を避けていても、重要な心臓周りの血管が幾つか切れているので、治癒力を活性させる問題ではない。

それでも……。

「何とかしてみせる! リースはその人の治療を終わらせる事だけを考えるんだ!」

「は、はい!」

父親の処置が早く終わればそれだけフィアへの治療が早まるのだ。

俺の言葉に頷いたリースは、会話中も集中させていた魔力を解き放ちながら水の精霊に願う。

「皆の力を貸して! 命を繋ぐ癒しの水よ……ここに!」

リースの魔力で水の精霊が活性し、父親の体全体を水が包みこんでいく。そして僅かな発光と同時に傷口から泡が吹き出していた。

あれは傷口から水を侵入させ、体内まで治療の水を浸透させているのである。しかし魔力が強過ぎると体が拒絶反応を起こす可能性があるので、リースには繊細な魔力操作が必要となる。

両手をかざし、慎重に魔法を維持しているリースの横で、俺は辛そうに呼吸を繰り返すフィアの顔を覗き込んだ。

「フィア、すまない。君を幸せにすると……守ると口にしたのに俺は……」

「何を……言うの? これは私が……勝手に離れた……せいよ……」

フィアの胸に触れて麻酔処置を施している間に思わず謝ってしまったが、フィアは顔を青白く染めながらも笑ってくれた。

「こっちこそ……ごめんね。父さんが……殺されそうって……貴方たちと森を……時間が惜しく……て……」

エルフだけなら真っ直ぐ森を抜けられるが、エルフじゃない俺たちが森を超えるには、先程のように特定の道順を通らなければならない。

実際、アーシャの案内で来た俺たちと、フィア一人では数十分近くの時間差があった。その時間さえ惜しむ程、フィアの父親は危険だったのだろう。

「今の私なら……時間稼ぎくらい……でも……駄目ね……私……本当に……何をやって……」

以前フィアから聞いた話では、エルダーエルフは驕れる程の強さを持つと言っていたが、それは誇張でも何でもなかった。

周囲を見渡せば、俺たちに向かって膨大な数の魔法が放たれている。

「オン!」

「うおおおおおぉぉぉぉ――っ!」

「絶対に……通しません!」

それでも姉弟とホクトは必死に防ぎ続けてくれている。

ホクトと変身したレウスが全力で迎撃し、エミリアが最後の壁として俺たちの周囲に風を巻き起こし、魔法を逸らしながら辛うじて防げている状態だ。

あまり長くは持たないだろうが、皆を信じて俺も治療に専念させてもらう。

「貴方が褒めてくれた肌……こんな……傷だらけに……」

「もういい。反省は終わった後でしっかりと聞かせてもらう。今はただ、生きる事だけを考えろ」

「……うん……」

そこで魔力による麻酔処置を終えたので、ここからが本番だ。

今から行う処置は 並列思考(マルチタスク) を使って施すので、俺は外を気にする余裕は一切なくなるだろう。

「エミリア! レウス! ホクト! もう少しだけ保たせてくれ!」

「「はい!」」

「オン!」

頼もしき返事を聞き、俺はフィアの胸に刺さったままのナイフを握る。

「いいかフィア。今からナイフを抜くぞ?」

「……ええ。貴方に……全部任せるわ」

これを抜いてしまえば一気に血が噴き出すので、準備が整うまで抜くわけにはいかなかったのだ。

他の神経を傷つけないよう、真っ直ぐ……慎重に……ナイフを抜く!

「ふっ!」

「あうっ!?」

痛みは無い筈だが、視覚的にきついのだろう。

予想通り血が噴き出すが、すぐに右手を傷口に強く押し当てて流血を抑える。

抑えた右手が血で真っ赤に染まる中、『スキャン』でフィアの体内を投影しながら、右手から細い『ストリング』を無数に生み出して傷口から損傷部分へと侵入していく。

傷で一番不味いのは、ナイフによって切れてしまった心臓周辺の血管である。

なので複数の『ストリング』を操り、切れた部分を魔力の糸で縫合して無理矢理繋いでいく。勿論ただ繋いだだけでは意味がないので、その繋いだ血管を『ストリング』を通じて再生活性を施し、重点的に再生させて元の状態へ戻していく。

