軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

必要な犠牲

大都市、ライナガンマ。

それを陥落させようとするマルセロ軍は、少なくない出血を強いられていた。

大都市ライナガンマの城壁には、当然ながら多くの大砲が設置されている。

そこには多くの砲兵と、砲弾と、火薬が準備されていた。

城壁に守られた高所から、一方的に射撃ができる。砲兵にとって、理想的な環境だろう。

そして大砲に求められるのは、人を殺すことよりもむしろ、敵の攻城兵器を破壊すること。

敵が長い距離を苦労して運んできた大型の攻城兵器を、攻城する前に粉砕することだ。

さて、この厄介な大砲に対して、マルセロ軍は如何に対応をしたのか。

なんてことはない、大量の大砲を並べて斉射したのである。

もちろん、ライナガンマ側の大砲の方が遠くまで届く。

マルセロ軍の砲兵たちは、相手の砲撃に耐えながら前進し、砲弾を放って城壁を削っていった。

理想的だろうと有利だろうと、絶対的な差ではない。

壁を崩していけば、いずれは砲台……大砲の設置されている部分が崩されていく。

撃っていれば、その内勝てる。なんてことはない、普通の話であった。

「マルセロ様、報告いたします。ライナガンマ側の砲台の、半数の破壊に成功しました」

「そうですか……それで、こちら側の被害は」

「……詳しくは、ここに」

智将マルセロの腹心、ダークエルフのサヒア。

彼女はとても痛ましい顔で、被害の書かれた報告書を渡す。

マルセロはそれに目を通して、一瞬、悼む気持ちを顔に表した。

だがその後に、切り返す。

「想定内の被害ですね」

「……おっしゃるとおりです」

敵に被害を与えたが、こちらも被害を受けた。

当たり前であり、何もおかしくない。

そもそも積極的に仕掛けたのだから、敵を呪うことも許されない。

責任は自分にある、彼はそれをわかっていた。

「それでは、予定通りに魔術師部隊を前方に展開してください。生き残っている大砲を、死角から攻撃してください」

「はっ!」

彼の作戦指示は、極めてまともだった。

魔術師による魔力攻撃は、大砲と比べて格段に命中率が高い。

熟練した魔術師ならば、一度目の試射でアタリをつければ、二発目で命中させてくる。

そうなれば、大砲の命運は知れたものだろう。大砲そのものが、そこまで頑丈であるわけもないからだ。

「それと並行して、攻城塔の準備を。魔術師が大砲を沈黙させ次第、城壁へ向かえるようにしてください」

「はい!」

「……少し、早くありませんかなあ?」

先を見越した指示を出すマルセロ。

サヒアはそれに従うが、オーガのグリフッドはやや不満があるようだった。

「攻城塔は確かに強いですが……まだ敵の抵抗が強い。今出せば、敵の温存している魔術で破壊される可能性も……」

「それは、どのタイミングでも同じです」

グリフッドに対して、マルセロはあくまでも事務的に応じていた。

「攻城塔を出し惜しむ将もいます。確かにそれも、間違ってはいない。ですが私は……いえ、この状況では違います。このライナガンマを攻め落とせるのであれば、持ち込んだ攻城塔がすべて破壊されても構いませんので」

