軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おかしの魔女の大砲

ガイカク・ヒクメは、外注できるものは外注している。

なんでもかんでも自作していたら、非効率すぎるしキリがないからだ。

また、高度過ぎるものはやはり外注している。

騎士団から紹介された鍛冶屋へ、精巧な図面を渡し、これを作ってくれと頼むのだ。

もちろん、かなり高額になるが、人件費を極限まで削っているので経済的な問題になっていない(法的に問題がないとは言っていない)。

コレのいいところは、鍛冶屋が『これヤバいものなんじゃ……』と思ったら、騎士団の本部へ直接報告できるところだ。

ほぼ暗黙の了解として、二次的な監視対象になっているわけである。

なお、奇術騎士団の依頼する物は大抵『なんだこれ?』なのだが……。

今回はそれが極まっており、わけがわからな過ぎて相談が寄せられたのである。

ティストリア専属の正騎士、エリートヒューマンのウェズン卿。

現在彼の元に、ドワーフの鍛冶屋が訪れていた。

彼はガイカクから渡された図面をもとに『依頼の品』を製造したのだが、これを納品していいのか悩んでしまった。

「ウェズン卿……コレ、なんですかねえ?」

「私に聞かれてもな……」

出来上がった品は、大雑把に言うと『蓋のある、少し小さい大砲』だった。

大砲の砲口に、頑丈な蓋があるのである。

他にもいろいろと部品はあるのだが、とにかく目立つのはそれだった。

「作った貴殿が分からないのなら、私にも全くわからない……蓋のある大砲、のようにしか見えないが」

「そうなんですよ……いえね、アッシは『似たような物』なら作ったことがあるんです」

「似たような、もの?」

「ええ、圧力鍋です」

図面を渡されて、これを作ってね、と言われて実際に作ることができたのは……一応同じようなものを作ったことがあったから、である。

ドワーフの鍛冶屋曰く、圧力鍋に似ているとのこと。

「圧力鍋?」

「ええ……なんつうか……こう、お湯を入れた鍋を火に当てていたら、湯気が出るでしょう? それを蓋で無理矢理押さえつけて、湯気が出ないようにする鍋なんでさあ」

「……そんなものがあるのか?」

「アッシも細かいことはわからねえんですが、旨い料理が作れるらしいです。で、これは構造的に、圧力鍋を超強くして、横に倒した形なんでさあ」

ドワーフの鍛冶屋は料理人でも魔導士でもないので、圧力鍋が料理でどう利するのか知らない。

だが圧力鍋の構造と、その作り方は知っている。

しかし、それでもなおよくわからないのだ。

「それじゃあ、圧力鍋なのではないか? 私もよくわからないが、調理とか……製薬に使うのではないか?」

「アッシもそれを考えたんですが……構造的に、ふたを開けると中の物がぶちまけられるんですよ」

圧力鍋を超強力にしたもの、つまりより圧力に耐えられるようにしたものを、横にしてある。

つまり、蓋も横にある。圧力が解放された瞬間、つまり蓋を開けた瞬間に中身がぶちまけられるのだ。

そんなこと、魔導士ならずとも、誰でも想像できることである。

「製薬でも調理でも、中身をぶちまけるなんてこと、あるんですかねえ?」

「……そうだな」

案外作ったら『コレに使うんだろうなあ』とわかるのかもしれない。

鍛冶屋のドワーフはそう信じて作ってみたのだが、全然わからなかった。

図面が正確で、つつがなく組み上がったのだが、だからこそ『なんに使うんだろう』と気になって仕方ない。

「アレですかね……ヤバい薬でも煮て、それをぶっかけるんですかね? それなら、アッシ……納品したくねえなあ……」

「いや、それはないだろう? 私も圧力鍋は良く知らないが、中身をぶちまけるだけなら、そう遠くに飛ぶわけでもあるまい」

「そりゃそうですが……」

ドワーフが気になっているのは、依頼人がガイカク・ヒクメだからであろう。

「あの騎士団長……なんでも作れるじゃないですか。その分、悪い考えもいい考えも、浮かんでは消えましてねえ……」

「あの方は毒にも薬にもなるからな……」

以前にガイカクは、動力付き気球なるものを発明し、出撃していった。

当然ながら、周辺の者は『なんだアレ!? 気球が動いてる!?』と大騒ぎになった。

その気球にもこのドワーフの鍛冶屋が少しだけ関わっており、飛んでいくところや戻ってくるところを見て『アレはあそこに使う部品だったのか!!』と、良くも悪くも衝撃を受けていたのである。

「……聞けば、アッシの同類もアレを作って、アレを運転しているとか……どうせなら、もっと誘って欲しかったし、関わりたいですがねえ……。そうじゃないって可能性もあるわけで……」