これは前世で細い管を血管に通し、体内にある患部を直接叩く技法を参考にした治療法である。俺の場合はかなり強引な方法であるが。

『スキャン』と『ストリング』を発動させながら、更に複数の『ストリング』を同時に操作し、再生活性を施す魔力を流す。

正に 並列思考(マルチタスク) があってこそ可能な作業だ。

だが……。

「ぐ……ふぅ……」

正直……きつい。

かなり無理をしているせいで脳への負担が凄まじいが……まだ大丈夫だ。途中で腰や背中に軽い衝撃を感じたが、何とか手元を狂わせずに作業を続けられた。

そして再生活性で血管が治ったタイミングで『ストリング』を一本ずつ外し、血が漏れないのを確認してから消していく。

思考速度も極限まで高めていたので感覚が曖昧だが、時間的にはおそらく十分程度だと思う。

ようやく刺された胸の処置を終えたところで、俺は閉じていた目を開いて大きく息を吐いた。

「ふぅ……よし、次はー……」

「シリウスさん!」

続いて他の傷を処置しようとした時、フィアの体を水が包み始めた。

どうやら父親の方は終わったようだな。後は任せようと立ち上がろうとしたが、リースが泣きそうな顔で俺の手を掴んで止めてきたのである。

「どうした?」

「気付いていないんですか!? シリウスさんも傷が……」

そう言われて自分の脇腹と背中を見れば、大きく切り裂かれて血が流れていた。処置の途中で感じた衝撃はこれか。更に顔を触れてみれば、脳を酷使したせいか鼻血も出ていた。

集中するあまりにアドレナリンでも溢れていたのか、痛みが麻痺していたようだな。傷を確認するなり痛みが走り始めたが、これくらいなら我慢できる。

原因は姉弟が防ぎきれなかった魔法の流れ弾だろうが、当たった魔法が切断系で良かった。岩とか質量のある攻撃で体を倒されていたら手元が狂っていたかもしれない。

「まだ……だあああぁぁぁ――っ!」

「オン!」

「アーシャさん、向こうの足止めを! そろそろ魔法の維持が厳しいー……」

「くっ……あの矢でさえ弾きますか!」

その頃……レウスは己が傷つきながらも、先程から変わらず魔法の迎撃を続けている。

ホクトに至っては残像が出来る程の速度で迎撃していて、魔法を一つ残らず完璧に迎撃していた。数が多い前衛をホクトに任せておいて良かったな。

気付けばエミリアの横にアーシャも立っていて、魔法を放つエルダーエルフ目掛けて矢を放っていた。相手は様付けで呼ぶ存在な筈なのに……本当に変わったエルフだな。フィアの妹分なだけはある。

「動かないでください。少しだけならシリウスさんにも治療を回せー……」

「いや、俺は大丈夫だからフィアに専念してくれ」

切れた範囲が広いだけで、そこまで深い傷じゃないからな。

後は任せたと伝え、俺はリースの頭を軽く撫でてから立ち上がり、周囲を見渡してエルダーたちの位置を確認する。

フィアの父親をいたぶっていた様子といい、俺たちに初級魔法のような風の刃や岩しか放ってこないのは遊んでいるのだろうか?

まあ……それならそれでいいさ。

それが……。

「お前たちの敗因となる」

両手を左右に向けると同時に『マグナム』を連射すれば、魔力の弾丸が魔法の隙間を縫ってエルダーたちの胸元へ飛んでいく。

だがエルダーたちは体を捻って避けるか、持っていたナイフで防ごうとしていたが……それは予測済みだ。放った弾丸は時間差で『インパクト』が発動するように放ったので、弾丸は敵の目前で破裂して衝撃波を放ち、エルダーたちを大きく吹き飛ばしていた。

