軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バカがバカを騙す

新進気鋭の奇術騎士団、それを率いる団長ガイカク・ヒクメ。

彼の名声は、国家や種族の枠を超えてとどろいていた。

曰く、最高の腕を持つ医者だという。

曰く、絶滅した酒を造れるという。

曰く、優れた兵器の開発者だという。

曰く、動力付き気球を発明したという。

曰く、とんでもない詐欺師だという。

曰く……。

人の口には戸が立てられない。

ガイカクがその手腕で事件を解決するたびに、彼の優秀さや異常さは知れ渡っていった。

彼に近づきたい、彼からしか得られない物を甘受したい。

そう思う者が増える一方で、騎士団長という独特すぎる立場故に、ガイカクに接近できる者は極めて少ない。

騎士団長ガイカクに接近するには、そのガイカクでさえ心服している総騎士団長ティストリアを通さなければならない。

彼女の部下も当然のように有能ぞろいであり、彼らに不審に思われたが最後、ガイカクにたどり着くことはできない。

よって、ガイカクの恩恵に与れる者は限られる。

直属の上司たる、ティストリア。

同盟相手である、三ツ星騎士団。

完全に部下である、奇術騎士団。

スポンサーである、ハグェ公爵家。

以上となっている。

とはいえ、近づけないと思っているからこそ、需要は高まる。

そこに入り込むのは、『本物のガイカク』ではなく、『本物の悪党』であった。

レスマティ男爵という貴族は、ガイカク・ヒクメに接触しようと手を尽くしていた。

黒い噂とどす黒い噂の絶えないガイカクであるが、その黒は甘い黒であったからだ。

その甘さを決定づけたのは、ハグェ家でのパーティーである。

スポンサーの為に仕方なくではあるが、ガイカクはそれこそ己の優秀さを広報したのだ。

そのパーティーに参加した者、そしてその話を聞いた者なら羨ましくて仕方ない。

レスマティ男爵のように、積極的に接触を求めても不思議ではあるまい。

そんな彼の元に、如何にも胡散臭い男たちが現れていた。

話に聞くガイカクと同じように、フードで頭や顔を隠しており、更に手まで袖に包んでいる。

なんとも怪しいのだが、ガイカクがまず怪しくふるまっているので、むしろ共通項は多いと言えるだろう。

「貴殿ら二人が、ガイカクと同郷である……と?」

「左様にございます……イヒヒヒヒ!」

「ひょひょひょひょひょ! ガイカク・ヒクメとは、騎士団長になる前からの付き合いでして……」

「そんな者が、私に何の用かな?」

その二人の男は、まさに怪しい笑いをしていた。

当たり前だが、ガイカクそっくりである。

「実は……我らが同士ガイカクは、ティストリア様の元での悪事に限界を感じておりまして……もう少し手を広げたい、と考えているのですよ」

「しかしすでに公の場でスポンサーとなっているハグェ様から、コレ以上の手は借りることができませぬ。なので……」

「……つまり私に裏のスポンサーになれと」

ごく普通に、詐欺の手口としか思えなかっただろう。

要は金を出せ、である。

どう考えても、金だけ受け取って逃げるパターンであった。

「左様でございます……ひひひ!」

「ボリック伯爵の元に潜んでいた時と同じように……貴方の傍にも手を潜ませたいのですよ」

しかしここでも厄介なのは、ガイカクに前科があるということだ。

ボリック伯爵の元で悪事を働いていた彼が、見逃してもらうことを条件にティストリアから引き抜かれたことはもはや公然の秘密なのである。

前科者が同じ悪事を繰り返す、というのは良くある話なのだ。

「些か信じがたいが……」

「ああ、もちろん、怪しいというのなら頷かずとも構いません。我らはただ去るのみにございます」

「ご想像の通り、多くの方からお声をかけていただいておりますので……!」

「むぅ……」

もちろんこの引っ掛けも、詐欺の常套句である。

しかし実情とあまりにもかみ合っているため、焦らせるには良い文句であった。

そう……詐欺師の言うことは、何時の時代も変わらない。

そして成功する詐欺というものは、金を持っている相手の欲しがっているものをきちんと調べているものである。

「……いくらほしい?」

(来た……来た!)

(笑ってもいいってのは最高だな……噂に聞くガイカクのマネってのは、簡単で助かるぜ!)

そして当然ながら、ガイカクの同郷を名乗る二人はただの詐欺師である。

もちろんガイカクと面識などなく、彼の故郷を知っているわけでもない。

それらしい文句を並べて、金を集めている男達であった。

(後々になって騙されたと気づいてももう遅い! 俺たちは国外に逃げさせてもらうぜ! そこまで逃げれば、騎士団でも捕まえられまい!)

(まあそもそも、奇術騎士団の悪事を手伝おうとして金を渡しました、なんて言えないと思うけどな!)