「貴殿の気持ちもわかる。あの方は、毒も薬も、作るのも使うのも大好きだからな……」

もういっそ、大砲なら諦めもつく。

だがなんかよくわからない、そして恐ろしい兵器であるという可能性が捨てきれない。

そう思うと、怖くて仕方ないのであった。

「ふぅむ……では私も同席するので、どう使うのか聞き、実際に使ってもらおうではないか」

「正直に言ってくれますかねえ?」

「ここまで『専門的』な道具ならば、別の使い方をでっちあげるなどできまい」

金槌や包丁のようにシンプルな道具なら、それこそなんにでも使えるだろう。

だが横倒しの蓋つき大砲など、複雑すぎて使い道が一つしかないはずだった。

「それに……よほどやましい道具を作るのなら、その時は身内で賄うはずだ。私が思うに、貴殿の不安は杞憂だろう。だからこそ、聞けば教えてくれるはずだ」

「そうですかい」

「だから、まあ、そのなんだ……奇術騎士団の本部で何を見ても、他言無用で頼むよ」

やましいものを作るなら、身内で賄う。

それはつまり、やましいものを生産しているという証言であった。

「何があるんですかい……?」

「ぐ、軍事機密だよ、うん」

医療目的とは言え、死罪が適用される危険薬物の栽培がされているとは、ウェズン卿も言えないのであった。

なお、医療目的外でも使っているのだった。

さて、奇術騎士団本部である。

この世のどこよりも堂々と違法な魔導研究がなされている、ゴリゴリ違法研究所である。

脱法どころか、法の執行者が全員で見て見ぬふりをすることで成立している、法治の中心に居を構える厚顔無恥なる悪の拠点。

家庭菜園に毛が生えた程度の畑には、危険薬物の原料にもなる植物が生い茂り……。

農家の蔵を思わせる素朴な倉庫には、人道上問題のある兵器が詰め込まれている。

そして屋外には、もう解体されている気球があった。

そう、もう解体されていた。

軍事関係者とかが『アレ欲しい!』と言っていた最新兵器が、バラバラになっていたのである。

「おやウェズン卿……いかがされましたか?」

「ひ、ヒクメ卿……その、失礼します。実は、貴殿が依頼されていた品の納品があったのですが、制作された職人が、ぜひ使うところを見てみたいとおっしゃるので……」

「それで、お連れしたと。まあ構いませんが……」

「それよりも、気球が……画期的な動力付き気球が、解体されているのですが……」

これには、ドワーフの鍛冶職人も絶句である。

解体されていることもあって、自分が制作した部品が見えるだけに、絶望も深かった。

「試作機は、解体するためにあるんですよ!」

「ま、まあそうでしょうが……」

「まあ部下たちが乗りたがったんで、何度かは飛ばしたんですがね。その後は解体を始めました」

(アッシも乗りたかった……!)

あくなき魔導士魂であろう。

スクラップ&ビルドの精神で、作ったものを惜しみなく解体するのだ。

より良いものを作るためなら、手間暇は惜しまない。その方が早いと彼は理解しているのだから。

「……一生懸命作ったのに」

なお、動力騎兵隊は切なそうな顔をしている模様。

「それで、注文の品を検めさせていただきたいのですが」

「へ、へい……これです」

「おお……確かに注文通り! 難しい部分を、よくぞ作ってくださいました!」

「で、コレなんですか?」

「実際に使ってみましょう……おい、奇術騎士団! 全員集まれ~~!」

子供番組でダンスを始めるかのようなノリで、どんどん奴隷たちが集まってくる。

なんだなんだと、いつものことのように、ガイカク・ヒクメの傍に集まってきた。

「実はな、以前にゴブリンから『絵本に出てくるコレを作って』と言われてな……俺も作ってみたくなって、図面を引いて準備をしていたんだ。で、中核部品を納品してもらえたので……!」

じゃじゃ~~ん、と。

ガイカクは絵本を頭上に掲げる。

「『おかしの魔女~お米の大砲どっか~~ん~』で出てくる、おかしの魔女の大砲が完成したぜ~~!」

「おお~~! 旦那様、すご~~い!」

(……結局、何?)

子供向け、あるいはゴブリン向けの絵本。

それの内容を知る者が他にいないので、なにがなんだか、という顔をしていた。

「『おかしの魔女~お米の大砲どっか~~ん~』は歴史から見ると比較的新しいものでな。およそ百年ほど前にこの国へ伝わった物語で、それをこの国の人が絵本にしたんだ。まあ再現そのものはあんまり正確じゃないんだが……」

(絵本について真面目に、そして学術的な説明をしている……この人、なんでも詳しいな)

「ちなみに、『おかしの魔女』は一種のシェアワールドで、他にもいろいろとシリーズが有る。多くの作者が『おかしの魔女』を主人公に据えた物語を作っているわけだな」

「旦那様~~! それよりも、おかし、おかし~~!」

「ああ、そうだったな。それじゃあやってみるか」

あらかじめ作っておいた、『中核以外の部品』。

それとドワーフの鍛冶職人が作った『横倒しの蓋つき大砲』を組み合わせて……。

「中に、お米をさらさら~~。蓋をして、火をかけて、ぐるぐる~~……」

蓋、と言っているが、それこそがっちりと金具で固定する蓋である。

超強い圧力鍋という言葉に、偽りはあるまい。

金属製の蓋は分厚く、熱されている鍋部分も分厚く、空気圧が抜けるようにはまるで見えない。

それを火にかけているのだから、内部はさぞ高圧になっているのだろう。

(……で、この後どうするんだ?)

