軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

手作りのブローチ(に塗るニスを手作り)

とある、ケンタウロス一家のキャンプにて……。

一組の父子が、会話をしていた。

「な~~親父。俺思うんだけどさ~~」

ややふざけた調子ではあるが、息子は真面目そうに質問をしていた。

「なんか、話がまとまりすぎじゃねえの?」

「どういう意味だ」

「あの騎士団長様に、丸め込まれてるんじゃねえの、って意味」

ガイカクが来たら、それだけで話が一気に進んだ。

それも円滑、円満なものである。

それも、ガイカクがあらかじめ決めていたように、である。

「ぶっちゃけ、詐欺じゃねえの?」

「それで困るのは誰だ」

「……祭祀の一族だな」

「じゃあいいだろ。それぐらいの『被害』は受け入れてもらわねえとな」

もちろん話が進みすぎている、とは大人たちも思う。

だがそもそも論、孫が倒れました、犯人がいるのかもわかりません、なんて状況で騒いだ祭祀の一族に問題がある。

そしてもっと言えば……。

「あの騎士団長も言ってたが、あのバリウスニスを壊されている時点で、孫のことでごちゃごちゃ言ってる場合じゃねえんだよ。あれはオーロラエ地方のケンタウロス全体のもんであって、アイツらは預かってるだけなんだからな。それが壊れてる時点で、もうペナルティだろ」

「……じゃあさあ、アレを壊したのが騎士団長って可能性はないか?」

「あるかもな」

「おいおい……」

「それはそれでいいだろ、壊される方が問題だ」

大人たちは大人なので『まあ子供がやったんだしいいじゃん』とは言っていた。

だがそれはそれとして、不満はもっていた。

「あの騎士団長が何かの手品でバリウスニスを壊していたとしても、祭祀の一族も長も、俺達も文句を言えねえよ。壊されている時点で、もう負けなのさ」

「……じゃあさ、どうやったと思う?」

「さあな。空を飛んだって、地面に穴を掘ったって、それをするのは無理だろう」

「じゃあ?」

「どうでもいい。もう済んだことで、丸く収まってる。それだけのことだ」

ぞんざいな言い方をしているが、決して軽く扱っているわけではない。

大人たちからすれば、丸く収めてくれた時点で解決なのだ。

正直に言えば、真相である必要も真実である必要も……合法である必要もなかった。

「だから今回の件が片付いたら、祭祀の一族に粘着するなよ。蒸し返せば、ろくなことにならないからな」

(でも気になるな……)

ガイカク自身も気にしていたが……。

下手に有能で、かつ悪名高いと、かえって信頼を損なう。

自分が指摘したことが、単なる仕込みではないかと疑われてしまう。

それを極力避けるため、今回は出会いがしらに話を進めたが……。

それでもなお、というかかえって……自作自演を疑われるのであった。

大人たちは賢明なので、もう解決したからまぜっかえすな、というスタンスをとっていた。

だが若者たちは、真実が知りたくてうずうずしていた。

果たしてガイカクは、本当にただ読み切っただけなのか、それとも仕込んでいたのか。

読み切っていたなら、その根拠を。仕込んでいたなら、そのトリックを知りたい。

そう思ううちの一人、若きケンタウロスのエリートは、バリウスのニスを精製しようとしているガイカクの元へ訪れていた。

「騎士団長サマ、さっきはお見事だったな、興奮していた爺さんが、いっきにしぼんでたぜ」

「孫が倒れて冷静ではいられなかった、それだけのことでしょう」

「俺としては、痛快だった。まあ演技が臭かったがな」

「演技は演技でいいものでしょう」

軽く枕を入れてから、若きエリートは本題に入る。

「アンタ……本当は何をしたんだ?」

「見ての通り、聞いた通りですよ」

「手品を使ったわけじゃないってことか」

「ええ。というか……どんな手品でも、あのシンプルな家に忍び込むことはできません」

ケンタウロスたちも自認していたように、祭祀長の家に忍び込むのは不可能である。

人が隠れられそうな荷物に紛れて出入り……という無理矢理な侵入も、結局住人の協力なしではありえない。

「まあ見張り番を買収できれば話は違いますが、そんな簡単な話じゃないでしょ」

「……まあ、それだと俺も面白くないな」

ガイカクが事前にここに来ていて、見張り番を買収して入り込み、家の中にあるバリウスニスの弓をへし折って、何食わぬ顔で出て行って……そして再び馬車に乗って入ってくる。

できなくはなさそうだが、それこそ机上の空論に思える。

「……じゃあ、出る前から読み切っていたってことか」

「ええ、まあ。確信はありませんでしたが、それが自然に思えたのでね」

「自然?」

「ええ、自然です」

ガイカクの考えた『多分こうだった』は、それこそ筋が通っていた。

だが本来ならそれは、バリウスニスの弓が折れているのを発見した後で、祭祀長自身が『あ、もしかして』と気付くような筋書きだ。

いくらバリウスのニスを知るガイカクとはいえ、現地に来る前から予測することは難しいだろう。

だがガイカクは、それでも読んでいたのだ。

「子供というのは、危険なことをしたがるもの。あるいは、友達同士で度胸比べをしたがるもの。もしくは、特に理由もなくイジメをしてしまうもの……」

確定されている事実として、祭祀長の孫はコブラリコリスの群生地にいた。

その動機がどんなものか考えれば、子供じみたものであろう、と誰もが思っていた。

「お孫さんが自主的に友達の前で『僕に勇気があるところを見せてやる!』と言って群生地に突っ込んだ可能性もあった。あるいは友達と我慢比べをするように『先に逃げた方の負けな!』と複数で群生地に突っ込んだ可能性もあった。そして……祭祀長が想像したように『お前はこの中に立ってろ』と追いやられていた可能性もあった」