「……それはまあ、そうですな」

「無為な、無駄な消耗は避けなければなりません。ですが、そうでないのなら、積極的に削るべきです」

「違いない」

智将マルセロの積極案に、グリフッドは笑いながら納得した。

元々、強硬な反対をするつもりはなかった。ただの好みの問題であり、そう間違ってもいない。

敵の都市を十倍の兵で囲んだ時点で、もう決着はついているようなものなのだから。

攻城塔。

太古の昔から使われている、大型の攻城兵器。

雑に言えば、超大型の移動足場である。

やぐらの足元部分に車輪がついており、移動できるようになっている。

このやぐらを敵の城壁に寄せて、固定。それの中を兵が登って行って、敵の城壁の上に登っていく仕組みである。

太古からあるだけに、信頼性や有効性は高い。

もちろん持ち運びにはとても苦労するのだが、それをするだけの価値もある。

大砲が排除されたライナガンマの城壁へ、その塔が近づいていく。

その塔を動かすのは力自慢のオーガではなく、普通の人間の兵達だ。

むしろオーガを含めたフィジカルエリート種族は、その塔に登って敵と戦う側だ。

まだまだ敵の士気も兵力も残っている状況で、それでも一番に乗り込む。

その勇敢さを思えば、喜んで馬役にもなるだろう。

「攻城塔には何度か登ったが……ここまで高いのは初めて見たな」

ついに、ライナガンマの城壁間際にたどり着いた、攻城塔の一つ。

その土台部分に、多くのフィジカルエリートたちが待機していた。

その間もマルセロ軍は大砲や弓矢を上へと打ち込み、逆にライナガンマ軍は下へと矢を撃ち石を投げている。

その状況で、フィジカルエリートたちは自分たちの登る攻城塔を見ていた。

敵の攻撃を防ぐために、堅牢な壁がある。多くのフィジカルエリートを乗せるため、頑丈な梯子がある。それを支えるため、頑健な土台と車輪がある。

途方もない重量を持つそれは、もはやそれ自体が城であるかのようだった。

「よおおし……いくぞおお!」

その城を登り、城壁の上で待つ守備兵たちを倒す。

それが彼らの任務であった。

それは、彼らの価値観で言えば、勇者の証明。

兵法として言えば、無駄ではない戦いだ。

生きて帰れるかはわからない、なんなら生きて帰れない可能性の方が高い。

それでも彼らは、勇敢に戦うことを選んだ。

大勢の屈強な種族が、完全武装をし、その上で大急ぎで梯子を登っていく。

堅牢なはずの攻城塔は、大いに揺れている。それでも倒れることなく、役目を果たしていた。

一番上に、猛者たちがたどり着く。

そして彼らは、城壁の上にいる敵と向き合った。

「来たぞ! マルセロ軍の兵だ!」

「一人も、この城壁に上げるな!」

「行くぞお前ら!」

「このまま城壁を占領してやれ!」

ちょうど、その時である。

轟音が響き続けるこの戦場で、攻城塔の根元部分で大きな音がした。

そして、今も猛者たちが登り続ける攻城塔が、ぎしりと軋んだ。

「あ?」

さあ乗り込むぞ、と意気込んだ猛者たちは、その足場が歪んでいくことに耐えられなかった。

何が起きているのか。

物理的には、明らかであった。

この攻城塔の根元部分に、特大の魔力攻撃が直撃していたのである。

どこから撃たれたのかもわからないが、その詮索はもはや無意味であろう。

その魔力攻撃によって、攻城塔の太い柱が、大きくへこんで歪んだのだ。

そう、それだけである。

一撃でへし折られたわけではなく、粉みじんにされたわけでもない。

柱が一本しかないわけもなし、普通ならそのまま崩壊する、なんてことはない。

