軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148 集会へのお誘い

最近の私は、暇な時間に『ハウラーこども園』にいることが多い。

午後の二時少し前から四時くらいまで。ヘンリーさんがランチを食べにくる時間と被っているから、今まではこども園に行きたくても我慢していた。

でもそれをヘンリーさんに気づかれてしまって。

「マイさん、子供たちのところに行きたいなら行ってください」

「でも、ヘンリーさんがせっかくお城から来てくれているのに」

「大丈夫ですから。夜も一緒にいられるでしょ?」

「そ、そうですか? すみませんね。じゃあちょこっとこども園に行ってきます」

こども園は相変わらず竹馬で盛り上がっていた。全員が木製の竹馬に乗り、猛スピードで鬼ごっこをしている。キアーラさんが鬼で、いい感じに怖い顔を作って子供たちを追いかけている。ソフィアちゃんとリリちゃんがすごい勢いで逃げ回っていて、見ている私は転ばないかとハラハラする。

「マイたんも一緒に!」

「私も仲間に入れてくれるの?」

「入っていいよ」

ソフィアちゃんのお許しが出て私が竹馬を手に取ると、リリちゃんもすごく小さな声で「入っていいよ」と言ってくれた。リリちゃんが着実に私に懐いてくれていて、ニンマリしてしまう。街の猫の中にもなかなか懐かない子がいる。リリちゃんもそんなタイプなんだろうか。

夢中になって竹馬鬼ごっこをして店に戻ると、当然のことながらヘンリーさんは帰った後だ。

「やっぱり悪いことしたかしら」

「ヘンリーさんはご機嫌で帰りましたよ。『うちの奥さんは子供を大好きだからね』って、ニコニコしていました」

サンドル君にそう言われて安心した。

閉店まで忙しく働き、若者二人を帰した。「やれやれ」とおばあちゃんの口癖を真似ながらお茶を飲んでいたら、ノックの音。

カーテンをめくって外を見ると、クロードさんだ。犬型獣人で、以前流行り病のときに配達を手伝ってくれた人。そして猿型獣人の集団を捕まえる時、シェパードそっくりの姿で大活躍していた人。

「クロードさん! お久しぶりです」

「夜分にすみません。どうしてもお伝えしたいことがありまして」

「どうぞ中へ」

クロードさんにお茶を出して向かい合って座った。

「近々、犬型獣人の集会があります。高齢の長老が亡くなり、新しい長老が皆に挨拶をする集まりです。その集まりに、できればマイさんも参加してほしいという、新しい長老の希望をお伝えに来ました」

「私? なぜでしょう」

クロードさんの説明によると、この話は流行り病の頃に警備隊が配っていたポーションが理由だった。

犬型獣人たちはあのときの流行り病には感染しなかったが、当時の長老が犬型獣人も感染する風邪を貰ったらしい。高齢だったのもあって一気に悪化したと。

そこでご家族が無料で配られていたポーションを貰って飲ませたら回復したそうだ。

「ですが最近、眠っている間に心臓が止まりまして。歳が歳だけに、家族は諦めがついています。むしろ、ポーションのおかげで最後の時間を楽しく元気に過ごせたと喜んでいました」

ポーションは加齢による不調にはあまり効果がない。そりゃそうだ。加齢による衰えまで治すなら、ポーションは不死の妙薬になってしまう。

「マイさんのポーションのおかげで、万が一に備えて新しい長老への引き継ぎも滞りなく済ませることができたそうです。感謝の意味を込めて犬型獣人の集会でマイさんにお礼を述べ、仲間にお顔を知らしめたいということでした」

「ちょ、ちょっと待って。なぜポーションの作り手が私だと思ったんです?」

「あれ? 違うんですか?」

違わないけど。

黙り込んでいたらクロードさんが説明してくれた。

「市場の火事のときに、大勢の前で魔法を使いましたよね?」

「はい」

「それでマイさんはすごい魔法使いなんだってことが知られています。それと、ヴィクトル小隊長がここに荷車を引いてポーションの樽を受け取ったり、空の樽を返しに来たりしてましたよね? 見かけた人が何人もいるんです」

なんだ、すでにすっかり広まっていたのね。

「他にも、マイさんは犬型獣人の間で、『獣人に偏見を持たない一般人』として知られています。本来なら犬型獣人の長老と重鎮たちが挨拶に来るべきなんですが、犬型獣人全体にマイさんを紹介して、何かあれば犬型獣人がマイさんのお力になれたら、というのが新しい長老の意見です。ですが、そういうことを好まないならはっきり断っていただいて構いません」

「今、ちょっと考えていいですか」

「もちろんです」

んんん。どうしよう。私を知らない人にまで顔を見せて魔法使いと知らせるのか。

でも私、もう魔法使いであることを隠さないって決めたよね。

「わかりました。集会に参加させていただきます。場所はどこでしょう」

「迷いの森です。人間はまず来ないので、そこで。みんな飲み物や食べ物を持ち寄って、ちょっとした祝いの席って感じの集まりです。マイさんは招待客なので手ぶらで来てください」