(このまま蓋を開けたら、とんでもないことにしかならないだろう……)

蓋そのものは、鍋部分と金具でつながっているので、外しても吹っ飛んでいくことはあるまい。

だが中身はどう考えても吹っ飛ぶ。

上向きでもほとんど吹っ飛ぶだろうが、横向きならなおさら吹っ飛ぶだろう。

さあ、どうするのか?

「圧力計がないから、火加減と時間で開くタイミングを決めて……ここで布を一丁」

正解、蓋部分に袋状の布を被せる、であった。

飛び出る中身を、その袋で受け止める構えである。

なるほど、これなら上向きより横向きの方が好ましい。

(凄いシンプルだっ!)

ドワーフの職人もウェズン卿も、実践される前から納得するしかない。

そうしている間に、ものすごくうれしそうな顔のガイカクが、手袋と耳栓をして、さらにくぎ抜きのような金具で蓋を固定している金具を操作しようとする。

「全員、耳を塞げよ~~!」

なかなかの爆音と、真っ白な水蒸気。

それが晴れるころには、布の袋の中に『膨張した米』が入っていた。

ポップコーンのような膨化食品の一種、ドン、あるいはポンである。

「これが『おかしの魔女~お米の大砲どっか~~ん~』に出てくるお菓子……ドンだ。名前の由来は、言うまでもないだろう」

物凄く得意げにそれを披露したガイカクは、それをしばらく冷ますとゴブリンたちに配っていく。

彼女らは目の前で作られた、ものすごく絵本的な調理によるお菓子。

目をキラキラさせながらそれを見て、手づかみで食べ始めた。

「おいしい~~!」

「んん……お祭り効果だな。すげえ旨いとかじゃないけど、食感が楽しいおやつだよなあ。お前らにも作ってやるから、食ってみろ。どの種族が食っても、害になるようなもんじゃないしな」

その後も、ガイカクは何度か調理を行う。

どっかんどっかんとお菓子を作っていく様は、まさに職人という姿であろう。

そうして皆にふるまっていくと……全員が、ほぼ同じ状態になっていた。

「すごい……すごいさくさく食べられる……」

「味は薄いけど、ほんのり甘くて……さくさく食べられる……」

ガイカクの言うように、滅茶苦茶おいしくて手が止まらない、とかではない。

だが出来立てと言うこともあってか、さくさくと口にはいってく。

ちょいと水を飲みながら、彼女らは未知の食感を楽しんでいった。

「ウェズン卿も、職人の方もどうぞ!」

「ど、どうも……」

「どもっす……」

思いのほかシンプルな回答に、わざわざ聞きに来たウェズンも職人も困っていた。

仰々しい調理器具から出てきたのは、本当に素朴なお菓子であった。

いや、製造の値段は、素朴ではないのだが。

「ふむ……本当にお菓子ですね、おいしい、と思いますよ」

「ああ、まあ、美味いっす……売れるんじゃないですか、コレ。あの調理器具も含めて、売れますよ、マジで」

「いやあ……『圧力計』が無いと、安心して使えないんですよ、コレ。でも圧力計をつけると一気に構造が難しくなるし、高価になるんですよねえ~~」

正確な計器ほど、扱いが難しく、かつ高価なものはそうない。

まして、安全に直結するものならなおさらである。

「私はまあ慣れたものなんで、なくても平気なんですけどね」

(この人の過去は、一体どうなっているんだろう……)

(なんでもできる人だなあ、マジで……)

あらためて、なんでもできる男に震撼するウェズン卿。

そしてドワーフの職人であった。

「いやしかし……黒い噂の絶えねえ人ですがね、さすがは騎士団長。アンタみたいなすげえお人の下で働く『ドワーフ』がうらやましくてならねえや」

心からの羨望と賞賛。

本人たちへ直接言われたわけではないが、動力騎兵たちは思わず照れていた。

(騎士団に納品するほどの職人様から、そんなことを言われるとはねえ……!)

(いやまあね、本当にそうだしね! 世界のどこを探しても、動力付き気球を作ってるドワーフなんて、アタシらぐらいなもんだしね!)

「どうですかい、アッシも交ぜてくれませんかねえ?」

「いやあ、腕のいいドワーフは歓迎したいところですが……」

割と残念そうに、ガイカクは断った。

「ウチは軍事機密も取り扱っているので、知りたがり過ぎる方はちょっと」

「……ははは! じゃあしょうがねえ!」

ドワーフの職人も、残念そうに笑って納得した。

確かに今回のことはあまり良くなかった、断られる理由になっても仕方ない。

「とはいえ、今後は何に使うのか、おおむねでもお伝えしますよ。その方が、良いものを作ってくださるでしょう?」

「そうしてくれるとありがてぇ! はははは!」

(さすがはヒクメ卿……お上手だ)

かくて、可笑しな勘違いは正された。

何事もなく、和やかに問題は解決したのだが……。

実は、これを発端に問題が発生するのであった。