軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146 木彫り職人のデリックさん

神官のエリアスさんと一緒にレリーフを贈ってくれた木彫り職人さんのところに行くことにした。廊下を歩いていたら、「どこに行くのかね?」の声。リーズリーさんだ。

「素敵なレリーフをいただいたので、お礼を伝えに行くところです」

「私も同行させてくれないか?」

「ええ、それはもちろん、かまいま……」

途中まで言って(魔法陣を大量に印刷する話は、秘密にすべきだった?)とヘンリーさんを見上げた。ヘンリーさんが私の視線に気づいて、「どうぞ。一緒に行きましょう」とリーズリーさんに笑顔を向けた。辺境伯領に来るとき、魔法陣は見ているからいいのか。

そう言えばあの魔法陣について、リーズリーさんは何も質問してこなかった。

リーズリーさんはエリアスさんと話をしながら私たちの前を歩いている。私はヘンリーさんの袖を軽く引っ張り、体をかがめてくれたヘンリーさんの耳に小声で話しかけた。

「いいんですか? あの魔法陣を印刷する方法を教えることになるけど」

「変換魔法を使えなければあの魔法陣は使えませんから」

確かに。

魔法部の魔法使いは魔道具で瞬間移動できるようになったけど、ダイヤを消費する。ヘンリーさんはキリアス君が透明度の高い水晶を使う方法を開発中だと言っていたけど、まだ当分時間がかかりそうだとも言っていた。

「ただ、マイさんが日に何度も瞬間移動できることは伏せた方がいい。マイさんにあれこれ運んでもらおうと言い出す人が出てきたら困ります」

確かに。

「レリーフを作ったダスティンの家はここです」

考え込んでいる私をエリアスさんが振り返った。青い屋根と白い壁。並んだ白い枠の窓。この木造の家を修復した覚えがある。屋根は近くに吹き飛ばされ、壁は斜めに傾いていて、どうにかこうにか潰れずにすんでいた家だ。

エリアスさんがノックする前にドアが開いて、四十歳くらいの女性が顔を出した。

「神官さま、どうなさいました?」

「リディ、このご夫婦がデリックに仕事を頼みたいそうです」

リディと呼ばれた女性が私を見て目を丸くした。

「聖女様!」

「いえ、魔法使いです」

私とヘンリーさんが同時に否定した。リディさんは「あら、そうなんですか」と言いながら家の中へ招き入れてくれた。「あんた! お客様だよ! 家を直してくれた聖女様よ! 早く来て!」

聖女じゃないんですって。デリックさんが奥の部屋から現れて、説明することになった。デリックさんはがっしりした体格の人で、やはり四十歳くらい。黒髪に黒い瞳だ。

エリアスさんは案内を終えて神殿へと帰り、私とヘンリーさんが依頼する内容を説明した。デリックさんはうなずきながら話を聞いてくれた。

「文字を鏡に映したように反転させて、文字が浮くように周囲を彫ればいいんですね? できます。その文字というのはどんなものでしょうか」

「これです」

私がポケットから折りたたんだコピー用紙を取り出してテーブルに広げた。貼り合わせたコピー紙はテーブルより大きく、端の方はテーブルからはみ出して垂れ下がった。

デリックさんは「この紙は初めて見ますね。素晴らしく上等な紙だ」と言ってコピー紙を親指と人差し指で挟み、手触りに驚いている。(気になるのはそこ?)と思ったけど、ツルッツルで薄くてここまで真っ白い紙は初めてか、と納得した。

リーズリーさんも身を乗り出している。こちらは無言で、魔法陣を食い入るように見ている。

「この大きさで仕上げるには、反りのない板を何枚か繋ぎ合わせる必要がありますね。少々お時間をいただくことになりますが、できます」

「よかったですね、ヘンリーさん」

「よかったですね。では仕事を依頼します。この紙はお渡しできないので、写し取ってもらえますか。何ひとつ間違えず、正確に」

「もちろんです。慎重に写します」

「書き写し終えたら辺境伯家まで知らせてください。間違いがないか確認したいのです」

「承知しました。出来上がったらすぐにお知らせいたします」

そこから値段の相談になって、無事契約完了。私とヘンリーさんとリーズリーさんはお城に戻ることにした。竜巻で破壊された大通りを歩いていたら、リーズリーさんが話を始めた。

「昨日私は『まずは井戸の復旧だ』と判断して、あちこちの井戸を土魔法で修繕した。渇きをいやし、傷を洗うにも水は必要だからね。だが終わってこの通りに戻ったら、めちゃめちゃになっていた家々がすっかり元通りになっていた」

私とヘンリーさんが顔を見合わせた。リーズリーさんは何を言いたいのか。

「領民から店主殿が一人ですべてを元に戻したと聞いて私が最初に思ったのは、『長いこと現れなかった偉大な魔法使いがついに現れた』ということだ」

なんと返事をしていいかわからず、私は口を閉じたまま。

「私は、なぜあなたが城の魔法部に入ろうとしないのか理解できなかった。強い魔力と変換魔法の腕を国の役に立てるべきだと、腹を立てたこともあった。だがあなたが偉大な魔法使いなら話は別だ。国の意向に従って腕を振るうのは、私やキリアスのような者で事足りる。店主殿のような偉大な魔法使いは、意のままに生きるべきなのだと、きれいに修復された家々を見て、そう思った」

「偉大かどうかはわかりませんが、そう言ってくださってありがとうございます」

「それで……」

あれ? 話は終わってなかったんだね?

「あの魔法陣を量産する目的はなんだろうか。それを知りたくてたまらんのです」

わ。リーズリーさんの魔法オタクのスイッチが入った。目がギラギラしてる。リーズリーさんがズイと私に詰め寄り、私の腕をつかもうとしたが、その手はヘンリーさんによってパシッ! とはねのけられた。

「妻に触れるのはやめていただきたい」

「すまない。つい興奮してしまった。ハウラー文官、あなたは魔法陣を量産する目的を知っているのだろう? 教えてほしい」

ヘンリーさんは片方の眉をキュッと持ち上げ、リーズリーさんを見ていて何も答えない。

「もちろんタダでとは言わない。そうだな……私が差し出せる最高のものは特級のポーションだが、店主殿は当然そんなものは作れるのか。では……ああ、くそ、差し出せるものがないじゃないか」

リーズリーさんが両手をグーにして地団太を踏む勢いで悔しがっている。口を閉じているとめっちゃイケオジなのに、魔法のことになると子供みたいでちょっと微笑ましい。

「リーズリーさん、私は高価なものが欲しいわけではないんです。魔法陣をたくさん必要とするのはたいした理由じゃありません。ただ他言しないと約束してほしいんです」

「なんだ、そんなことか。もちろん人には言うつもりはない。あっ、弟子のキリアスには話をしてもいいだろうか。私とキリアスに店主殿の真似はできないだろうが、あなたの魔法の情報は後世に残したい」

ヘンリーさんを見上げると、うなずいている。私の判断に任せるということだ。

「わかりました。人に言わないと約束してくれるなら、お話します。魔法陣をたくさん作るのは、好きなときに好きな場所へ、思い立った時に移動したいからです。ただそれだけです。魔導具は魔力を通すだけで移動できますけど、魔法陣を使って移動しようとすると、それを描くところからになるでしょう? その時間を省略するためです」

「あの紙が魔導具の代わりになるわけだね」

「そうです」

「そして使われる魔法は、変換魔法だろうか」

「……」

気づいてたんかい!