だが今は、使用中である。

大勢のフィジカルエリートたちと、その重武装の重量を支えているのである。

しかも、土台のところにいるのではない。重心が不安定な、上の方にいるのである。

ただでさえ積載重量ぎりぎりであるこの状況で、柱の一本が歪めばどうなるか。

不均衡になってしまった一点に、負荷が集中する。

そうなれば、重大な柱は一気に折れる。積載重量がMAXのところで、柱の一本が折れれば……。

攻城塔は、その構造上倒壊する。

「ああああああ?!」

「ええええええ?!」

乗っている猛者たちも、見ている守備兵たちも、何が何だかわからない。

豪快に現れた敵兵が、何もできないまま、足場ごと倒れていく。

高級で巨大な兵器が、強力な猛者たちが、なんの成果も出せないまま倒れていく。

そして、地面に倒れた。

「……なにが、どうなってる?」

ライナガンマの守備兵たちは、いよいよもって混乱する。

彼らは何もしていないし、何も知らない。

あの攻城兵器をどうにかする術を、彼らはもっていなかったのだ。

にもかかわらず、なんだかどうにかなってしまった。

「……長旅で、壊れかけていたのか?」

「いや、そうじゃないみたいだぞ……」

守備兵たちは、周囲を見た。

自分たちの持ち場と同じように、攻城塔が接近していた場所で、同じようなことが起きていた。

しめて四台の攻城塔が、同じように倒壊していったのである。

「……なんの手品だ」

高所にいるからこそ、逆に根元が見えない。

守備兵たちは、自分達にとって圧倒的に優位な状況で、しかし困惑するばかりであった。

ライナガンマ上空にて。

三機の気球が、動力を停止し、浮遊していた。

できるだけ風のない高度を選び、その地点で『停止』。

そこから、魔力による砲撃を行ったのである。

その魔力を注ぎ込んだもの達は、当然ながら奇術騎士団の 砲兵隊(エルフ) であった。

久方ぶりに砲兵としての本分を果たした彼女らは、二号機内で 夜間偵察兵(ダークエルフ) によって看病されていた。

「だ、大丈夫ですか、皆さん!」

「う、うん……平気よ……それより、魔力砲撃は、命中した?」

「はい! 望遠鏡で確認しましたが、四台の攻城塔を破壊しました! 大戦果ですよ!」

最低数値の魔力しか持たないエルフたち、二十人。

彼女らが全力を使い切って、得た戦果は『攻城塔四台とそれに乗っていた兵士達』。

費用対効果からすれば、大戦果、どころではないだろう。

いや、もはやそういうステージではない。

この戦場の、戦局を変えるものであった。

底辺にしては頑張った、底辺にしては凄い、なんてものではない。

まさに、騎士の働きであった。

「良かった……きっと、他の騎士も、私達のことを……褒めてくれるわね」

「……はい!」

新兵器、空対地灯点誘導式五エルフ 力(りき) 魔導鈍撃砲塔。

二号機に搭載されていた兵器は、残弾を使い切った。

「 動力騎兵隊(ドワーフ) の皆さん! 御殿様のご命令通り、撤収しましょう!」

「おうよ! 四号機と合流するぜぇえええ!」

倒れている砲兵たちでさえ、喜びで震えていた。

まだまだ元気いっぱいな動力騎兵たちは、その太い体を震わせながら操船を行う。

自分たちの成果が、白日にさらされている。

その快感に、二号機全体が打ち震えていた。

動力付き気球、一号機。

いまだライナガンマの上空にいるこの気球の中。

正騎士、騎士団長たちは双眼鏡や望遠鏡を手に、二号機砲兵隊の戦果を目にしていた。

「うそ……この距離で、全部当てた……」

誰よりも驚いているのは、やはりセフェウに次ぐ魔術師たるルナであった。