雨のように放たれていた魔法がようやく止み、全員の視線が俺に集まる。

「シリウス様……」

「はぁ……はぁ……兄貴?」

「オン」

「えっ!? え……一体何が!?」

「よく耐えてくれたな。ここから反撃するぞ!」

「「はい!」」

衝撃をまともに受けたようだが、エルダーたちは平然と起き上がっているので大したダメージはなさそうだ。

先程の『インパクト』といい、遠距離攻撃に強いのか効果が薄いようである。やはり直接この手で仕留めないと駄目そうだな。

腰と背中の傷を再生活性で塞ぎながらミスリルナイフを握っていると、ただ魔法を放つだけだったエルダーたちに変化が見られた。

「……妙な魔法を使う」

ここにきて急に喋り出したのである。

正直あまり会話をしたくない気分だが、姉弟を少しでも休ませる為に付き合うとしよう。

「それほどの力を持っていながら、この魔法を知らないのか?」

「思い上がるな外の者よ。実に妙だが……すでに覚えた。二度と我々には通じない」

「そいつはどうかな? それより一つ質問だが、お前たちはエルダーエルフで合っているのか?」

「然り。我々は偉大なる聖樹の守り人である」

問答無用で攻めてきた割には話が通じるようだ。

そして聖樹という妙な単語が飛び出してきたが、周辺を見渡してもその名に相応しい存在は見当たらない。

木々が生えていない、里の広場と思われる広い空間が広がるだけだ。

「聖樹……ね。どこにそんなものがある?」

「ここより更に森の奥……我々の里に存在する聖なる樹だ」

「ご丁寧にどうも。それでその守り人さんが、聖樹を守らずこんなところで何をやっているんだ?」

「罪人の処罰だ」

そこで倒れているフィアとその父親に視線を向けてきたが、相変わらず無表情なので怒っているのかさえわからない。

「そのエルフは我のものだと命令した存在なのだが、我から逃げ出したのだ。更に外の者と契り、エルフという血を汚した」

「よってそこのエルフは立派な罪人である」

「そして逃げる手引きをしたエルフもまた罪人なり」

「お前の匂いはそこのエルフからもする……」

「ならばそこのエルフと契った罪人か。処罰対象だ」

原因は俺にもあるようだが……勝手にフィアを自分のものにしようとしたこいつに謝る理由はないな。

更に饒舌に語る内容によれば、他のエルフへの見せしめも兼ねていたらしく、フィアとその父親を弄るように傷つけていたわけだ。そのせいで俺たちが駆け付けるまで生きれたようだが……どちらにしろ許す事はできない。

「待て。お前たちより下とは言え、エルフは同族だろう? 簡単に処罰して数を減らすなんて馬鹿げてる」

「我々とエルフは別の存在である。そしてエルフは聖樹へと続く門番に過ぎない存在。多少の数が減ろうと問題はない」

エルダーエルフは、エルフを見下していても蔑ろにはしていないとフィアは口にしていたが……とてもそうは思えないな。

俺は背後で弓を手に息を整えているアーシャへ小声で話し掛けた。

「アーシャ。本当にこいつ等はエルダーエルフなのか? フィアから聞いた話と違う気がするんだが……」

「エルダーエルフ様なのは間違いないわ。けど……百年前に見たエルダーエルフ様と明らかに違うと思う。あの時見たのはもっと威厳があって、こんなにも酷い事を言わなかったもの」

感情の起伏が見られなくても、俺たちと同じで様々な人格を持つ者がいるのだろうか?

「まさか外の者に二度も土を付けられるとはな……」

まだわからない事は多いが、結局エルダーたちはフィアだけでなく俺たちも殺そうとしているわけだ。エルダーたちのルールか何だか知らないが、こちらも大人しくやられるわけにはいかん。