彼らは『手付金』という名の金貨を大盛りで受け取り、意気揚々と去っていく。

もちろん、もう二度とレスマティ男爵の前に現れることはない。

そんな彼らの背を見ながら、レスマティ男爵は傍にいた執事に話をしていた。

「見ての通りだ、詐欺にあった。騎士団に報告しろ」

「承知しました。どのような手口だった、と書きましょうか?」

「奇術騎士団の名を騙り、スポンサーにならないか、と誘われたとな」

「承知しました」

レスマティ男爵も、そこまでのバカではない。

目の前の二人が詐欺師であることは、既に見抜いていた。

そのうえで利用しよう、という魂胆だったのである。

(騎士団を騙る詐欺師が現れたのだ……被害者も出ている、当然騎士団は動くはず。そして奇術騎士団が来てくれれば……いや、奇術騎士団が来てくれるだろう! なにせ奇術騎士団を騙っているのだからな!)

仮に騎士団へ嘘の依頼をすれば、それこそ騎士団そのものを敵に回すことになる。

だが騎士団を騙る詐欺師の存在を報告するのであれば、まして実際に詐欺被害を受けたあとなら……ごく自然に、依頼ができるだろう。

そして奇術騎士団が来てくれれば、そのままお近づきになれるかもしれない。

そんな作戦を、彼は頭の中で練っていたのだった。

しばらくが経過して、レスマティ男爵の元に騎士団が訪れていた。

もちろん、二人の詐欺師を拘束した上である。

「お初にお目にかかります、私は貝紫騎士団団長、セフェウと申します。この通り、騎士団を騙っていた詐欺師二名をしかと確保いたしました。騙し取った金も、このとおりすべて戻ってきております」

「お、おお、ありがとうございます……」

しかし期待を裏切る形で、貝紫騎士団であった。

先日のライナガンマ防衛戦にも参加していない、奇術騎士団と極めて関係の薄い騎士団である。

その団長であるセフェウは、ガイカクとは対照的に模範的な騎士団長である。

とても厳格で真面目、後ろめたいことなど何もない男であった。

その彼から犯罪者とだまし取られた金を受け取って、レスマティ男爵はなんとも複雑そうな顔をしている。

もちろん、ここから何かが起きるわけではない。

明るみになっても、とがめられるようなことは起きない。

しかし、思惑が上手くいかなかったことは事実であった。

彼はそれこそ、損をしたかのような顔をしている。

「それでは失礼します。ああそれから……世には悪事を働くことに何の抵抗も覚えぬ輩も大勢おります。どうか被害を繰り返さぬよう、お気をつけてください」

「は、はい……」

そんな男爵に、セフェウは釘を刺してから去っていく。

お前の考えは読めているぞ、と言わんばかりに。

そうして男爵の屋敷を出たセフェウに、正騎士のうち一人が声をかけていた。

「……こう言ってはなんですが、良くない影響が出ておりますな。奇術騎士団そのものが汚点であるがゆえに、犯罪が行われやすくなっているかと」

実にごもっともで、反論の余地がない意見だった。

奇術騎士団は違法行為をしまくっている、という事実が詐欺の被害者を生み出していると言っても過言ではない。今回は被害者にも思惑があっただろうが、別でも同じような犯罪が起きて、本物の被害者が出ているのだ。

「お前の言いたいことはもっともだ。だが奇術騎士団がいなかったとしても、詐欺師は悪事を働き、被害者は出る。ネタが変わるだけだ」

しかしセフェウは、あくまでも冷淡であった。

多少の増減はあっても、そこまで決定的な影響を与えているわけではないと言い切る。

これはこれで、間違ってはいない。

「しかし……」

「お前は知らないかもしれないが、ティストリア様が正騎士だった時代に、『ティストリアの初夜権』をネタにした詐欺事件が横行した」

「は?」

ティストリアの初夜権、という言葉に貝紫騎士団の正騎士は言葉を失っていた。

正直、意味が分からなかったのである。

「まあ初夜権というよりは、一晩床を共にする権利だったそうだが……同じようなものだな。その責任が、ティストリア様にあると思うか?」

「ありませんね……」

「そういうことだ」

言うまでもなく、ティストリアは非の打ちどころのない、完璧な総騎士団長である。

経歴も、容姿も、実力すらも完璧である。その彼女に、悪いところなどほぼない。

そんな彼女でさえ詐欺の手口になるということは……。

「仮に奇術騎士団がまともな騎士団で、ヒクメ卿がまともな騎士団長であっても、さっき言ったような詐欺は必ず横行する。私とて、似たようなことはあったからな」

「さ、さようですか……失言をお許しください」

「奇術騎士団が汚点であることは事実だ、咎めることではない。だが……」

貝紫騎士団団長、セフェウはあくまでも罪を憎んでいた。

「この悪事に限っては、彼に責任などない、もちろん、騎士団全体にもな」

彼は、あくまでもまともな騎士団長であった。