「なんで当たるの? どんな手品なの?」

「軍事機密です」

「仲間でしょ、教えてよ~~!」

一番大騒ぎしているのは、彼女だが、他の面々もぞっとしていた。

いくら遮蔽物が無いとはいえ、軽く一キロは離れている。

それが四発撃って、四発とも当たって、しかも全部が攻城塔に致命傷を与えていた。

これが敵に居たらと思うと、ぞっとするどころではない。

「まあ真面目な話ですが……相手が巨大な設置物ですからね。そうでなかったら、さすがに当たりませんよ」

正騎士や騎士団長たちの警戒をほぐそうとしたのか、ガイカクはそう言った。

命中率重視の『鈍撃』……普段の魔力攻撃が鉄塊なら、大きめの粘土の塊を投げつけたような攻撃。

一点に集中しない分、威力はそこまでではない。だが弾が大きいため、命中率は高い。

その上、目標は巨大な攻城塔。

静止目標であり、柱のどれか一本に当たればよいのだから、狙撃としての難易度は低かった。

とはいえ、狙いをつけたのは、ガイカクの持つ望遠鏡と、それから放たれる灯点照射器である。

彼にそれなりの集中力が無ければ、外れていた可能性もあった。

「おいおい。やるじゃねえかよ、奇術騎士団!」

「あだ、あだ、あだ!」

「あんな大砲、どこに積んでたんだよ!」

「この気球には積んでない、二号機に積んである」

「おう、そうなのか……っておい!」

ヘーラは二号機を見つけようとしたところ、撤退していく姿を確認してしまった。

その兵器の強力さを見た後だからこそ、彼女は慌てる。

「なんで逃げてるんだよ、二号機! もっとバカスカ撃てよ!」

「弾切れだ!」

普通に考えれば、バカスカ撃て、と思っても不思議ではない。

だがガイカクは、それを強く否定した。

「あいつらは、もう出し切った。だからこそ、撤退を命じた。それだけだ」

「……」

「ヘーラ卿、慎んでください」

ここで、ティストリアがヘーラを制した。

あくまでも平たんに、しかし適切で、奇術騎士団の誰もが求めた言葉を言う。

「特筆すべき、素晴らしい戦果です。よろしければ、彼女らへ直接労いの言葉を贈る機会をいただきたいです」

「……ええ、こちらこそ」

この不公平のない評価こそ、彼女らが求めたものだ。

一号機に乗っている動力騎兵も夜間偵察兵も、我がことのように喜んでいる。

「……まあ、私からも褒めるとしてだ。こっからどうするんだ? 爆弾でも落とすのか?」

「そんなもの、この気球には積んでない!」

ガイカクは、にやりと笑いながら三号機を指さした。

「三号機に、しこたま積んである。これからバカスカ落とす予定だ」

「……そりゃあ、最高じゃねえか!」

三号機内にて……。

二号機の大戦果を見ていた乗組員たちは、彼女らに続けと大盛り上がりしていた。

「見ていたか、あの大戦果を! これからライナガンマに乗り込まんとしていた、勇猛であろう兵士たちを、一気に倒してのけたぞ!」

「見ていた、見ていた!」

「我らも、アレに続くのだ! 奇術騎士団には、砲兵隊だけではなく高機動擲弾兵もいるということをを知らしめてやる!」

「うおおおおおお!」

高機動擲弾兵隊(じゅうじん) は、スクラムを組んで大盛り上がりをしていた。

それこそ、気球の床が抜けそうなほどの大騒ぎである。

「うるせえぞ、高機動擲弾兵隊! 部屋の中で騒ぐんじゃねえ、響くんだよ!」

その大騒ぎに、三号機を操縦している動力騎兵隊が怒鳴りつけていた。

もちろん、彼女らの声も大きい。

(興奮するのはわかるけど……もう少し静かにしてほしい……)