そして転がった拍子に付いた土が気になるのか、こちらを放って汚れを払い始めた。いつでも殺れると余裕をこいているようだが、これでもう少し時間は稼げそうだ。

エルダーたちから視線を逸らさず、背中越しに姉弟へ声を掛ける。

「……まだ行けるな?」

「はい! それより申し訳ありませんシリウス様。私たちのせいで傷を……」

「ごめん兄貴!」

「謝る必要はない。あれだけの魔法を前に、俺とリースの作業を中断させなかった時点で十分な成果だ」

レウスが必死に防いでエミリアが風で威力を削ってくれたからこそ、フィアの治療は無事に終え、俺はこの程度で済んだのだ。

しかし最も攻撃が激しかった前方をホクトは完璧に防いだので、姉弟は悔しくて堪らないようである。頭を撫でてやりたいところだが、流石に今は無理だな。

「さて、ここからが本番だな。俺は前の三人を相手にするから、お前たちは後ろの二人を頼んだぞ」

「俺たちもやっていいんだな?」

「ああ、遠慮なくやってこい。フィアをこんな目に遭わせた連中だからな、しっかり後悔させてやれ」

「シリウス様……お任せ下さい!」

ホクトに任せるのが一番かもしれないが、姉弟もフィアをやられて怒っているのだ。

俺たちを守ろうと防御に徹していたが攻めに転じた姉弟ならばエルダー相手でも十分に戦えるだろう。

「アーシャ、君はどうする? 戦っている内に逃げればまだ……」

「ここまでやった私に今更聞かないでください。お姉様が罪人ならば、私も喜んで罪人となります」

「ありがとう。だけど君はフィアの傍で援護に留めておいてほしい」

「……悔しいですけど、私が直接戦うのは無理だと理解しています。心配は無用です」

それならば問題はない。

エルダーたちも土を払い終わったようだし、そろそろ時間だな。

「ホクト。下がって彼女たちを守れ」

「オン!」

一番心配なのは俺たちの戦いによる流れ弾だが、そこはホクトに任せておけば問題はないだろう。

指示を受けて下がってきたホクトは一度俺の前で立ち止まったので頭を軽く撫でておいた。

「頼んだぞ」

「オン!」

そしてホクトがフィアたちの前に立ったのを確認したところで、エルダーたちは詠唱を始めて空中に無数の魔法を生み出し始めていた。

「偉大なる守り人にしては同じ戦法ばかりだな?」

「我々が本気を出せば森に被害が及ぶ。森を傷つけるわけにはいかぬ」

確かに俺たちへの攻撃は苛烈だったが、放った魔法が広場の地面を砕いても、離れた木々の被害は皆無だ。

森と生きる民らしい配慮だが、それについては俺も同意する。

無駄な被害は少なく済ませないとな。

「罪人よ、ここで朽ち果て、森の糧となるがいい」

「そうか。だがそれはー……」

もう……十分だろう。

思考を戦闘用へと切り替え、もう一つのスイッチをー……。

――― ―――

「こっちの台詞だ!」

私(シリウス) が完全な攻めへと専念し、全体把握の為に目覚めた私はすぐさま攻撃へと転じる。

三人のエルダーエルフが空中に生み出した魔法を放つより早く、私は広範囲に『インパクト』を放って魔法を吹き飛ばしていた。

放たれた衝撃波で土煙が激しく舞い、視界が塞がれると同時に私は地を蹴って駆けだす。

――待機中の魔法はほぼ吹き飛ばした。

――魔力回復……完了と同時に『ブースト』を発動。

――私の敵……正面の剣を持ったリーダー格らしきエルダーに、右の細剣を持った長髪のエルダー、そして左の弓を構えた短髪のエルダーを対象とする。

土煙を切り裂くように駆けて接近戦を挑もうとしたが、向こうもそれを予想していたのか、其々の武器を手に私を待ち構えていた。

まずは端から攻めようと右の長髪エルフの懐へ飛び込んだが、長髪のエルフは手がぶれる速度の勢いで私へ細剣を突き出してくる。

その一撃は滅多に見れない鋭さであったが……レウスの突き程ではない。それを冷静にナイフで逸らしながら、反対の手で相手の腕を掴むと同時に足を払い、空中で一回転させて地面へ叩き付けるように投げる。

「っ!? 妙な技を」

しかしエルダーはあえて投げに逆らわず、冷静に一回転して両足で着地していた。

投げに逆らおうとする反射行動を利用して投げる技なのだが、このエルダーは初見で対応していた。その反射神経には驚かされるが、この程度で動揺していたら戦闘で生き残れない。

そのまま着地に成功した隙を狙おうとしたが、背後から飛んでくるものを感じた私は反対の手で握った剣でそれを切り払う。

「我が矢を背後から……」

「否、我々でも可能であろう」

切り払った矢が地へ落ちる前に、リーダー格のエルダーが私の目前まで迫っていた。振るわれた剣を体を捻って避け、そこで長髪エルダーが体勢を立て直して再び細剣を突きだしてくる。