「あら、そういうことなら私も何か持っていきますよ。何人くらい集まるんですか?」

「人数はまだはっきりしないのですが、最低でも五十人は集まると思います。では長老に了承いただけましたと報告しますね」

クロードさんが立ち上がった。

「あ、待って。クロードさんは何人家族ですか? 店の余り物で申し訳ないけど、よかったらチーズケーキを持っていってくださいな」

クロードさんの個人的なことを今まで聞いたことがなかった。流行り病の頃は配達の注文が殺到して、そんな余裕はなかった。

何人家族か聞いたら、クロードさんが不意打ちをくらったような顔になって二度まばたきした。

「俺は……一人暮らしです」

「じゃあ、二個持っていって。甘いもの、嫌いじゃなかったですよね?」

「大好きです。遠慮なくいただきます」

薄い木箱をカウンターの中で作って、丸くて小さいチーズケーキを二個入れて蓋をした。クロードさんが何度もお礼を言って、「そのうち客として食べに来ますね」と言って帰った。

キアーラさんが夕食を食べている間、私はお茶で付き合いながら子供たちの様子を聞いた。キアーラさんは子供たちやケヴィン君の様子をよく見ている。ソフィアちゃんとリリちゃんの話をするのも楽しそうだ。

「ケヴィン君は、本当に気立てがいい若者です。いい人に来てもらいました」

「ほんとですよねえ」

キアーラさんが二階に上がってから、ヘンリーさんが帰ってきた。

二人で夕食を食べながら、クロードさんに頼まれた話を引き受けることにしたと伝えた。気のせいかも知れないけれど、そこからヘンリーさんの元気がないような。

自宅に移動してヘンリーさんがお風呂に入り、交代で私もお風呂に入った。今は私がヘンリーさんの髪を乾かしているところだ。

「私がたくさんの犬型獣人の前に出るの、嫌でした?」

「いえ。そんなことはありませんよ」

「元気がないように見えるのは、私の気のせい?」

「ええ、気のせいです」

「じゃあ、どうして目が猫の目になっているの?」

「あっ」

ヘンリーさんが急いで鏡の中の私から目を逸らした。

「言ってくださいよ。ヘンリーさんが何を気にしているのか、言葉にしてくれないとわからないもの」

「ええと……」

ヘンリーさんが黙り込んでいる。私は何も言わず、ずっと待った。(まだかね?)と思い始めたころ、やっとヘンリーさんが口を開いた。

「クロードさんて、マイさん好みの男性ですよね。あの染色場の捕り物のときも、マイさんはずっとクロードさんを目で追っていた。店で配達を頼んだ犬型獣人は四人いたけど、クロードさんを見ていることが多かった。マイさんは猫好きだけど犬も好きなんだと気づいて、俺はあの頃結構へこんでいたんです。俺が半分猫型獣人である利点て、そんなに大きくなかったんだなと」

待ちたまえ。あなたは私をどんな浮気者と思っているのかね。

私は猫が大好きだけど、犬もパンダもウサギも好きだ。だけどヘンリーさんへの「好き」はその「好き」とは種類が違う「好き」でしょうが。

確かにシェパードになっているときのクロードさんを「きゃー、かっこいい!」と思っていたのは本当だ。

でもそれはアイドルや俳優さんやプロスポーツ選手をかっこいいと思う種類の気持ちなわけで、クロードさんはいわゆる「推し」だ。ああ、「推し」の説明が難しい。

「クロードさんに対して恋愛感情はありません。ヘンリーさんと結婚したのは半分猫型獣人だからじゃないのに。いい加減、私に愛されているっていう自信を持ってくださいよ、もう」

ヘンリーさんは悲しげな顔をしていたけれど、突然パジャマを脱ぎだした。なんだなんだ。

脱いでいる途中からどんどん猫に姿が変わって、あっというまに大黒猫になったヘンリーさんが香箱座りをした。

「気づいていないでしょうが、マイさんはクロードさんを見るとき、目が輝いているんですよ。出会う順番が違っていたら、俺じゃなくてクロードさんと付き合っていたのかなって思うじゃないですか」

「思うじゃないですか」って言う口調が心細げで、愛しい。文官のときはあんなに自信ありげで堂々としているのにね。愛しくてたまらず、香箱になっているヘンリーさんに抱きついた。

「私が好きな人はヘンリーさんだけです」

そう言って首のモフモフに顔を埋めた。はぁぁ、癒される。

半猫型獣人だから結婚したわけじゃないという前言は撤回だ。大黒猫というヘンリーさんのアドバンテージは大きいわ。

ヘンリーさんはしょんぼりしながらも、ゴロゴロと喉を鳴らして私の顔に顔を寄せてきた。