「まあ……俺達もそう思ってたよ」

「ですがね、今は祭の時期でしょう? それも退屈な『厳かなお祭り』とかではない、子供も楽しめる競技大会です。子供たちはイベントごとが好きですし、興味がそっちに向いているはず」

もうすぐ楽しいお祭りが始まるというのに、普段通りのことをするだろうか。

まして、主催者である祭祀長の孫が関わっているのに、関係のないことで遊ぶだろうか。

「普通に考えれば、ですよ。友達に勇気を見せるにしても、友達と競争をするにしても……『もうすぐお祭りがあるから、それで凄いところを見せよう』となるのでは? 毒草の群生地に突っ込むのは、それがだめになった後では?」

「……そうだな」

「そして誰かからいじめられていたとしても、その誰かだって『お前祭祀長の孫なんだろ、俺を特例で参加できるように頼んで来いよ』とかいうんじゃないですか? 毒草にお孫さんを突っ込ませるのなら、それが失敗した後では?」

「……そうだな」

どでかいイベントが近づいているのに、それとはまったく関係ない、普段でも起きるような事件だった……というのは確かに考えにくい。

「そしてそのいずれであっても、お孫さんは祭祀長へ参加させてほしいとねだっていたはずです。頼むだけならタダですからね。子供の視点からすれば、簡単なお願いに思えるでしょうし」

「……俺でもやってそうだな」

「それを言われていた場合、普通に危ないので、祭祀長も反対したでしょう。そうなればお孫さんは強硬に文句をいうはず。友達と約束したもん、とか……友達が俺を参加させろっていうんだ、とかね」

「まあ、言うな」

「その後であの事件が起きたなら……祭祀長は、その友達を疑い、犯人と決めつけたでしょう」

「そうならば、アンタに話が行くはずもないってか」

どでかいイベントが控えているのだから、何かトラブルが起きたなら、そのイベントを発端とみるべきだ。

だがそのイベントを発端とするいくつかのルートを考えると、どのルートも必ず中間地点で祭祀長に話がいく。

その時点で印象が付いているのだから、祭祀長は決めつけであれ犯人を特定していたはずなのだ。

そうなっていないのであれば、まったく別のルートを考えるほかない。

「今言った三つのルート以外……つまり、むしろ絶対に祭祀長へ話ができないパターンを考えれば……おのずと想定できました」

「悪戯で自滅……なるほどな」

確信はなかったが、一番高い可能性を導き出せていたのだろう。

だからこそ、どう治めるかも考えられていたのだ。

「とはいってもその場合、貴方たちが言うように、バリウスニスの弓の代替品を用意しないと収まらないでしょう。面倒なんて、引き受けたくなかったんですが……女へのプレゼントもついでに作ればいいと思って、私も乗り気になった次第です」

「……今祭祀の一族が必死になって作ってるが、アレは売るんじゃなくてマジで『自分の女』にプレゼントするのか」

「まあ女は女でも、自分の部下ですがね」

「噂の、従騎士隊ってやつか」

「そんなところです」

祭祀の一族というのは、宗教的な飾りつけを作ることも生業としている。

そのため、木工細工も得意なのだが……。

それでも短期間で百個もブローチを作るとなれば、それこそ大変そうであった。

もはや労役刑と言っていいのかもしれない。

もちろんそれを含めて、贖罪ということなのだろうが。

「しかしまあ、頭のいい奴は要領もいいな。弱みに付け込んで女へのプレゼントを作らせて、自分の手柄ってわけか」

「いやいや、俺も頑張りますよ」

「……そうみたいだな」

若きケンタウロスのエリートは、改めてガイカクをみた。

話をしながら着替えていたガイカクは、対BC装備のような、全身をすっぽりと隠す、マスクや防毒メガネ付きの作業服を着ていた。

その異様な服を見ただけで、若きエリートケンタウロスは彼の面倒さを理解していた。

「作業自体は簡単なんですけどね~~。防毒装備とか、廃液処理とかがマジで面倒で……こういう『ついで』でもなければ、やろうとも思いませんでしたよ」

自分に従う兵士の為に、危険を冒して毒草を調達し、それを精製し、また廃液を処理する。

なるほど、とても立派な男であった。若きエリートケンタウロスは、一種の敬意さえ覚える。

(俺が結婚するとして、嫁の為にアレだけ重武装して、毒の中で作業できるだろうか……)

「それでは作業を始めますので、近づかないでくださいね。マジで命にかかわりますので」

ガイカクは真剣に警告をすると、コブラリコリスの群生地へ向かって荷台をひいていった。

その荷台には危険そうな薬品がどっさり乗っており、また分厚そうな壺、頑丈そうな蓋なども見受けられる。

相当危険な行為なのだと、素人にもわかるほどだった。

(……この光景を奴の女が見たとして、そのブローチが欲しくなるんだろうか)

そして、そのブローチを贈られる女性たちへ、すこしだけ想いを馳せるのだった。