同じく三号機の夜間偵察兵隊は、割り振りを呪っていた。

なお、一号機はそれ以上の地獄であった模様。

「なんだと、動力騎兵隊! 我ら奇術騎士団の意気を、砲兵隊が示したのだぞ! それを騒がずしていつ騒ぐ!」

「作戦の後だ!」

興奮冷めやらぬ……という状態になるべきではない。

三号機は、まだ何もしていないのだから。

「わかってんだろ! アタシたちは、少なくとも従騎士たちよりは活躍しなくちゃいけねえんだ!」

「!!」

「それに、棟梁の補助があった二号機と違って、アタシら三号機は自力だけでやらなきゃならねぇんだ!」

騒ぐなら、自分の仕事を終えてからにしろと、動力騎兵たちは叫ぶ。

「失敗したらわかってるんだろうな! この敵兵の中に叩き落とすぞ!」

「……望むところだ! ではやってくれ!」

「あいよぉ! 全心臓、フル回転! ストーブを絞って、高度を下げるぞお!」

ここで彼女らは、危険な行動に出た。

いまだに十万の敵がひしめく地上へ、最大速度で接近を開始したのである。

もちろん、ガイカクの指示通りであった。

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

思わず、夜間偵察兵隊が心配する。

当然ながらこの気球、そんなに頑丈ではない。

そのうえ、ものすごく速いというわけでもない。

高度を下げて通りすぎれば、その間に撃墜されかねないのだ。

「大丈夫だ! 棟梁も言ってただろ、まずありえないってな!」

動力騎兵たちは、緊張しつつも返事をする。

そう、実際ありえないことだ。

物理的にはあり得ても、戦術的にはあり得ない。

いくら高度を下げているといっても、地表すれすれを飛んでいるわけではない。

いくら速くないと言っても、走るよりはずっと速い。

それが、距離感の分からない空中にいるのである。

それなりの魔術を何十度も撃たなければ、撃墜できるものではない。

そして、そのそれなりの威力の魔術は、だからこそ無駄撃ちが許されない。

この気球にマルセロ軍が気付いても戸惑うばかりで、全力で撃墜しようとは思えない。

「それによ……」

「?」

「撃墜されても、それはそれで任務は達成できるだろ」

「……はい!」

ここで死んでも、無駄ではない。

そう信じて、ダークエルフたちも覚悟を決めた。

「よし、行くぞ! 目標は餌箱……敵の食糧庫だ!」

マルセロ軍の陣地に点在する、巨大な食糧庫。

そこには当然、分厚い守備隊が配置されていた。

敵に叩かれた場合、もっとも困る場所。

だからこそ何の芸もなく、厳重に守っている。

だからこそ、真上からでもよく分かった。

「今の敵は、間違いなくライナガンマ側……轟音と共に倒壊した、攻城塔の方に注目してる! その間に通り過ぎて……新型爆弾を落としまくれ!」

「わかっている!」

三号機の中には、新型の爆弾がこれでもかと搭載されている。

高機動擲弾兵部隊は、この爆弾を大量に投下するという役目を帯びていた。

失敗すれば、この気球そのものが爆散するだろう。

それはそれで敵陣へダメージを与えられるだろうが、そんなことをするつもりはない。

「やるぞ……仕事は完遂する!」

「新型爆弾、ギリシャの火……投下ぁああああああ!」

気球後部に搭載されていた爆弾を、二十人の高機動擲弾兵が、順次投下していく。

当然ながら、絨毯爆撃などできる量はない。

デモンタワーのように、精密に攻撃できるわけではない。

だからこそ、進みながら投下する。

面制圧ができずとも、燃え盛る線を構築する。

もちろん、食糧庫の風上側に。

「全部落としたぞ! 高度を上げてくれ!」

「安心しなあ、荷物が無くなったから放っておいても浮上するよ! それより、誰か落っこちてないか?!」

「ふん、そんなことはないぞ! 族長の命令通り、全員命綱をつけている!」

「なら結構! このまま二号機、四号機に合流だああ!」

一直線に投下された新型爆弾『ギリシャの火』は、当然ながら着弾と同時に燃え盛った。

皮肉と言うか当然というか、そこまで高速ではなくプロペラに馬力もない動力付き気球は、一般的な航空機よりは静音性が高い。

だからこそ、中央のライナガンマ側に注目していたマルセロ兵のほとんどは、その接近に気付けなかった。

もちろん、気付いた者もいる。

だがその彼らは、直後それどころではなくなっていた。

「ぎゃ、ぎゃああああ! な、なんだぁああ!?」

「くそ、爆弾だ! 一体どこから……なんの手品だ?!」

「そんなことはいい、とにかく消火しろ!」

新型爆弾ギリシャの火は、焼夷爆弾。つまり、燃え上がる爆弾である。

それが食糧庫の付近、それも風上で燃え上がれば、誰でも慄く。

このままでは、食糧庫が燃やされてしまう。

およそ、敵に奪われることの次に最悪な事態を避けるため、守備兵たちは己の危険も省みず、消火活動にあたっていた。

「水持ってこい、水!」

「はい、持ってきました!」

「ぶっかけまくれ!」

再三言うが、食糧庫への放火は、極めて効果的な作戦である。

だからこそ守備隊が置かれ、なおかつ備えがされている。

消火用の水、あるいは飲料用の水さえも、その消火に用いられていた。

火は水で消える、これは常識である。

正しくいうと、窒息効果と冷却効果によるものだ。

火と酸素を遮断し、かつ温度を下げる。これによって燃焼という科学変化を妨げることができるのだが……。

なんにでも、例外はあるのだ。

「だ、駄目です! 全然消えません!」

「くそ……本当にコレ、水なのか?! 油を注いでいるかのように燃えているぞ!?」

「なんで水で燃えるんだよ! なんの手品なんだよ!」

ギリシャの火。

あるいは、ギリシャ火薬。

地球でも実在したとされる、水で消えない火薬である。

水をかければかけるほど、火に油を注ぐかのように燃焼が広がる。

もちろん限度はあり、際限なく燃え広がるわけではないが……。

「く、くそおお! できるだけ食料を運べ、もう止められない!」

直近に、燃えては困る物があった。

マルセロ兵たちは、もう守備どころではない。

「周辺から応援を呼んで来い! それから、マルセロ様に報告をしろ! 他の食糧庫も狙われるかもしれないとな!」

収まる様子を見せない、燃え盛る炎の一帯。

それは当然、戦場全体へ異常を知らせるものであり……上空からでも確認できることだった。

「はははは! 見たか、奇術騎士団の力を~~!」

「おうよ! アタシらの勝ちだ! やってやったぜ! おら、アンタらも喜びな!」

「は、はい! う、うぉお~~~!」

自軍から一切の犠牲を出さず、最大の戦果を得て、そのまま離脱する。

奇術騎士団の気球戦法は、まったくもって害悪極まるものであった。

もちろん、この場合は誉め言葉である。