それを背面跳びのように飛んで避けるが、空中の私を狙って再び短髪のエルダーが矢を放ってきた。

矢の軌道は把握したので『エアステップ』を発動させ、私は宙を蹴って短髪のエルダーへ向かって飛んだ。

足場を作りながら飛ぶことによって放たれた矢は全て回避できたが、空中を蹴る私に初めてエルダーたちは動揺を見せていた。

「なっ!?」

「空をっ!?」

表情は全く変わっていないが、エルダーエルフでも空を蹴るのは非常識のようだ。

それでも攻撃の手を緩めないのは流石だと思うが、私に対してその動揺は十分な隙だ。

目の前で放たれる矢をナイフで弾きながら懐に飛び込んだ私は、反対の手で短髪エルダーの顔面を掴み、落下の勢いを乗せながら地面に叩き付けた。

そのまま零距離からの『インパクト』で顔を吹き飛ばそうとしたが、背後からエルダー二人が魔法を放ってきたので、一旦離れて魔法を回避し、起き上がろうとしている短髪のエルダーを仕留めようと私は再び迫る。

頭を叩き付けられて脳を揺さぶられたのだ。

判断力は落ちている筈と剣を突き出したが、相手は冷静に詠唱を済ませて私に魔法を放ってきたのである。

「風よ!」

「くっ!?」

風の刃や岩であれば突進しながら避けたが、範囲を薙ぎ払う圧縮した風を放たれては回避が難しい。

宙を蹴って横へ大きく飛び、私は距離を取って仕切り直すことにした。

「外の者よ、見事だ」

「我々の攻撃に耐えるどころか、攻撃までしてくるとはな」

ばらけていた三人は合流していたが、私の背後に木があるせいか魔法を放ってはこなかった。

それにしても……予想以上に強い。

ほぼ無詠唱に近い魔法を無数に放ち、行動の素早さと反射神経は常人を遥かに凌駕している。剛剣と 魔法を極めし者(マジックマスター) に次ぐ強敵だろう。

実際、振るわれたナイフや魔法を完全に避けきれず、腕や足に小さな傷を幾つも負っていた。

せめて一人くらいは仕留めたかったのだが……やはり三人同時だと厳しいか。

ホクトを呼ぶ手もあるが、あいつがフィアたちを守っていてくれるから私は全力で戦える。まあ……慣れてしまえば何とかなるだろう。

問題は『インパクト』で吹っ飛ばしても無傷で、あれだけ魔法を放っていながら疲れる様子が全く見られない点だな。

頭を砕く勢いで地面に叩き付けたというのに、脳震盪の兆候どころかふらつきもせず立ち上がっている時点で妙だ。

「……回復したのか?」

俺が魔力を一瞬で回復できるように、エルダーエルフにも似たような能力があるのでは?

森から決して出ないと聞くし、森の中では魔力だけでなく体力も高速回復する能力を持っているのかもしれないな。

そうなると……。

「一撃……か」

首を飛ばすか、回復が出来ない程に吹き飛ばしてみるのもいいだろう。

両手に持つ剣とナイフを握り直しながら呼吸を整えていると、エルダーたちは魔力を高めながら宣言してきた。

「だが……動きは見切った」

「外の者よ、次で終わらせよう」

言葉通り終わらせるつもりか、三人のエルダーは分散して私に迫ってくる。

リーダー格と長髪のエルダーが左右から攻め、その合間を縫うように短髪のエルダーが矢を放つ同時攻撃。

速さと技術は私の方が若干上のようだが、三人同時に捌ける程の差ではないし、更にエルダーたちは私の動きを見切ったとはっきり宣言してきた。

『マグナム』を対処しようとした反射神経と行動速度からして、今の言葉は虚勢ではあるまい。

ここからが正念場か。

「そうだな……そろそろ終わらせよう」

私にはフィアへの説教と、父親への挨拶が待っているのだ。

『ブースト』を全開で発動させ、エルダーたちの攻撃を正面から受けるべく……私は魔力を解き放った。